急成長のオウンドメディア「となりのカインズさん」における企画視点とユーザーリサーチ活用法

急成長のオウンドメディア「となりのカインズさん」における企画視点とユーザーリサーチ活用法

オウンドメディアを企画・運営する際に、どんな切り口で記事を作れば多くのユーザーに届くのか、悩む方も多いのではないでしょうか。コンテンツ企画での重視ポイントとユーザーリサーチの活用法について、株式会社カインズが運営するオウンドメディア「となりのカインズさん」の事例をもとに、同メディア副編集長の与那覇一史さんとリサーチャーの菅原大介さんに対談いただきました。本稿ではその内容をご紹介します。


スピーカー紹介

株式会社カインズ マーケティング本部 メディア戦略部 グロースグループマネジャー 与那覇 一史氏

株式会社カインズ マーケティング本部
メディア戦略部 グロースグループマネジャー 与那覇 一史氏

リサーチャー 菅原 大介氏

リサーチャー 菅原 大介氏

PV数よりも敢えて、お客様に楽しんでもらえるか

株式会社カインズ 与那覇一史さん(以下、与那覇):最初に、株式会社カインズが運営するオウンドメディア「となりのカインズさん」について簡単にご紹介します。2020年6月に誕生したメディアで、創刊半年で月間100万PV、1年で月間400万PVを達成しました。順調に成長していると言われることが多いですが、コロナの影響でコンテンツ制作が難航したりと、かなり大きな壁をいくつも乗り越えています。

座右の銘は「メシの横にムシ」です。食品の記事の横に、害虫対策の記事があるなど、まさにホームセンターらしさを体現するようなメディア運営を心掛けています。お客様を巻き込みながら記事を作ったり、社員の興味関心が高い分野を記事にしたり、最近ではクリエイターとのコラボ企画にも取り組んでいます。カインズのコアバリューの1つは「創るを、つくる」ですが、カインズを通じて何かをつくってほしいという精神で運営をしています。

菅原大介さん(以下、菅原):まさに企業理念と制作物が一貫する取組みですね。今日はユーザーリサーチの観点で、メディア運営をお聞きしたいと思っています。記事制作のために、どんな情報収集をされていますか?

与那覇:編集部では、まずネタ集めを集中して行っています。部署の中で一つのルールがあるというよりも、編集部一人一人が自身のフェチや興味関心のアンテナが反応する場所に向かって、社内やSNS、書籍、また記事の中で実施するアンケートなどを活用して、ネタを集めています。

そこからは、ネタを形にするための企画を立て、取材・制作、公開、振り返りという流れで進めています。リアル店舗とWebの反応の両方が取れるため、最初に立てた仮説と実際の反応を振り返りながら運用をしています。

記事制作のためのリサーチプラン

記事制作のためのリサーチプラン

与那覇:記事の事前リサーチにあたって参考にしている社内情報ソースでは、店舗観察、社内報、社内アンケート、販促情報、社内コミュニケーションがメインとなります。カインズは社員数が多いので、1つの店舗に行って実際に働く社員に聞くこともあれば、お客様の動きや商品の棚を眺めたりするだけで、企画が湧いてくることもあります。ネタの種というか、元となる情報がたくさん溢れている環境だと思います。

菅原:ぜひお聞きしたかったことが、10万点以上の商品の中から、どのように商品を選定されているかということです。例えばオウンドメディアを持つ一般の会社でいうと、この季節にこれを紹介する、会社都合で紹介するなど、ビジネス要件で商品が決まることも多いと思うんですよね。一方、となりのカインズさんでは、どこを切り取ってもカインズさんらしい商品の種類・品目だと感じます。

与那覇:まさに、メシの横にムシを体現しているんだと思います。販促計画やECサイトの売上に従ってメディアに掲載する商品選定をした場合、果たしてユーザーが求めている商品なのだろうかと、編集部でアンチテーゼを行っているんです。一言でいうと、つまらないメディアになってしまうのではという危機感が常にあって、お客様にいかに楽しんでもらえるかを一番大事にしています。

例えば、菅原さんもホームセンターに行った際、どこのコーナーから行こうかななど、ワクワクされると思うんですよね。ホームセンターならではのワクワク感を演出できるよう、記事の組み立て方や商品選定に気を遣っています。

菅原:確かに、ファーストビュー領域が毎回がらりと変わるなど、人気記事が固定されることがないですよね。また、ユーザーのリアクション、例えばいいねや記事の保存、SNSシェア機能はそれほど重視されておらず、記事の一つ一つに出会ってほしい印象を受けています。

与那覇:PV数をメディアの指標として追いかけてはいるものの、追いかけることでPV数に嫌われないかということも考えているからですね。例えばPV数は少ないものの、編集者の愛やお客様のニーズがありそうな、いわゆる編集部で良い記事と定義したものを、トップページに出すこともあります。熱量の方を大事にしています。

オウンドメディアは、お客様や社内、編集部など、その方の立場によって玉虫色で、いろいろな捉え方があります。そのうえで、メディアが存在する意義、無くてはならない理由を考えることが、編集部の仕事と考えています。

菅原:メディアの永続性を重視されているという印象です。

与那覇:創刊編集長の清水が語っていることに、オウンドメディア不要論があります。オウンドメディアには、販売、人事など、いろいろな目的があると思いますが、各部署がオウンドメディアがなくとも、得たい成果を上げられているのであれば、いらないよねということが根底にあります。その上で、なぜ運用しているのかを、常に考えています。

菅原:評価指標も設定されているのでしょうか。オウンドメディア運営にKPIは欠かせない観点だと思いますが。

与那覇:メディアの読了率、PV数など、基本となるメディアのKPIは常に追っています。また店舗への送客もデータとしては取れるので、置いています。ただKPIに縛られてしまうと、そちらばかりの企画になってしまうので、数字は見つつ割と無視して進めることも多いです。

編集長の清水が以前マナミナの記事の中でお話しした通り、「究極のマーケターはお金と時間を無視する」という観点を編集部の中では大事にしています。

※「となりのカインズさん」編集長の清水さんのインタビュー記事はこちら↓

与那覇:「PVにこだわるのであれば、データに忠実になればもっと伸ばせると思います。しかしメディアである以上、遊び心も重要だと思っています」「DIYの裾野を広げるために遊び心を大事にして失敗上等の精神でオウンドメディアを運営しています」という部分ですね。

面白く役に立つ記事を作れば、協力者は自然に集まる

菅原:アンケートの協力者は、どのように募集・維持されているのでしょうか。

与那覇:前提として、面白い記事、読者の役に立つ記事を作ることが、一番大事だと考えています。すると、となりのカインズさんで書いてみたいというライターさんや、商品を愛用されているユーザーさんなど、いろいろな方がメディアのまわりに集まってくださるんですよね。そこから派生して、企画やキャンペーンにつながっていき、SNSや自社メディアを通じて募集すると、多くのユーザーにご協力いただける体制となっています。

アンケート協力者の募集・維持方法

アンケート協力者の募集・維持方法

菅原:インスタグラムなど、SNSも上手く駆使して呼び掛けていらっしゃいますね。ユーザーにコンテンツなどの情報協力いただく際は、どのようなステップなのですか。

与那覇:最初に記事の中で、プレゼントキャンペーンやフォトコンテストなど、ユーザーが参加してくださるフックを作ります。その応募フォームの中に「DIYが上手くいかなかったエピソード」や「つくってほしい記事のジャンル」など、アンケート項目を設けることによって記事のネタを集めています。

菅原:DIYが上手く行かなかったことを取り上げることはユーザーの共感につながる一方、企業視点では取り上げづらい面もあります。かしこまったオウンドメディアの場合、難しいんですよね。清水さんも、社内から怒られない範囲で取り上げていると、以前仰っていました。とてもカインズさんらしい取り組みだなと思います。

インタビューの協力者はどのように集められているのですか。

与那覇社員のつながりを活かしたり、SNSでカインズ好きなインフルエンサーやカインズのヘビーユーザーが多くいらっしゃるので、直接お声がけしたりしています。またお問い合わせフォームから問い合わせいただいた方だったり、逆にインタビュー対象者と相性のいい記事を作ったりと、様々なチャネルから常に集めているという状況です。

菅原:SNSからインタビューにお誘いする際、相手の熱量を見極めたりもするかと思います。いろいろ投稿をご覧になりながら、DMで連絡されるのでしょうか。

与那覇:私個人としては、お近づきになりたい方がいる場合、いいねやコメントを積極的に投稿するよう心掛けていますね。そこから信頼関係を作ることが多いです。いきなり行く編集者もいると思いますが。

菅原:メーカーさんの場合、グループインタビューや座談会をすることも多いと思います。複数人から聞くこともされていますか。

与那覇:そうですね。1つのテーマでいろいろな立場の方に聞くこともあります。その方が、様々な角度で聞くことができるので。謝礼はケースバイケースです。記事の企画で商品を使う必要がある場合は、こちらからお送りして感想をいただく場合もあります。

商品体験を設計したSNSマーケティングも活用

菅原:マーケティング目的のユーザーリサーチでは、どんな部分に役立てていらっしゃいますか。

与那覇:自社認知やメディア認知のきっかけ、メディアの好きなところ、イマイチなところなどをリサーチで確かめたりしています。またやってほしい企画をお客様から伺うなど、リサーチを通じて様々な情報をキャッチアップしています。

菅原:カインズさんのSNSマーケティングで、これは上手い!と思った事例があります。大ヒット商品の「ストーンマーブルフライパン」の紹介キャンペーンで、インスタグラムをフォローしてくれた方に、フライパンを使っている動画を視聴してもらい、どの機能を使ってみたいと思うか投票してもらう、という設計をされていたんですよね。単なる宣伝ではない、この体験設計がすごいなと驚きました。こういった真っ向勝負のキャンペーンも、すごく上手く取り組まれていると思います。

※「ストーンマーブルフライパン」の紹介キャンペーンはこちら(現在は受付終了)↓

与那覇:カインズとしても、いろんな方向に矢を放てるように考えています。矢をくくるという視点も大事ですが、いろいろな球を打てるように、各部署が動いています。

最後に、となりのカインズさんでどんな記事を読みたいかというアンケート結果をご紹介しますね。DIYはもちろん声として大きいですが、小さいところでは、料理、家庭菜園、家事、買うなど多種多様なキーワードが出ています。DIYなど大きなカテゴリにあてるのは大前提ですが、小さな声を大事にして、記事のバリエーションを増やせるよう努めています。

菅原:今回はオウンドメディアをテーマとして、ユーザーリサーチの手法も使いながらどのようにコンテンツを盛り上げていくかについて、与那覇さんにお話をおうかがいしました。ありがとうございました。

この記事のライター

大学卒業後、損害保険の営業事務を経て、通販雑誌・ECサイトのMD、編集、事業企画に従事した後、独立。自身のキャリアを通じて、一人一人のポテンシャルを引き出すことが組織の可能性に繋がることを実感したことから、現在はマーケティングとキャリア・人材を軸に、人と組織の可能性を最大化できるよう支援をしています。

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