スペパとは
スペパとは、「スペースパフォーマンス(空間対効果)」を意味する略語です。限られた空間をいかに効率的に使うか、その空間使用に対する満足度がどの程度なのかを表します。
スペパを意識した事例として以下が挙げられます。
● スペースを取らない壁面収納を活用する
● 1台2役のソファベッドで部屋の家具を減らす
● コンパクト家電を買い収納スペースを削減する
まずはスペパの概念について、注目されている背景や「コスパ」「タイパ」との関係などを解説します。
■スペパが注目されている背景
スペパが注目されるようになった背景として、以下の2つがあります。
1.家が狭くなった
住宅金融支援機構がフラット35の利用者を対象に実施した調査によると、マンションの住宅面積(全国平均)は10年前に比べて約10%小さくなっていることがわかります。戸建てなどを含めた全体でも約6%縮小しました。
限られたスペースをいかに効率良く活用し、快適に暮らしていくかが鍵となり、スペパの追求につながっていると考えられます。
2.リモートワークの普及で家に求められる役割が増えた
コロナ禍を経てリモートワークという働き方が普及しました。これまでオフィスに通勤していた人たちが在宅勤務に移行したことで、寝食が中心だった家というスペースに「職場」としての役割も求められるようになりました。
1つの空間で複数の役割を果たすためには、スペースを効率良く活用し、賢く使い分ける必要があります。そのため、スペパという概念が注目されるようになったと考えられます。
【参考】2021年度 フラット35利用者調査|住宅金融支援機構
■ミニマリスト にも通ずる概念
スペパを重視する人には、限られた空間を効率良く使うために「モノの選び方を工夫する」傾向があり、ミニマリストの概念にも通ずるものがあります。
ミニマリストとは、必要最小限のモノしか所有しないライフスタイルを追求する人のことです。ミニマリストは、本当に必要なモノや大切なモノを厳選して手元に置くことで、持ち物にかかるコストやスペースを節約し、モノが少なくても精神的に豊かに暮らすことを重視します。
ミニマリストはモノを購入する際に「長く愛用できるか」「複数の用途で使えるか」といった独自の基準をもっています。これらはスペパを重視する人にも共通した基準であり、両者は関連性の高い価値観だと言えるでしょう。
■タイパやコスパとの違い・共通点
「スペパ」や「タイパ」は、「コスパ(コストパフォーマンス)」から派生した言葉です。お金の有効活用を考える「コスパ」に対し、時間の有効活用を考えるのが「タイパ(タイムパフォーマンス)」、そして空間の有効活用を考えるのが「スペパ(スペースパフォーマンス)」です。
活用の対象は異なりますが、使える時間やお金が限られる中でより少ない投資からより多くの効果(成果)を求めている、効率の良さを重視していることが共通点と言えるでしょう。
また、空間の使い方を見直すことでお金や時間の使い方まで効率化できることもあります。例えば、日常生活に欠かせない「トイレットペーパー」の事例を以下に挙げます。
● 「収納スペース節約のために2倍巻きの長尺トイレットペーパーを買った」(スペパ)
● 「長くもつため交換・ストック購入の頻度が少なくなった」(タイパ)
● 「標準のものとほぼ同価格 でお買い得だった」(コスパ)
スペパを追求することでタイパやコスパの向上にもなり、これらは密接につながりあった概念だと考えられます。
スペパ事例集
個人の部屋からオフィスまで、さまざまな場所でスペパを意識した事例が見られます。ここでは、スペパを意識した商品や行動の具体例を詳しく紹介します。
■1.複数の機能を活用
家の中で意外と広い収納スペースを必要とするのが、アウトドア用品や季節装飾品など「いつか使うが、普段は使わないモノ」です。これらを「いつも使っている」状態にすることで収納スペースを節約でき、1つのモノを複数の用途で使用する人が増えています。
例えば、アウトドア用のダイニングテーブルや椅子・ソファは、デザイン性・使い心地ともに室内専用の家具と遜色ないクオリティであるものも多く、十分に兼用で使えます。
また、季節限定の装飾品であるクリスマスツリー も、常にインテリアとして飾っておけるような万能デザインであれば、オーナメントを変えて1年中楽しむことも可能です。
LEDツリー(120cm シラカバ I)|ニトリ
■2.空間を有効に活用
部屋のスペースを大きく割くことなく収納や装飾ができる壁面の有効活用が注目されています。狭い部屋では壁一面に一体化した壁面収納を備え付けると、生活空間をそこまで圧迫せずに収納を増やすことができます。
壁面収納「 MiSEL(ミセル)」|DAIKEN
また、昔の広い家では大きな雛人形や兜を飾るのが主流だった節句行事も、家が狭くなっている最近ではスペパを重視したコンパクトな壁面装飾が登場しています。
壁掛け飾り|人形工房ひととえ
【増村限定品】伝統工芸士 誠山作 淡萌黄兜 月-tsuki-|増村人形店楽天市場店
■3.収納スペースを削減
使わないときにコンパクトに収納できることも「高スペパ」につながる評価ポイントです。
季節家電の代表である扇風機は、小さく畳めて収納スペースを削減できる商品が注目を集めています。家電などを扱う専門商社 山善の扇風機は折り畳むと約3分の1サイズになり、クローゼット上部などのデッドスペースに効率良く収納できます。
YAMAZEN リビング扇風機 |ヨドバシ・ドット・コム
スペパを求める人にとっては、毎日使うモノであっても省スペースでしまえることが重要です。家電メーカーのカドーは、ドライヤーの形状をこれまでの形から大きく変えた、収納しやすいスティック型の「バトン」を発売しました。不定形で意外と場所を取っていたドライヤーを、直径約4センチメートルの棒状にしたことで、手狭な洗面所で置き場所に困っていた人たちから支持を得ています。
スティック型ヘアドライヤーbaton |cado
通常「折り畳む」という発想に至らないようなモノにも、折り畳み式が登場しました。電動バイクを製造するICOMAは、スーツケースほどの大きさに畳めて机の下にも収納できる「タタメルバイク」を発売し、駐車場がない家やオフィスでの活用を期待されています。
タタメルバイク |ICOMA
■4.本来と異なる用途で活用
使い方次第で空間の効率を高めるという観点では、「カラオケボックスでリモートワーク」「旅先でワーケーション」など本来とは違った用途で空間を利用することもスペパを意識した事例の一種と言えそうです。
特にワーケーションは、同じ空間かつ同じ時間で仕事と余暇両方をこなしているため、スペパだけでなくタイパも良い事例だと言えるでしょう。
さらに、今いる空間を強制的に他の空間へ変えるスペパの高い技術が、メタバース です。メタバースとは映像技術によって作られた仮想空間のことで、ユーザーはVRゴーグルとスマホなどを使ってバーチャル空間で活動します。
この技術を活用したバーチャルオフィスは、仮想空間内でまるでその場にいるかのような感覚で他の社員とコミュニケーションを取れることが特徴で、コロナ禍で広まりました。場所を問わず、瞬時にオフィスへと変えられるこの技術は、究極のスペパとも言えるでしょう。
バーチャル出社オフィスを提供する「ovice」のWebサイト
■5.オフィスでもスペパ?
スペパは個人の家にとどまらず、オフィスでも意識されています。
空間除菌消臭装置などを提供する日機装株式会社の調査によると、従業員の約4割がアクリル板などオフィスの感染対策に圧迫感やストレスを感じていることがわかりました。また、アフターコロナにおける出社スタイルの変化に伴い、従業員の約5割、オフィス整備担当者の約7.5割が「スペースに対して得られる価値や成果(=スペパ)を今後意識すべき」と回答しています。
これからのオフィスでは、例えば壁や天井に埋め込む空気清浄機やアクリル板が不要な換気システムの導入など、圧迫感を抑えながらスペパを高めるような感染対策が求められます。
同時に、照明やBGMなどを工夫し、クリエイティブな思考を高める仕掛けを施すことでスペパを上げていく方法も検討するといいでしょう。
【参考】≪アフターコロナ時代のオフィスに関する意識実態調査≫従業員の52.5%、オフィス整備担当者の76.0%がスペースに対して得られる価値や成果を意識すべきと回答|PR TIMES
スペパを求める人の消費行動
スペパを求める人々は、どのような消費行動をしているのでしょうか。スペパを重視する人特有の消費行動を紹介します。
■余計なモノはいらない
限られたスペースを過ごしやすい空間にするため、「あえてやめる・手放す」という選択をするのがスペパを重視する人に共通する価値観です。
例えば、最近若者の一人暮らしにおいて、お風呂の付いていない「風呂なし物件」が注目されています。風呂なし物件は、都内駅近の好立地でも風呂あり物件の半額ほどの家賃で住めるのが大きな魅力です。「固定費を抑え、その分自分の好きなことにお金を使いたい」と考える若い層に人気があります。
こうした風呂なし物件の人気に伴い、銭湯が盛り上がりを見せています。若者にとっては昭和レトロな雰囲気が逆に新鮮で、「大きな湯船で体を伸ばせるのがいい」「番台や常連客との交流も醍醐味」と新たな価値観が生まれています。
【参考】「風呂なし物件」若者に人気…都内で家賃3.2万円「好きなものにお金使える」|テレ朝news
■一石二鳥以上を求める
スペパを求める人々は、1つで2役以上を担う多機能なモノを厳選して取り入れています。
寝る時以外はコンパクトに畳んでソファとして使用するソファベッド、下部に隠し収納を備えた収納付きベッドなどの多機能家具は、すでに狭い部屋で主流アイテムとなっています。
多機能家具はさらに進化しており、例えば壁面に折りたたみ式のベッドを設置し、反転させて飾り棚とソファを出現させるような「トランスフォーム家具」も登場しています。スペースを効率良く使うことでより良い生活環境を創出する多機能家具の市場は、世界的にも拡大傾向にあります。
イタリアの家具ブランド「Resource Furniture」では、マンションなどの狭いスペースを開放的にするトランスフォーム家具が好調です。ソファと隠し収納を備えたウォールベッドシステム「Nuovoliola」は、ハンドルを引くだけでファブリックや飾り棚もそのままに空間チェンジが可能です。
日本でも今後さまざまなシーンで「多機能〇〇」が取り入れられ、高スペパな暮らしが実現していくと考えられます。
Nuovoliola |resourcefurniture
■シェアやレンタルを活用する
使用頻度が高くないモノは所有せずにシェアリングサービスやレンタルを積極的に活用するのも、スペパを求める人々の特徴です。
カーシェアリングやシェアリングサイクルは、家に駐車場や駐輪場を設ける必要がなくスペパの向上につながるだけでなく、メンテナンスに時間をかける必要もないためタイパの向上にも寄与します。税金やガソリン代などランニングコストもかからないため、使用頻度によってはコスパの向上も期待できるでしょう。
また、結婚式に着るフォーマルドレスや成人式に着る振袖や袴はレンタルの活用が定番ですが、最近は日常的に着る洋服を一定期間レンタルできるサブスクリブション型のサービスも登場しています。所有する洋服を最小限に抑えられるため収納スペースを削減することができ、スペパが高まります。
洋服レンタルを活用すれば、シーズンオフの洋服をクリーニングに出したりクローゼットの整理をしたりする必要もないため、タイパの向上にもつながります。
「スペース」と「時間」を節約できるシェアやレンタルは、何に対しても効率の良さを求める現代の人々にマッチしたサービスだと言えるでしょう。
まとめ
スペパ(スペースパフォーマンス)とは、空間効率を重視することです。折りたたみ家具や壁面収納を活用することで限られた空間を有効に使い、快適な暮らしを追求する人が増えています。
これまで必要と思われていたものを見直しあえて手放す選択をしたり、1つのモノに2つ以上の役割を求めたりと効率の良さを重視する風潮が高まっているため、タイパに加えてスペパを意識したマーケティング活動が重要となるでしょう。
フリーライター。JRグループ会社にて経理・総務として勤務。
子育てとの両立のためWebライターに転身。3児の母。
バックオフィス業務関連の記事を中心にBtoBライティングを手がける。