【話者紹介】
SNSユーザーをとりまく「エコーチェンバー」現象とは
蒋:「2023年4月 コンテンツマーケティング最新動向」レポートでは、SNSの利用環境がカスタマイズ可能になりつつあることを取りあげています。
岩間:この流れの背景には、SNSを「つい」使ってしまうユーザーの存在があると思います。どうしてSNSって、つい見てしまうんでしょうね…。
蒋:心理学でいう「エコーチェンバー」現象が主な理由だと考えています。「エコーチェンバー」現象とは、自分と同じ意見や思想を持った人々が集まるSNSなどの場で、自分の意見や思想が肯定されることで、それらが正解であるかのように感じられる現象です。自分の考えや興味があるものが他の人にも認めてもらえるので、承認欲求が満たされるんですね。
岩間:SNSはどんどん進化しているので、昔と比べて自分と同じような意見を持っている人と接しやすくなっています。「エコーチェンバー」現象はより身近なものになっていきそうですね。
蒋:そうですね。「エコーチェンバー」現象によって、ユーザーは自分が知りたい情報を入手しやすくなります。
一方デメリットとしては、たとえ間違った話や極端な話でも、自分と同じ意見や思想を持った人たちが集まる場で発言されていることであれば、正しいと思ってしまう可能性があること。例えば極端に痩せている人や、極端なダイエット法を実践している人によるSNS上の情報を、正しいものととらえてしまう人が増えています。「デジタルダイエット」と呼ばれるものです。
しかしながら、一般のSNSユーザーは「エコーチェンバー」現象の存在に気づきにくいのが現状でしょう。その考えが正しいと思い込んでいる状態だからです。そのため、最近各SNS企業は、ユーザーのSNS利用時間や視聴内容をコントロールできる取り組みを行っています。
今回はその具体的な取り組みについて、ヴァリューズの考察を交えながらご紹介していきます。
「エコーチェンバー」現象に対するInstagramの取り組み
蒋:まずInstagramの取り組みを見てみましょう。Instagramは、未成年者向けと一般ユーザー向けの機能をリリースしています。
■未成年者向けの「静かモード」と、保護者向けのコントロール機能
蒋:nstagramは今年から、未成年者のより健全な利用のため、2つの機能を導入しました。
蒋:ひとつ目は「静かモード」。日本ではまだ導入されていない機能です。自分のスケジュールに合わせてカスタマイズでき、設定するとお知らせの通知が来なくなるほか、プロフィールのアクティビティステータスが「静かモード中」に変わります。また、DMを送った相手には「今静かモード中」と自動返信が送信されます。
「静かモード」は、他のことに集中したり、SNSをついつい見てしまう習慣を克服したりすることに、ある程度貢献するのではないかと思います。
岩間:iPhoneの「おやすみモード」に近いイメージですね。
蒋:Instagramは今後、10代の未成年者に対して、この「静かモード」をオンにすることを促す予定とのことです。
もうひとつはファミリーセンター&ペアレンタルコントロールツールで、こちらもまだ日本では導入されていません。過去にリリースしたツールをアップデートしたもので、保護者が10代の子どものInstagramの利用状況を確認したり、プライバシー設定やアカウント設定などをコントロールできるようになりました。子どもが設定を変更したり、DMを受け取ったりすると、保護者にお知らせが届きます。
岩間:今の話を聞いた感じでは、DMが届いたことが保護者に通知されるなんて、思春期の子どもにとっては、なかなか複雑な状況なのではないかと…。「恋人ができたな」とか、なんとなく知られてしまいそうですね。
蒋:確かに…。DMの内容までは見れないと思うのですが、保護者と子どもの間にあるプライバシーについても考える必要がありそうです。
■表示されるコンテンツを、自分でコントロールできる機能も
蒋:そして、未成年に留まらない一般ユーザーに向けて、Instagramで目にするコンテンツをコントロールする機能もリリースされました。これにより、発見、検索、リールといった場所で、目にしたくないコンテンツのタイプを指定することが可能です。
蒋:今までSNSのアルゴリズムは、ユーザーの興味・関心に合わせたコンテンツが表示されるようになっていましたが、この機能を使うと、興味がないコンテンツも表示することができます。逆に興味がないキーワードやハッシュタグなどを非表示にすることも可能です。非表示に設定したキーワードがDMに含まれている場合は表示されなくなったり、発見タブの中で興味のないコンテンツが表示されなくなったりします。
岩間:暴力やアダルトといった悪影響を受けそうなコンテンツも非表示にできるということですね。
蒋:欲しい情報だけを手に入れる、欲しくない情報は表示しない、両方の面があると思います。
TikTokやDouYinも、利用時間のコントロール機能をリリース
蒋:TikTokも18歳未満のユーザーを対象にした新機能をリリースする予定です。1日当たりの利用時間を60分に制限でき、60分を超えるとパスワードを入力する必要があります。
蒋:また、中国版TikTok「DouYin」も、「休憩リマインド機能」を既に複数リリースしています。
ひとつは視聴時間が1時間を超えると、「フィード」に芸能人の「ちょっと休みませんか」「ちょっと運動しませんか」といったリマインド動画が表示される機能です。
また、友達にも「お休みリマインド」を設定することができます。設定された時間になると、友達から「お休み」のDMが自動送信されるんです。例えばAさんがBさんに対して22時に「お休みリマインド」の設定をした場合、22時になるとBさんはAさんから「そろそろ休みませんか」というDMをもらうことになります。
岩間:国や媒体を問わず、ユーザーの利用時間をコントロールする機能が広まりつつあると感じます。
SNS企業が利用時間をコントロールする理由
岩間:実は、ここまでの話を聞いて、少し違和感を覚えています。2023年2月の最新動向レポートの中で紹介されている内容と、矛盾するのではないかと…。以前はSNS企業はユーザーの時間をできる限り奪って利益を追求したいといった内容だったと思うのですが。
主要SNSの新機能まとめ ~ 媒体同士で模倣が進むワケ|「2023年2月 コンテンツマーケティング最新動向」レポート
https://manamina.valuesccg.com/articles/2240ヴァリューズのマーケターが、コンテンツマーケティングの今をお届けする本連載。今回は、各SNSの最新機能を解説します。本連載では、これまでもSNS間の機能差別化が薄まりつつあることを紹介してきましたが、最近その動きが勢いを増しているようです。各SNSの最新動向や、マーケターがとるべき対策をお届けします!
蒋:SNS企業の方針としては、主に以下のふたつがあると考えます。
ひとつは、社会的責任を果たすこと。今やSNSは若者の価値観や社会に非常に大きな影響を与えています。
冒頭で、自分と似たような価値観を持つ人たちに囲まれ、肯定され続けることで、「みんな自分と同じ意見だ」「自分の意見は正しい」ととらえる「エコーチェンバー」現象を紹介しました。この「エコーチェンバー」現象による社会の分断や偏見に対する問題意識は高まっており、SNS企業は、今回紹介した利用環境のコントロール機能だけではなく、ユーザーに多様で有益な情報を提供するようアルゴリズムをアップデートしたり、異なる意見を持つ人々をつなげたりする取り組みを行っています。
もうひとつは、中長期的な利益を考えること。SNS企業は社会的責任を果たすと同時に、利益の追求についても考えていると思います。
現代企業がケアすべき観点として、レピュテーションリスクが挙げられます。レピュテーション(評価、信用)が低下すれば、企業経営に損害を与える可能性があるからです。
SNS企業は、今後10代など次世代のユーザーを取り込んでいく準備もしているでしょう。利用時間や目にするコンテンツをコントロールする機能をリリースし、子どもにも保護者にも安心して利用してもらえる環境を整えることで、レピュテーションリスクを防ぎ、結果的に中長期的なユーザー増を目指しているのではないでしょうか。
これからのSNSマーケティングはどうする?
岩間:今回説明してもらったSNSの流れを受け、マーケターが意識しておいたほうがいいことはありますか。
蒋:今回お話したことも含め、今のSNSの全体的なトレンドとしては、今までの「バズればいい」「面白ければいい」情報ではなく、Googleと同様、「ユーザーに本当に役立つ」「信頼できる」情報なのかといった観点で、アルゴリズムや機能がアップデートされています。そのため、SNSマーケティングで、コンテンツやアイデアなどを考える際も、これらの方向性を意識することが大切だと思います。
以上、4月のコンテンツマーケティング動向「SNS編」でした。レポートの完全版ではその他に、「2023年4月に知っておきたいSNSニュース」などのコンテンツもございますので、是非チェックしてみてくださいね。
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IT企業でコンテンツマーケティングに従事した後、独立。現在はフリーランスのライターとして、ビジネスパーソンに向けた情報を発信しています。読んでよかったと思っていただける記事を届けたいです。