1.リサーチロードマップとは
■●概要
リサーチロードマップとは、当期に実施するプロジェクト(または定常的な事業運営)に対して、リサーチの活動がどう併走するのか、半期や通期の時間軸で可視化したアウトプットです。
本図を作成することにより、組織の活動単位であるプロジェクト本位で、リサーチの活動がどの領域や業務に貢献し、どう活かされるのか、半期あるいは通期を通じた見通しを共有することができます。
この機能性により、リサーチを取り巻く関係者は、調査活動の現在地を常時把握すると共に、予定されている年度内のリサーチ計画の見通しを念頭に置いて事業運営を進めることができるのです。
■●構成要素
リサーチロードマップの構成要素は以下のようになります。
1.タイムライン
・時間軸による活動の区切り
2.アウトカム
・当該時期に組織やプロジェクトが到達している状態
3.プロジェクト
・調査の依頼や相談元のプロジェクト名称
・または調査を推進する自部門の活動名称
4.活動計画
・プロジェクトのフェーズ情報
・または該当時期に計画されているアクションアイテム
5.リサーチ
・調査の工程
・または主要アウトプット
6.データ活用
・リサーチデータを活用する場の想定
■●このアウトプットの導入が向いているケース
「いつ、どのようなアウトプットが出てくるのか?」
⇒この質問に一枚で答えるためのアウトプット
①リサーチの決裁者や確認者の立場が現場と遠いケース
リサーチ業務は実査費をはじめとする一定の経費が発生するため、計画の実行には決裁者や確認者の承認が必要です。ただ彼らも管理者として接しているだけで、調査計画の細かい資料までは見切れない体制であることも少なくありません。
決裁者や確認者の観点に立つと、「いつ、どのようなアウトプットが出てくるのか」を気にしていることが多く、これはすなわち、リサーチ業務単体というよりプロジェクトと共にどう動くのか説明できる必要があるということになります。
②調査レポートを報告して終わりになってしまうケース
リサーチの活動は伴走するプロジェクトとの紐づきが甘いと、ただの受託型運用になっていきます。すなわち依頼部門・貢献部門とのやり取りは、「調べました」「ありがとう」だけで終わる関係性になっていきます。
この状態を避けるにはリサーチ側も母体となるプロジェクトの活動を把握している必要があります。しかし相対部門の側でもそこまで詳細な活用計画を持っていることは少なく、どのみち出口は不透明なことが多くなりがちです。
2.作り方
①組織の活動サイクルに合わせる
・組織の活動サイクルに応じた期間単位を設定する
<中期的なサイクルの組織の場合>
・四半期の単位で通期を見通せる構成にする
・該当組織:開発、事業企画、経営企画など
<短期的なサイクルの組織の場合>
・月単位で半期分を見通せる構成にする
・該当組織:マーケティング、広報など
※アジャイル組織(スプリント方式)の場合、この例よりもずっと早く週次で進行したり、事前にあまり決め込まずに実施したりしますが、一般的にこのワークモデルを採用できる体制・文化の組織はそこまで多くはないため、本稿では調査実施にあたり事前にしかるべき申請・承認が必要なケースを想定して例示の活動サイクルを記載しています。
②組織を主語に主要到達点を書く
・当該期間中に目指す定性的な到達点を設定する
<記入例:定性的な貢献>
・プロジェクトの確立
・ユーザーの要求理解
・提供価値の意思決定
<記入例:定量的な貢献>
・生活者の要求理解
・防災CEPの獲得
・防災用品シェアの向上・第一想起率の向上
※プロジェクトのKPIが明快な場合はそれに準じる。
ただリサーチが伴走する時に必ずしも明快ではないことも多々あるため、
上記のように組織貢献成果やリサーチで測定可能な目標を据えると良い。
③成果物によって業務成果を表す
・リサーチの業務成果を主要な成果物で表す
・機能支援型の組織の場合は工程を記入する
<記入例>
(インタビュー調査)
・ペルソナ
・カスタマージャーニー
・価値マップ
(アンケート調査)
・ファネル分析
・セグメンテーションマップ
・ユーザープロファイル
※実務一体型のリサーチ運営では成果物を中心に記載する。
(デザイナーがリサーチが行っている場合など)
<記入例>
(ユーザーテスト)
・実査
・報告書作成
・発言録作成
(アンケート調査)
・デスクリサーチ
・調査票作成
・スクリーニング調査
・本調査
・データ集計
・報告書作成
※機能支援型のリサーチ運営では工程を中心に記載する。
(インハウスリサーチャーが専任対応している場合など)
④後日接続する場面や用途を書く
・リサーチデータをもとに進める会議体や企画・制作活動を記入する
<記入例>
・ブレスト
・ワークショップ
・各種会議体(報告会・役員会・全社朝礼・社員総会・商品勉強会など)
・大型イベント(展示会など)
・プロトタイピング(ワイヤーフレーム・ビジュアルモックアップなど)
・施策の立案・実行(イベント・キャンペーンなど)
・リリース(プレスリリース・機能のデリバリーなど)
3.使い方
①リサーチの工程と成果を一枚で伝える
リサーチロードマップでは、どのタイミングで何が行われて、いつ中間成果物・最終成果物が出てくるのかが明らかです。それを複数のプロジェクトの状況と同期を取って記載するので、決裁者や確認者の観点に則った情報共有が可能です。
よく似た成果物にスケジュール表やWBSがありますが、こちらは基本的に一つのプロジェクトに対するアクションを詳細に伝える構成を取っています。調査の企画書に入れるには粒度が細かすぎて伝わらない懸念があるので注意しましょう。
②リサーチの出口側の活用意識を揃える
プロジェクトとの連携を高めるうえで、ロードマップの項目の中でも、「アウトカム」と「データ活用」は特に調査の出口を規定する情報になります。ここを関係者間の情報交換により決めて、調査の実施が目的化しないよう意識づけます。
またロードマップの表は期間で業務を区切る書き方をできるので、今回はここまで、次回はここまで、というようにプロジェクトへの貢献範囲を意識的に区切る説明がしやすく、一回の調査にかかる期待成果を調節することもできるのです。
リサーチャー。上智大学文学部新聞学科卒業。新卒で出版社の学研を経て、株式会社マクロミルで月次500問以上を運用する定量調査ディレクター業務に従事。現在は国内有数規模の総合ECサイト・アプリを運営する企業でプロダクト戦略・リサーチ全般を担当する。
デザインとマーケティングを横断するリサーチのトレンドウォッチャーとしてニュースレターの発行を行い、定量・定性の調査実務に精通したリサーチのメンターとして各種リサーチプロジェクトの監修も行う。著書『ユーザーリサーチのすべて』(マイナビ出版)
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