リサーチプロセス(組織運営のアウトプット)|現場のユーザーリサーチ全集

リサーチプロセス(組織運営のアウトプット)|現場のユーザーリサーチ全集

リサーチャーの菅原大介さんが、ユーザーリサーチの運営で成果を上げるアウトプットについて解説する「現場のユーザーリサーチ全集」。今回は、「リサーチプロセス」(組織運営のアウトプット)について寄稿いただきました。


リサーチプロセス

1.リサーチプロセスとは

●概要

リサーチプロセスとは

リサーチプロセスとは、組織で取り扱う調査案件の進め方のモデルとなるアプローチを可視化したアウトプットです。

「プロセス」という名の通り、調査のフェーズを大きく探索期と検証期とに分け、それぞれに紐づく調査のスコープ・リサーチ手法・デザイン手法の情報により、調査目的のアウトラインを示す仕様になっています。

また、インプット(データソース)とアウトプット(フレームワーク)のパターンを示すことで、伴走するプロジェクトにおける調査結果の役立ち方を具体的にイメージさせることができるのです。

●構成要素

リサーチプロセスの作り方(構成要素)

リサーチプロセスの構成要素は以下のようになります。

1.フェーズ

・探索期
・検証期

2.インプット

・データソース
・スコープ

3.リサーチ手法・デザイン手法

・デスクリサーチ
・サーベイ
・ユーザーインタビュー
・コンセプトワーク
・ユーザーテスト
・サービスデザイン
・プロトタイピング
・PoC
※上記は一例。組織で採用している手法や工程に準じて入れ替える。

4.アウトプット

※関係者がイメージしやすいドキュメントのキャプチャを貼付する。
(報告書・フレームワーク・図表などの資料)

5.ダブルダイヤモンドモデル

①探索する/Discover
②定義する/Define
③展開する/Develop
④提供する/Deliver

ダブルダイヤモンドモデルは、2004年に英国のデザインカウンシルにより発表されました。問題の発見と解決を連続的に行うためのデザイン思考のフレームワークです。

このモデルはその名の通り左右2つのダイヤモンドから成り、リサーチの観点でわかりやすく解釈するなら、左側は仮説構築、右側は仮説検証の役割を担っています。

各ダイヤで発散と収束を繰り返して議論を進めることを前提とした図の作りなので、デザイン(リサーチ)プロセスが包括的かつ視覚的に説明しやすくなります。

●このアウトプットの導入が向いているケース

リサーチプロセスが必要なケース

「この調査はどのような目的で行おうとしているのか?」
⇒この質問に一枚で答えるためのアウトプット

①不確実性が高く横断的な対応を行うケース

新規事業開発のシーンをはじめ、調査が伴走するプロジェクトにおけるミッションの不確実性が高い場合、調査目的を書こうにも極めて事前に定義しづらい(やたら格調高いだけの抽象度が高いものになってしまう)ことがあります。

また、調査で対応する領域が企画・開発・販促と複合的になっていくほど取り扱う調査手法は増えます。文字面で見る調査目的や調査の業務工程以上の情報量を持ったアウトプットが無いと、なかなか関係者が実情をイメージできません。

②調査目的が検証段階に偏重しているケース

直線的に業務を進めるウォーターフォール型の組織では、リサーチの使途が出来上がったものを検証することに偏りがち。何をどう作るかは前工程で既に決まっていて、リサーチは次々と検証を繰り返す役割を求められる状態です。

確かに検証業務は重要ですが、対応工程がそれに偏り過ぎると、開発や実装が済んだ時期(たいてい年度の後期)に異様に稼働が集中するいびつな調査体制になってしまいます。技能面のほか、稼働配分の観点で健全ではありません。

③調査目的が企画段階に偏重しているケース

全体のケースとしては少ないものの、調査目的が企画段階に偏重している組織も部門単位で見ると存在します。このケースの課題は、プロジェクト側が運営に手一杯で企画用に調査した後の事業展開で検証があまり行われないことです。

特に始末が悪いのは、初期の調査データが参照されないまま、「時期が古くなったので最新版が必要」や「新しく着任した上長の方針」などの理由で、定点調査でもないのに全く同じ内容でデータを取り直すケースが存在することです。

2.作り方

リサーチプロセスの作り方(作成手順)

①探索期と検証期とで構成する

・探索期—立ち上げ・情報収集・仮説構築の期間
・検証期—方針策定・合意形成・仮説検証の期間
・実行する時期情報を【  】で記入する
(例:上期、1Q、Week1など)


②データにより連続性を示す

・リサーチ活動のインプットとなる組織内外のデータ
・データベースをはじめ情報や意見などを取り揃える

<記入例:探索期>
・VOC、ユーザーフィードバック
・ウェブログ
・バックログ、ステークホルダー

<記入例:検証期>
・アンケートデータ
・インタビューデータ
・市場調査データ、ニュースクリップ
※探索期を経て得る情報を中心に記載する


③役割設定により期待値を調節

・各フェーズで請け合うリサーチの役割設定を記入する
(調査目的を責任領域に置き換えたワードで表現する)

<記入例:探索期>
・アイデア
・要求理解
・企画立案
・AS-IS

<記入例:検証期>
・概念実証
・要件定義
・効果検証
・TO-BE


④代表的な成果物や手法を記載

・見出しに調査手法や制作活動を記入する
・上記に紐づく成果物や分析手法を並べる

<記入例:デスクリサーチ>
・過去調査データ
・ログデータ/VOC
・ケーススタディ

<記入例:サーベイ>
・自社調査
・競合調査
・ベンチマーク調査

<記入例:ユーザーインタビュー>
・カスタマージャーニー
・ペルソナ
・価値マップ

<記入例:コンセプトワーク>
・ユーザーストーリーマッピング
・探索マップ/CEP
・MVP

<記入例:ユーザーテスト>
・タスク達成評価
・プロブレム評価
・コンセプト受容

<記入例:サービスデザイン>
・ユーザークロックスケッチ
・ストーリーボード
・サービスプループリント

<記入例:プロトタイピング>
・サイトマップ/IAダイアグラム
・PRD
・ビジュアルモックアップ

<記入例:PoC>
・プロダクトロードマップ
・プロダクトバックログ
・アクションアイテム見積り


⑤完全形のプロセスを提示する

・ダブルダイヤモンドモデルを調査活動の完全形として見せる
・それぞれのフェーズと調査との関わりは以下の説明を参照

1.探索する/Discover
事業方針やプロダクトバックログに則り、デスクリサーチやサーベイで情報収集を行う。調査結果を元にリサーチの仮説/課題リストを構築する。

2.定義する/Define
調査の仮説/課題リストに基づき、ユーザーインタビューを計画・実行する。調査結果を元に、ユーザーモデリング・コンセプトワークを行う。

3.展開する/Develop
探索期で得られた情報を元にプロトタイプに対するユーザーテストを実施。サービスデザインの手法を用いて全体のストーリーラインを形成する。

4.提供する/Deliver
ユーザーストーリーに基づき、企画・制作・開発へのブリッジを遂行する。プロトタイピングからPoCまで一連の検証活動をフォローアップする。

※ダブルダイヤモンドモデルをそのまま採用しても良いのですが、フェーズが細かい分、作成時にリサーチのアクションを一つのフェーズには収めづらくなる難点があります。(例えばユーザーインタビューは探索での用途も定義での用途も両方考えられます)
また、それゆえに関係者が見る際に情報量の多さから消化不良になることもあります。そのため、本稿ではフェーズをまとめ上げたうえで情報を充実させる方法を推奨しています。

3.使い方

リサーチプロセスで得られる効果

①調査の汎用型ワークモデルとして使う

・テーマや難易度にかかわらず素早く立ち上げる
・探索型と検証型の役割を定義し、違いを伝える

調査案件はテーマの個別性や課題の難易度が高いほど企画に時間がかかります。本表で組織で行っているリサーチ業務やデータ利活用をあらかじめ線でつないでおくと、詳細な内容は別にだいたいの活動意図は関係者に伝わります。

探索型と検証型の存在や役割を可視化しておくと、両者を内混ぜにする希望意見を抑制することができます。交じり合う要素はもちろんありますが、調査案件の実行と成果には適切な範囲設定が必要です。この図で説明しましょう。


②調査で企画や戦略からの関わりを示す

・企画や戦略からの調査の関わりを意識づける
・手戻りや後戻りを低減して運営効率を上がる

調査目的が検証段階に偏重してしまうケースでは、デザイン思考で広く用いられているダブルダイヤモンドの図による説明が有効です。左側のダイヤの図により企画や戦略の段階で調査を行う意義を自然と関係者に刷り込むことができます。

前工程から調査ができるようになると、ビジネススキームやプロダクトの仕様について、「最初からこうしておけば良かった」「リリース直後にもう改修が必要」という手戻り・後戻りが発生する確率が減り、運営効率が上がっていきます。


③改善活動に携わり事業成長に貢献する

・改善活動を経たPMFを目指すべき成果とする
・既存のテーマを扱うと調査の習熟度は上がる

調査目的が企画段階に偏重しているケースでは、ダブルダイヤモンドの右側のダイヤの図を使って、リリースやデリバリー後に再度改善を行いながらプロダクトマーケットフィットこそ目指すべき成果であると確認することができます。

リサーチ業務としても毎回初見のテーマに取り組むよりも既存テーマに取り組む方が習熟度が上がります。関係者との連携体制があればなおさらなので、リサーチプロセスを参照しながらぜひ後工程の調査機会も伺うようにしましょう。

この記事のライター

リサーチャー。上智大学文学部新聞学科卒業。新卒で出版社の学研を経て、株式会社マクロミルで月次500問以上を運用する定量調査ディレクター業務に従事。現在は国内有数規模の総合ECサイト・アプリを運営する企業でプロダクト戦略・リサーチ全般を担当する。

デザインとマーケティングを横断するリサーチのトレンドウォッチャーとしてニュースレターの発行を行い、定量・定性の調査実務に精通したリサーチのメンターとして各種リサーチプロジェクトの監修も行う。著書『ユーザーリサーチのすべて』(マイナビ出版)

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