目指せ!健康オタク
年齢なのでしょう。親しい先輩や友人達との会話では、普通に持病や睡眠、流行り病など健康関連の話題が出てきます。身近な知り合いや親族が亡くなったり、入院したり、怪我をしたりとよろしくない話を聞く機会も年々増えてきました。当然、自分の健康についても心配になってきます。お酒を飲み過ぎる日が続いたり、年齢の割に味が濃いものを好む習慣や、眠りが浅くなり何度か夜に目が覚めるなど、心配の種は尽きません。これでも、運動不足解消のために、歩いたり泳いだり日々努力しているつもりです。もちろん、雨や雪、体調の都合など厳しい環境の日もあります。ただ、継続は力です。変な意味ではなく、この年齢でも自分の身体を虐めて鍛えるのは不思議な爽快感があります。ジムで身体を鍛えようと何度もトライしてきましたが、個人的にはマシンを使用する鍛え方はなかなか永続きしませんでした。元々、健康には自信があります。それなりに丈夫な体質で、今まで入院するような大病を患ったことはありません。子供の頃は健康優良児に限りなく近い元気な少年でしたが、騒々しく落ち着きが無い親泣かせでもありました。最近では、健康オタクを目指して、ストレスを減らし、規則正しい生活習慣を順守したいと願っています。少々、大袈裟でしょうか。
時計遺伝子
海外へ旅行や出張などをすると決まって時差ぼけを経験します。怠かったり、眠かったり、疲れたりとなかなか回復せず、元気の出ない日々を過ごしがちです。一日の周期で生体リズムを調整しているのが体内時計で、時差ぼけは体内時計と外の環境のずれによって生じます。
体内時計(既日リズム)をコントロールするたんぱく質をつくる遺伝子群が時計遺伝子(clock gene)です。2017年、米国人科学者、ジェフリー・ホール氏、マイケル・ロスバッシュ氏、マイケル・ヤング氏の3名が生物の体内で時を刻む体内時計に指示を出す時計遺伝子を特定した功績でノーベル生理・医学賞を受賞しました。体内時計は1日24.5時間の周期で動いています。これを1日24時間の周期に合わせるために光と食事による刺激で整えています。体内時計が不調になれば、睡眠障害ばかりか精神疾患、生活習慣病、癌などにつながります。日本の労働生産性の低さは、老若男女、夜更かしによる昼夜逆転現象が大きな要因ともいわれています。体内時計を調整するためには食と運動が重要です。
朝、屋外の光を浴びるとセロトニンという物質が合成・分泌されます。セロトニンは自律神経を調整し、脳を覚醒させ、心理状態を安定化させます。身体においても疼痛を抑制し、腹筋や背筋など重力に対抗して身体を支えている筋肉を働かせて姿勢を保てるようにします。睡眠についてもセロトニンからメラトニンというホルモンが作られます。セロトニンの分泌開始後14~15時間から作られ始めて眠りへと導かれるのです。朝食も抜くことなく1日3食の規則正しい食事も大切です。決まった時間に3度食事を摂ることで内臓時計が働き、体内時計を整えます。時計遺伝子の発見と研究結果は医療に確信をもたらす可能性を大いに秘めています。
健康経営
企業にとって、人材(人財)は無形資産の中核です。人材の価値を示す人的資本は、職場環境を整えることにより、『自発的に価値が高まる無形資産』です。2013年1月に改正された内閣府令は上場企業に人的資本を有価証券報告書で開示するよう求めました。
健康経営とは従業員の健康維持・促進を経営的な視点で捉え、将来的に収益性を高める投資と認識し、企業戦略として組織的かつ継続的に実践することです。従業員への健康投資は従業員の活力を向上し、生産性を高め、組織の活性化をもたらし、結果として企業価値を高め、企業の持続的成長を促します。従業員に対する健康の配慮は、従業員の活躍を支えるための基礎であり土台です。近年進められている健康経営は、「攻めの健康経営」であり、健康への投資を戦略的に行うことで、プラスの収益獲得を目指す積極的な経営手法です。また、労災やメンタルヘルス対応は企業のリスクマネジメントを重視した「守りの健康経営」であり、欠かせません。
2014年度から経済産業省では東京証券取引所と共同で「健康経営銘柄」の選定を始めました。機関投資家を中心としたESG(環境・社会・企業統治)投資の評価項目に加えたり、スチュワードシップ活動方針における対話のテーマに位置付けるなど、投資先企業の健康経営への取り組みを評価する動きも拡大しています。健康経営を定着させることは、少子高齢化により人手不足が深刻な日本において、明確な国家戦略であり企業戦略です。
健康経営の実践
職場の健康を考えるには、睡眠時間の確保やストレスマネジメントは欠かすことができません。健康経営を実践する上での企業のメリットとして、①労働生産性の向上、②離職率の減少、③保険料負担の低減、④企業イメージアップ、⑤採用希望者の増加、などが考えられます。しかし、デメリットや課題もあります。①効果を検証するためのデータ収集が困難、②健康状態の把握に手間がかかる、③従業員が負担や不満を感じる、④定着や浸透に時間がかかる、⑤グループ会社社員の健康状況把握の困難、などが考えられます。
また、健康経営を導入するべき企業の特徴として、①長時間労働の企業体質、②長期休業者(病欠者)が多い、③離職率が高い、④ストレスフルな企業環境、⑤年齢層が高い傾向、とこれまでの日本企業の代表的な課題と不思議に似通っています。健康経営を導入する手順を追ってみると、①健康経営の課題を見つける、②課題を克服するための計画立案、③組織横断型の健康経営促進チームの設立と実行、④社内外からの評価の確認、⑤社内外への発信、です。健康経営は『労働の量』の確保だけでなく、『労働の質』を高めるためにも有効かつ不可欠です。
従業員のメンタルヘルスやモラール(やる気)、ロイヤルティなどで職場が活性化するためにはウェルビーイング(well-being)の考え方は重要です。精神的にも身体的にも社会的にも満たされた状態であるウェルビーイングを経営に活かすことは健康経営にも良好な影響を与えると予想できます。欧米の成長企業が注目し、取り組んでいるウェルビーイングな職場づくりを参考にした次世代の企業経営のスタイルを確立することが求められています。
企業戦略の中心は永遠に「人」なのです。
株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。