「下沈市場」はコロナ禍後どのように変化した?最新のトレンドトピックを調査

「下沈市場」はコロナ禍後どのように変化した?最新のトレンドトピックを調査

中国の三級都市以下の都市および農村のことを指す「下沈(かしん)市場」。中国経済の新たなマーケットとして、近年強い注目を集めています。本記事では、主にコロナ禍後の下沈市場の新たなトレンドに注目し、紹介していきます。


新たなマーケット「下沈市場」の特徴

「下沈市場」は北京、上海、広州、深圳といった世界的にも大規模な都市からなる一級都市、成都や天津、南京などの準一級都市、大連や哈爾濱などの二級都市の下の級に属します。三級以下の都市からなる下沈市場は約300の都市、2000の県、4万の鎮と66万の村が属しており、人口は10億人以上と、中国全体の70%余りを占めています。

下沈市場について、マナミナでは以下の記事で詳しい紹介をしています。

中国人口の7割を占める「下沈(かしん)市場」。消費者の生活と購入実態とは|ウェビナーレポート

https://manamina.valuesccg.com/articles/1617 

中国経済といえば北京・上海・広州・シンセンといった大都市が成長を支え、どちらかといえば地方部は脇役のイメージがある人も多いのではないでしょうか。実は今、中国経済の新たなマーケットとして近年注目を浴びてきているのが、地方都市を意味する「下沈市場(かしんしじょう)」です。「下沈市場のセミナー」では下沈市場に住む消費者の特徴やアプローチの仕方について徹底解説。中国国内だけに限らずグローバル企業までもが下沈市場に注目している真実に迫ります。

2022年、中国全国の社会消費財小売総額43.97兆元のうち、一級都市は5.02兆元で11.4%、準一級都市は9.64兆元で21.9%、二級都市は8.48兆元で19.3%、三級都市以下の下沈市場は20.83兆元と全体の47.4%を占めました。ここからも、下沈市場が大きな消費市場規模を有していることが分かります。さらに一、二級都市の市場の発展が既に成熟期に入っていることと比較すると、下沈市場はまだ開拓と発展の余地が大いにあると言えます。

2022年中国各市場社会消費財小売総額。左から全国総計、一級都市、準一級都市、二級都市、下沈市場

上の棒グラフを円グラフにしたもの。下沈市場は小売総額の半数近くを占めた

下沈市場の近年の傾向として、高級品の進出、ユーザー数の増加速度が次第に減少していること、社交型の消費が未だに主流であること、などが挙げられます。

高級品の進出:飲料・カフェ業界

近年、もともと一、二級都市の市場に焦点を当てていた多くの高級ブランドが、下沈市場に進出しています。喜茶や瑞幸珈琲などの飲料業界を例に取ると、これらのブランドは、自社の製品ラインを充実させ、地元の消費力に適応させた基盤のもと下沈戦略を強力に推進しています。統計によると、今年の第2四半期に喜茶は約300店舗を増やし、その多くは三~五級都市に集中しています。これにより下沈市場の競争が再び激化し、地元の消費者により多くの商品の選択肢を提供しています。
カフェ業界も同様です。「2023年中国珈琲市場洞察報告(2023中国咖啡市场洞察报告)」によると、2022年の下沈市場におけるコーヒー注文数は昨年同期比で250%以上増加しました。瑞幸珈琲やスターバックスを始めとした、これまで大都市に店舗を広げてきたチェーン店が、下沈市場にも積極的に新店舗を展開しています。

2020年から2021年にかけての美团デリバリーにおけるコーヒー注文量の推移。このデータからも、三級都市以下の下沈市場において需要が大幅に増加していることが分かる

市場の開拓と発展の余地が多分にある下沈市場に展開することで、企業自体の発展に繋がると多くの企業が考えています。進出する下沈市場の特徴に合わせた展開を押し広めることで、進出先でも成功することができるのです。

高級品の進出:家電業界

高級品の下沈市場への進出の例として、家電製品も挙げられます。近年主に電子商取引を中心とした小売チャネルが下沈を続け、下沈市場の消費潜在力を解放し、消費の格差を縮小し、家電販売を促進しています。
2023年3月に発表された「2022年中国家電市場報告(2022年中国家电市场报告)」によると、2022年の家電小売売上高は、中国全体では5.2%減少(2021年は8811億元、2022年は8352億元)したものの、下沈市場では微増し売上高は2850億元を記録。前年比で2.7%増加しました。家電小売売上高全体における割合では、下沈市場での売上高が占める割合は2021年の31.5%から34.1%に上昇し、家電市場において下沈市場は新たな活力を生み出しました。

最初に下沈市場を開拓した企業の一つとして京東があります。京東の家電専門店は下沈市場に次々と進出し、現在では全国に1.5万軒以上の店舗を展開し、全国の2.5万以上の郷と鎮、60万以上の行政村の消費者にサービスを提供しています。京東消費及び産業発展研究所の2020年から2022年の3年間にわたる6月から8月のデータによれば、京東の家電購入者のうち、三~六級都市の消費者の比率は既に65%に達し、下沈市場の驚異的な潜在力が窺えます。
都市と農村部の家電市場における消費格差は縮小を続け、下沈市場の家電消費スタイルも都市部と同様に高級化、エコ化、スマート化へと変化しているのです。

下沈市場の「熟人経済」と「社区団購」

下沈市場の人口移動スタイルは比較的固定されているため、一、二級都市のように多くの外部人口や文化を生み出すことは難しいです。そのため地域住民同士の関係が密になり、「熟人経済」と呼ばれる親しい人との社交を基礎とする消費が依然として下沈市場の大きな特徴となっています。
そんな下沈市場では、ネット上の評判より実際の口コミの方が効果があると言われています。下記は、下沈市場の消費者がどのような商品の情報を信頼するかをアンケート調査した結果です。

左から実店舗で調べる、親しい人に尋ねる、親しいのオススメ、ECサイトで調べる、その他サイトで調べる、生放送

自分で店舗に行って商品を見るという割合が65.4%と最も高く、次いで親しい人に尋ねる、親しい人のオススメが並び、共に50%以上の信頼度を集めました。このような下沈市場の特徴は、コミュニティEコマースや「社区団購」と呼ばれるコミュニティ内共同購入(まとめ買い)が可能なECサービスが下沈市場で成功している理由の一つです。

中国のご近所同士でのまとめ買い(社区団購)では、拼多多が提供する多多买菜、美团が提供する美团优选、アリババが提供する淘菜菜の3つが業界最大手です。社区団購市場が急成長を見せる中、一、二級都市の社区団購ユーザーは飽和傾向にあり、新規ユーザーの数が減少しています。
一方で下沈市場は小売業態が豊富ではないため、社区団購に発展の機会があります。また、社区団購の優れた低価格戦略は小規模都市の消費者の消費心理と合致しています。京東財報のデータによると、京東のアクティブユーザーは約5.7億人で、その内約1億人が新規ユーザーであり、その内70%は下沈市場の消費者です。その内社区団購の主戦場として、社区団購団長が占める割合は70%以上に達しており、下沈市場の消費能力の高さが窺えます。

まとめ

2022年以降を中心に、下沈市場の最新トレンドについて紹介しました。下沈市場は依然として中国の様々な業界における市場展開の開拓地となっています。下沈市場は大きな潜在力を有しているものの下沈市場ならではの特徴があり、一、二級都市といった大都市でのマーケティングと同様の手段が必ずしも歓迎されるとは限りません。下沈市場の特徴を把握し、地域に合ったマーケティング戦略を練ることが、今後企業が下沈市場で新たなトレンドを生み出すために求められるのではないでしょうか。

参考URL

下沉市场-三个皮匠报告百科
https://www.sgpjbg.com/news/33087.html
我国下沉市场消费状况研析
https://user.guancha.cn/main/content?id=1074420 
中国咖啡产业迎来黄金期
https://m.gmw.cn/2023-08/21/content_1303489148.htm
一年新增1.5万家,机会点在哪?《2023中国咖啡洞察报告》发布
https://www.foodtalks.cn/news/40605 
2022年中国家电市场报告
http://www.cena.com.cn/special/2022zgjdscbg.html 
2022赛迪中国家电市场报告:新家电、渠道下沉双发力京东助推产业升级
https://www.dsb.cn/213637.html
下沉市场需求旺盛,带来发展契机,社区团购企业逐步深耕下沉市场
http://news.sohu.com/a/700129426_120815710 

この記事のライター

横浜国立大学、早稲田大学を卒業後、2024年に新卒でヴァリューズに入社。
海外領域のリサーチャーとして、中国、東南アジア、アメリカなどの地域において、定量調査だけでなくSNS分析などの技術型調査手法を活用し、これまで家電、食品、飲料、小売系の企業様のマーケティング支援に携わる。

関連するキーワード


中国トレンド調査 中国市場

関連する投稿


独身者増加の中国で「一人暮らし経済」が成長中

独身者増加の中国で「一人暮らし経済」が成長中

人口抑制政策などの影響により少子化が進んでいる中国ですが、近年では結婚率も低下し独身者が増加しています。人口減少に拍車がかかる一方、このような状況によって生まれた新たな消費スタイルが「一人暮らし経済」として発展しています。本記事では、この「一人暮らし経済」において人々の間にどのようなニーズが存在するのか調査しました。


より早いスピード感で手軽に調査をスタート!中国市場Web調査ツール「ValueQIC」とは【第1回】

より早いスピード感で手軽に調査をスタート!中国市場Web調査ツール「ValueQIC」とは【第1回】

トレンドの変化が速い、と言われている中国市場。「最近、中国市場の変化が掴めない。言語の壁もあり、中国人生活者の考え方がよくわからない。」というのも多く耳にします。従来の調査には1ヶ月以上の時間が必要ですが、サブスクリプション型のWeb調査ツール「ValueQIC(ヴァリュークイック)」なら、言語の壁を感じることなく最短1週間で調査結果を確認することが可能です。第1回は、その特徴を事例とともにご紹介します。※本資料は記事末尾のフォームから無料でダウンロードいただけます。


中国で勢いを見せる「氷雪経済」を最新調査

中国で勢いを見せる「氷雪経済」を最新調査

2022年に開催された北京冬季オリンピックの「オリンピック効果」によって、中国では「氷雪経済」の成長が加速しています。アイススポーツを中心にレジャー、文化などを総合的に巻き込むこの経済システムは、広いサプライチェーンと高い集客効果を持っています。本記事では、氷雪経済が中国にどのような変化をもたらしているのかを調査しました。


2025年の中国春節消費の新トレンド 〜 Z世代が牽引する新年の風潮

2025年の中国春節消費の新トレンド 〜 Z世代が牽引する新年の風潮

2025年の春節(旧正月)が終わり、中国の都市や農村の至るところで、まだ新年の余韻が感じられます。しかし、例年と異なり、今年の中国の春節消費はより個性的でデジタル化が進んでいます。Z世代(1990年代後半から2010年代初頭に生まれた世代)が春節消費市場の中心となりつつあり、年貨(春節用の買い物)や贈り物の選び方、そして春節文化の楽しみ方において新たな価値観を生み出しています。本記事では2025年中国の春節の消費トレンドを詳しく分析します。


中国の健康消費の新トレンド ~ 若者に人気の「中式養生水」

中国の健康消費の新トレンド ~ 若者に人気の「中式養生水」

中国の経済発展につれ、飲料の選択にも変化が見られるようになりました。かつては、炭酸飲料が売上ランキングを独占していましたが、中国人の健康意識の高まりとともに、高糖分の飲料が体に与える負担が認識されるようになり、無糖茶飲料が新たな市場の主役となりました。無糖茶は、さっぱりとした味わいと低カロリーという特徴を持ち、健康志向の消費者のニーズを満たしてきましたが、過去には味わいと機能性の両面で十分に満足させるものではありませんでした。こうした中、さまざまな改良が加えられ、伝統的な養生理念と現代的な飲料の形態を融合させた新カテゴリー「中式養生水」が登場し、注目を集めています。


最新の投稿


アイスタイル、美容業界のデータドリブンな意思決定を支援する「データドリブンソリューション」を提供開始

アイスタイル、美容業界のデータドリブンな意思決定を支援する「データドリブンソリューション」を提供開始

株式会社アイスタイルは、美容業界のデータドリブンな意思決定を支援する新事業「データドリブンソリューション」を提供開始したことを発表しました。


Z世代の約8割が「SNSのまとめコンテンツ」を活用!サーチエンジン検索は"買い物に失敗しないための下調べに利用【ファストマーケティング調査】

Z世代の約8割が「SNSのまとめコンテンツ」を活用!サーチエンジン検索は"買い物に失敗しないための下調べに利用【ファストマーケティング調査】

ファストマーケティング株式会社は、Z世代(15歳〜29歳)の男女を対象に「Z世代の消費行動に関するSNS利用の実態調査【2025年版】ファッション・コスメ編」を実施し、結果を公開しました。


Oisixとnoshの動向を調査!新生活の忙しい若者には宅配食+αがおすすめ

Oisixとnoshの動向を調査!新生活の忙しい若者には宅配食+αがおすすめ

最近、外食やテイクアウト、簡単に調理できる食品など、新しい食事スタイルを提供するサービスが人気を集めています。本記事では多くの人に利用されているOisixとnoshに焦点をあてながら、デリバリーサービスや自炊との比較を交え、現代の人々の食生活のトレンドを分析します。


生成AIの認知度は横ばいで推移も利用率は1年間で9.0ポイント上昇【GMOリサーチ&AI調査】

生成AIの認知度は横ばいで推移も利用率は1年間で9.0ポイント上昇【GMOリサーチ&AI調査】

GMOリサーチ&AI株式会社は、同社が保有する国内モニターパネル「JAPAN Cloud Panel(ジャパンクラウドパネル)」のモニターを対象に、「AIトレンドに関する自主調査」を実施し、結果を公開しました。


WEBマーケティング施策でAIを活用している企業は約8割!活用領域としてDM・プレスリリースの文案作成や広告クリエイティブ生成が上位に【PRIZMA調査】

WEBマーケティング施策でAIを活用している企業は約8割!活用領域としてDM・プレスリリースの文案作成や広告クリエイティブ生成が上位に【PRIZMA調査】

株式会社PRIZMAは、マーケティング担当者、広告代理店、デジタルエージェンシーを対象に「WEBマーケティングにおけるAI活用に関する調査」を実施し、結果を公開しました。


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

アクセスランキング


>>総合人気ランキング

ページトップへ