米国スーパーマーケット業界の動向
世界中を混乱の渦に巻き込んだコロナがようやく終息に向かい、消費市場は日常を取り戻しつつあります。
コロナ禍では家にこもりがちになることから、食料品をはじめとする小売業が好調に推移していました。コロナ禍を抜けた小売市場は、こうした“巣ごもり特需”の反動やインフレといった新たな課題に直面しつつも、力強く成長を続けています。
消費者にとっては、コロナ禍を経てオンラインショッピングや店頭受け取り、配達などが当たり前となり、引き続き高い需要があります。
こうしたニーズに応えるためにも、多くの企業がテクノロジーへの投資によるサプライチェーンの効率化やECの発展に力を入れているのでしょう。
また、「リテールメディア」に注力する企業が目立つのも特徴のひとつです。リテールメディアとは、小売業が独自に収集している顧客の購買・行動データを活用して広告を配信する手法のこと。小売店自身が広告媒体社となることで新たな収益源を確保できるというメリットがあり、最近注目が高まっています。
■市場規模とトップ企業の動向
2022年、アメリカ小売業界の市場規模は4兆1047億ドル(約554兆円)、対前年比5.3%増となりました。
ユーロモニター社による販売額ランキングは以下のとおりで、近年はウォルマートとアマゾンの2強状態が続いています。
※https://diamond-rm.net/overseas/american_economy/458917/ をもとに作成
多少の順位変動はあるものの、ランキングの顔ぶれは昨年とほぼ変わっていないようです。そんな中、4位のクローガーが10位のアルバートソンズを買収したため、今後の動向が注目されています。
以下では、トップ企業の中からウォルマートとクローガーの事例を取り上げ、DX・データ活用の取り組みを紹介します。
ウォルマートの取り組み
現在ウォルマートは、新規出店よりも既存店舗の活性化に力を入れており、消費者の満足度をさらに高めるべく、EC、テクノロジー、サプライチェーンの領域に注力して取り組んでいます。
■サプライチェーン管理技術の高度化
ウォルマートは、最新のテクノロジーを駆使してサプライチェーン全体を自動化する“オートメーション・サプライチェーン”に取り組んでいます。
同社の最高財務責任者を務めるジョン・レイニー氏は「サプライチェーンに多大な投資を行っている」と公言しており、フルフィルメントセンター(物流拠点)や施設内の自動保管・取り出しシステムを活用することで、店舗の効率化を実現しました。
自動化されたサプライチェーンを構築するための取り組みにより大幅に作業効率が上がり、待ち時間の短縮や商品精度の向上、顧客満足度の向上につながっています。
【参考】
Retail Dive|5 takeaways on digital innovation from top Walmart execs
■テクノロジーへの投資
ウォルマートでは、店舗内や配達での自動化を実現するためのテクノロジーへも大きな投資を行っています。
たとえば、店舗内ではロボットが通路を歩き回り、商品の在庫は足りているか、何をどのくらい補充する必要があるかをチェックしています。
また、2021年に発表したドローンによる配達は好評を博し、2022年には米国7州の36店舗で6000回以上を記録しました。ドローン配達を希望すると、顧客は30分以内に商品を受け取ることができるそうです。
さらに2022年には、バーチャル試着や、家具などのアイテムをカメラで写している背景にバーチャルに置ける機能といったAR(拡張現実)技術を導入しています。
このように消費者の買物と店舗作業の双方を効率化する取り組みを積極的に実施しており、今後もあらゆる分野で技術開発が進んでいくことが期待されます。
【参考】
CFO Dive|Walmart bets on digital retail future, CFO says
CNET Japan|ウォルマート、2022年のドローン配達は6000回以上--米国の7州、36店舗で提供中
Forbes Japan|ウォルマート、婦人服のネットショッピングに仮想試着技術を導入
■顧客満足の追求
どの取り組みも最終的には顧客満足の追求につながるものではありますが、特に消費者の利便性を向上させたウォルマートの最新施策を紹介します。
テキストメッセージでの商品購入
2022年12月、ウォルマートはテキストメッセージで商品が購入できる「Text to Shop」機能を導入しました。
アプリを開き、必要な商品を文字で入力するだけでカートに追加できるという非常に便利な機能です。「再注文」と入力すれば、購入履歴から頻繁に注文する商品を判別しカートに追加できるという便利な使い方もあります。
買い物にかかる時間と手間を大幅に削減できる機能で、利用者からも好評です。
【参考】Walmart|Text to Shop: Walmart Customers Can Now Shop as Easily as Texting
サブスク「Walmart +」の充実
2022年8月には、サブスクリプションサービス「Walmart+(ウォルマートプラス)」の会員を対象に、キャッシュバックプログラムの「Walmart Rewards」をスタートさせました。
Walmart+は、月額を負担することで無料宅配サービスやガソリン割引、音楽や動画配信サービスの無料利用などさまざまなメンバー特典を受けられます。
新たなメンバー特典として開始された「Walmart Rewards」は、対象商品の購入によりポイントが付与され、貯まったポイントをウォルマートECサイトや店舗での支払い時に使えるというもの。今後はさらにポイント対象商品を増やす見込みであり、さらなる顧客の囲い込みが期待できるでしょう。
【参考】Walmart|Walmart+ Members Can Now Save More with Walmart Rewards
■従業員教育用アプリの開発
ウォルマートは従業員向けにもチャットボットを導入するなど、業務効率化につながる施策を多く行っています。2018年には従業員の教育用アプリ「Spark City」を開発しました。
このアプリは同社の部門マネージャーが行う業務をゲーム仕立てにして、売り場やバックルームでの商品補充や在庫管理、プライスカードの変更などをこなしながら接客や緊急事態への対処を行うことでポイントを獲得するというもの。
レベルが上がると、従業員のトレーニングや仕事の割り振りなど業務が増えていきます。一般公開もされているものですが、ゲームで楽しく学んだことを現場で実践・強化できる画期的なアプリだと言えるでしょう。
出典:Google Play
■リテールメディアの活用
広大な店舗面積を活用し、新たな収益の柱を築くため、リテールメディアにも力を入れて取り組んでいます。
2021年1月、デジタル広告を扱う部門を「Walmart Connect」として再編し、強化していくことを発表しました。メーカーなどの取引先に対してデジタル広告の掲示場所を提供することに加え、ウォルマートの所有する購買データを取引先に共有することでより効果的な広告出稿が可能となります。
非常に利益率が高い取り組みであるため事業は順調に推移しており、今後さらなる拡大が見込まれています。
【参考】Walmart|Walmart Connect
クローガーの取り組み
続いては、食品スーパーとしてはアメリカ最大手の規模となるクローガーの取り組みを紹介します。
■新たな買い物体験の創出
クローガーは、リアル店舗における買物体験向上のための取り組みに力を入れています。
2022年3月には半導体・AI開発企業のエヌビディア(NVIDIA)と協業し、本社オフィスに最先端ののAIラボを開設しました。
ここでは、店舗のレイアウトと業務を正確に反映させるために作られた仮想モデルである、デジタルツイン シミュレーションを通じて、店舗での買い物体験の向上を目指します。
具体的には以下の実現を目指しています。
● コンピューター ビジョンを活用して鮮度劣化の兆候を早い段階で発見する
● ラストマイル配送のルートを最適化し、農場から食卓までの新鮮さを確保する
● デジタルツインによる店舗シミュレーションを通じて、店舗オペレーションの効率を高める
これにより、顧客は新鮮な食品を購入できるようになり、新たな価値を感じることができるでしょう。
■デジタルスマートスクリーンの導入
2023年5月には、クーラースクリーンズ(Cooler Screens)が開発したデジタルスマートスクリーンを国内の500店舗で導入することを発表しました。
このデジタルスマートスクリーンは店内の冷蔵・冷凍ケースや陳列棚、レジや壁などに設置し、
商品の情報や広告を表示させます。
導入前に実施された3年間の検証で、デジタルスクリーンを活用すると、顧客が自身の好みやニーズに基づく最適な情報を得られるため、顧客体験が向上することがわかりました。
今後は同社の所有するデータプラットフォームと統合し、店舗における顧客体験の価値と魅力をさらに高めていく方針です。
■リテールメディア事業の強化
ウォルマート同様、クローガーもリテールメディア事業に力を入れており、2021年には広告主がセルフサービスで広告を出稿できるプラットフォームを整えました。
2023年に前述のデジタルスマートスクリーン導入と合わせて発表されたのが、データを活用して顧客体験を向上させる広告プラットフォームの構築です。
新たなプラットフォームの構築により、広告主がより広告を出稿しやすくなり、効果測定や最適化が容易になるため、広告パフォーマンスの向上が期待されています。
【参考】Retail Customer Experience|Kroger’s media business builds in-house ad platform
まとめ
アメリカの主要スーパーマーケットは、データ活用と先進テクノロジーを駆使して顧客体験の向上や競争力の強化を図っています。
トップ企業においては、自社の強みを理解し、広い視野で新たな領域を切り拓いていく姿勢も共通していると言えるでしょう。
業界全体の大きなトレンドを示し、データ活用もより進んでいる米国の事例は、日本企業にとってもお手本となるポイントが多くあるため、ぜひ参考にしていただければ幸いです。
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フリーライター。JRグループ会社にて経理・総務として勤務。
子育てとの両立のためWebライターに転身。3児の母。
バックオフィス業務関連の記事を中心にBtoBライティングを手がける。