アルバイト
大学生の頃の主なアルバイト体験は家庭教師や学習塾の講師、試験監督などでした。大学3年生になり、卒業して新社会人になる意識をし始め、ビジネスの現場を直接経験できそうな仕事を探してみました。偶然、デパートの中元・歳暮の苦情係を発見。働くことにしました。中元と歳暮の時期だけなので、夏と年末なのですが、初めて社会と直に接点を持てる記念すべき?アルバイトでした。一緒に働く社員は全国の支店などから、この時期のみ東京の本店を補佐すべく長期出張し、主に電話で顧客のクレームに対応します。そんな社員の方々と共に配達で破損したお皿やグラス、食料品などを詰め直して謝罪文と一緒に再配送の準備をするのが仕事です。また、今では信じられないでしょうが、この職場は殆どが女性社員で男性社員は少なかったこともあり、我々男子学生が再配送する予定の商品を直接、迷惑を掛けたお客様へ持参するという経験もしました。電話では激怒していたお客様も商品を持参すると叱られるどころか、わざわざ訪ねて来たことに感謝されて、逆に喜んで頂きました。今から考えると私はその仕事に向いていたらしく、課長やマネージャーからの依頼はバイト学生の間では断トツの回数でした。そこで困難な状況でも人と向き合うことの大切さを学び、同時に人間の性善説を信じるようにもなりました。この職場は季節性が高くメンバーの交代頻度が高い割にはチームワークが良く、アルバイト学生達の意見も積極的に取り入れ、一人前の働き手として扱って頂き、懐が深く何でも話せる雰囲気がありました。4年生になっても働く予定でしたが、就職活動や卒論、卒業旅行の準備など大学最後の1年は夢中に過ごしてしまいました。就職の報告を職場の皆さんへ挨拶に伺ったことが昨日のようです。
チームワーク
組織に属するメンバーが共通の目標を達成するために、お互いに協力や連携を深めながら相乗的に成果を挙げる共同作業がチームワークです。取り巻く環境の変化が激しく、個人の能力だけに依存できない最近、チームワークの重要性が一段と高まっています。同じチームでもメンバーの特性は異なりますが、それぞれの専門性や強みを認めて役割や能力を発揮し合えなければ、チームから組織への貢献度が減少します。企業にとっての常なる経営課題といえます。チームはグループとは異なり、メンバー全員が共同体として同一の目標を掲げて活動します。チームの総合力で目標を実現するためです。チームワークの良い職場とは、①情報共有が高まる、②メンバー同士の助け合いが増える、③変化に対応しやすい、④新しいアイディアを創出できる、⑤仕事へのモチベーションが向上する、⑥組織としての生産性が高まる、⑦一人では達成できない業務に取り組める、など長所だらけです。良いチームワークを実現するためには、①心理的安全性(psychological safety)を高める、②メンバー間のコミュニケーションの工夫、③チームとしてのビジョンの共有、④メンバーの個性の尊重、⑤リーダーシップやフォロワーシップなどメンバーの役割の明確化、などが考えられます。
創造性と職場
働く人が創造性を発揮できる職場がイノベーションを起こすためには必要不可欠です。働くメンバーが生き生きと働き、主体的に仕事や職場に関与することにより創造性(creativity)が育成されます。創造性とは何らかの新しい価値のあるものを創り出す事象であり、創られたものには無形のもの(作曲、科学理論、観念など)もあれば実物(絵画・彫刻、発明品、印刷された文学作品など)もあります。職場で創造性を活発化するためには、①仕事で実現したい夢や希望の共有、②斬新なアイディアの頻繁な交換、③仕事や職場の不満や不安の共通化、④有益な知識や情報の集積する場としての環境の整備、⑤メンバー間で教え学び合う雰囲気づくり、⑥メンバーの定期的な異動と入れ替え、などが求められます。様々な角度から共同でアイディアを育てる環境や風土がない職場では、日常的に新しい提案や前向きな行動が不足します。今までの日本社会では創造性を発揮することが身近でなく、重要視されない傾向でした。職場や学校など日常生活での場で問題解決をすることが創造性です。創造性あふれる環境や風土を全ての職場に整えることが、日本再興の近道となるのは明白です。
心理的安全性
心理的安全性とは、ビジネスに関する心理学用語のひとつであり、1999年にハーバード大学の組織行動学を研究するエイミー・エドモンドソン教授が提唱した概念です。「チームにおいて、他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰を与えたりしないという確信を持っている状態であり、対人関係にリスクある行動をとったとしてもメンバーが互いに安全・安心感を共有できている状態」と定義されています。つまり、チームのメンバー全員が臆することなく率直に発言・行動できる状態です。心理的安全性が高いチームは「ぬるいチーム」でも「ゆるいチーム」でもなく、通常なかなか言い出せないことでも安心して話せ、言いたいことを引っ込め「沈黙」する人が存在しない状態を作り出すことです。近年、注目される人的資本経営は人的資本である全ての人を活かしきる経営です。心理的安全性が高く『恐れることの無い』組織やチームほどメンバーのパフォーマンスが向上するのは明らかです。
新型コロナ禍でリモートワークを導入する企業が増大し、打ち合わせや会議も対面からオンラインへと移行してきました。経営者はリモートワークという環境下で従業員の心理的な健全性を維持することに注意を払う必要があります。リモートワークでの心理的安全性を高めるには、①チームのメンバーとしての承認(仕事ではなく相手の「存在」に対する承認)、②メンバー同士がお互いに感謝し尊敬できる環境の醸成、③チームの価値観や考え方・方向性について話す機会を増やす、④仕事以外の会話も重視する、などが考えられます。
イノベーションが生まれやすくするためには、オープンであり、異なるアイディアや視点を受け入れ、同時に前向きな失敗を認め、組織に対する利他心をメンバーそれぞれが持てる組織を形成する必要があります。また、新しいアイディアやテクノロジーを触媒とし、そのエッセンスをいち早く取り入れて積極的に仕事に活かす環境や社風も大切です。
心理的安全性こそ、イノベーションを創り出す源泉なのです。
株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。