回復を見せる中国の旅行業。最新の傾向を調査

回復を見せる中国の旅行業。最新の傾向を調査

コロナ禍が収束した2023年、中国において観光業が復活を見せています。中国での国内旅行はコロナ禍前の2019年の水準近くまで回復し、海外旅行も緩やかに回復の兆しを見せています。本記事では中国の国内外旅行の現状をデータを用いて確認し、旅行業における現在のトレンドについて紹介します。


国内旅行者数は50億人を突破する見込み

コロナ禍を経た2023年、中国の旅行業は確かな復活を見せました。12月14日に国務院新聞辨公室が実施した記者会見では、統計データによると2023年の1月~9月における国内旅行者総数は36.7億人、旅行業収入は3.7兆元を記録し、それぞれ前年比75%、114%の増加率であると発表されました。

さらに中国旅游研究院が発表した《中国旅游集团化发展报告(2023)(中国旅行集団化発展報告)》によると、2023年1年間を通じての国内旅行者数は54.07億人、国内旅行業収入は5.2兆元に到達する見込みです。国内旅行者数は2019年の90%、国内旅行業収入は2019年の91%に達しており、コロナ禍前の水準に並ぶ回復が予測されています。

また、上述の《中国旅游集团化发展报告(2023)》によると、国内旅行の消費は景区(景勝地)や度假区(リゾート地)、街区、商圏の「三区一圏」に集中しています。観光客の旅行の目的や選択肢はより多様化、個性化を見せており、「旅行+○○」のスタイルが旅行業の新たな形を生み出しているのが特徴です。
また、農村への旅行も国内旅行のトレンドになっています。農村各地の特色を活かしたキャンプ地や民宿、果物狩りなど新形態のサービスが特色ある農村旅行の発展スタイルを支えています。

中国乡村旅游网(中国農村旅行ネット)という農村旅行を専門に紹介しているサイトもある

統計によると、現在中国国内の農村旅行重点村鎮は1597箇所あり、観光客の主要な目的地となっています。携程平台のデータによると、2023年の1月~9月において国内農村旅行の予約数は2019年同期比の264%に達しました。民宿の数も増えており、《携程乡村旅游振兴白皮书(2023)(携程農村旅行振興白書)》によると、2023年の携程サイトにおける農村民宿の数は過去5年間で最多となっており、33万軒に達しました。
さらに2023年の農村旅行観光客では、中国都市階級の一級や二級都市から来た2000年代以降生まれの観光客数が前年比164%と最も高い増加率を記録しました。若者の観光客はハイキングやキャンプ、農耕体験、写真撮影などの目的で農村を訪れています。

海外旅行水準は緩やかに回復

海外旅行の水準も緩やかに回復を見せています。国家民航局のデータによると、2023年上半期の国際線乗客数は2019年の23.0%まで回復し、さらに6月の国際線乗客数は2019年同期比の41.6%まで回復しました。また国家移民管理局が公開したデータによると、2023年7月1日から8月29日の出入国者数はのべ8241.3万人、1日平均のべ139.7万人と、前期比19.88%の増加を見せており、日に日に水準が回復していることが分かります。

中国旅游研究院が発表した《2023年上半年出境旅游大数据报告(2023年上半期海外旅行ビッグデータ報告)》によると、2023年上半期ではのべ4037万人の中国人観光客が海外旅行をし、うち93.93%が旅行先にアジア地域を選択しました。

中国旅游研究院《2023年上半年出境旅游大数据》のデータより、ヴァリューズが作成

旅行先として最も人気である国はタイ、次いで日本が並び、海外旅行客全体における10%以上の割合を占めました。シンガポール、韓国、ミャンマーがその下に並び、この結果からも東アジア地域及び東南アジア地域の旅行先としての人気の高さがうかがえます。

中国旅游研究院《2023年上半年出境旅游大数据》のデータより、ヴァリューズが作成

海外旅行者においては、広東省や上海、北京、江蘇省、浙江省、福建省など比較的経済が発展している地域から海外へ旅行する観光客の割合が高い結果に。中国本土からの海外旅行者数の9割を上位の10都市(広東、上海、北京、江蘇、浙江、福建、雲南、山東、四川、湖南)が占めています。中でも広東省は最も多く、67.56%を占めました。
近年における中国人観光客の海外旅行の特徴としては、以前のような大人数のツアー旅行より少人数の、またはフリープランの旅行スタイルが人気を博していることが挙げられます。その背景には消費習慣の変化や、よりプライバシーを重視するようになった価値観の変化があり、特に若者にこの傾向が強く見られます。

年末年始休みや春節休みにおける旅行業の発展予測

旅行業の発展で期待されるのが年末年始休み、及び2024年の春節休みにおける水準です。同程旅行が発表した《2024元旦假期出游预测(2024正月休み海外旅行予測)》のデータによると12月11日までの7日間における調査で年末年始休暇期間の旅行話題度指数は前年比465%増加、中国国内のホテル予約数は平日の5倍以上を記録しました。また同期間における海外旅行も話題度指数が前年比5倍以上になるなど、着実な人気の回復を見せています。

海外旅行先として、12月7日に30日間のビザ免除を検討すると発表したシンガポールが中国人観光客の注目を集めています。海外旅行は去哪儿网の指数では、ビザ免除の報道がされた当日にシンガポールの指数は前期比の4倍にも増えました。このように、中国人観光客の旅行先としてビザが免除される国々が人気を集めています。
シンガポールの他にはタイやマレーシア、ジョージア、スリランカなどが中国人観光客に対してビザ免除の措置をとっています。年末年始休み期間の旅行先として、比較的暖かい島地域への観光を望む中国人観光客が多く、タイ、マレーシア、モルディブなどの地域に注目が集まっています。同程旅行サイト上のデータによると、年末年始休み期間における中国国内の島々の話題度は前年比72%増加し、東南アジア地域の島々の話題度は前年比の3倍の増加を記録しました。

同程旅行サイトの旅行先の島々の人気を表した画像。境外(海外)ではマレーシア、タイ、モルディブが、境内(国内)では三亜(海南省)、北海(海南省)、アモイが人気である

また携程のデータによると、12月5日時点で2024年春節期間の海外旅行申込数は前年(2023年)の20倍近くに増えました。旅行先では東京やシンガポール、バンコク、プーケット、大阪、クアラルンプール、シドニー、ソウルが人気となっています。
以上のように、海外旅行も国内旅行の回復を追いかけるように確かな回復の兆しを見せていて、この傾向は2024年以降更に進んでいくことが見込まれます。

まとめ

2023年の中国の国内外旅行の状況について紹介しました。「五一假期」の際に見られた旅行業の回復の傾向は続いており、2024年にかけてさらに勢いを増していくことが分かりました。国内旅行がほぼコロナ禍前の水準に戻った反面、海外旅行の回復は緩やかではあるものの、観光ビザの免除がされている(または検討されている)アジア地域の国々を中心として個人単位での観光客の来訪が増えています。2024年の正月休み期間及び春節期間における旅行業の更なる盛り上がりが期待されそうです。

参考URL

“数”说2023中国旅游
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1785768649339744579&wfr=spider&for=pc
《中国旅游集团化发展报告2023——繁荣与重构》
https://new.qq.com/rain/a/20231216A034V600
中国旅游研究院:2023年上半年出境旅游大数据
https://www.199it.com/archives/1649086.html
出境游大团失宠,小团深度游成趋势
https://www.takefoto.cn/news/2023/12/18/10651953.shtml
元旦假期民宿预订量大增 出境游年终加速回暖
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1785349047611618835&wfr=spider&for=pc
报告:元旦假期出境游热度涨超5倍
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1785131010114133786&wfr=spider&for=pc
携程:春节出境游订单同比去年增长近20倍
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1784535272404539774&wfr=spider&for=pc

この記事のライター

横浜国立大学、早稲田大学を卒業後、2024年に新卒でヴァリューズに入社。
海外領域のリサーチャーとして、中国、東南アジア、アメリカなどの地域において、定量調査だけでなくSNS分析などの技術型調査手法を活用し、これまで家電、食品、飲料、小売系の企業様のマーケティング支援に携わる。

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