講演とプレゼンテーション
仕事柄、様々な調査データを用いたプレゼンテーションを顧客や取引先などで実施する数多くの機会に恵まれました。特に企業イメージやブランド、メディアに関するものが中心でした。取引先を納得させるデータを探し出すことに一苦労し、即席で新しく調査を実施・分析して、プレゼンテーションに臨んだ冷汗が出る程の思い出もあります。
インターネットが普及する前には、FAX調査を主に活用し、可能な限りスピーディーに対処したものです。調査結果には必ずしも納得できないものもありましたが、論理の組み立てや熱心さ、誠意などでカバーして殆どのプレゼンテーションを先方から、感謝され満足して頂いたことが多かったと自負しています。その時の出会いから今でも親しくおつき合い頂く顧客や取引先の方がいらっしゃるのはそれこそ感謝すべきことであり、努力が報われた証しでもあります。
仕事の上とはいえ、200~300人の顧客や取引先の前で講演する際は緊張の連続でした。また、取引先や学会などから依頼を受け、調査・研究していた内容を公開する機会を得て、参加者と交流することが出来、大変勉強になったことも度々でした。マーケティングやブランド、メディアについて掘り下げたものから、国土交通省(旧建設省)で委員を務めた経験から社会資本整備についても題材に講演した記憶があります。むしろ、これから講演する機会を増やし、全国行脚することが目標です。ご希望がありましたら是非ご依頼頂ければ幸いです。
話す力と聴く力
ビジネスには創造的受動性ともいうべき聴く力が話す力以上に重要です。顧客や相手先の課題や要望を聴き出して解決策を練り、提案する一連のビジネスモデルには傾聴力は欠かせません。ただ、顧客や相手先とのコミュニケーションや交渉の場では話す力や説得力が求められます。基本的に「話す」とは言葉に出して相手に伝える・告げる行為です。言葉とは言の葉であり、植物的な変容を遂げるかの如く人を包み込む大樹にもなります。もちろん、話すために言葉を選び、研ぎ澄ます必要はありますが、それ以上に会話を成立させ、相手との良質な関係性を保ち深めるためのノンバーバルをも含めた会話の展開力が求められます。仕事関連ばかりが話題では、良好なコミュニケーションを生み出し、発展させるのは困難です。相手先や顧客にとって有益で気の利いた知識や情報の収集を助けるためにも、味のある雑談はビジネスの成功を導く秘訣でもあります。また、初対面の場合には事前に相手のプロフィールなどの情報を可能な限り集め、会話のネタや材料にすることは効果的で、その際に自分の興味ある分野に関連付けて引き込むことがコツです。
オンラインでの会話の場合、話すタイミングが難しいケースが多く、場合によってはギクシャクした関係を作るようなやり取りが見受けられます。話の間をとる、話のキャッチボールをする、とは会話の本質であり、オンラインの会話からは特に「空気をよむ」必要性を学びます。相手の心を掴み、関心を持たせて初めて会話は成立・成功します。『話しの気配り』、それこそが会話の第一歩なのです。
伝える力
一対一でも一対多でも、伝えたい中味や意味を相手方に理解してもらうためには、口頭でも文字でも伝えるためのひと工夫が必要です。特に人づてに伝達する際に、本来の伝えるべき内容が誤って伝わるケースも垣間見られます。改めて、伝えるにまつわる言葉、伝達、伝言、通知、連絡、それぞれ通常に使用されている言葉の定義を再確認します。
まず伝達は、命令・意思・情報などを口頭または書類で相手に伝えることです。次に伝言とは、ある人に伝えたい事柄を別の人に言ってもらうこと、またその言葉として、ことづて・ことづけを指します。その次の通知とは、特定の人あるいは不特定の人に対して必要な物事を知らせることです。最後に連絡とは、通信手段を用いて関係者に通知することです。このように人が交流する様々な場面で「伝える力」は重要な役割を果たし、それに関わる生きた言葉の種類を増やしてきたことに気づかされます。
時は金なりというようにビジネスではスピードが求められます。ほんの少しの差でライバルに商権を奪われることは日常茶飯事です。しかし、スピードを重視するあまり、誤った情報を伝えてしまうとビジネスの機会や信用を失ってしまいます。さらにグローバル化が進展しても、AIが台頭しても変わらないビジネスの基本は正確に相手に「伝える力」です。フェイクニュースが騒がれ情報が溢れかえる現在、原点に立ち返り、企業も個人も自らの「伝える力」を鍛え直し、パワーアップを図るべきなのです。
表現力
自分の感情や思考を他者にわかりやすく伝える能力が表現力です。言葉や文章、表情、声、ジェスチャーなど表現方法は多様で、音楽や絵画、演劇、舞踏など芸術的表現方法も含まれます。表現力に自信が持てれば、自分の考え方や気持ちを正確に伝え、相手と円滑なコミュニケーションを保ち、良好な関係を築くことが出来ます。独自の表現力を磨けば、本音や本心をアピール出来るようになり、周りから一目置かれると自己肯定感が持て、自信にもつながります。さらに、豊かな表現力を維持することは創造性向上の近道ともいえます。表現力が高い人の特徴として、①表情が豊か、②ボディランゲージがわかりやすい、③語彙が豊富、④感受性が豊か、⑤相手を気遣う能力が高い、⑥コミュニケ―ションに積極的に取り組む姿勢、などが挙げられます。
日本人は海外のビジネスマンに比べて表現力が低いといわれます。日々の心掛けや行動で高める努力が必要です。「学び」という言葉は「真似び」から生まれ、「習う」とは「倣う」であり、表現力が高い上司や先輩、同僚達を真似することが上達の秘訣です。成功する芸能人は押しなべて、高い表現のスキルを持っています。芸能(performing arts)とは日本語で正確には上演芸術であり、演劇や音楽、舞踏などを全て含む概念です。世界的な人気歌手や俳優達も先達の芸を模倣して盗むが如く、日々学習して先達を凌駕する表現力に達し、その圧倒的なパフォーマンスによりスターに上り詰めるのです。
話す力、聴く力、伝える力、表現力、互いに独立した能力ではありません。ビジネスの上でも生活の上でも、比重は若干異なりますが場面に則し、それぞれの能力向上のための研鑽が大切です。IT全盛の最近、最重要なリスキリングはコミュニケーション能力なのです。
株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。