京都国際会館
京都に駐在していた頃、京都市左京区岩倉の宝ヶ池の国立京都国際会館へ仕事の関係で何度か訪問する機会がありました。京都の奥深い洛北に位置する宝ヶ池周辺は観光地としても知られ、比叡山をバックに風光明媚な景観と近くにはユネスコの世界文化遺産に登録された数多くの神社仏閣を抱えています。
京都国際会館は1966年5月に日本最初の国立の会議施設として開設されました。先立って開業した東海道新幹線の京都駅が在来線との併設になったのはこの施設の利便性を京都の財界や京都市が強く主張したことが要因です。1997年12月に開催された第3回気候変動枠組条約国会議(地球温暖化防止京都会議、COP3)で世界に名を轟かした京都議定書がここで採択されました。この施設は建築家大谷幸夫氏により設計され、宝ヶ池を借景した美しい日本庭園を持ち、館内は広く開放的なロビー・ラウンジと70室に及ぶ会議場等が一体となり、全館使用時には1万人を超える大型イベントの開催が可能です。アクセスも良く、1997年の京都市営地下鉄烏丸線の全線開業と同時に、至近に国際会館駅が設置されJR京都駅から地下鉄で20分、京都市内の各ホテルからも地下鉄を利用すれば、およそ20分で来館できます。国際会議への参加者は古都京都での観光も文化も食も満喫できます。同様に京都市は会議参加者による経済効果も期待できます。
観光・経済戦略の推進
円安の影響も大きいですが、2024年3月の訪日客数は308万1600人、1-3月の旅行消費額は約1兆7500億円と共に過去最高を更新しました。米国の大手旅行雑誌コンデナスト・トラベラーが2023年10月3日に発表した、長い歴史と権威を持つ読者投票ランキング「リーダーズ・チョイス・アワード」の『世界で最も魅力ある国』において、日本はイタリアを抜き世界1位になるなど着実に観光大国として成長を遂げました。人口50万人以上の大都市部門でも東京が第2位(世界1位はシンガポール)でした。観光地としての魅力は観光資源だけでなく、治安の良さや清潔さ、交通網の充実など日本の総合的な潜在力が認められ、着実に世界に日本の良さが浸透してきた結果です。改めて、我々も自国の魅力に自信を深め、世界へ広くPRすると共に国際的な地位を再び向上させることが望まれます。
世界でも消費のあり方の主流はモノからコトへと重点が移動し、観光のあり方も体験型あるいはサービスを中心としたものへと変化しました。そのため、地域と連携した高付加価値のツアーの開発、工場や研究所などビジネスの現場への見学や研修、新しい宿泊の形態として寺や宿坊への宿泊、古民家を改修した食文化体験、ナイトタイムツアーなど様々なツアーメニューが工夫され提案されています。もちろん、訪日観光客は京都や奈良、鎌倉、金沢といった歴史都市への興味は尽きません。ただ、その愉しみ方も今までの観光とは異なり、文化財・遺産を活用した「文化観光」を望んだり、日本の歴史や地域文化を積極的に学んだり・味わったり・試したりと日本人の暮らしに溶け込む旅を好むようになっています。
MICEとは
MICE(マイス)とはmouseの複数形なのですが、ここで取り上げるMICEはMeeting(会議・研修)、Incentive travel/tour(研修旅行)、Convention(国際会議・学術会議)、Exhibition(展示会)またはEvent(催し物)の4つの頭文字を合わせた造語を指します。多くの集客や交流が見込まれるビジネスイベントなどの総称です。
MICEの開催地及び周辺地域には開催前後で、宿泊や飲食、観光など幅の広い経済効果をもたらします。開催期間も比較的長期であり、一般的な観光旅行に比べても、様々なビジネスチャンスを創造したり、国や都市間の競争を促す効果が見込まれます。また、統合型リゾートの核となる施設群の整備が求められています。
歴史的に国際会議は国際団体の本部が多い欧州が主体で、欧米ではコンベンション産業が盛んです。日本でも観光庁や日本政府観光局(JNTO)を中心に、誘致活動に力が入ります。経済に勢いがあるアジア・太平洋地域においても、展示会や見本市などのイベントが拡大、実施されています。ただ、APEC(アジア太平洋協力会議)の事務局はシンガポール、ASEAN(東南アジア諸国連合)の事務局はジャカルタに設置されているなど、設立当初から関係の深い日本に事務局は無く、国連本部機関は国連大学のみと、国際会議の事務局や国際機関の本部などの誘致が日本の喫緊の課題です。そのためにコンベンション・センターを整備し、機能を高め、存在価値を世界に向けてPRすることが肝要です。
MICE誘致
世界の都市がMICEを誘致するためにしのぎを削っています。グローバルサウスの台頭もその一因です。中東でもドバイが第28回国連気候変動枠組み条約締結会議(COP28)を開催しました。国際会議協会(ICCA)がまとめる国際会議開催件数で2030年に世界第3位内を目標にするなど、東京都も2023年1月にMICEの新たな誘致戦略を策定しました。海外との都市間競争に挑み、2019年の世界第10位からの上昇を狙っています。民間企業や都などから組織された公益財団法人東京観光財団が誘致活動の先頭に立っています。国際会議は業界の主要な関係者が一堂に集まることもあり、誘致拡大には環境への配慮やAIやデジタル技術のフル活用で発信力を高めることが鍵となります。
東京の品川駅周辺ではJR東日本と京浜急行電鉄などが国際交流拠点をテーマとした大規模な再開発を進めています。地域内の移動がしやすく、防災を意識し、人と人とが積極的に交流可能な街づくりを目指しています。国際交流拠点としての都市機能を充実させるためには、多国籍の人々による交流や協働が求められ、情報発信する場となる「ダイバーシティプラットフォーム」の構築が必要です。品川駅は2027年以降にはリニア中央新幹線の開業が予定され、始発駅として国内各都市を結ぶ役割も担うことになります。品川駅周辺にあるMICEの利用者や駅周辺の企業との商談に訪れるビジネスマンが活動できる会議室や交流ロビーの整備を推進する予定です。
観光人気が高まる日本はMICE誘致でも追い風が吹いています。今だからこそ、ビジネス客の交流人口を増やし、創造性と多様性ある高度な人材を呼び込み、経済の活性化をはかる必要があります。観光・経済の一体化を推進させる国を挙げての戦略が鍵となります。
株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。