スピーカー紹介
三井住友海上火災保険株式会社
CXマーケティング戦略部長 兼 CMO
木田 浩理氏
三井住友海上火災保険株式会社
CXマーケティング戦略部 データマーケティングチーム 課長
日ノ澤 恵莉氏
株式会社ヴァリューズ
取締役副社長
後藤 賢治
社内のDX&CX変革が求められた背景とは
三井住友海上火災保険株式会社 木田 浩理氏(以下、木田):今回は当社でマーケティングDXやCXを組織的にどのように進めているのか、お話ししたいと思います。
私たちCXマーケティング戦略部のミッションは3つあります。
1つ目は、お客さまの満足度No.1を達成し、お客さまに選んで頂けるお客さま本位の損保会社となること、2つ目は、デジタルなどを中心にお客さまとの接点やCXによるコミュニケーションを強化し新たなマーケットを開拓すること、そして3つ目は、私がデータサイエンティスト出身なのでデータ分析やリサーチを強化してお客様理解を深め、お客様ごとのマーケティングを実行し、期待を超える価値提供をすることです。
というのは、損害保険業界のビジネスモデルは今大きく変わっています。これまでは代理店の方がお客様に対して商品の説明をしてきましたが、現在はお客様が自らインターネットで検索して、必要な情報や商品を選ぶ方も増えてきました。
また今まではお客様との接点が、事故に遭われた時など限定的でした。それ以外の接点を作るため、お客様を深く理解してビジネスを変革することが我々に求められていることでした。
損保のビジネスモデルで直面する課題
木田:そのような業界環境下で、 2018年に入社後、DXとCX、2つの領域から変革を進めています。
データ活用による変革では、今まではデータドリブンではない意思決定が多かったのですが、ヴァリューズさんの分析ツール「Dockpit」をすぐに導入して当社に関するWeb行動を分析して可視化したり、さらに当社内のデータを組み合わせて分析しマーケティングに活用したり、様々な取り組みを行いました。
加えてお客様接点が限られていた点は、保険の契約・補償の接点以外にもオンライン・オフライン双方で、お客さまの生活に根差したコンテンツを拡充するなどを通じて、デジタルでのお客様接点を強化していきました。
2つの変革 DXとCX
「期待」と「信頼」を得ながら変革する
木田:とはいえ、会社の変革を一足飛びに行うことは難しいので、中長期で変革を考える必要がありました。
まずは経営のコミットと意思が必要です。そのうえでDXやデータ教育を通じて社内浸透を図り、CDPなどデータのシステム基盤をつくる。そして新しいお客様との接点をつくるという、たくさんのステップがあります。
このプロセスの中で、社内の信頼や期待を獲得することが重要でした。
企業変革の実現に必要なこと
株式会社ヴァリューズ 後藤 賢治(以下、後藤):人材やデータを活用する際、コストもかかります。進めるうえでは、経営の中で本当に役に立つのか意思決定できた経験が大事なのでしょうか。
木田:はい。経営の議論の場で、データで語る場面を増やせるよう仕掛けてきました。5~6年前からDXやデータドリブンと言われていますが、実際に経営判断をデータドリブンで行うところまでもっていくのは難しい。データサイエンティストは、分かりやすさを追求する努力も必要だと思います。加えてデータ分析結果をそのまま見せるのではなく、分析したデータをもとにビジネスがどう変わるのか、先の姿を見せることが非常に大事です。
後藤:まさにビジネストランスレーターとしての役割ですね。
スモールサクセスを積み上げる仕掛けづくり
木田:変革を進める際には、様々なスモールサクセスを積み上げることにこだわってきました。いきなり大きく振りかぶっても、日本企業ではそう簡単に変わらないからです。
まずはスモールサクセスから
後藤:スモールサクセスは、今日一番のテーマだと思います。DXの場合、非常に大きな目的から始められるケースもありますが、スモールサクセスを進める上ではどんなことに気を付けていましたか。
木田:当社は営業が強い会社なので、彼らにとってどのように役に立つのかを考えました。彼らの言葉でデータの価値を語ってもらうことが、社内で評価を高める際に大きく影響します。営業資料や現場の支援で、データ分析でこんな価値を出せると伝えてきました。
三井住友海上火災保険株式会社 日ノ澤 恵莉氏(以下、日ノ澤):社内のCX支援でも、営業からマーケティングに関する困りごとを受けて、データで課題解決の支援をしています。
木田:成功事例ができたら、次はデジタルマーケティングに取り組みました。サイト訪問者数を増やすことは比較的簡単にできて、数値も見えやすい。加えて、営業でのマーケティング支援でプラスの効果が表れると、社内各所でデータ活用の有用性が語られるようになります。
更にデータ人材の育成だけでなく、マーケティングのCX人材の育成も行ってきました。1,000人を超える規模になっているので、データもマーケティングも、という文化が社内に浸透し始めていると感じます。
中長期的な基盤構築には種まきが重要
木田:スモールサクセスから中長期的な基盤を構築する上では、種まきという概念が大事です。ここも戦略的に進めました。
私は入社した時から、この会社でデータマーケティングを広めなければならないという課題意識がありました。ただ、いきなりマーケティングに進むのは理解が得にくい。そこでデータ領域でセンターオブエクセレンスにあたる組織を作り、データ分析の案件を受けた際に、分析結果に加えてマーケティング視点の解決手法を併せて提案し、データとマーケティング双方を活用した取組実績を数多く積んできました。
スモールサクセスから、中長期な基盤構築へ
木田:種まきを進めると、社内でマーケティングの重要性を認識する人が増えていきます。そのタイミングでCXマーケティング戦略部を作り、CMOという立場になりました。更に種まきを続け、マーケティングのスモールサクセスを進めていく。こうしたプロセスを踏むことで、全社を巻き込みながらビジネス変革ができると考えています。
後藤:もう1つ質問です。データ領域では、社内にある大量のデータでも意思決定されると思います。外部データの重要性はどのように考えていますか。
日ノ澤:自社のデータだけでは流れは掴めないので、3Cのフェーズ、お客様と自社と競合を合わせてみることが重要と思っています。その点で「Dockpit」は3Cの情報を一気に見ることができ、使いやすいと感じます。
木田:営業の現場でも紹介するとすぐに使えるので、かなりの人が活用するようになりました。自分が抱える企業の分析が手軽にできることは、相当な進化だと感じていますね。
データ分析やマーケティングを共通言語に
木田:このように実績や信頼を作ったうえで、CDPを作り始めました。2年半前にこの組織を立ち上げた際、最初に取り掛かったのがCDPです。新たなプラットフォームの構築は容易ではないため、まずは最小限のところから始めて時間をかけて拡張し、今もデータを足しながら進化しています。
日ノ澤:一番難しかったのは、普通のデータベースとどこが違うのか、経営層に理解してもらうことでした。
全てのデータをお客様単位で繋げてみることで、カスタマージャーニーをおさえる。すると、お客様のペインの解決や先手を打ったアプローチができます。CDPの価値をきちんと理解してもらってから進めるということが、苦労と同時に重要な点でした。
木田:何のデータを入れるのかも問われました。維持するにはコストもかかります。同時並行でお客様接点を増やし、データをCDPに入れながら戦略を打ってきましたね。
後藤:お二人の話をお聞きして、データサイエンスを進める部署の知識や学ぶべきことが広がっていると感じます。データが繋がりにくくなった昨今、世の中の潮流の変化に対応しながら進める必要性を我々も痛感しています。
データサイエンスの中のエンジニアリングの能力と、集計をするサイエンスの部分と、意外と忘れられがちな法律も含めたビジネスの部分と、色々ケアしながら進める必要があるんでしょうね。
木田:まさにデータサイエンスでは、エンジニアリングでの設計に加えて、ビジネスとして、どんなお客様がいて、どんなデータを集めて、どんなビジネスに繋げていくのか。そこまでトータルに発想できる力が求められていますよね。
中長期的な基盤構築 Ⅰ
木田:その点で私たちも人材育成を、かなり強化して取り組んできました。
ビジネス経験、データ分析力に加えてマーケティング脳、この3つを兼ね備えた人材を大量に育成しています。2年半前から現在まで千数百名まで拡大しました。更に中長期的にはこのCX×DXの人材を5,000名以上に増やすところまで計画しています。こうなると社員全体の数%を占めるので、マーケティングやデータ分析が共通言語になる。これが大きな事なんです。
また育成の際には数日や1週間などの短期的な講義ではなく、7か月もの長期にわたってしっかりと教育することがポイントです。この規模で行うと、社内風土がどんどん変わります。
CDPを使うタスクフォースを組んでデータ活用を部門横断で論議したり、当社で培ったマーケティング活用実績を当社グループの海外現法にも展開したり、様々な面から社内風土変革を進めています。
中長期的な基盤構築 Ⅱ
後藤:5,000名を将来的には育成する目標は、他社ではなかなか聞かない規模です。比較的、営業出身の方が多いのでしょうか。
木田:多いですね。この講習を受けてマーケティングに目覚め、当社のマーケティングを変えていきたいという若手が増えました。また当社にはアクチュアリーという数理統計学の専門家がいるので、彼らを育成するプログラムも作ったりしてきました。
CX浸透に不可欠な顧客体験理解
木田:このようにデータからCXへ取組領域を拡大する際、その必要性について、当初社内の理解を得ることは難しかったです。ただマーケティングやCXの概念が社内にきちんと浸透しないまま進めると、だいたいは失敗します。過去の経験から分かっていたので、スモールサクセスの実績をもって、社内の各関係部署にその重要性を説明してまわり、コンセンサスを得て進めました。
後藤:DX組織を作る際、マーケティングやCXの視点があると具体的に何に使えるのか、スモールサクセスの落としどころを先に意識するということでしょうか。
木田:はい。どのお客様が、何のペインを抱えていて、どう解決しなければいけないのか。ビジネス上どんな課題になっているのか、というところまで突き詰めて考えていく。それをデータを使って解決しよう、DXを使って改善しようという風に進めていかないと上手く行きません。まずはカスタマージャーニーをきちんと描くことが重要です。
日ノ澤:社内の色々な部署を巻き込んで、カスタマージャーニーのワークショップを何度も開いていますね。
後藤:CX、つまり顧客体験理解の重要性があがってきている、ということですね。ここで弊社のモニタログデータを使った顧客体験理解についても、ご紹介したいと思います。
「Dockpit」では、明確な許諾を得たモニターの方々のブラウザ行動を、データとして活用できる形にして、三井住友海上さんはじめ、色々なお客様に使っていただいています。
以下は「痛み」がどう変化するのか、検索キーワードを使って分析した例です。どんな人がどんな痛みを検索しているか、簡単に掴めることが顧客体験理解の一環になるかと思います。
ヴァリューズツール Dockpitでできること
「痛み」の検索ニーズを調査した事例
後藤:というのは、人の検索行動は能動的な動きです。他のリスニングデータに比べると、感情が見えやすいことが検索データのメリットと感じます。
また検索キーワードは時期によって変化します。今、特定のサイトへの接触をゼロに置いた際、前後数日で人はどういう行動をするのかを分析するデータを出せないかと考えています。
例えば、複数の生命保険や医療保険のコンバージョンをゼロにした際、前後25日に人はどんな行動をするのか。10日前に「保険料」というキーワードを見ている等、何を検索してどんなページを見ているのか、すぐに確認できるようにしたいと考えています。
検索キーワードを使った情報収集の流れの把握
木田:お客様の行動をイメージしやすいツールだと思います。コンバージョンまでの動きが分かりますね。
後藤:昨今のリサーチでは、アスク型とリスニング型を組み合わせることが重要と考えています。リスニングの強みは、記憶や残らない行動を見ることができる点です。モニターの方々はアンケートに回答いただける方も沢山いらっしゃるので、より一層アスクとリスニングのいいとこどりをできるといいなと考えています。
本講演のまとめ
本日は貴重なお話をありがとうございました。
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大学卒業後、損害保険の営業事務を経て、通販雑誌・ECサイトのMD、編集、事業企画に従事した後、独立。自身のキャリアを通じて、一人一人のポテンシャルを引き出すことが組織の可能性に繋がることを実感したことから、現在はマーケティングとキャリア・人材を軸に、人と組織の可能性を最大化できるよう支援をしています。