コンビの研究
凸凹コンビというと真っ先に思い浮かぶのは、映画「スターウオーズ・シリーズ」のドロイドコンビのC-3POとR2-D2です。礼儀作法と外交儀礼・慣習(プロトコル)に詳しいドロイドC-3POは実に600万を超える言語を流暢に理解し話せる設定です。また、臨機応変で能力が高く、宇宙船の整備士や戦闘機のパイロットの補佐まで対応するアストロメク・ドロイドR2-D2。共に長きにわたり友情を育み、スペースオペラ、スターウオーズの副主人公としての存在感を有しています。どうやら、この原型は日本の誇る名匠黒澤明監督の名作「隠し砦の三悪人」に出演した凸凹コンビの千秋実氏(太平役)と藤原釜足氏(又七役)おふたりの名演技にあり、この作品をヒントにジョージ・ルーカス監督はC-3POとR2-D2を生みだしました。もちろん、日本における凸凹コンビのパイオニアは江戸時代の偽作者・浮世絵師、十返舎一九の滑稽本である「東海道中膝栗毛」(『弥次喜多道中』)の主人公、弥次郎兵衛と喜多八(『弥次喜多』)です。今でも弥次さん喜多さんは膝栗毛物として、映画や歌舞伎、音楽、アニメと幅広く取り上げられ、二人は東海道を中心に全国区で親しまれています。
因みにコンビとは二人組を指しますが、コンビネーションを略した和製英語です。漫才のボケとツッコミ同様、凸凹コンビは時代が変わっても我々に笑いを誘い愉しませてくれるキラ-コンテンツです。
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補佐役
国や組織のトップが成功するためには名補佐役抜きにはありえません。豊臣(太閤)秀吉の補佐役として、弟の秀長は史上名高い人物です。秀長無しには秀吉は天下統一を果たせなかった可能性も高く、秀長が秀吉より長生きしていたら、徳川幕府の成立もあり得なかったでしょう。秀吉を常に陰で支え、敵を作らず、適切な助言をしていた秀長の功績は現在でも高く評価されています。
企業の名補佐役として、まず名前が挙がるのはホンダの藤沢武夫副社長でしょう。本田宗一郎氏は大変なカリスマ技術者でしたが、実印と会社経営の全権を藤沢副社長に委ねて技術者に徹していました。藤沢副社長は名参謀として、本田宗一郎氏を活かし、ホンダを世界の若者中心に憧れの大企業に育て上げました。その関係は今でも語り草になっています。藤沢副社長に経営を任せた本田宗一郎氏も凄いのですが、本田宗一郎氏とその発明を心の底から愛し敬い、成功への道筋を作り上げた藤沢副社長の目利きとバランス感覚には驚きさえ感じます。
補佐役は以下の様々な型が存在します。①側近型。最も多いタイプで資料を作成したり、書面をまとめるのが上手かったりする優秀な事務方です。②分身型。トップに成り代わって判断する代理や補佐というべき存在です。③準トップ型。トップとは異なる独特の判断を組織のために行う場合もあり、頼もしいところもありますが少々危険なタイプです。➃戦略型。独自の長期的な構想や考えに基づいてトップを補佐、理性的な判断が目立ちます。⑤独自型。多様性社会にふさわしい様々な出自から、大局的な判断と幅の広い行動力を兼ね備えたこれからの補佐役です。
イノベーション
1912年、オーストリア出身の経済学の泰斗、ヨーゼフ・シュンペーターは著書「経済発展の理論」を著しました。この著書の中で初めてイノベーションの概念を『新結合(neue Kombination)』という言葉で表しました。シュンペーターはイノベーションの定義を「経済活動中で生産手段や資源、労働力などをそれまでとは異なるやり方で新結合すること」としています。経済が発展するためには、自然環境や人口、気候などの外的な要因以上に内的な要因であるイノベーションが重要であると説いています。
日本ではイノベーションを技術革新と捉えられていますが、本来は技術だけを対象にした概念ではなく、イノベーションとは幅の広い革新(新機軸)のことです。シュンペーターは経済成長論など経済学者として最高の業績を残したといわれていますが、経営学や企業経営に対しても大きな影響を与え、経済成長を起こすのは企業家による新結合であると考えました。
シュンペーターはイノベーションを以下の5つに分類しています。①プロダクトイノベーション(新しい生産物の創出または生産物の新しい品質の実現)、②プロセスイノベーション(新しい生産方法の導入)、③マーケットイノベーション(新しい販売市場の開拓)、➃サプライチェーンイノベーション(新しい資源や買い付け先の獲得)、⑤オルガニゼーションイノベーション(新しい産業組織の創出)。近年では「プロダクトイノベーション」と「プロセスイノベーション」の2つに集約されると研究が進んでいます。
ニューコンビネーション
既に市場に存在するモノやサービスを組み合わせて、新たな価値を創造するといった発想がニューコンビネーションです。日本を代表する経営コンサルタントで起業家でもある大前研一氏が著書『「0から1」の発想術』で唱えています。全ての発明がゼロから生まれた訳ではなく、発明の多くは古くからあるモノやサービスが新しく組み合わせた(コンビネーションした)ものという考え方です。近所でしばしば休憩時間に立ち寄るマンガ喫茶はマンガの図書館と喫茶店の組み合わせが優れものですし、キックボクシングはボクシングと空手の組み合わせであり、さらには様々な種類の立ち技格闘家同士が戦う異業種格闘技へと発展を遂げ、新しい格闘技市場を創造しました。
このように既存のモノやサービスなど2つを組み合わせて、新しい価値を創出できればニューコンビネーションは概ね成功したことになります。ネット社会の発展はニューコンビネーションを進展させる追い風ともなっています。
しかし、価値が創出されてもモノやサービスの価格が上昇するようではビジネスとしては失敗ですし、市場価格に適さないニューコンビネーションでは意味がありません。日本の家電業界は機能を付加することばかりに注力したため、ユーザーが必ずしも必要としていないモノを提供することとなり、結果価格を上昇させてしまい、それに伴ってユーザーは離れ、厳しい企業経営に陥ったのです。
日本人の持つ独特の感性を活かせば、組み合わせの妙により世界に誇るイノベーションが誕生するはずです。合成の誤謬という言葉は組み合わせの難しさを説いていますが、ニューコンビネーションへの取り組み方次第で日本の産業界の再浮上はあると信じます。
株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。