官民連携の智略 ~ PPP/PFI

官民連携の智略 ~ PPP/PFI

高い効率性が求められるのは今や個人の仕事や学業の範疇にとどまらず、国の施策運営である公共事業などにもその思考傾向は浸透しつつあります。その結果、国は民間企業の協力を得て「官民連携」で公共事業を進めることでそれらを効率化し、さまざまな事業を支えている例が多く存在します。本稿では、このような「官民連携」で効率化を目指す手法のPPPやPFIなどについて、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長を務めている渡部数俊氏が解説します。


効率性

仕事でも学業でも称賛されるのは高い効率性です。低い労働生産性とは業務における効率の悪さであり、日本では改善の兆しが見受けられるものの、企業経営の課題のひとつに数えられています。受験勉強でも資格試験でも集中力を発揮することで、試験に負けない実践的な知識を効率よく身に着け、入学試験の合格や資格の取得を手にすることができるのです。

私自身、子供の頃は本当に落ち着きがなく、TVを見ながら読書をするような器用な姿を晒し、勉強するにしてもダラダラと机に向かうのが通常でした。ただ、不思議と夏休みや冬休みなど長期間の休みには先に宿題を終わらせたいという一心で、終業式直後から宿題に取りかかり、問題集や作文・感想文、書初めなども休みに入って一週間以内には全て完了させていました。絵を描く宿題などは絵葉書や写真を入手し、それを真似て描いて学校へ提出しました。この時ばかりは、何故か集中し効率的に目標をやり遂げたものです。

同じく社会人になってからは上司や先輩達から与えられた仕事でも、提出期限を定められたものについては可能な限り素早い対応を心掛け実行しました。ただ、仕事に慣れれば慣れるほど、直ぐには解決不可能で一筋縄ではいかない中長期的業務が増え、それらを数多く抱えるようになり、残念ながら後輩達に幾つかは残してしまったような気がして心残りでもあります。

効率性

PPP/PFI

公共施設等の建設、維持、管理、運営等を行政と民間が連携して進めることで、民間のアイディアや創意工夫を利活用して、行政の効率化や財政資金の効率的運用などを図るものが、PPP(Public Private Partnership)です。

多くの地方公共団体では、公共施設や水道・港湾・鉄道・道路といった社会資本の著しい老朽化、人口減少とそれによる過疎化、厳しさ増す財政事情など諸問題への適切な対処・対応に加えて、自治体の生き残りを賭けた未来につながる施策の立案と実行が待ったなしです。そのためには、地域の活性化を図り、活気溢れる地方経済を持続的に継続し、多文化共生社会の実現を目指した上で人口増大を目指し、自治体間競争に勝ち残らねばなりません。

PPPにはPFI(Private Finance Initiative)や指定管理者制度、包括的民間委託、公的不動産利活用事業など様々な方式が存在します。特にPFI手法が導入されることで、民間の資金、経営能力、技術力を活用出来、国や地方公共団体等が直接実施するより効率的で良質な公共サービスの提供が可能になると見込まれています。

PFIは1992年に英国で生まれた行財政改革の手法であり、広義の業務改善の一手段です。1999年7月に日本は、「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(PFI法)が制定され、翌年3月にPFIの理念などを示す「基本方針」がPFI推進委員会を経て策定され、PFI事業の枠組みが設定されました。公共施設や公共サービスを完全に民間企業へ移管する形態が民営化です。一方、PFIは公共部門と民間企業の官民連携により、民間の資金や技術の提供を受けながら、公共施設等の建設、維持、管理、運営等を行います。

PPP/PFI

小さな政府・大きな政府

1980年代、米国のロナルド・レーガン大統領の提唱したレーガノミクス、英国のマーガレット・サッチャー首相の目指したサッチャリズムは「小さな政府(Limited government)」の代表例です。「小さな政府」とは、低福祉低負担という思想に基づき、政府による経済活動への介入を極力減らすことで、市場原理における自由競争を促進して経済成長を実現するという基本思想があります。具体的には減税、規制緩和、民営化などを政策の柱としています。しかし、減税など国民の負担軽減がメリットである分、公的サービスの水準がどうしても低下してしまうデメリットも存在してしまいます。

その反対ともいうべき思想が高福祉高負担を取り入れた「大きな政府(Big government)」です。高水準の公的サービスを実現するためには国民の負担も大きいのが特徴です。政府が積極的に経済活動に介入し、社会資本を整備し、国民の生活を安定させ、所得格差を是正するといった考え方であり、スウェーデンやデンマークなど北欧諸国が導入しています。

両政治思想共に社会・経済環境の変化でしばしば揺り戻しがあり、必ずしもどちらが正解とは言い難く、通常は両方を適宜運用すべきです。歴史的に判断すると、『政治や政策における効率性の追求』の良し悪しであり、後世で評価を受けることになります。

コンセッション

公共インフラを民間運営するPFIの一形態として、公共施設等運営権制度(コンセッション)が注目されています。コンセッションとは、空港、上下水道、高速道路など料金徴収を伴う公共施設について、施設の所有権を発注者(公的機関)に残したまま、運営を特別目的会社として設立される民間業者(SPC(Special Purpose Company))が施設運営を行うスキームを指します。日本でも国土交通省と宮城県が運営する仙台空港や浜松市の下水処理場など大規模なコンセッションの事例が増えています。ただ、中小の自治体ではコンセッションを募集しても果たして応募する企業があるのかといった根本的な問題も存在します。

政府はPPP/PFIについて、2032年度までで事業規模を30兆円とする目標を掲げ、コンセッションの範囲を公園や文化・教育施設などにも拡げようとしています。そのためには小規模な公共施設や遊休不動産などを官民で運用するスタイルを検討、実施する必要もあります。

人口減少とインフラの老朽化を抱える欧州を中心にインフラの官民連携は一段と活発化し、インフラの維持・運営の需要は確実に高まっています。日本も同様にコンセッションは期待されていますが、英国やフランスでは完全に民営化した水道施設で水質問題が起こるなどいくつかの課題も指摘されています。公共サービスの水準を保ちながらのコスト削減が必要であり、民間の技術やノウハウを活用し、維持・運営する公共施設や不動産で新しい知恵や創意工夫が求められます。地方は人口減少やインフラの老朽化以外に産業の衰退も進んでいます。そのために地域振興や産業創出といった地域再生に一役買うことも望まれています。コンセッションは農業や再生エネルギーなど業態を拡大、省エネや地域連携を現実化する方式なのです。

PPP/PFIはこれからの日本及び地方のあり方を大きく変える可能性を秘めています。

この記事のライター

株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。

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