異業種交流会
入社して5年目の頃、仕事は厳しく膨大な量でした。何とか工夫しながらやりこなす毎日でしたが、次第にアイディアが枯渇し企画が立案しにくくなり、困った状況に追い込まれました。そのため、新しいアイディアを生み出す源泉を求めて、上司に連れられ社会資本に関する交流会に事務局側として参加することになりました。
参加メンバーは官僚や大学教授、シンクタンクの研究員、メーカーの技術者など多士済々で参加するだけでも勉強になりました。土曜日や平日も夜遅くまで開催されることも多く、当初は気乗りのしない参加でしたが、親しく接して頂ける方々が次々生まれ、恐れ多くて人脈とまではいえませんが別の機会で交流したり、企画に実際に執筆して頂くなどの接点を見つけました。自分では知る由もない高度で興味ある今どきのテーマについて有識者達の丁々発止の議論を目前で学べて幸せでした。
その交流会を主宰している方は大変ユニークで、異業種交流の拠点として他にも様々なテーマの交流会を主宰・運営していて、例えば道の駅の原型はそれらの交流会で議題にあがったものが具体化されたと知りました。交流会で話題になったものが実際に国の施策として実現するほどレベルの高い議論に加われたことに感謝しています。
この経験に影響されて自分が中心になったり、仕事の上だったり、社内外から誘われたりと様々な交流会や研究会に積極的に参加し、公私にわたり学んできました。今でも私の知的資本です。
社会資本とは
社会資本は社会学における社会関係資本(social capital)と経済学における社会共通資本(social overhead capital)の2つの概念として使用されています。社会学における社会関係資本とは主に人の持つ社会的ネットワーク、概して人と人との人間関係を指します。良好な人間関係の構築により、信頼関係が深化し、協調行動が活発化することで社会の効率性が高まります。フランスの気鋭の社会学者ピエール・ブルデューは文化資本、経済資本、社会関係資本の3つの互換性を指摘しています。
経済学における社会資本とは、日本語としては電気、ガス、水道といった社会的なインフラストラクチャー(インフラ)を意味するものとして定着しています。企業と個人の経済活動を円滑に進展するための基盤が経済学における社会資本の定義です。日本では社会資本整備重点計画法に基づいて、社会資本整備事業を重点的かつ効率的に推進するために社会資本整備重点計画が策定されています。この計画は様々なインフラ施設(道路、港湾、鉄道、空港など)とその整備事業が一体となって効果を増大させるもので、計画期間は5年です。また、地方公共団体が国からの社会資本整備総合交付金により、事業を展開する場合は社会資本総合計画を作成し、国土交通大臣に提出して公表する必要があります。これは地方公共団体が自由度を持ち、創意工夫が活かせるように、個別の補助金をひとつにまとめあげ、社会資本整備やソフト事業を総合的・一体的に促進するための重要な交付金です。
インフラツーリズム
最近は様々なテーマを持った観光が現れています。モノからコトへと消費の重点が移動し、体験型のツアーが世界的にも人気を集めています。日本の医療や美容に対する関心の高さから医療ツーリズムが注目されたり、着物を着てみたい外国人に対してサービスを特化したり、モノ消費は一服したものの日本のサービスや文化を体験することに意義を見つけた訪日外国人客が増加し、機動面やアイディアで優れた新興企業の商機も拡大する傾向にあります。
橋やダム、港湾、鉄道など必要不可欠なインフラや暮らしを支える公共施設、あるいは土木技術の粋を集めた土木景観を観光資源として見出し、実際に現地に赴き観光するスタイルをインフラツーリズムと呼びます。非日常的で迫力ある光景や改めて建築美を感じさせる施設などを楽しめるのも魅力のひとつです。政府が推進する訪日外国人客増大にむけての一つの柱ともなっています。多くの施設を管理・整備する国土交通省も積極的な活用を推奨しています。大規模な投資の必要もなく、既存の地域資源に付加価値を付けた活用で観光資源の少ない地域でも他にない魅力の発信が可能です。歴史や防災、地元の産業・企業などについての理解を深めて貰うといった一石二鳥の狙いもあります。ふるさと納税の返礼品として、首都圏の自治体がインフラ施設の見学や体験ツアーを増やしています。返戻金を充実させ、寄付を募るためにもさらなるPRと多様なツアーメニューの創出が求められます。
インフラの老朽化
日本では、高度経済成長期に集中的に整備されたインフラの老朽化が深刻で、建設されてから50年以上になる割合が急激に高まり、計画的に維持・管理・更新する必要に迫られています。同時に国民の安全・安心の確保、維持・管理・更新するためのトータルコストの縮減、平準化を図る必要があります。
米国でも輸送・交通インフラは危機的状況にあり、全米を走る鉄道網の不整備、手入れの不足している多くの道路、都市交通網の安全性や信頼性の低下など長年抱えてきた問題点が指摘されています。相互には関係ないように見える輸送・交通上の様々な危機には、企業統治や貿易、国家安全保障など様々な問題が絡んでいます。英国では民営化された水道や鉄道が老朽化し、サービスの質が低下、再び国有化する議論が持ち上がっています。パリでは既に水道料金上昇の批判を受け、再び公営化した例もあります。新興国にとってはまだインフラは不足していて、整備に関してはこれからという国も多く、国力強化という点からもインフラの構築と充実は急務となっています。
インフラ老朽化の対策の最新技術として、①AIの導入、②ドローンの活用、③5Gの導入、④RTK(Real Time Kinematic)測位(相対測位とも呼ばれ、衛星を用いた高精度の位置情報を取得する技術)などが挙げられます。また、国土交通省からの自治体への支援策としては、①基準・マニュアルの作成と整備、②研修の充実、③メンテナンス体制の強化などが指摘されます。インフラの老朽化を放置することは人命を失う大事故に発展する可能性を秘めています。人員や財源の問題から、十分な対策がなされているのかが心配な点です。
政府、自治体、企業が一体となり、新技術・新手法を導入した取り組みが急務です。
株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。