アルセーヌ・ルパン
何といっても、アルセーヌ・ルパンは子供の頃のヒーローでした。フランスの小説家モーリス・ルブランの推理小説「アルセーヌ・ルパン」シリーズの主人公であり、職業は怪盗紳士。神出鬼没で誰にでも変装出来る変装の名人で、冒険家であり探偵であり、真の姿は大胆不敵な大泥棒。一方で、善良な市民を助ける義賊であり、女性にはモテモテ。ルブランが日本好きであったこともあり親日家で、脱獄の天才でもありました。ルパンを追うのはジェスタン・ガニマール警部ですが、いつもルパンには敵いません。また、ルパンのライバルとして名探偵シャーロック・ホームズも何作か登場しています。
小学校4年生の頃、自宅から自転車で30分程かかる子供にとっては遠い中央図書館に毎週通い、ポプラ社の怪盗ルパンシリーズ全巻を借りて、それこそ貪るように読んだ記憶があります。中でも「奇巖城」と「813」は何度も読み返す程、大好きな作品でした。学校や自宅近くにある図書館でも借りられたのですが、全巻揃っていなかったのと大きな図書館にある他の沢山の本を見るだけで知的好奇心が湧き、ルパンシリーズを読み終えた後も面白そうな本を探すのが楽しみになりました。
本を読む習慣が身に着いたのはルパンお陰であり、孫のルパン3世にも映画やテレビでお世話になっています。アルセーヌ・ルパンのモデルは世界初の探偵、フランソワ・ヴィトックといわれています。2001年にフランスで製作された映画「ヴィトック」。名優ジェラール・ドパルデューが主演で素晴らしいサスペンス映画でした。一見の価値があります。
知的好奇心
興味を持った物事に対して、さらに情報や知識を得たい、より深めたいと感じる根源的な欲求が知的好奇心です。物事の本質を調査・研究するといった知的活動の基になる感情や欲求を指します。知的好奇心には「拡散的好奇心」と「特殊的好奇心」の2種類が存在します。
「拡散的好奇心」とは、新しいものや事象について、幅広く探求したり、知りたくなったりする感情です。「拡散的好奇心」が強い場合は新しい刺激を求める傾向があるため、ジャンルを特定せず、多くの情報に接触しようとします。「特殊的好奇心」は本当に必要で知りたい情報を求めているため、目標を定めて情報を収集します。つまり、認知の部分での不一致を解消するために特定の情報を知りたくなる欲求のことです。
知的好奇心を育むことにより、思考力が身につくことは請け合いです。また、大人が知的好奇心を抱かない物事でも、子供は強い興味関心を示し、より多くの情報を得たい思うことがあります。知的好奇心を持てるかどうかは、その人物の性格や知的能力、視野の広さと大きな関係があり、子供のうちから知的好奇心を育む必要性が再注目されています。知的好奇心を高めるメリットとして、①主体的に学ぶ、②探求する習慣が出来る、③課題を解決する能力が育つ、④多様な価値観を受け入れられる、⑤主体的な行動が身につく、などが考えられます。学業だけに拘らず遊びや習いごとも含めた学びの楽しさを意識して体感・体験させることが大切です。
コンセプチュアルスキル
知的好奇心を持つことはビジネスにおいても極めて重要です。一度学んだ知識やスキルだけでは長期的なキャリアを構築するのは困難であり、学び直しすなわちリスキリングが今や職場では必須です。その際、知的好奇心があれば仕方なく嫌々学び直すのではなく、学ぶ対象に興味を持ち深堀りすることで、学びが仕事や勉強に活かしやすくなります。知的好奇心を持つとは学びの伸びしろを増やすことなのです。
知識や情報など複雑な事象を概念化し、抽象的な考えや物事の本質を理解するための知的好奇心の発展形ともいうべくスキルがコンセプチュアルスキル(概念化能力)です。コンセプチュアルスキルとは、「正解のない」問題に直面した際、周囲が納得できる最適解を導き出す能力であり、物事の本質を見極めて組織や個人のパフォーマンスを最大限に高める能力ともいえます。コンセプチュアルスキルが高い人材は「業務を合理的に遂行し、効率的に働ける」、「ひとつの経験から多くのことを学ぶ能力に長けている」といった能力が備わっています。
1950年代後半、ハーバード大学のロバート・カッツ教授は組織における管理職を3つの層(トップマネジメント、ミドルマネジメント、ローワーマネジメント)に分類し、階層によって3つの能力(コンセプチュアルスキルを含めた)が必要とされる割合を理論化したカッツ・モデルを提唱しました。テクニカルスキルとは業務遂行能力を指し、担当している業務を問題なく遂行するために必要な知識や技術であり、現場に近いローワーマネジメント層に必要な能力です。ヒューマンスキルとは他者と良好な関係を築く能力で、全ての役職において、一定の割合で重要な能力です。因みにコンセプチュアルスキルは、これら2つのスキルが土台に無いと身につけられないとされています。カッツ・モデルは人材育成のフレームワークとして活用されています。
知的好奇心を高める
コンセプチュアルスキルは複数の能力を総合的に捉えた概念で、以下の要素で構成されています。①ロジカルシンキング(論理的思考)、②ラテラルシンキング(水平思考)、⓷クリティカルシンキング(批判的志向)、④多面的視野(複数の課題に対応)、⑤受容性(多面的価値観を受け入れる)、⑥柔軟性(臨機応変な対応)、⑦好奇心、⑧探究心、⑨応用力、⑩洞察力、⑪直観力、⑫チャレンジ精神(リスクを恐れない)、⑬俯瞰力(全体像を把握)、⑭先見性、などあげられます。
オーストリア出身の著名な経済学者ピーター・ドラッガーはカッツ・モデルを参考にドラッガーモデルと名付けた組織モデルを説きました。ドラッガーモデルは管理職だけでなく、全社員が同じレベルのコンセプチュアルスキルを身につけるべきだとしています。VUCAの時代にある現在、社員ひとりひとりの能力が組織にとって必要不可欠であり、能力アップの工夫こそ組織を強化し活性化させることが明らかです。ここ数年、ドラッガーモデルは見直され、全社員がコンセプチュアルスキルを高める研修制度や評価制度を導入し、新たな人事制度へと従来の取り組みを改める企業が増加しています。
知的好奇心を高めるのに年齢は関係ありません。個人個人が興味を持っている対象について徹底的に向き合うことこそ、新しい学びにつながるといっても過言ではありません。
株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。