二次元文化ブーム:IPコラボが中国の新しい消費トレンドを牽引

二次元文化ブーム:IPコラボが中国の新しい消費トレンドを牽引

新型コロナウイルス後も経済が低迷し続けている中国において、二次元経済は異例の盛り上がりを見せています。実経済が衰退する中、二次元グッズショップは中国各都市で急速に拡大しています。2023年に上海静安大悦城(ジョイシティ)で開催されたIP展示のイベントは約1億元の売り上げを記録しました。また、上海静安大悦城の最新データによると、2024年7月から8月にかけてのIPポップアップストアの売上高は5,500万元を超えています。これらのデータは経済低迷という背景とは対照的に見えます。本記事ではこの盛り上がりを見せる中国の二次元ブームについて詳しくご紹介します。


二次元IPコラボとは?

二次元IPコラボとはアニメ、漫画、ゲームなど、いわゆる「二次元」世界のキャラクターやストーリーに基づいた知的財産(IP)が企業の商品やブランドとコラボレーションすることを指します。たとえば、人気アニメのキャラクターがファッションブランドや食品、生活用品と組み合わせて、限定商品やコレクションが展開されるケースがそれに当たります。このコラボレーションは二次元ファンの購買意欲を高めると同時に、企業にとってはファン層を拡大し、ブランドの認知度を高める効果があります。
最近ではゲームやバーチャルアイドルなども含め、二次元IPを活用した商品開発やプロモーションが増えており、中国では特にその市場が急成長しています。

中国における代表的なコラボブランドの例

現在中国ではブランドとIPのコラボレーションがいたる所で見られ、二次元やゲームユーザーをターゲットにすることがIPコラボの新たなトレンドとなっています。最近最も代表的なIPには『黒神話: 悟空』、『恋与深空』、『原神』、『光与夜之恋』、『ちいかわ』などがあります。

『原神』×KFC

『原神』は中国のゲーム会社miHoYoが開発したオープンワールド・アクションRPG(Role-playing game)です。本作はリリースからわずか12日間で1億米ドルの収益を上げ、開発費を回収したとされており、初月の売上はモバイルゲーム史上最大級でした。
2021年には『原神』とケンタッキーフライドチキン(以下、KFC)のコラボが、その年の中国で最も成功したブランドコラボの一つとなりました。限定期間中にKFCでの消費により特定のゲーム内アイテムが手に入るだけでなく、『原神』はKFCと共に非常に話題性のある演出を企画しました。それは中国全土の指定された16店舗で『原神』セットを注文し、店員に合言葉「異世相遇,尽享美味」(異世界での出会い、美味しさを楽しもう)を伝えると、コラボ限定のバッジが1セットもらえるというものでした。このバッジは各店舗で1日90セット限定で、ファンの熱狂的な反響を呼びました。

このイベントはオンラインとオフラインの両方で予想以上の成功を収めました。オフラインではゲームプレイヤーが店の前でテントを張って徹夜で待ち、90セットのバッジを求めて数百人が列を作る状況が続出しました。オンラインでは、「#原神KFCコラボ」トピックがWeiboで数億回の議論を集め、イベントに関連する複数の動画がBilibiliで数百万回再生されました。

『黒神話:悟空』×瑞幸コーヒー

『黒神話:悟空』はゲームサイエンスが開発・販売したアクションRPGで、「中国初のAAAゲーム」と称されています。発売から2週間で世界中で1800万本以上の売り上げを記録し、史上最速で売れたゲームの一つです
2024年の8月19日に瑞幸コーヒー(Luckin Coffee)は公式WeChatアカウントで『黒神話:悟空』とのコラボを発表し、新商品「腾云美式」とコラボテーマ店舗を公開しました。さらに、限定の『黒神話』3Dポスターや、8月19日以降に指定セットを購入した場合に『黒神話』限定のA4レンチキュラーカードを1枚プレゼントするキャンペーンも実施されました。このキャンペーンは開始から約1時間で、コラボレンチキュラーカードがすべて完売したことからも、その人気ぶりがうかがえます。

『黒神話:悟空』は男性向けのゲームですが、今回のコラボの大成功を通じて、いつも消費力が低いと指摘される中国人男性の消費力の潜在力が注目されるようになりました。

『ちいかわ』×MINISO

『ちいかわ』はイラストレーターのナガノ氏による漫画作品です。2020年よりTwitter(現・X)にて連載が始まり、2021年に単行本化されました。「小さくてかわいい」キャラクターと、勇気、友情、助け合いといった要素を含むストーリーによって、『ちいかわ』は大規模な人気を集め、中国でも多くのファンを獲得しました。
2024年初頭、名創優品(MINISO)はちいかわとのコラボを先駆けて発表し、100種類以上のコラボ商品を展開、複数のショッピングモールでポップアップストアを開設しました。このコラボは中国のファンの間で大きな話題となり、商品を求めて多くのファンが店舗に殺到しました。3月29日に上海の名創優品とちいかわのコラボポップアップストアの前には、大勢のファンが中国市場でのIP商品の初公開を待って列を作りました。メディアの報道によれば、このポップアップストアは開店開始わずか10時間で268万元以上の売り上げを記録し、限定販売にもかかわらず、開店後3日間の売り上げは800万元に達しました。

なぜ二次元経済は中国で爆発的に成長したのでしょうか?

その理由はいくつかの要因があると考えられます。まず、二次元産業の主なターゲット層はZ世代を代表とする若者層です。中国では多くの若者が一人っ子であり、感情的に外部の物に依存しやすい傾向があります。二次元文化は豊かなバーチャルキャラクターと多様なストーリーを通じて、彼らの感情的なニーズを満たしています。これらのキャラクターは、多くの若者にとって孤独を解消する感情的な寄りどころとなっており、バッジやカード、キーホルダーといった持ち運びやすい二次元グッズは彼らに帰属感を提供し、常に心に癒しを与えます。
さらに、二次元の世界は感情的なニーズを満たすだけでなく、新たな社交プラットフォームにもなっています。SNSを通じて、若者たちは自分と同じ趣味を持つ仲間を簡単に見つけることができ、好きなアニメ作品について語り合ったり、感想を共有したりすることができます。このような二次元文化を通じて形成されるコミュニティは、若者にとっての帰属感と認識を強化し、二次元経済の成長をさらに促進しています。

また、二次元経済の爆発的成長は中国における二次元産業の成熟と密接に関連しています。消費者層が拡大する中で、ソーシャルメディアや短編動画プラットフォームを通じた広範な宣伝により、二次元文化はこれまで以上の露出と拡散を遂げました。消費主義が広がる中で、ファンは自分が好きなIPに多額の資金を投入する意欲が高まり、それが二次元グッズ市場の急速な拡大を促しました。
しかし、二次元経済が中国で急成長している一方で、いくつかの課題もあります。例えば、依然として深刻な問題となっているのが著作権問題です。海賊版や知的財産権の侵害は依然として頻繁に発生しています。また、需要と供給のバランスが崩れつつあり、コラボ商品が急速に登場する中で、市場競争が激化し、一部の製品は供給過剰のリスクに直面する可能性があります。今後、中国で二次元経済がこの勢いを持続できるかどうかは、まだ見守る必要があるでしょう。

参考資料

瑞幸咖啡 ×《黑神话:悟空》一起「直面天命」
https://socialbeta.com/campaign/22141
“黑神话X瑞幸”卖断货,二次元为何占据IP联名半壁江山?
https://www.cbndata.com/information/293010
靠二次元经济拯救商场,是好选择吗?
https://www.cbndata.com/information/293163
中国品牌授权市场吸引日本动漫IP目光
http://sh.news.cn/20240401/060fad8904314830be0d48bf801c178e/c.html
名创优品,又一次拿捏住了打工人
https://user.guancha.cn/main/content?id=1227642&s=fwtjgzwz
二次元不需要被注意,直到《原神》遇到了肯德基
https://www.cbndata.com/information/148362

この記事のライター

広東省出身の中国人留学生。現在は名古屋大学でメディアを専攻している。

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