健康元年、中国社会はどこへ向かう? 「体重管理年」から見るフィットネスと健康食品市場

健康元年、中国社会はどこへ向かう? 「体重管理年」から見るフィットネスと健康食品市場

2024年、中国政府は「体重管理年」と銘打った3年間の国家プロジェクトを始動。「ダイエット」「低糖質」「ヘルシーライフ」などのキーワードが、SNSでも頻繁に取り上げられ、若者を中心に関心が高まり、静かな「健康ブーム」が巻き起こっています。そんな中国における健康意識の高まりと、それに伴うフィットネス、および健康食品市場の成長について考察しました。


 近年、中国では静かな「健康ブーム」が巻き起こっています。「ダイエット」「低糖質」「ヘルシーライフ」などのキーワードが、SNSでも頻繁に取り上げられ、若者を中心に関心が高まっています。その背景には、個人の健康意識の向上だけでなく、政府主導の本格的な取り組みもあります。2024年、中国政府は「体重管理年」と銘打った3年間の国家プロジェクトを始動しました。これは、肥満や生活習慣病の拡大を食い止めるための大規模な政策であり、国全体で健康的なライフスタイルを推進するという野心的なものです。

なぜ今「体重管理」なのか?

 中国国家衛生健康委員会によると、2018年時点で中国の成人の過体重率は34.3%、肥満率は16.4%に達し、2002年のデータ(22.8%、7.1%)と比べて大幅に上昇しています〔1〕。さらに、18歳未満の子どもや若者の間でも、過体重・肥満の割合はそれぞれ11.1%と7.9%に上っており、年々増加傾向にあるとのことがわかりました。
 このような状況を受け、中国政府は健康管理の強化に本腰を入れ、2024年に「体重管理年」プロジェクトを始動しました。生活習慣の見直しや健康意識の普及を進めることで、国民の健康状態を改善し、医療費の増加リスクを抑える狙いがあります〔2〕。
 ちなみに日本でも、厚生労働省が掲げる「健康日本21」などの政策に見られるように、生活習慣病の予防と健康寿命の延伸が大きなテーマとなっており、中国の動きとも共通点が多くあります。

フィットネスブーム〜中国国内で“筋トレ”が日常に

 「ジム通い=一部の意識高い系」というイメージは、もはや過去のものです。いま中国では、フィットネスが都市で生活している人々の“日常習慣”になりつつあります。2023年の調査では、国内のフィットネス会員数は6975万人に達し、1人あたり月に平均4.4回ジムへ通っているというデータが発表されました〔3〕。また、全国のフィットネス関連施設数は16万店に達しました〔3〕。
 このように市場が急拡大するなか、特に注目されているのが「女性専用フィットネス」です〔4〕。例えば、中国の新興ブランド「Super Monkey(超级猩猩)」では、プライベート感のある空間で、仲間と一緒にトレーニングができる“コミュニティ型ジム”として、都市部の若い女性たちの中に人気上昇しています〔5〕。
 SNSでは「#keepfit」「#腹筋女子」といったハッシュタグが盛り上がりを見せ、トレーニングは単なる運動ではなく、“自己管理”や“生活の質”を象徴する行動へと変わってきているようです。これは日本でも「ジム女子」「ピラティス人気」などに見られる流れと重なります。

健康食品市場も急成長中〜「オンライン販売」と「機能性」が鍵

 フィットネスと並んで注目したいのが、健康食品業界の伸びです。特にここ数年で急速に広がっているのが、「機能性重視」と「オンライン購入」の2つのトレンドです。
 2022年には、アリババ傘下の「阿里健康」と、JD.com傘下の「京東健康」がそれぞれ268億元と467億元の売上を達成し、オンライン経由での健康食品購入が一般的になっていることを示しています。売れ筋ランキングの上位は、腸内環境改善や免疫力アップをうたう機能性食品が占めています〔6〕。
 プロテイン、ビタミン類、植物性タンパク、乳酸菌ドリンクなど、ラインナップもどんどん多様化しています。パンデミック以降、「体調を崩さないための“予防消費”」が新たな消費行動として根付きつつあります。このような現象は、日本でも「腸活」「サプリメント習慣」が広がっているのとよく似ています。

まとめ

 「なぜいま健康なのか?」という問いに対して、個人的には、これは単なるトレンドではなく、中国社会が“生活の質”を再定義し始めた結果だと考えます。
 かつての中国では、豊かさの象徴だった“たくさん食べること”が、美徳として受け入れられていました。しかし、経済発展や都市化、情報のグローバル化が進んだ現在、「健康であること」や「自己管理できること」が、新しい社会的ステータスになりつつあります。また、SNSの普及により、“ヘルシーなライフスタイル”そのものが一種の「承認欲求の表現」として機能するようになっているのも大きな変化です。これは、日本における「映える朝食」「ランニング記録の投稿」といった文化にも通じる部分があるでしょう。
 このような変化は、単なる個人の健康志向にとどまらず、経済や産業の動きにも波及しています。例えば、都市部ではフィットネスジムやヨガスタジオが急増し、健康食品やサプリメント市場も拡大を続けています。また、ウェアラブルデバイスを使った健康管理や、パーソナライズされた食事プランの提供など、テクノロジーとヘルスケアを融合させた新たなサービスも次々に登場しています。これらの動きは、消費者が「見える健康」「測れる健康」を求めるようになったことの表れともいえるでしょう。
 一方、若い世代においては、健康意識が自己実現やライフスタイルの一部として捉えられています。単に病気を防ぐためではなく、「よりよく生きるための手段」として健康を追求する姿勢が強まっています。この点で、中国社会は今、量から質への価値観の転換期にあるといえるでしょう。つまり、「食べる」「持つ」「消費する」というかつての成功モデルに代わり、「自己管理」「ウェルビーイング」「持続可能性」といった新たな基準が、人々の間で共有されつつあるのです。

参考資料
[1]. 国家衛生健康委員会弁公庁(2024)『体重管理ガイドライン』
国家卫生健康委办公厅(2024)。《体重管理指导原则》http://www.nhc.gov.cn/ylyjs/s3573d/202412/4cf1905d32304c15ac3bc4446ddb83f1/files/f932c5c0004f4959b92613dd1024483c.pdf.
[2]. 国家衛生健康委員会(2025)『健康的な体重管理活動に関する解説文書』
国家卫生健康委网站(2025)《健康体重管理行动解读稿》https://www.gov.cn/zhengce/202504/content_7018528.htm
[3]. 咸寧新聞網『2023年中国フィットネス業界データレポート』正式発表!フィットネス会員の体力測定データが初公開
咸宁新闻网《2023中国健身行业数据报告》正式发布!首次公布健身会员体测数据
https://qiye.chinadaily.com.cn/a/202404/15/WS661cebdda3109f7860dd97be.html
[4]. 2024年フィットネスマーケットの発展トレンド分析:女性フィットネス消費者の割合は61.93%に達する. 中国报告大厅. (2024年8月9日). 2024年健身市场发展趋势分析:女性健身消费者占比达61.93%. https://m.chinabgao.com/freereport/95375.html
[5]. 超级猩猩社区https://www.supermonkey.com.cn/pc/smcommunity/
[6]. 新華網アプリ(2023)『中国栄養・健康食品ブルーブック:2027年の市場規模は8,000億元を超える見通し』
新华网客户端. (2023). 《中国营养健康食品蓝皮书:2027年市场规模将超8000亿》https://app.xinhuanet.com/news/article.html?articleId=4591a5e42b36af0eda3e78902a60e7ab

この記事のライター

WSK

文章を書くことと、人の気持ちや社会の動きに目を向けることが好きで、現在は日々のニュースを自分なりの視点で追いかけています。中国出身で、現在は日本で学びながら生活しています。ふとした日常や、見過ごされがちな出来事の中にも、誰かの心に残るストーリーがあると信じています。そんな想いを込めて、ひとつひとつの記事を綴っています。

関連する投稿


ペットと人が共に暮らす時代〜中国で広がる“ペット・フレンドリー”

ペットと人が共に暮らす時代〜中国で広がる“ペット・フレンドリー”

中国ではいま、「ペット・フレンドリー(宠物友好)」という考え方が急速に広がっています。カフェやホテル、交通機関からオンラインプラットフォームまで、人とペットが共に過ごすことを前提にしたサービスが次々と登場しています。この記事では、拡大を続ける中国のペット市場と、その背景にある価値観の変化を中心に、ペットと共に過ごす空間や新しいテクノロジーの動きをたどっていきます。


中国の若者の新たな社交方式「无料〜無料グッズ交換」とは?

中国の若者の新たな社交方式「无料〜無料グッズ交換」とは?

中国の若者の間で近年広がっている「无料(むりょう)」文化。日本語の「無料」という単語がもとになっているこの言葉は、コンサート、音楽フェス、映画祭、ミュージカルなどといったオフラインのリアルなイベントの場において、ファンたちが自作したグッズを無料で交換・配布する現象のことを指します。この記事ではこの独特な文化を深堀りし、その背景と共に人々がどんなグッズをどのように交換してこの体験から何を得ているのかを紹介します。


健康志向の若者に広がる「ソフト・クラビング」~ アルコールフリーのクラブ体験がカフェやサウナにも進出 | 海外トレンドに見るビジネスの種(2025年11月)

健康志向の若者に広がる「ソフト・クラビング」~ アルコールフリーのクラブ体験がカフェやサウナにも進出 | 海外トレンドに見るビジネスの種(2025年11月)

海外からやってくるトレンドが多い中、現地メディアの記事に日々目を通すのはなかなか難しいもの。そこでマナミナでは、海外メディアの情報をもとに世界のトレンドをピックアップしてご紹介します。今回は、アルコールを飲まないライフスタイル「ソーバーキュリアス」の広がりを背景に、日中のカフェやサウナなどで開催されるイベント「ソフト・クラビング」の人気拡大に注目。従来の枠にとらわれない、ウェルネス要素を取り入れた新たなクラブ体験が、健康志向の高い層に受け入れられています。


【最新トレンド調査】健康を考える飲食品〜中国、台湾、タイ、アメリカ、イギリス

【最新トレンド調査】健康を考える飲食品〜中国、台湾、タイ、アメリカ、イギリス

コロナ禍を経て、世界的な健康意識トレンドは一層の高まりを見せています。また、その傾向は国を超えて共通する点が多く見られます。本レポートでは、中国、台湾、タイ、アメリカ、イギリスにフォーカスし、各国ごとの健康×飲食品トレンドに対してデスクリサーチを基に調査。世界的に共通して見られる最新トレンドと、各国ごとの特徴を分析しました。海外消費者のニーズや価値観を把握し、インバウンド戦略にご活用頂ける内容となっています。※本レポートは記事末尾のフォームから無料でダウンロードいただけます。


より早いスピード感xディスカッション会!中国市場Web調査ツール「ValueQIC」ワークショップ機能のご紹介【第4回】

より早いスピード感xディスカッション会!中国市場Web調査ツール「ValueQIC」ワークショップ機能のご紹介【第4回】

トレンドの変化が速い、と言われている中国市場。「最近、中国市場の変化が掴めない。言語の壁もあり、中国人生活者の考え方がよくわからない。」というのも多く耳にします。従来の調査には1ヶ月以上の時間が必要ですが、Web調査ツール「ValueQIC(ヴァリュークイック)」なら、定量調査のほかに、動画を介して、迅速に、中国人の実態調査を実施することが可能です。 第4回は、ワークショップ機能の特徴を事例とともにご紹介します。


最新の投稿


【December 2025 core update】Googleコアアルゴリズムアップデートをリリース(2025年12月)

【December 2025 core update】Googleコアアルゴリズムアップデートをリリース(2025年12月)

Googleが2025年12月のコアアルゴリズムアップデート(December 2025 core update)をリリースしました。


オンラインギフトを贈った経験がある人が約5割!10代では"体験型ギフト"が人気【LINEリサーチ調査】

オンラインギフトを贈った経験がある人が約5割!10代では"体験型ギフト"が人気【LINEリサーチ調査】

LINEリサーチは、全国の15~69歳の男女を対象に「オンラインギフト(eギフト)」を贈った経験について調査し、結果を公開しました。


電通グループ、「世界の広告費成長率予測(2024~2027)」を発表

電通グループ、「世界の広告費成長率予測(2024~2027)」を発表

電通グループは、世界56市場から収集したデータに基づき、「世界の広告費成長率予測」の最新値を発表しました。


【無料レポート】デジタル・トレンド白書2025 – with AI編|ダウンロードページ

【無料レポート】デジタル・トレンド白書2025 – with AI編|ダウンロードページ

「デジタル・トレンド白書2025 – with AI編」は、急速に拡大し始めた「With AI」社会における消費者の行動変容を、国内最大規模の行動ログデータとアンケート調査に基づき分析したものです。各生成AIのユーザー推移やヘビーユーザーの属性分析、ChatGPT・Gemini等のサービス比較に加え、ビジネス・プライベートシーンでの活用実態、「AI彼女・彼氏」アプリの台頭など、AIトレンドに関する多角的な調査・コラムを収録しています。


人的資本経営 ~ 人材から人財へ

人的資本経営 ~ 人材から人財へ

「人的資源(Human Resource)」という考え方が人事領域で主流となっていた過去。この「ヒト」は資源であり「コスト」でもあるという考え方を覆すべく、利益や価値を生む存在として捉える「人的資本(Human Capital)」という概念が生まれ、今では「人的資本経営」が注目されています。では、その背景には何があるのか、人材から人財へと概念をシフトし、「人的資本経営」を遂行することで何が違ってくるのか。広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が解説します。


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

ページトップへ