データクリーンルームの概要
データクリーンルーム(Data Clean Room)とは、複数の企業間でデータを共有・統合して分析できるクラウド上の環境のことです
最大の特徴はユーザー個人のプライバシー保護に配慮している点で、データは匿名化・非識別化された形で扱われるため、分析者は個人を特定せずにデータ分析が可能です。
例えば、データクリーンルームは、Googleの「Ads Data Hub」やAmazonの「AWS Clean Rooms」など各プラットフォーム企業が提供しており、それぞれ仕様は異なるものの基本的な役割は同じです。
専用の単一ツール名があるわけではなく、各社が提供するデータクリーンルームを活用して、自社データと外部データを突合・分析する仕組みになっています。
■カスタマーデータプラットフォーム(CDP)との違い
カスタマーデータプラットフォーム(以降CDP)とは、自社内の様々なチャネルから顧客データを収集・統合・蓄積し、一元管理するためのプラットフォームです。
CDPはウェブサイトやアプリ、店舗などから得られる自社の1stパーティデータ(企業が自社で直接収集・保有している顧客データ)をまとめて個々の顧客プロファイルを構築し、分析やマーケティングに活用します。
主に既存顧客の行動データを統合して顧客関係の強化やパーソナライズに役立てます。氏名・住所などの個人情報も取り扱うことから厳重なプライバシー対策が必要です。
一方、データクリーンルームは複数企業間でデータを持ち寄り分析する環境であり、自社データだけでなくパートナー企業やプラットフォームから提供される外部データを組み合わせます。
このため、新規顧客の獲得や市場分析などより広範囲なインサイトの発見に使われることが多いです。つまり、CDPが自社内部のデータ統合による顧客理解に重きを置くのに対し、データクリーンルームは他社とのデータ連携による新しい知見の創出にフォーカスしていると言えます。
■データマネジメントプラットフォーム(DMP)との違い
データマネジメントプラットフォーム(以降 DMP)は、主にオンライン広告のターゲティングや配信最適化のために利用されるプラットフォームです。
DMPには自社保有の1stパーティデータを扱う「プライベートDMP」と、第三者から提供された3rdパーティデータを多数の企業で共有する「パブリックDMP」があります。
一般的に「DMP」と言う場合は後者のパブリックDMPを指すことが多く、ブラウザのCookie情報など匿名化された外部データを活用してユーザーセグメントを作成し広告配信に活かすのが主な活用方法です。
データクリーンルームとの大きな違いは、データの共有範囲と活用方法にあります。
DMP(特にパブリックDMP)は主に第三者データを活用して不特定多数のユーザーに対する広告ターゲティングに用いられるのに対し、データクリーンルームは特定のパートナー間でデータを持ち寄り、プライバシーを守った上で共同で分析や計測を行います。このため、共有範囲と活用方法に違いがあります。
データクリーンルームが注目される背景
データクリーンルームが近年マーケティング業界で注目を集める背景には、大きく3つの要因があります。
データクリーンルームが注目される背景は、以下の通りです。
- 個人情報保護に関する法規制の進展
- Cookie依存からの脱却と新たな広告手法の必要性
- 戦略的なデータ分析のニーズの増加
■個人情報保護に関する法規制の進展
世界的にプライバシー保護の重要性が高まる中で、各国で個人情報に関する法規制が強化されています。代表的なのが2018年にEUで施行されたGDPR(一般データ保護規則)で、これを皮切りに各地域で厳しいプライバシー法が次々と制定されました。
米国でもCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)が2020年に発効され、日本でも2022年4月に改正個人情報保護法が全面施行されています。
これらの法律に違反して個人データを扱うと巨額の制裁金が科される可能性があり、企業は法令を遵守しつつデータ活用を行うことが求められています。
こうした状況下で、データクリーンルームは「法規制に抵触せずにデータ活用する」ためのソリューションとして注目されています。
データのセキュリティを厳格化し、必要な分析だけを行うことで、個人情報保護とデータ利活用の両立が図れるからです。つまりプライバシーを守る技術基盤を整えることで、規制に対応しながらマーケティングデータを活かせる点が評価されています。
■Cookie依存からの脱却と新たな広告手法の必要性
プライバシー保護の高まりを受けて主要なウェブブラウザはCookieを段階的に廃止する方向に動いています。SafariやFirefoxは既に3rdパーティCookieをブロックしており、Cookieに依存した従来のターゲティング広告手法が効果を発揮しにくくなり、マーケターは新たな手段を模索する必要に迫られています。
データクリーンルームはそうした課題への有力な解決策と言えます。クリーンルーム内ではCookieに頼らずにファーストパーティデータ同士を統合して分析できるため、ユーザー個人を直接追跡しなくても広告効果の計測やオーディエンスの分析が行えます。
例えばプラットフォーム企業が持つログデータと自社の顧客データを照合し、広告接触と購買の関係を測定するといったことが可能です。
第三者Cookieの使えない環境でも、データクリーンルームを活用すればプライバシーに配慮したデータドリブンな広告運用を続けられます。
■戦略的なデータ分析のニーズの増加
近年のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進により、企業のデータ分析・活用の重要性が高くなっています。ビッグデータを分析してビジネスの意思決定に活かすことが競争優位のカギとなりつつあり、「高度なデータ分析」を行うニーズが各社で高まっている状況です。
データクリーンルームは、このようなニーズに応えるためのプラットフォームとして期待されています。
自社単独では集めきれない莫大なデータもクリーンルームを通して取得でき、自社保有のデータと大規模データを統合分析もできるので、自社のデータだけでは見えなかったトレンドや因果関係を発見でき、マーケティング機会の創出に役立てられます。
企業がデータクリーンルームを活用する3つのメリット
ここからは企業がデータクリーンルームを活用する3つのメリットは以下の通りです。
他社データとの連携による大規模分析の実現
個人情報漏洩リスクの低減
プライバシー尊重企業としての信頼性向上
■他社データとの連携による大規模分析の実現
データクリーンルームを使うことで、自社だけでは収集しきれない大規模なデータを分析できる点です。
自社データと外部パートナーのデータをクリーンルーム内で結合し分析することで、1企業では得られなかった新たな発見が可能になります。
例えば、プラットフォーム企業が持つ数千万〜数億件規模のデータを活用することで、自社顧客の購買行動パターンや潜在ニーズをより深く分析できます。
データ量と多様性が増すことで分析結果の精度も向上し、マーケティング戦略の質を高めることができるでしょう。
さらに、クリーンルームで扱うデータは出所が明確で信頼性が高いため(自社や提携先から直接提供されるデータ)、不正確な情報に振り回されにくい点もメリットです。
■個人情報漏洩リスクの低減
データクリーンルームは情報保護が厳格で、個人情報の漏洩リスクを大幅に低減できるのもメリットです。クリーンルーム内のデータは個人が特定できないよう加工されており、万が一分析中のデータが流出しても氏名や住所などの生データは含まれていません。
さらにデータのやり取りが暗号化されているので、アクセスユーザーの確認や、アクセス権限も設定できるため、情報漏洩のリスクを最小限に抑えられます。
つまり、従来のように生の顧客データを直接他社とやり取りする場合に比べて、データクリーンルーム経由での共有はセキュリティ面で格段に安全と言えます。
■プライバシー尊重企業としての信頼性向上
データクリーンルームを活用している事実自体が、企業のプライバシーへの配慮姿勢を示すアピールにもなります。
昨今は消費者や取引先もデータの扱いに敏感であり、プライバシーを軽視する企業は信頼を失いかねません。
その点、いち早くデータクリーンルームを導入し「我が社は個人情報を不適切に扱わず、安全な方法でデータ活用しています」と明言できれば、ブランドに対する信頼や評価の向上につながります。
実際、各種法規制の強化やCookieレス化の流れを受けて、ユーザーのプライバシー尊重に積極的な企業ほど社会から支持される傾向にあります。
データクリーンルームの導入はそうした姿勢を具体的に示す取り組みとなり、結果的に企業イメージや顧客ロイヤルティの向上が期待できます。
企業がデータクリーンルームを活用する2つのデメリット
データクリーンルームを活用する際のデメリットは以下の通りです。
導入コストと高度な技術力が必要
データの正確性を担保する必要がある
■導入コストと高度な技術力が必要
データクリーンルームを導入・運用するには導入コストとそれを取り扱う専門技術が必要になります。
特に自社専用のプライベートDCRを構築する場合、初期導入費用から継続的な運用コストから無視できないほどの投資が必要です。
またシステム構築・運用のために高度な知識やスキルを持った人材(データエンジニアやセキュリティの専門家など)が不可欠で、中小企業にとっては社内リソースの点でハードルが高く感じられるでしょう。
場合によっては外部の専門ベンダーにサポートを依頼する必要も生じ、これも追加コストにつながります。
このように費用面・技術面の負担がデータクリーンルーム導入の障壁となり得るため、ROI(費用対効果)や社内の技術体制を十分検討した上で計画を進める必要があります。
■データの正確性を担保する必要がある
データクリーンルームではプライバシー保護のためにデータを匿名加工しますが、この過程でデータの一部が失われたり精度が下がったりするリスクを考慮しなくてはなりません。
例えば個人を特定できないように粒度を荒く集計されたデータは、元の生データに比べて詳細な情報が欠けているしている可能性があり、分析によって得られるインサイトの精度にばらつきが生じる可能性があります。
したがって、クリーンルーム上での分析結果を鵜呑みにせず、必要に応じて補完的なデータソースを活用したり追加の分析手法を組み合わせたりして、結果の正確性を検証・担保する工夫が求められます。
データクリーンルームは便利な反面、匿名化ゆえの制約があることを理解し、分析に用いるデータの品質管理や検証プロセスを徹底することが重要です。
データクリーンルームでできること
データクリーンルームのできることや活用方法は以下の通りです。
広告運用業務の効率化・パフォーマンスの改善
顧客のインサイト分析
■広告運用業務の効率化・パフォーマンスの改善
データクリーンルームは広告の効果測定や最適化に活用できます。
例えば、自社の売上データと広告プラットフォームが持つ閲覧データ・コンバージョンデータをクリーンルーム内で突合せることで、「ある広告キャンペーンが実際にどれだけ売上増加に寄与したか」を詳細に分析できます。
従来は個々の媒体レポートを頼りに推測していた広告効果ですが、クリーンルームならユーザーごとに検証できるため、より正確なROI分析やアトリビューション分析が可能になります。
その結果、効果の高い広告チャネルやクリエイティブに予算を集中することができ、無駄な広告接触を減らすといった広告運用の効率化が可能です。
■顧客のインサイト分析
クリーンルームは顧客理解を深めるインサイト分析の場としても有用です。
自社が保有する顧客データ(購買履歴や行動ログ等)に、パートナー企業が持つ人口統計データや他社の購買データを統合することで、個々の顧客セグメントの嗜好や傾向をより立体的に把握できます。
例えば、ある商品の購買者データと外部の顧客のライフスタイルに関するデータを組み合わせて分析すれば、自社顧客の潜在的な趣味嗜好やクロスセルの可能性を発見できるかもしれません。
こうしたインサイトは、新商品の企画や既存顧客へのマーケティング戦略立案に役立ちます。
企業でデータクリーンルームを活用する際のポイント
実際に企業がデータクリーンルームを導入・活用する上で押さえておくべきポイントは、以下の通りです。
自社データの収集・整理・管理を徹底する
データのプライバシーとセキュリティ対策を徹底する
技術パートナーの選定に時間をかける
運用体制を構築する
■自社データの収集・整理・管理を徹底する
データクリーンルームを活用する前提として、まずは自社のデータをしっかり整備することからはじめましょう。
クリーンルーム導入前に、自社内の顧客データや売上データなどを種類ごとに分類し、重複やエラーを取り除いて正確な状態に整理しておくことで、正確な分析を実現できます。
顧客IDの統合ができていないとクリーンルーム上で他社データとマッチングできない可能性があり、未整形のデータを投入すれば分析結果も不正確になります。
事前にデータクレンジングやマスターデータ管理を徹底しておくことで、クリーンルームでの分析をスムーズにし、より信頼性の高いインサイトを得ることができます。
■データのプライバシーとセキュリティ対策を徹底する
データクリーンルームの利用を検討する際には、万全なセキュリティ対策を講じる必要があります。
具体的には、クリーンルームに投入する前のデータを適切に匿名化・暗号化する、権限のある担当者のみがアクセスできる認証プロセスを設ける、といった対応です。
また社内においてもデータ持ち出しや不正利用を防ぐためのガバナンス体制を強化し、プライバシー法規制(GDPRや改正個人情報保護法など)への対応を常に確認しましょう。
特に複数企業がデータを持ち寄る場合、自社だけでなくパートナー企業側のセキュリティ標準も確かめ、相互に安心してデータ共有できる関係を築くことが大切です。
近年増加するサイバー攻撃や情報漏洩リスクに対応するためにも、暗号技術やアクセス制御を駆使してクリーンルーム環境の安全性を確保することが求められます。
■技術パートナーの選定に時間をかける
データクリーンルームを自社だけで構築・運用するのが難しい場合、専門の技術パートナーやベンダーの力を借りることになります。その際は信頼できるパートナー企業を慎重に選定するようにしましょう。
パートナー候補の企業が、クリーンルームのセキュリティやプライバシー保護に関する十分な知見を持ち、自社の要件に合わせた柔軟なシステム構築ができるかを見極めます。
具体的には、データ暗号化やアクセス管理の技術水準、過去の導入実績、提供サポート体制などをチェックポイントにすると良いでしょう。
■運用体制を構築する
データクリーンルームは導入して終わりではなく、その後の運用体制をしっかり構築することが成功のカギを握ります。まず、クリーンルームに投入するデータを定期的に更新・メンテナンスする体制を整えましょう。
最新のデータが反映されなければ分析結果の鮮度が落ちてしまうため、マーケティング部門とIT部門が連携してデータ更新スケジュールを管理することが大切です。
また、クリーンルームへのアクセス権限を適切に管理し、誰がどのデータにアクセスできるかを明確化した運用ルールを策定します。
加えて、分析を実施するチームの編成や役割分担も決めておき、結果の解釈や施策への反映までスムーズに行えるワークフローを作ります。
導入目的に照らしてKPIを設定し、クリーンルーム活用による効果を継続的にモニタリング・検証する仕組みも用意しましょう。
このように運用面を固めておくことで、データクリーンルームの効果を最大限に引き出し、マーケティング活動のPDCAサイクルに組み込むことができます。
まとめ
本記事では、データクリーンルームの概要や重要視されている理由、企業が導入するメリット・デメリットについて解説しました。
データクリーンルームは、ユーザーのプライバシーを守りつつデータ分析を行える画期的なクラウド環境であり、昨今の個人情報保護の潮流が強まるマーケティングにおいて今後必須の取り組みともいえます。
一方で導入コストや技術的課題、データ精度の問題などもあるため、メリットとデメリットの双方を正しく理解した上で進めることが重要です。
適切なパートナー選定や運用体制の構築によってそれらの課題を克服できれば、データクリーンルームは企業にもたらす価値創出と持続的成長の大きな原動力となるでしょう。
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