中国でブランド名はどのように浸透するのか?
インバウンドで爆買いされ、越境ECでもしばしば転売される人気商品の一つが、日本の風邪薬です。
その代表格のパブロン(大正製薬)や、ルル(第一三共ヘルスケア)について、SNS上での中国人の口コミを見てみました。
「パブロン」という名称が中国人にはなじみにくく「大正製薬感冒薬」と口コミされています。第一三共ヘルスケアのルルも同様に「第一三共感冒薬」として認知されているようです。
中国SNS・Weibo上での「パブロン」に関する口コミ
化粧品のSKⅡやDHCはそのまま「sk2面霜(SKⅡフェイスマスク)」「dhc卸妆油(DHCクレンジングオイル)」など、「アルファベット+カテゴリ名」で呼ばれる傾向があります。
中国SNS・Weibo上でのDHCの商品に関する口コミ
中国SNS・Weibo上でのSKⅡの商品に関する口コミ
ここから、カタカナ表記しかない商品名は中国人に定着しにくく、シンプルなアルファベット表記は定着しやすい様子がうかがわれます。
自社の商品と社名、どちらが中国人に覚えやすいか?は一つの指標となるのではないでしょうか。
中国での商品浸透に特有の「あだ名」文化
商品の認知を定着させる方法として、あだ名で覚えて貰う手も存在します。
中国では、特に化粧品や日用品において、消費者が商品にあだ名をつけてSNS上で話題にする事がしばしば行われています。
SKⅡの化粧水はその見た目から、長らく「小紅瓶」という名称で親しまれて来ました。最近ではSKⅡ公式もその習慣を活かして、乳液の新商品を「大紅瓶」というニックネームをつけ、売り出す動きを行っています。
他には、ランコムの美容液は「小黒瓶(小さい黒瓶)」、SKⅡの美容液は「小灯泡(小さい電球)」というあだ名で親しまれています。
これらはいずれも会社名以外に個々の商品のブランド名も存在していますが、どちらかと言えば「社名+カテゴリ名」や「社名+あだ名」で呼ばれることが多いようです。
中国SNS・Weibo上でのランコムの商品に関する口コミ
中国SNS・Weibo上でのSKⅡの商品に関する口コミ
一方で、ランコムやSKⅡのような中国でも十分認知されているブランドでも、個々の商品のブランド名はあまり浸透していない様子がうかがわれます。
また、定着しているあだ名はどちらかと言えば直接的なネーミングが多く、奇をてらった名前は余り定着していないようです。
メーカー側が商品にニックネームをつけて展開する際も、こうした中国でのネーミングの傾向は意識する必要がありそうです。
ブランドの横展開は可能か?既存の商品のニックネームを活かしたSKⅡの戦略
日本人向けのマーケティングでは、ブランド名を浸透させて、同ブランド名での別カテゴリの展開を図るのが王道となっています。中国では必ずしもそれが当てはまらないのが実情です。
複数ブランドを使う傾向が強く、「化粧水はこのブランド」「リップクリームと言えばここ」という様に、カテゴリで使い分けている様子がみられます。
一方で、複数カテゴリの商品に共通のブランド名を掲げる事は、中国でも有効な手段となり得ます。カテゴリ毎のブランド名が独立していると、各カテゴリを展開する際に、認知を一から上げねばならなくなります。少なくとも、ブランド名を認知させる手間が省ければ、カテゴリの認知の獲得に集中する事ができます。
改めて、SKⅡの広告クリエイティブを見てみると、「小紅瓶」から「大紅瓶」への横展開を意識している事がうかがわれます。
「NEW」と、新しいカテゴリのシリーズである事を大々的に打ち出す一方で、大瓶の後ろに「赤い小瓶」も小さく映っています。SKⅡの乳液を知らない人も、これをみれば「ああ、あの赤い小瓶の会社は、乳液も売っているのか。」と記憶にとどめやすくなるでしょう。
既存の認知度の高い商品と上手く絡めつつ、新商品を展開する手法と言えます。
「小紅瓶」と「大紅瓶」の様に、ニックネームに連続性があると、想起も上がりやすくなると考えられます。
ブランド育成にも、中国市場の特性に合わせた戦略が必要
ここまで、化粧品を中心にブランド名と中国人の関わりを見てきました。
中国人にブランドを定着させるには、中国の消費者視点での覚えやすさが非常に重要な要素となっています。また、個々の商品のブランド名よりは、会社名+カテゴリ名での記憶の仕方が一般的なようです。このような状況を踏まえつつ、ブランドの浸透を図っていく必要があります。また、SKⅡのように、商品のニックネームが他カテゴリの商品ともうまく連動していると、中国人に定着する確率があがって行くでしょう。
最初に商品にニックネームをつける時に、その後の横展開も意識したネーミングを行えると、より効率的なブランド育成が可能となるのではないでしょうか。
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中国本土でインターネットリサーチを実施し、中国人女性の日本と韓国の化粧品ブランド認知状況について調査したレポートです。化粧品業界のマーケターのみならず、インバウンド、越境EC、中国市場への進出を検討されている方におすすめのレポートです。無料でダウンロード頂けます。
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京都の大学で長らく中国哲学史を研究。現在は事業会社に対するマーケティング支援を担当。中国・東南アジアを中心にグローバルリサーチにも携わっている。趣味は旅行と文献研究。