こんにちは。データマーケティングの会社・ヴァリューズでリサーチャーを務めている古田と申します。
株式会社ヴァリューズ リサーチャー 古田 美穂(ふるた みほ)
岡山県出身、東京大学工学部卒業。1998年生まれ、Z世代のリサーチャー。2021年にヴァリューズへ新卒入社。
私はZ世代のリサーチャーとして、株式会社ヴァリューズにてアンケート調査×Web行動ログ分析を日々行っています。そのかたわら、インスタを中心としたSNSから収集したトレンド情報を社内に発信するといったトレンドセッター的役割も担っています。
本記事では最近利用者が増加している「宿泊のサブスク」サービスについて調査していきます。取り上げるのは「HafH」と「ADDress」の2つのサービス。ユーザー数や利用者属性、ネット利用状況や興味・関心について、株式会社ヴァリューズの保有するWeb行動ログデータにアンケート結果を掛け合わせることで分析します。また、この2サービスの主なターゲットと考えられるワーケーション関心層についても検索ワードから分析し、それぞれの対象者を比較することで「宿泊のサブスク」の利用状況を掘り下げました。
「宿泊のサブスク」HafH・ADDressとは
HafHとADDressはどちらも定額で住居を利用できるサブスクリプションサービスです。
ネット上では比較されることも多い2サービスですが、まずはそれぞれの基本情報をまとめました。
HafH(ハフ) | ADDress(アドレス) | |
---|---|---|
キャッチコピー | 「旅のサブスク」 | 「定額 全国住み放題」 |
提供開始 | 2019年4月 | 2019年10月 |
サービス内容 | 全国950以上の施設に定額で好きなだけ宿泊できる ※海外展開もあり | 全国47都道府県の200以上の家に定額で住めて何度でも移動OK |
利用料金 | 月額2,980円~ ※希望の宿泊数やお部屋の予約に必要なコイン数に応じて変化 |
月額4.4万円~
※電気代・ガス代・水道代全て込み ※敷金・礼金・保証金などの初期費用は一切なし |
どちらも2019年に開始した新しいサービスで、全国の宿泊先を定額で利用できる点は共通しています。一方で、キャッチコピーや料金制度から、HafHは「旅」での宿泊利用、ADDressは「住み家」としての利用を打ち出しているという違いがありそうです。
では、この2サービスは現在、ユーザーを獲得できているのでしょうか?ヴァリューズが提供するWeb行動ログ分析ツール「Dockpit(ドックピット)」を利用して、各サイトへの流入数の推移を比較しました。
「HafH(www.hafh.com)」「ADDress(address.love)」の各サイト流入数推移
(集計期間:2020年11月~2021年10月、デバイス:PC&スマートフォン)
ADDressは、月間おおよそ5万人程度の流入数を維持していますが、一方で、HafHが2021年7月以降急激に流入数を増やしていることが分かりました。
■HafH・ADDressとワーケーション
HafH・ADDressの各サイトを見ると、両サイトとも、サービス活用方法として「ワーケーション」を取り上げています。
「ワーケーション」とは、「ワーク(work)」と「バケーション(vacation)」をあわせた言葉です。観光地やリゾート地などの旅先で、休暇の一部を仕事に当てることを指します。コロナ禍でのリモートワークの普及とも相まって関心が高まっており、HafH・ADDressは、ワーケーションを行う人々をターゲットとして捉えているようです。
そこで今回は、HafH・ADDressの各サービスのユーザー特徴について分析するとともに、両サービスのターゲットとなりうるワーケーション関心層の特徴についても比較分析を行っていきます。
「宿泊のサブスク」のユーザーはどんな人?WEBログ×アンケートで調査
調査方法としては、ヴァリューズが保有している全国の一般モニターのインターネットアクセスログデータから、「HafH(www.hafh.com)」「ADDress(address.love)」の各サイト接触者と、「ワーケーション」を含むキーワード検索者をそれぞれ抽出。対象を「HafH」「ADDress」「ワーケーション」(HafHユーザー・ADDressユーザー・ワーケーション関心層)とし、ログデータおよびアンケートデータを用いた分析を行いました。
まずはそれぞれのグループの利用者属性を比較してみましょう。
■デモグラフィック
▼「HafH」「ADDress」「ワーケーション」抽出対象者の属性
まず、グラフ上段の「性年代」・中段の「居住地」の特徴に着目してみましょう。パネル全体と比較して、どのグループにも共通して、20~30代・関東地方の比率が高いことが分かります。
※比較対象として「全体」の指標を入れていますが、これは弊社のパネル全体の平均の値になります。
一方で、下段の「同居家族」の特徴に着目してみると、グループ間の違いが見て取れます。同じ40代以下でも、HafHユーザー・ワーケーション検索者は夫婦のみ世帯の比率が高く、ADDressユーザーは単身者の比率が高くなっています。ADDressは「住む」という長期的な移動も想定されることから、自由に動きやすい単身者に人気なのかもしれません。
■ネット行動・アプリ利用
▼「HafH」「ADDress」「ワーケーション」抽出対象者のネット行動時間
続いて、各グループのネット行動を見てみましょう。ネット行動時間を見ると、どのグループも共通して、パネル全体の2倍前後の時間、インターネットを利用していることが分かります。新しいサービス・暮らし方に関心を寄せる人々が、ネットに明るく情報収集が盛んな人物であることが推察されます。
▼「HafH」「ADDress」「ワーケーション」抽出対象者のSNS・アプリ利用
一方で、利用アプリを見てみると、ネット行動の内容に違いがあることが読み取れます。どのグループもパネル全体よりSNS利用率が高くなっているものの、その中でも特にHafHユーザー・ワーケーション検索者は際立って高い数字です。
かたや、ADDressユーザーはYahoo!系アプリやニュースアプリの利用が特徴的に高くなっています。
■購買情報収集意識
▼「HafH」「ADDress」「ワーケーション」抽出対象者の購買情報収集意識
さらに、各グループの購買のための情報収集への意識を見てみましょう。HafHユーザー・ADDressユーザーともに、パネル全体より、新しい商品やサービスに関する情報を積極的に集め、また積極的に試すという特徴が見られます。
また、ここで着目したい特徴は、休日の過ごし方についてです。HafHユーザーは「休日の過ごし方はアウトドアである」がパネル全体よりかなり高くなっています。一方で、ADDressユーザーはかなり低い値となっているのです。
閲覧サイト、興味関心マップから「宿泊のサブスク」ユーザーを比較
続いて、それぞれのユーザーが特徴的に閲覧しているサイトや、興味関心を持っているテーマを分析し、違いを考察していきます。
■「HafH」抽出対象者のサイトランキング・興味関心
こちらの表は、HafHユーザーが特徴的に利用しているサイトを表したものです。スコア(ネットユーザー全体と比較した接触率の差)が大きい順にランキングされており、上のサイトほど、HafHユーザーの特徴が強く表れています。
こちらのマップは、HafHユーザーの興味関心を表したものです。横軸は特徴値(ネットユーザー全体と比較して特徴的な回答)を表しており、右に行くほどHafHユーザーの特徴が強く出ています。また、縦軸は回答率を表しており、上に行くほど回答人数が多い、つまり興味があると答えたユーザーのボリュームも多いということです。
まず、上段のサイトランキングを見ると、SNS利用に加えて、”一休.com”や”ANA”のサイトへの接触が特徴的に見られます。同時に、下段のマップを見ると、”国内旅行”・”海外旅行”が右上に位置しています。サイト接触という実行動・興味関心という意識の両面から、HafHユーザーがかなりの旅行好きであることが分かります。
■「ADDress」抽出対象者のサイトランキング・興味関心
ADDressユーザーについても、同様に見てみましょう。
下段のマップを見ると、HafHユーザーとは違い、旅行への関心はそれほど特徴的に出ておらず、代わりに”マネー、投資” や ”ビジネス関連” に関心が高いことが分かります。
同時に上段のサイトランキングでは、”日本経済新聞”、”朝日新聞” 等の新聞サイトへの接触が上位にきています。ビジネスへの関心が高く、ニュースをしっかりチェックしている人物像が見えてきます。また、”SUUMO”への接触も特徴的で、「家探し」という共通点を持つHafHとの親和性も伺えます。
■「ワーケーション」抽出対象者のサイトランキング・興味関心
最後に、ワーケーション関心層についても、同様に見てみましょう。
下段のマップを見ると、旅行への関心が特徴的に強く、また左のサイトランキングでは”じゃらんnet” が上位に来ています。HafHユーザーと同じく、かなりの旅行好きであることが分かります。ただし、同時にサイトランキングでは、新聞サイトへの接触も多く見られます。これはADDressユーザーと似た傾向です。
ワーケーション関心層は、新聞媒体でニュースをチェックするビジネスマンでありつつ、旅行・グルメが大好きで、仕事とプライベートを同時に充実させたいニーズを持っていることが推察されます。
「宿泊のサブスク」のユーザー像とターゲット像のまとめ
ここまでの分析結果から、HafHとADDressのユーザー像をまとめていきます。ネット上でよく比較される2サービスですが、違った人物像が浮かび上がってきました。
HafHユーザー | ネット・SNSを使いこなし新しいサービスにも敏感。 旅行が特に大好きなアウトドアな人で、都心の若者が多い。 |
ADDressユーザー | ビジネスへの関心が強く、ニュースアプリ・サイトを日々チェック。 旅より家を楽しみたい人で、若い単身者が多い。 |
最初にご紹介したように、HafHは「旅のサブスク」、ADDressは「定額 全国住み放題」をキャッチコピーに展開しています。実際にサイトを訪れるユーザーも、そのキャッチコピーに合った特徴を持つ人達だと言えそうです。
同じサブスクリプション型宿泊サービスという枠の中でも、細かなサービス形態・また売り出し方の違いによって獲得ユーザーが異なってくる、マーケティングの重要性が分かる良い例に感じます。
また今回は、2サービスのターゲットとなりうる、ワーケーション関心層についても分析しました。
ワーケーション関心層 | ニュースもチェックしつつ、ネット・SNSを使いこなし、 旅行・グルメなどプライベートも充実させたいビジネスマン。 |
まとめてみると、ワーケーション関心層は、HafHユーザーの特徴・ADDressユーザーの特徴をどちらも持ち合わせていると言えそうです。この層をどちらのサービスが獲得していけるのかが、各サービスの今後の明暗に関わるかもしれません。
新しいサービス・新しい生活様式の今後に、さらに期待が高まります。
【調査概要(記事内「デモグラフィック」の図以降)】
・全国のモニター会員の協力により、ネット行動ログとアンケートにもとづき分析
・集計対象期間:2021年8月
※対象デバイス:PC
▼ヴァリューズでは、今回のようにアンケート調査とネット上での行動ログとを掛け合わせたデータ分析を得意としています。下記ボタンよりお気軽にご相談ください。
株式会社ヴァリューズ リサーチャー 古田 美穂(ふるた みほ)
岡山県出身、東京大学工学部卒業。1998年生まれ、Z世代のリサーチャー。2021年にヴァリューズへ新卒入社。
アンケート調査×WEBログ分析を日々勉強するかたわら、インスタを中心としたSNSから収集したトレンド情報を社内発信するといったトレンドセッター的役割も担う。