なぜ推し活グッズは手作りされているのか。界隈別のグッズ事情を調査

なぜ推し活グッズは手作りされているのか。界隈別のグッズ事情を調査

「推し活」という言葉もすっかり一般的になった昨今。推し活をより楽しむための「推し活グッズ」ですが、その入手方法は変化しつつあるようです。公式グッズだけでなく、グッズ作成サービスを利用したものや手作りによる非公式グッズも大きく勢いを増しています。この記事では、推しのジャンルとよく使われる推し活グッズから、推し活グッズの入手方法、そして流行の手作りグッズについて調査・分析しました。


界隈別の推し活グッズ事情

最近では「推し活グッズ」が様々なジャンルで盛り上がりを見せています。アイドルやキャラクターの姿をアクリル板にして持ち歩き・飾りやすくした「アクスタ(アクリルスタンド)」や推しの姿をデフォルメ化した「推しぬい(ぬいぐるみ)」という単語を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

「推し」のジャンルとグッズ

以下の図では、「推し活」の対象となる「推しのジャンル」と各ジャンルでよく使用される「特徴的な推し活グッズ」をまとめました。


推しのジャンル特徴的な推し活グッズ(50音順)
アイドルアクスタ、うちわ、トレカ・生写真、ぬいぐるみ、ペンライト

アーティスト・バンド・タレント

Tシャツ、タオル、ラバーバンド
スポーツ選手タオル・ユニフォーム
ミュージカル・舞台俳優公演パンフレット、舞台写真、ブロマイド
お笑い芸人缶バッジ、ステッカー、Tシャツ
2次元派生タレント(声優など)アクスタ、ブロマイド
2次元キャラクターアクスタ、缶バッジ、ぬいぐるみ、フィギュア、ラバスト
動画配信社(YouTuber、VTuberなど)アクスタ、ぬいぐるみ
ディズニー・サンリオキャラクターカチューシャ・帽子、ぬいぐるみ

推しのジャンルと特徴的な推し活グッズ(筆者作成)

「アイドル」「二次元キャラクター」など、多くのジャンルに共通するのが、「推し」を持ち歩くことのできる「アクスタ」「ぬいぐるみ」といったグッズです。一方で、「アーティスト・バンド・タレント」や「スポーツ選手」といったジャンルでは、ラバーバンドやユニフォームといった、ジャンル特有のグッズが見られます。

ジャンル別の出費傾向

どんなジャンルで推し活グッズへの出費が大きいのでしょうか。推し活グッズへの出費はわからずとも、「推し活」自体への出費額が大きくなれば、推し活グッズへの出費も大きくなる可能性があります。

そこで、株式会社ヴァリューズのホワイトペーパーをもとに、「推し活」への出費が大きいジャンルとそうでないジャンルを見ていきましょう。

以下の図は、推し活への出費についてのアンケート調査結果の一部です。推しの対象別に、1か月に5,000円以上費やす場合が最も多いと回答した人の割合が示されています。

株式会社ヴァリューズ(2022)「ファン活動の実態に関する自主調査〜ファンの行動心理とは?〜」p.15

この表から、「推し活」へ一定の金額を支払う人の割合が高いジャンルと低いジャンルが読み取れます。宝塚・ミュージカル・舞台俳優や、日本のアイドルはお金を消費するファンの割合が高いようです。これらを推す人々は、舞台やライブなどにお金を使う場合が多く、それに加えてグッズなども購入していると考えられます。
宝塚・ミュージカル・舞台俳優のファンは、グッズの中でも公演パンフレットや舞台写真を主に購入すると考えられます。日本のアイドルのファンは、うちわ、ペンライトなどのライブ用のグッズに加え、アクスタ、ぬいぐるみなどの日常生活で持ち歩きできるグッズを購入する人が多いと考えられます。

一方で、お笑い芸人やアジアの女性アイドル、3次元の女性タレント/アーティストはお金を消費するファンの割合が低いようです。その理由として、お笑い芸人やアジアの女性アイドルでは推しに会える・推しを見られる機会が前述のジャンルほどは多くないことが考えられます。それに伴い、グッズを手に入れる機会もそこまで多くないと考えられます。

お笑い芸人のファンは、ステッカーや缶バッジなど、サイズが小さめで日常生活でもさりげなく身につけられるグッズに、アジアの女性アイドルのファンは、ペンライトやうちわなどのライブグッズにお金を使っていそうです。3次元の女性タレント/アーティストのファンは、タオル、ラバーバンドなどのライブ・フェスグッズを中心にお金を使っているのかもしれません。

【レポートの詳細はこちらをチェック】トレンドの「推し活」。ファン活動の実態と行動原理を探る

https://manamina.valuesccg.com/articles/2055

2021年の流行語大賞にもノミネートされた「推し活」。急速に知名度を上げたこのワードの検索者数は、2020年9月から2022年8月までの2年間で10倍以上に急増しました。どういう人が、どういう媒体を利用して、どんなものを推しているのか?熱量が減少する要素とは?「推し活」の実態を徹底調査しました。(ページ数|34ページ)

推し活グッズに興味がある人って?

続いて、推し活グッズの興味・関心層について見ていきましょう。まず、推し活グッズは、「公式グッズ」か「非公式グッズ」の大きくふたつに分類されます。

公式グッズの興味・関心層|ファミクラストア訪問者から見る

「公式グッズ」は、ジャンルにもよりますが、公式グッズ販売サイト・店舗や公式グッズ取扱店舗、ライブ会場などでの購入が中心です。

公式グッズを購入する人々にはどのような特徴があるのでしょうか。今回は、公式グッズ購入者の一例として、日本で特に有名な男性アイドル事務所「STARTO ENTERTAINMENT」※に所属するアーティストの公式グッズ販売サイト「ファミクラストア」訪問者の特徴を見てみましょう。
参考:ファミクラストア公式サイト

※旧ジャニーズ事務所所属アーティストが多く在籍。

「ファミクラストア」サイトの訪問者を分析してみます。なお、分析にはWeb行動データとアンケートデータを用いたペルソナ分析やクラスタ分析で、誰でも簡単に顧客理解ができる、株式会社ヴァリューズの分析ツール「Perscope(ペルスコープ)」を使用します。

以下の図は、「ファミクラストア」サイト訪問者の性別、年代などの属性です。

「ファミクラストア」サイト訪問者の属性

「ファミクラストア」サイト訪問者の属性
調査期間:2024年2月〜2025年1月
デバイス:PC・スマートフォン

ネット人口全体と比較して、女性が圧倒的に多く、93.5%を占めています。年代割合は20代が最も多く、そこに30代、40代が続きます。既婚率・子供保有率についてはいずれもネット人口全体よりも約15%ほど低くなっており、世帯年収もネット人口全体と比較して約110万円ほど低くなっています。

「ファミクラストア」サイト訪問者の中で女性が圧倒的に多くなっている背景には、STARTO社の所属アーティストが男性のみであり、そのファンは圧倒的に女性が多いためだと考えられます。また、20代の訪問者が多く、既婚率・子供保有率が低いことから、自分の好きなことのために、使えるお金の割合が高いのではないでしょうか。

非公式グッズの興味・関心層|グッズ作成サービス訪問者から見る

「非公式グッズ」には、幅広い入手方法があります。自分で材料から手作りしたり、グッズ作成サービスに依頼したりして入手することができます。ファン同士で、手作りしたグッズを交換したり、プレゼントしたりする場面もよく見られます。

最近では、様々な企業が推し活グッズ作成サービスを提供しています。以下の「ファンクリ」は、ファンサうちわや推しうちわの製作をメインに、アクスタやタオル、アクキー(アクリルキーホルダー)などの制作まで幅広く行っているサービスです。

推し活グッズ製作サービス「ファンクリ」公式サイト内「推し活グッズコレクション」の画面キャプチャ

このサイトの訪問者を分析し、どのような人が推し活グッズ作成サービスを利用しているのか見てみましょう。以下の図は「ファンクリ」サイト訪問者の属性です。

「ファンクリ」サイト訪問者の属性

「ファンクリ」サイト訪問者の属性
調査期間:2024年2月〜2025年1月
デバイス:PC・スマートフォン

ネット人口全体と比べて女性の割合が高く、訪問者の約8割強を女性が占めています。年代割合は圧倒的に20代が高く、30代が続きます。既婚率・子供保有率・世帯年収はいずれもネット人口全体よりも低くなっています。

以下の図は、「ファンクリ」サイト訪問者の検索キーワードランキングです。

「ファンクリ」サイト訪問者の検索キーワードランキング上位10項目(特徴値降順)

「ファンクリ」サイト訪問者の検索キーワードランキング上位10項目(特徴値降順)
調査期間:2024年2月〜2025年1月
デバイス:PC・スマートフォン

上位には「うちわ」を含んだキーワードがランクインしています。5位、6位には「推し」「推し活」がランクインし、7位、8位には「アクスタ」「ぬい」という推し活グッズがランクインしています。そして9位、10位には「ファミクラストア」「ジャニーズ」という、STARTO社関連のキーワードが見られます。

「うちわ」の製作をメインとするサイトであるため、「うちわ」を含むキーワードが上位にランクインしていると考えられます。「推し」「推し活」がランクインしていることから、「推し活」を検索する中でこのサイトにたどり着く人もいるようです。

「アクスタ」「ぬい」など、うちわ以外の推し活グッズを求めてサイトを訪問する人もいます。「STARTO社」関連のキーワードがランクインしている理由としては、STARTO社のアーティストのファンの多さや、STARTO社アーティストのライブでは長い間応援うちわが使用されてきたことが考えられます。

推し活グッズを手作りしたい人って?

ここで、「推し活」検索者の検索ワードネットワークを見てみましょう。なお、分析には毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザで競合サイト分析やトレンド調査を行えるヴァリューズのWeb行動ログ分析ツールDockpitを用います。

以下の図が「推し活」検索者の検索ワードネットワークです。「手作り」「作り方」というキーワードを緑色で囲っています。また、「100均」「セリア」「ダイソー」など、100円ショップの名前も見られます。

「推し活」検索者の検索ワードネットワーク

「推し活」検索者の検索ワードネットワーク
調査期間:2024年2月〜2025年1月
デバイス:PC・スマートフォン

この図から、「推し活グッズ」を手作りしたい人や、「うちわ」を手作りしたい人が存在することがわかります。また、100円ショップを検索していることから、お得に推し活グッズを入手したいと感じている人もいるのかもしれません。

なぜ推し活グッズを手作りするのか

公式グッズやグッズ作成サービスがある中で、なぜ推し活グッズを手作りする人が増えつつあるのでしょうか。様々考えられますが、ここでは下記3つについて考えていきます。

・推し活グッズが手作りしやすくなった
・自作の推し活グッズの方が費用が格安で済む
・公式グッズで販売されていないグッズが欲しい

推し活グッズが手作りしやすくなった

最近では、ぬいぐるみの手作り需要の高まりから、ぬいぐるみ製作用の型紙やパーツなどが販売されています。これらを組み合わせることによって、より手軽にぬいぐるみを製作することができます。

「ぬいぐるみの生地やさん」サイトの画面キャプチャ

100円ショップのCan★Doでも、2024年7月時点で、ぬいぐるみ製作用の素体・パーツが110円から販売されています。

自作の推し活グッズの方が費用が格安で済む

推し活グッズの手作りがされている理由として、自作の方が格安で済む可能性も考えられます。公式グッズのぬいぐるみの価格と手作りのぬいぐるみにかかるコストを比較してみましょう。

ある人気アイドルのぬいぐるみとある人気アニメのぬいぐるみを見てみると、どちらも14~15cmで、アイドルのぬいぐるみが3,200円、アニメのぬいぐるみが2,420円で販売されていました。

この2つのぬいぐるみと同じくらいのサイズ(高さ15cm)のぬいぐるみを作るためのコストを計算してみましょう。なお、今回はできるだけ低価格で作ることを想定して計算します。以下の図が計算結果です。あくまでも理論上ですが、100円ショップや無料の型紙配布サイトを利用することで、自作の場合には最低1210円からぬいぐるみを製作することができます


材料入手場所価格
ぬいぐるみ用型紙無料型紙配布サイト0円
ぬいぐるみ本体用生地(2枚)100円ショップ220円
ぬいぐるみの髪型用生地100円ショップ110円
顔のパーツ用の刺繍糸100円ショップ110円
ぬいぐるみ本体に詰める綿(2袋)100円ショップ220円
ぬいぐるみ用の洋服100円ショップ110円〜
刺繍枠100円ショップ220円
刺繍針100円ショップ110円
ソーイングセット100円ショップ110円

合計1,210円〜

高さ15cmのぬいぐるみをできるだけ低コストで製作する際のコスト計算

参考:

ダイソーネットストア-単品買い100円ショップ通販【公式】

ぬいものアイドル たきゅーと|15cmぷっくりぬいぐるみ型紙

公式グッズのぬいぐるみの価格と比較すると、手作りの方が1,000円以上安くぬいぐるみが手に入ることになります。

公式グッズで販売されていないグッズが欲しい

また、推し活グッズを手作りする動機として、「公式グッズとしては販売されていないけれど、どうしても手に入れたい」ということが考えられます。自分の欲しいグッズが公式グッズとして販売されない場合、自分で作る人々がいます。

先ほど紹介した「ぬいぐるみ」も手作りされる推し活グッズの一つです。ぬいぐるみは、「推し」の姿をデフォルメ化して持ち歩きやすいサイズにしたものだと捉えられます。推しのぬいぐるみを日々持ち歩くことで、日常生活を推し活として楽しんでいる人も増えているのかもしれません。

また、推しのぬいぐるみを自分好みにお着替えさせることを楽しんでいる人も存在しそうです。ぬいぐるみは推し活の楽しみ方を広げるための有用なアイテムなので、公式から販売されていない場合、ぬいぐるみを手作りする人が出てくるのでしょう。

「見る」側から「生み出す」側へ

これまで「推し活」といえば、「見る」趣味としての印象が強かったのではないでしょうか。しかし、ここ最近では、これまで見てきたように、推し活の一環で様々なグッズを手作りする人が増えつつあります。

Instagramで「#推し活グッズ手作り」で調べると1,000件以上投稿が見つかり、バッグやポーチ、キーホルダーから、ヘアクリップやハーバリウムまで、幅広いグッズが手作りされていることが見て取れます。

すなわち、推し活は「見る」趣味から「実践する」趣味へと幅を広げつつあるのです。「推し」をきっかけに、新たな趣味へと踏み出す人は今後もっと増えていく可能性があります。

「推し活」は新たな趣味、別の自己表現の手段を身に着ける一つのきっかけとして働いているのかもしれません。これから「推し活」にどのようなブームが訪れるのか、要注目です。

▼今回の分析にはWeb行動ログ調査ツール『Dockpit』を使用しています。『Dockpit』では毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザでキーワード分析やトレンド調査を行えます。無料版もありますので、興味のある方は下記よりぜひご登録ください。

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この記事のライター

2025年4月に入社予定の大学4年生。大学ではジャーナリズムのゼミに所属。言葉に触れることが好き。音楽を聴くのも演奏するのも大好き。よりよい文章を綴れるよう日々精進中。

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