近年高まる投資熱を受け、ネット証券を中心に口座開設が急増しています。2021年は多くの大手ネット証券会社が手数料無料化を打ち出したり、スマホで簡単に取引ができるスマホ証券が台頭したりと、激動の1年になりました。
現時点で、手数料に関してはSBI証券、楽天証券、auカブコム証券は1日の約定金額100万円までは手数料無料で売買でき、25歳以下のプランに関しては約定金額を問わず(SBI証券は実質)手数料ゼロとなっています。松井証券も約定金額50万円までであれば手数料が無料です。
またスマホ証券に関しては、2021年は使い勝手の良さだけでなく、総合力で勝負するスマホ証券も出てきました。LINE証券は2021年5月にiDeCoに対応し、2022年3月までにつみたてNISAに対応する計画を発表しています。大手ネット証券と比較して数は多くないものの、投資信託も揃えています。米国個別株の売買などを実現したサービス(CONNECT、STREAM等)もでてきました。
2022年は、こうした手数料競争の激化やスマホ証券の台頭、ロボアドバイザーサービスの普及などにより、証券会社選びのポイントは大きく変化すると思われます。そこで今回は、ヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit(ドックピット)」を用いて、ネット証券業界の現状やユーザーの属性を調査しました。
投資のロボアドバイザーサービスの利用者はどんな人?Web行動ログで調査
https://manamina.valuesccg.com/articles/1677ウェルスナビや楽ラップ、folioをはじめとしたロボアドバイザーサービスのユーザー動向とは。本記事では投資信託と比較したロボアドバイザーサービスのユーザー規模の変化や、サービスごとのユーザー属性の違いについて調査します。
↑ロボアドバイザーサービスについてはこちらの記事で調査しています。
ネット証券のサイトユーザー数は?新規ユーザー数1位はLINE証券
まずは、各ネット証券会社の1年間のWebサイトユーザー数ランキングをみてみます。
ネット証券会社の年間Webサイトユーザー数ランキング
期間:2021年2月~2022年1月
デバイス:PC&スマートフォン
分析ツール:Dockpit
※今回はネット専業の証券会社に限定し、対面での事業を行っている証券会社はランキングの対象外としています
特にWebサイトの訪問者数が多いのは楽天証券とSBI証券でした。投資信託の品揃えに関しては、日経トレンディ2月号によると楽天証券が2,683本、SBI証券が2,664本、マネックス証券が1,235本、auカブコム証券は1,494本となっており、取り扱い本数では楽天証券とSBI証券のほぼ2択となっています。また、つみたてNISA、iDeCoにも対応している投資信託も多く揃えていることも人気の理由と思われます。
一方、直近1年間の新規ユーザー数(初めてサイトを訪れたユーザーの数)が最も多いのはLINE証券でした。LINE証券はLINEアプリから呼び出して株取引ができる使い勝手の良さや手軽さが特徴です。しかし証券としての総合力も高く、2021年5月にはiDeCoに対応し、2022年3月までにつみたてNISAへの対応も予定されています。
新規ユーザーはLINE証券についで、SBI証券、楽天証券が続いており、両社の投資初心者からの人気も伺えました。また、日興フロッギー、PayPay証券などのスマホ証券は新規ユーザーの比率が高く、2021年のスマホ証券の台頭もみられました。
証券会社のWebサイトをセッション数でランキング!もっとも集客に成功していたのは「楽天証券」
https://manamina.valuesccg.com/articles/1411顧客の多様化により変革が求められる証券取引の市場において、Webでの集客に成功する証券会社の特徴とは。証券会社のWebサイトをセッション数でランキング調査しました。1位は楽天証券、総合1位はSMBC日興となりました。これからの証券会社に求められる集客戦略を探っていきます。
↑ネット以外の証券会社も含む業界全体のWebサイトランキングはこちらの記事にまとめています。併せてお読みください。
スマホ証券は「起きてすぐ」と「昼休憩」によく利用
続いて、特にユーザー数の多い楽天証券とSBI証券に加え、スマホ証券を代表してLINE証券、日興フロッギー、PayPay証券の5つの証券会社に絞って、それぞれのユーザー属性を調査していきます。まずは、それぞれの証券会社のWebサイトの閲覧時のデバイス比率を確認してみましょう。
ネット・スマホ証券5社のデバイス別利用率
期間:2021年2月~2022年1月
分析ツール:Dockpit
スマホ証券であるLINE証券、日興フロッギー、PayPay証券はやはりスマートフォンの比率が高い傾向がみられました。しかし、LINE証券と日興フロッギーにおいてPCからの利用率は約20%前後、PayPay証券では約40%となっており、ある程度のユーザーはPCでも利用している実態が見られました。
また、楽天証券、SBI証券はPCでの利用率がやや高いものの、PCでもスマートフォンでも同じくらい利用されていることが分かります。
次に、それぞれの証券会社のデバイス別の閲覧時間帯をみてみます。
ネット・スマホ証券5社のデバイス別利用時間比率
期間:2021年2月~2022年1月
分析ツール:Dockpit
PCでは、どの証券でも9時から17時までの時間と、21時付近の利用率が高いことが分かります。お昼の休憩時間である12時付近や帰宅する時間帯の18時付近の利用率がやや減少していることから、業務時間中でもPCでサイトを開いておき、株価の状況を確認している人が多いのではないでしょうか。
スマートフォンでは、PCと比較して7時〜8時の利用率が高いことが分かります。朝の支度中や、通勤時間にスマホで利用する人が多いようです。また、12時付近は大きく利用率が増加していることから、お昼の休憩時間にスマホでサッとチェックしている利用実態が見られました。
スマホ証券3社の新規ユーザーは意外にも40代以上がボリュームゾーン
続いて、新しく投資を始める投資初心者がどの証券会社を検討しているのかを探っていきます。それぞれの証券会社のサイトへの流入者のうち、新規ユーザー(初めてサイトに訪問した人)に絞ってユーザー属性を調査しました。
こちらは、それぞれの証券会社の性別のユーザー割合です。
ネット・スマホ証券5社の性別新規ユーザー割合比較
期間:2021年2月~2022年1月
分析ツール:Dockpit
どの証券会社も男性の割合がほぼ6割〜7割程度と高いことが分かります。その中でも最も女性の割合が高いのはLINE証券です。LINE証券はLINEアプリユーザーとの独自の接点を持っているため、他の証券会社が接触しにくいユーザーにもリーチできているのではないでしょうか。
続いて、年代別の比率も確認してみましょう。
ネット・スマホ証券5社の年代別新規ユーザー割合比較
期間:2021年2月~2022年1月
分析ツール:Dockpit
スマホ証券3社は若年層の利用率が高いかと思いきや、むしろ20代の割合は楽天証券とSBI証券の方が高く、スマホ証券3社は40代以上がボリュームゾーンのようです。楽天証券、SBI証券は25歳以下の取引手数料が無料だったり、多くの投資信託がつみたてNISA、iDeCoに対応していたりと、これから投資を始める若年層に優しい設計になっていることも、20代からの人気が高い理由と思われます。
続いて、世帯年収別の比率も確認してみましょう。
ネット・スマホ証券5社の世帯年収別新規ユーザー割合比較
期間:2021年2月~2022年1月
分析ツール:Dockpit
LINE証券以外の4つの証券は世帯年収別の割合が類似していますが、LINE証券は他の証券と比較して、世帯年収400万円未満のユーザー割合が高いことが分かります。
LINE証券は口座開設や、初回取引によってキャッシュがもらえたり、クイズに正解すると3株分の購入代金がプレゼントされる「初株チャンス」などのキャンペーンを精力的に行っています。LINEアプリという独自のチャネルを活用し、こうしたキャンペーン情報をトーク画面に通知することで新規口座開設者を増やしています。
このような背景から、LINE証券は他の証券会社がリーチできない顧客層を新規開拓できていると考えられます。
まとめ
今回は、楽天証券とSBI証券、そしてスマホ証券3社のユーザー属性の比較、分析を行いました。
ユーザー数に関しては、楽天証券とSBI証券が特に多くのユーザーを獲得していました。両社は投資信託の取り扱い本数が多く、つみたてNISAやiDeCo対応銘柄も多く取り揃え、販売手数料も無料であることなどが人気の理由かと思われます。
そんな中、直近1年間で多くの新規ユーザーを獲得していたのはLINE証券です。LINE証券は他の証券と比べて女性のユーザー比率が高く、世帯年収400万円未満のユーザー比率が高い傾向がみられました。口座開設等のキャンペーンを精力的に行いつつ、LINEアプリを通して他社がリーチしにくい顧客層にアプローチできていることが独自の顧客層の獲得に繋がっているのではないでしょうか。
投資を始める人が増えてきている中、手数料競争やスマホ証券の台頭など大きな変化が起きているネット証券業界には、今後も注目したいところです。今回の調査が少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。
▼今回の分析にはWeb行動ログ調査ツール『Dockpit』を使用しています。Dockpitでは毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザで競合サイト分析やトレンド調査を行えます。無料版もありますので、興味のある方は下記よりぜひご登録ください。
2022年4月に新卒としてヴァリューズに入社しました。それまでは大学院でダイヤモンド半導体について研究しつつ、ヴァリューズの内定者アルバイトとして働いていました。