■Agenda
【第1部】
● 「バタフライ・サーキット」とは?
● 化粧品購買行動を例に「バタフライ・サーキット」を分析
【第2部】
● 調査結果と広告現場の課題に基づく、2022年広告最新トレンドとクリエイティブ開発のすすめ方
※本講演は、Web担当者Forum編集部主催の「デジタルマーケターズサミット 2022 Winter」全30講演の中で、満足度の高い講演ランキング 第6位にランクインしています。
■スピーカー紹介
図:スピーカー紹介
「バタフライ・サーキット」とは?
株式会社ヴァリューズ 海野秋生(以下、海野):「バタフライ・サーキット」は、Google社とヴァリューズの共同研究で発案された、Web上の購入行動に基づく情報探索動機の考え方を指します。
これまでの購入に際しての情報収集モデルは、「AIDMA」や「AISAS」といった、ブランド認知から購入までが階段状に動くと捉えられていましたが、一方の「バタフライ・サーキット」は、商品の選択肢を広げる「さぐる」動きと、選択肢を絞っていく「かためる」動きが蝶の動きの様にぐるぐると回り動き続けると捉えている点が、大きな違いと言えます。
図:バタフライ・サーキットとは
海野:では「バタフライ・サーキット」により、消費者がどのように情報探索を行っているのか、8つに分類した項目を簡単にご紹介します。
暖色系の4つが選択肢を広げる「さぐる」に該当し、寒色系の4つが選択肢を絞る「かためる」に該当します。
よく情報を検索する時にありがちなのが左上の「気晴らしさせて」でしょうか。これは旅行前の情報収集など気分が上がるような検索に相当するかと思います。続いて、今まで知らなかったことを教えてという「学ばせて」。クチコミなどの情報収集に代表されるような「みんなの教えて」、そして上級者など知る人ぞ知る情報を求める「にんまりさせて」といったところの4つが「さぐる」モチベーションを表しています。
一方で、「かためる」モチベーションですが、自らの考えが正しいものなのかを確認したい「納得させて」をはじめ、具体的な解決策が知りたい際の「解説させて」。価格に見合ったサービス・商品ではなかった場合の期待値を下げておきたいという「心づもりさせて」、そして購入後にも見られる行動ですが、自分の選択が誤っていないと確信するための「答え合わせさせて」など4つを分類しています。
この「さぐる」と「かためる」のモチベーションを、消費者は行ったり来たりしていると考えられています。
図:情報探索を掻き立てる8つの動機
化粧品購買行動を例に「バタフライ・サーキット」を分析
海野:では実際に、「バタフライ・サーキット」をマーケティング活動にどう活用していくのかを考えていきます。
商材により「バタフライ・サーキット」のパターンは異なっています。中でも化粧品(スキンケア用品)は全方位型、つまり満遍なく積極的に情報探索され、「さぐる」「かためる」両方の動機がバランスよく現れるという結果もあります。そこで、今回は化粧品のアンケート調査を行い、その結果をご紹介します。
・調査概要
~ まずは商材別の<さぐる><かためる>を知ろう
調査期間:2021年10月19日(火)~2021年10月26日(火)
調査対象:ヴァリューズモニタ 20歳以上の男女(24,699サンプル)
※本稿で用いる資料では女性の回答のみを使用
海野:商品を購入する際、「さぐる」「かためる」のどちらのモチベーションが優位だったかと質問したアンケート結果の一部をご紹介します。
下図を見ると分かるように、口紅やリップライナーは「さぐる」検索が優位となり、化粧水は「かためる」検索が優位であることがわかります。
口紅などは、色とりどりの物を見て楽しみたいというメイク商品の持つ特性から連想すると、その心理は想像しやすいのではないでしょうか。これは「気晴らしさせて」という検索行動が優位に現れた結果と思われます。
また一方での化粧水は、色々なものを楽しみながら「さぐる」というよりも、自分の肌にあったものを膨大な情報の中から「かためる」といった、確実性を求めた検索行動に軸足が置かれた検索行動なのではないかと推測できます。
このように商材一つとっても、「さぐる」「かためる」のモチベーションはそれぞれ違ってくることがわかります。
図:①商材×バタフライ・サーキット~商品別の<さぐる><かためる>
海野:続いては、商品を見る際に利用される媒体についても「バタフライ・サーキット」はどう影響するのかを考えます。
下図は、「さぐる」際の参考媒体と「かためる」際の参考媒体の違いを表したものです。
「さぐる」が強めの媒体としては、色々な商品をレビューを見て比較したり、目で楽しむ事の出来る「@cosme」や「Instagram」、「美容誌・ファッション誌」が多く、「かためる」に強い媒体としては、「販売員の説明」や「店頭展示」といった購買により近い接点かつ専門的な知識を得たいという媒体が選ばれました。
商品購入時にも、情報探索動機がそれぞれ異なって影響しているという事は、この調査から初めて知り得たことでもあり、ひとつの大きな発見とも言えるでしょう。
図:②媒体×バタフライ・サーキット~その媒体を見ている時<さぐり>たい?<かため>たい?
海野:ここまでの調査を見て、情報探索モチベーションによって、刺さる広告コミュニケーションも異なるのでは?という疑問が生じました。
そこで実験です。
広告のクリエイティブは、情報探索の刺さり方にどのような違いを生むのか検証することを目的とし、架空の化粧水のオンライン広告クリエイティブを制作しました。
⚫︎機能を全面に表現したクリエイティブ
⚫︎気持ちを表現した情緒的なクリエティブ
結果、反応に大きな差が見られました。
「機能を表現したクリエイティブ」では、「気晴らしさせて」よりも「心づもりさせて」が約2.6倍の反応率を得ました。一方、「気持ちを表現したクリエイティブ」においては、「みんなの教えて」は、「心づもりさせて」の約半数という結果に。
この例から見ると、化粧品という商材においては、情緒に訴えるよりも機能性を訴求した方が、より消費者に刺さるクリエイティブになり得るようです。
この調査結果から言えるのは、情報探索モチベーションに広告がマッチしない場合、商品の魅力が薄れてしまう可能性も起きうるという事実です。
図:③広告コミュニケーション×バタフライ・サーキット
第1部|まとめ
海野:これまでの調査をまとめますと、「商材」「情報収集媒体」「広告クリエイティブ」のどの場面にも「バタフライ・サーキット」の「さぐる」「かためる」という情報探索動機が作用しているということが推測できます。そして、その情報探索の8つのモチベーションも「商材」「情報収集媒体」「広告クリエイティブ」ごとに異なるということがわかりました。
これらを含め、プロモーション領域において広告の効果をより高めるためにも、「バタフライ・サーキット」がどのように作用するかという注目と理解が必要です。
調査結果と広告現場の課題に基づく、2022年広告最新トレンドとクリエイティブ開発のすすめ方
株式会社ヴァリューズ 齋藤義晃(以下、齋藤):第2部では具体的にはどのようなクリエイティブが有効なのか、訴求軸を整理していきます。
■広告現場の課題あるある … 身に覚えがありませんか?
齋藤:2022年、集客においてクリエイティブがますます重要になる理由というところで、現在進行形で起きている、Web広告現場における課題から読み解きます。
まずは、マーケティング戦略で定めたセグメンテーションが、広告媒体上で再現できない点です。例えば今回の調査対象でもある化粧品業界を例としてお話しすると、妥協しつつセグメンテーションを再現したとしても、商材はブランド横断でターゲット像を定めているため、同一ブランドの、各プロダクト単位の広告配信対象が重複し、効率性が棄損されてしまうという課題があると考えられます。
そのような課題を解決するのは、クリエイティブを最大限に活かすことであると考えます。
戦略ターゲットと広告媒体上のオーディエンス設計の一致には限界がありますが、「誰に何をどう伝えるか」と考えた時、商材単位のターゲットが反応する広告メッセージを作る、もしくはクリエイティブでターゲティングする、さらに言えば、ターゲットのモチベーションごとに反応しやすいクリエイティブを用意することが必要と言えるでしょう。
■マーケティング担当者は何をすべき?「バタフライ・サーキット」の注目すべきポイント
齋藤:ではどのようにマーケティング担当者は業務を進めていくべきか。
ここでは「バタフライ・サーキット」を通して捉えた消費者の探索動機に基づき、デジタルマーケティングに活用するクリエイティブをどのように開発するかが重要と考えます。
クリエイティブ作成において「バタフライ・サーキット」の注目ポイントは、消費者が選択肢を広げようとすることへの注目と再評価です。これを裏付けるために、「解釈レベル理論(Trope&Liverman)」という概念を紹介した上でクリエイティブ開発のロジックに進みたいと思います。
■「解釈レベル理論」という概念をクリエイティブ開発のロジックに
齋藤:解釈レベル理論とは、人は同じ対象でも心的距離が異なれば捉え方が変わってしまうという理論です。昨今、マーケティングにも多く適用されています。
2つ事例をご用意しました。下図をご覧ください。
①②共に引っ越しをする際の心理の遷移を例にあげています。
①は時間の経過による心的距離の変化の様子、②は引っ越す場所の変化による心的距離の変化の様子をピックアップしています。
図:解釈レベル理論とは?
ここから言えるのは、人は対象に対して心的距離が変わると、注目するポイントが変わってしまうということです。
この解釈レベル理論から得られる示唆としては、心的距離が近い場合、商材が持つそもそもの本来価値(機能性等)のほか、「使いやすさ」など副次的な属性の評価が増すということ。一方で、距離が遠い場合、本質的な属性、望ましさ、Why(なぜ)を重視する傾向にあるという事です。
とはいえ、解釈レベル理論の課題も無いわけではありません。個人の特性によって左右されうることや、心的距離はあくまで主観的であるということも忘れてはなりません。
■「解釈レベル理論」を受けて「バタフライ・サーキット」に再注目
齋藤:ここで「バタフライ・サーキット」に再度焦点を当てたいと思います。
解釈レベル理論の課題は、心的距離は人それぞれであり、遠いか近いかの感じ方は本人次第であるというものでした。しかし「バタフライ・サーキット」は「遠い」から「近い」の一線上にプロットされるわけではありません。
「かためる」「さぐる」を消費者がぐるぐると繰り返し、「選択肢を絞る(対象に近づく)」「広げる(対象から遠ざかる)」という現象を自ら起こしているのです。
よって、解釈レベル理論の心的距離の弊害なく、個人の特性によらない解釈レベルがそろいやすいと言えます。
図:解釈レベル理論を受けてバタフライ・サーキットに最注目
■「かためる」クリエイティブと「さぐる」クリエイティブ
齋藤:では実際に例を用いて、かためる文脈の探索動機と、さぐる文脈の探索動機のそれぞれに沿ったクリエイティブについて訴求点を整理し、クリエイティブ開発の指針を考えたいと思います。
まずは、「バタフライ・サーキット」の情報探索動機のうち、選択肢を絞り込んでいくときに有効な「かためるクリエイティブ」を整理したいと思います。
これは解釈レベル理論に準じた仮説となりますが、心的距離が近づいている状態で、より具体的な訴求が有効であり、How的な訴求、実現可能性を評価しやすいタイミングであると言えます。
一部ご紹介しますと、「納得させて」を見てみます。このケースの場合、商品・サービスを使うことに対して納得感を得たいという動機に対して、「ベネフィット訴求」、要は、この商品・サービスを使うと、私にとってどんないいことがあるのか?を訴求します。
図:かためる動機が求めるものと解決策
齋藤:続いては「さぐるクリエイティブ」の訴求点を整理していきます。
解釈レベル理論に準じた仮説としては、心的距離が遠ざかっていく状態で、抽象的・本質的訴求が有効と言え、Why的な訴求、「望ましさ」を評価しやすいという事が言えます。
ここでもひとつ例を見てみますと、「気晴らしさせて」ですが、動機は関心があるものに触れたい、情報探索・消費自体を楽しみたいと言ったところでしょうか。そこに応える解決策としては、「共感コンテンツ」と名付けてみました。これは五感への刺激であったり、美しさ、ご褒美訴求、商品・サービスが持つストーリーと言ったものです。
図:さぐる動機が求めるものと解決策
齋藤:今までご覧頂いた「かためるクリエイティブ」、「さぐるクリエイティブ」ですが、第1部のパートでお伝えした化粧品クリエイティブの実験を活用して、8つの情報探索のモチベーションが異なるフェーズにおいて、どちらのバナー広告が反応しやすいかという調査データをとってみました。
すると、「さぐる」モチベーションには気持ちを表現したクリエイティブの方が高く、「かためる」モチベーションに関しては、より機能を具体化したクリエイティブの方が高くなるといった、分かりやすく二分した結果となりました。
図:Q.オンライン上で接触したとき、興味を持つと思う広告は?
■Googleと共同研究を行ったヴァリューズからの提案|まとめ
齋藤:ここまで、「かためるクリエイティブ」、「さぐるクリエイティブ」のお話をして来ましたが、これらには「理性」「感情」という言葉もフィットするのではないかと思っています。
「人は感情でモノを買い、理論で納得させる」という言葉がありますが、デジタル上では「バタフライ・サーキット」のように、そのサイクルが非常に短期間に繰り返されます。
また、クリエイティブは、コンテンツとテキストとセットで用意して初めて「クリエイティブアセット」となります。消費者に寄り添った資産を制作しPDCAを回すことが重要です。
加えて「バタフライ・サーキット」がもたらす示唆は、集客フェーズだけではありません。
顧客化した後、購入後においても、消費者はサーキットを回し続けます。顧客との関係構築においても、選択肢を広げる(「さぐる」)、かためるの視点からメッセージを組み立てていくことが肝要だと考えます。
図:Googleと共同研究を行ったヴァリューズからの提案のまとめ
第2部|まとめ
①広告現場の課題感として、クリエイティブの重要性は益々高まっている。
②クリエイティブ開発のすすめ方
バタフライ・サーキットのポイントは、消費者が選択肢を広げようとするモチベーションへの注目。
⚫︎解釈レベル理論の課題も吸収できる。
⚫︎対象に近づく(選択肢を絞る)、対象から遠ざかる(選択肢を広げる)、それぞれで消費者の心理状況(Why重視?How重視?)に基づき、動機が求めるコンテンツを準備する。
⚫︎「かためるクリエイティブ」は広告主にとって想像しやすい訴求だが、その分、素材ボリュームが偏りやすいことに注意。
⚫︎「さぐるクリエイティブ」も、パルス消費においては必要なクリエイティブ、コンテンツである事に変わりはない。
⚫︎顧客化した後、購入後においても、消費者はサーキットを回し続ける(要注意)
→CRMにおいてもコンテンツとクリエイティブがカギ。
図:第2部まとめ
セミナー資料ダウンロード【無料】
■「バタフライ・サーキット」が示す情報探索動機と、消費者に刺さるクリエイティブのつくり方とは?〜 デジタルマーケターズサミット
セミナー資料のダウンロードURLを、ご入力いただいたメールアドレスに送付させていただきます。
ご登録頂いた方にはヴァリューズからサービスのお知らせやご案内をさせて頂く場合がございます。
マナミナ 編集部 編集兼ライター。
金融・通信・メディア業界を経て現職。
趣味は食と旅行。