心と脳
「心理学」と「脳科学」を複合的に分析することは常にマーケティングの永遠のテーマです。心の中、あるいは脳内にあるイメージは消費行動を大きく左右します。
心と脳は同じものなのでしょうか?人類最大の問題かもしれません。脳の研究も日進月歩で進んでいますが、これは簡単には解決できません。
イメージとは?
イメージとはそれぞれの心の中に思い浮かべる姿・像のことです。感覚像のことです。身近な物、あるいは経験した事象などについては、多くの感覚や感情を持つことができますが、それが真の姿・像と的確に結びつけられるかどうかはわかりません。
例えば出身地を聞いただけでその人の人柄をイメージしてしまうなど、ほとんど接する機会が無くても、それなりのイメージを持つこともあります。そうした状態は何故起きるのでしょう。そのメカニズムははっきりしません。
もちろん活字から得られるイメージも大量に存在します。新聞や書籍、雑誌、電子メールからSNSまで身近に活字が溢れかえっています。どのように必要かつ重要な情報を選択し入手できるかが、消費活動を通じて充実した生活を過ごすための重要なポイントとなっています。
映像についてもIT社会の進展により、動画社会ともいうべき現代、気がつけば身近に常に存在する映像は、今まで以上にイメージの持つ不思議さ、不可解さを生み出し、企業社会、消費社会に大きな影響を与えつつあります。
企業イメージとブランド
ここで、企業におけるイメージを考えます。我々は日頃より何らかの形で企業への関心や、利害関係を持っています。すなわち、企業は取り巻く様々なステークホルダー(利害関係者)を抱えていることが想定されます。従来のステークホルダーには株主、投資家、消費者、従業員、就職活動を行う学生、仕入れ先、販売先などがあります。
しかしITやグローバル化の進展の影響を大きく受け、コミュニケーション活動の範囲が広がり続けていることからステークホルダーの種類が増大していると想像できます。特にSNSを活用したコミュニケーション手法は、広告・マーケティングのあり方を現在進行形で変えつつあり、使い方を間違えると、とんでもない方向へ企業イメージを運んでしまうことになるのです。
逆に、規模の大きさに関わらず大企業から零細企業や個人経営に至るまでSNSやe-マーケティングを研究し、タイミングをうまく調整しながら、PRするポイントを整理し、価値を創り出すことができれば素晴らしいコミュニケーションの成果をあげることができるでしょう。ここでの価値とは、世の中で明確に認められるブランドであり、インタンジブルアセット(無形資産)と呼ぶべきかもしれません。インタンジブル(手で触れられない)資産とは、すなわち人的資産(人脈やスキル)、テクノロジー関連資産、知的財産(特許他)などのことで有形資産以外の資産です。無形資産は会計上、カウントされていません。
これまでのブランドの考えに、2階建てという発想があります。
特に日本では企業ブランド+商品ブランド、つまり企業の信頼性や認知度が商品の価値を高め、ロングセラー商品をつくりだしたケースが数多く見受けられました。企業の持つ信頼性や認知度を土台とし、それにふさわしい商品を創り出し、組み合わせることで相乗効果を生み、企業ブランド、商品ブランド共に高めてきました。ブランド戦略を考える上で大変重要な戦略でした。
ただ、最近では商品名をそのまま企業名として企業名を変更したり、グローバル展開する際には、国によってはあえて、企業ブランドを活用しないケースも見受けられます。
企業イメージとこれからの企業戦略
それでは、企業イメージを高める企業経営とはどのようなものでしょう。
考えられる一つの例として、SDGsを意識した経営です。SDGsとは2015年の国連サミットで決定し、2016年から2030年まで15年間に持続可能でよりよい世界を目指すための国際的な目標です。今まで企業は収益の一部で社会貢献を行ない、CSR(企業の社会的責任)を果たしてきましたが、SDGsを経営に取り入れるということは、本業を通じて世界を変えていこうという未来指向のメッセ―ジを実践することです。
SDGsに真摯に取り組む企業姿勢は、これからの企業イメージを高めることに繋がるのは間違いありません。ただ、偽善的なものだと見破られた場合、深いダメージとなるので慎重かつ丁寧に対処すべきでしょう。また、短期的なものでなく長期的な見地から、SDGsに取り組むことが評価されることになります。定期的なPR活動を実施し、新たな取り組み方や方向性を社会へ向けて発信し続けることも大切です。
どこまでできるか、何ができたかできなかったかなどを正直に発表することは、企業のトランスペアレンシー(透明度)を高め、様々なステークホルダーに向き合うこととなります。
今までの企業のイメージを高めてきたキーワードに「環境」があります。「環境」に配慮する企業は、企業の社会的責任を果たしているというイメージづくりであり、BtoB企業、BtoC企業に関わらず社会とのコミュニケーションの上で大切なものです。実際、1970年代辺りから『公害』や『消費者運動』が高まりを見せ、反公害運動や消費者団体を中心とした消費者運動は、企業の意思から離れた行動原理や原則を持ち、能動的かつ社会的なパワーとなりました。公害を出さない企業は社会的責任を果たしている、この発展形が環境に配慮する企業ということになっていったのかもしれません。
そういえば、『公害』という言葉は最近、聞かれなくなりました。日本においては特に環境機器・技術が急激な進歩を遂げたことが『公害』を減少させた大きな原因でしょうが、『公害』が持つ悪いイメージは企業にとっての生死にかかわる問題であり、イメージ改善は必達の目標でした。環境に配慮する姿勢を表すことは、社会にとって好ましく感じられるイメージを持たれることになり、企業経営をバックアップすることにつながってきたと考えられます。
企業イメージを高める経営やマーケティングを重視することは、これからの社会において重要な戦略であり、戦術でもあるのです。
株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。