外資に負けない強い化粧品ブランドを作るには?海外ブランドの戦略に見る日本の課題

外資に負けない強い化粧品ブランドを作るには?海外ブランドの戦略に見る日本の課題

韓国コスメや中国メイクがトレンドになる昨今。海外勢がめきめきと認知を上げる中、日本の化粧品ブランドはどう対抗していくべきなのでしょうか。各国の戦略と日本の現状とは。シャネルパリ本社でエグゼクティブメイクアップアーティストを務め、化粧品開発からコンサルティングに至るまで、世界を股にかけて活動する東風上尚江さんにお話を伺いました。


日本ブランドの課題は「グローバル感度」と「プレゼン力」

マナミナ編集部 及川(以下、及川):東風上さん、本日はよろしくお願いいたします。いきなりですが、海外でも活動されてきた化粧品業界のプロの目線から、日本の化粧品ブランドの現状をどうご覧になっていますか?

東風上 尚江さん(以下、東風上):日本のブランドは、商品は良いのですが、グローバル感度とプレゼン力が低いと感じています。

世界基準を追い越しすぎていた!

東風上:商品のフォーミュラー(成分の処方)やテクスチャー(つけ心地、質感)はかなり進んでいるんですよ。逆に進みすぎて、日本の消費者であれば受け入れられるけれど、グローバルな消費者はついていけない、という。同じものを数年後にシャネルがローンチすれば、日本では大きなステップバックになるものの、それが世界の最先端になってしまう、というようなケースが多いんです。

こういった状況にある各国にアジャストメントできていないのが、日本ブランドのグローバル感度の低さを表していると思っています。その点、世界観やストーリーといったトータルクオリティを重視しているシャネルは強いですね。

及川:そうなんですね。現地へのアジャストメントという点で日本が遅れを取っているのは、なぜなのでしょうか。

東風上:前提として、島国で独自の文化が形成されてきた日本と違って、ヨーロッパなど地続きで様々な文化が混じり合う大陸では、国は違っても感覚が共有されている部分が多かれ少なかれあるのだと思います。日本はこの点でいうと不利であることを意識して、現地の目線でものを見ることを最優先にしなければなりません。

また、現地市場を耕し足りないのも理由としてあるでしょう。耕すというのは、商品をいきなり現地でローンチするのでなく、時間をかけて消費者を教育し、商品が受け入れられる環境を作るということです。それができていたのが、中国市場におけるロレアルですね。

中国市場を牽引するロレアル。その戦略とは

及川ロレアルといえば、2022年の「ダブルイレブン(※1)」商戦で、T MALL(※2)の売上が美容業界1位になっていますね。エスティローダーが2位、ランコムが3位、資生堂は8位となっています。
※1:中国最大のECショッピングイベント。11月11日「独身の日」にちなんでいる
※2:アリババグループが運営する、中国最大の小売りオンラインショッピングモール

東風上:ロレアルは、他の外資系ブランドに先んじて中国市場における可能性に目をつけ、力を入れていました。早期に社内の優秀な人々を現地に送り、現地の感覚を社内ノウハウとして蓄積していったんです。その感覚を自社マーケティングに応用しつつ、フィールドを少しずつ耕していきました。それが功を奏したといえるでしょう。

及川:巨大な中国市場をいち早く押さえにいく戦略だったわけですね。
世間的に「いわゆる中国」のイメージがあるのは北京や上海といった都市部かと思いますが、最近は中国人口の72%を占める郊外エリアの「下沈(かしん)市場」が注目されつつあります。ここをいかに押さえられるか、が重要になってくると考えられますが、化粧品業界においては、現地化が進んでいるロレアル以外は、下沈市場では中国国産ブランドが強い傾向にあるようです。

及川:ロレアルの強さを再確認するとともに、日本ブランドがこれから分け入っていくのは簡単ではなさそうという印象です。

東風上:より一層、現地の人が「良い」と思う感覚を共有できているかが重要そうですね。

及川:一方で、資料の右側に掲載されているような中国コスメは、日本でも人気になっていますよね。このPERFECT DIARYのアイシャドウパレットは、アニマルデザインのパッケージが可愛いと評判で、インフルエンサーがこぞって紹介しているイメージです。

東風上:そうですね。最近は「純欲メイク」「白湯メイク」といった中国発のメイク方法も、SNS上で拡散され、話題になっています。

及川:こういったメイクコンセプト自体、日本からは発信されていないですよね。SNS映えが良く、拡散されやすいコンセプトを日本でも作っていくと良いのではないでしょうか。

東風上:広く発信していくという点では、日本ブランドが抱えるもう1つの課題、「プレゼン力の低さ」にも通ずる話ですね。

英語で自国プロダクトを発信するインフルエンサー不足

東風上:私の肌感にはなりますが、中国や韓国に比べ、YouTuberがコスメを英語で紹介する動画が日本は少ないと感じています。世界を巻き込んだインフルエンサーマーケティングに注力できていないことも、日本が遅れを取っている要因ではないでしょうか。

及川:確かに、韓国のプロダクトを使ったKビューティーについて、韓国人インフルエンサーが英語で紹介する動画はよく目にしますね。K-POPでも、英語が堪能なメンバーを抱えるグループが多い印象です。

Vogue公式チャンネルにて、韓国人モデル兼SNSスターのアイリーン・キムが、韓国美容を紹介している

芸能人に留まらず、美容系YouTuberも積極的に英語で韓国コスメ情報を発信している

韓国コスメが強いワケ

東風上:韓国が強いのは、国内人口の少なさゆえに、自国マーケットだけでは回していけないことに早い段階で気づき、国策として国をあげて音楽・ファッション・コスメなどのマーケティングに取り組んできたことです。

日本の化粧品工場が3.11でストップした時も、韓国はここぞとばかりに諸外国の化粧品会社へ営業をかけました。結果として多くの欧米会社が、それまで使ったことがなかった韓国のOEM会社にシフトチェンジしたといいます。ライフラインがかかっている韓国のプレゼン力と営業力には、目覚ましいものがありますね。

クッションファンデのような面白いアプリケーターを出していることもポイントです。成分だと「シカ」のインパクトも強いですよね。

及川:日本ブランドが優れているフォーミュラーやテクスチャーといった部分よりは、一見して特徴がわかりやすいものの方が受け入れられやすいのでしょうか。

東風上:メイクに詳しい人でない限り、アイキャッチが強いものに惹かれてしまうのは仕方のないことです。だからこそ、日本の強みを売り出していくためには、少しずつ消費者を啓蒙し、耕していくことが重要なんです。

また、フォーミュラーやテクスチャーが最先端を行き過ぎているということは、逆にいうと、国内ですでに発売・使用されているフォーミュラーを後に海外市場で流用しても、タイミングさえ合えば新しいフォーミュラーとして十分に通用するケースがあるということです。タイミングの見極めも重要なポイントかと思います。

及川:そのためにも、現地の消費者や市場の状況をしっかり観察し続ける必要がありそうですね。
海外と比較することで、これから日本ブランドが向き合っていくべきことがクリアになってきたように思います。東風上さん、ありがとうございました!

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https://manamina.valuesccg.com/articles/2079

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この記事のライター

大阪大学でポルトガル語とブラジル社会学を、カナダのビクトリア大学でビジネスを学び、2021年に新卒でヴァリューズに入社。データアナリストを経て、現在はマナミナのコンテンツマーケティングと自社の海外PRを担当しています。

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