骨格診断の起源はケネディ?戦略的なセルフプロデュースだった
骨格診断を一度は試したことがある方は多いのではないでしょうか。骨格診断とは、1人1人が生まれ持った骨格によって似合うファッションを知るためのメソッドです。
消費者がECサイトでの服選びの際に困るのが、何を選んだら自分に似合うのかが分からないということ。実際に店舗に行けば試着ができるのですが、ECサイトでは試着はできません。そこで服選びの一つの選択基準になるのが骨格診断です。
骨格診断では質問に対してYES、NOで答えるだけで、自分の体型に合うファッションをレコメンドしてくれます。この骨格診断の過程で消費者は選ぶ、悩むというストレスが取り除かれ、提案された洋服の購入ボタンを押すだけで自分に似合う洋服が買えるようになります。
また骨格診断は、「自分はどんなタイプになるのだろうか?」という期待感を煽り、ちょっとしたカードゲームのような体験を味わえます。ファッションにあまり詳しくない層でも、骨格診断を通してワクワク感を味わうことで、アイテムの購入につながるきっかけにもなるでしょう。このように、骨格診断のような体験型のファッション提案は、ファッションフリークでなくても楽しめる、ちょうどいいメソッドなのです。
一般社団法人 骨格診断アナリスト協会 | 骨格診断・自己診断
そもそも骨格診断の由来の原型とも言えるメソッドはアメリカから。
1960年代の大統領選挙で優勢のニクソンを抑えて圧勝したのは、まだキャリアも短く若いケネディでした。ケネディ圧勝の背景の一つに、ファッションを利用したイメージコンサルティングによる、セルフプロデュース戦略があったのです。ケネディが一番格好良く見えるスタイリングをすることで民衆を惹きつける、いわば「戦略的ファッション」で闘ったということですね。
アメリカで人気となっていた、パーソナルカラー分析から成り立つセルフプロデュースのメソッドは、次第にイメージコンサルティングや、一部の化粧品会社による訪問販売接客カウンセリングとして日本で普及していきました。
時を経て、日本市場のスタイルにアレンジして、カードゲームのように一般向けに落とし込んだのが、骨格診断やイエベ、ブルベ診断なのです。
骨格診断ブームは新型コロナが影響
さてなぜ今、骨格診断が注目されているのでしょうか?
アパレル業界の状況を背景情報として見ていくと、おそらくコロナの影響を受けて、アパレル市場の売上は2020年に一気にダウンとなりました。
株式会社矢野経済研究所 | 国内アパレル総小売市場規模推移
調査期間: 2021年7月~9月
調査対象: アパレルメーカー(総合アパレル,メンズアパレル,レディスアパレル,ベビー・子供アパレル他)、小売業(百貨店,量販店,専門店,その他)、業界団体等
店舗が苦戦を強いられる中、多くの企業がECサイトへのシフトチェンジや従来の店舗販売の見直しをおこなった経緯があります。下の表を見ると、「衣類・服装雑貨等」のカテゴリは、2020年・2021年のEC市場売上やEC化率の伸びが高く出ていることがわかります。
ebisumart|国内BtoC-ECの物販系分野の業界別伸長率(伸び率)
経済産業省「令和3年度電子商取引に関する市場調査報告書」(2022年8月発表)、「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」(2021年7月発表)よりebisumart本記事の筆者作成
そんな中、「骨格診断」はファッション業界の売上が落ち込んだ頃から検索者数が伸びています。ECでのオペレーションに注力し始めたファッション業界が、「ECでは自分に似合う服がわからない」という消費者にリーチするために骨格診断を取り入れ始めたと考えられます。
なお分析には、毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザで競合サイト分析やトレンド調査を行えるヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit」を用いています。
「骨格診断」検索者数の推移(「Dockpit」画面キャプチャ)
調査期間:2019年11月~2021年10月
デバイス:PC&スマートフォン
メンズ骨格診断の市場に迫る
さて、アメリカから始まり、コロナ禍が後押しになって注目が集まる「骨格診断」ですが、消費者による男性ファッションへの導入も起こっているのでしょうか。
Dockpitで骨格診断を検索した人の男女比を見ると、男性は10%未満となりました。骨格診断を検索するほどの興味があるのは、現状では女性が圧倒的多数とわかります。
「骨格診断」検索者の性別割合(「Dockpit」画面キャプチャ)
調査期間:2021年10月~2022年9月
デバイス:PC&スマートフォン
一方で骨格診断と掛け合わせて検索されるワードを見てみると、検索者数は「男性」が1位、「メンズ」が3位という結果に。推移を見てみると、特に「メンズ」は安定して検索者の増加が見られます。
「骨格診断」掛け合わせ検索ワードランキング(「Dockpit」画面キャプチャ)
調査期間:2021年10月~2022年9月
デバイス:PC&スマートフォン
この2つの掛け合わせ検索について、検索者の性別割合を見ると、「男性」は女性が半数を超えているものの、「メンズ」は男性が8割と大半を占めています。「男性」との掛け合わせは女性が自分のパートナーやご家族について、「メンズ」は検索者が自分自身について検索が起こりやすいワードと思われます。ターゲットにしたい人によって、ワーディングを選択することもできそうです。
「骨格診断」と「男性」「メンズ」各ワード掛け合わせ検索者の性別割合
(「Dockpit」画面キャプチャ)
調査期間:2021年10月~2022年9月
デバイス:PC&スマートフォン
男性ユーザーをターゲティングしたい場合、「メンズ」との掛け合わせが良さそうということがわかってきましたが、実際に「骨格診断」と「メンズ」で検索したユーザーはどのページをよく見ているのでしょうか。
「骨格診断」と「メンズ」で掛け合わせ検索した際の流入ページ
(「Dockpit」画面キャプチャ)
調査期間:2021年10月~2022年9月
デバイス:PC&スマートフォン
一般的な骨格診断でなく、男性向けのものが流入上位を占めていることがわかります。1位のページでは、骨格や関節だけでなく、男性の筋肉のつき方なども診断のポイントに加えられていました。
さらに骨格診断と検索しているユーザーを男性に絞って見てみます。すると、2022年5月あたりに顕著な伸びが見られたことをはじめとして、男性からの注目が高まっていることがわかりました。こうした男性側のニーズの高まりに対して、先程のような男性を専門的に診断したり、診断結果にもとづいたメンズファッションを提案するようなページが受け皿になっていると思われます。
「骨格診断」男性検索者数の推移(「Dockpit」画面キャプチャ)
調査期間:2020年10月~2022年9月
デバイス:PC&スマートフォン
上のグラフと同じような伸びが見られるのが、「ユニクロ」との掛け合わせ検索です。下図は男性の骨格診断検索者に絞った際に、掛け合わせとして多かったワードを表していますが、5位の「ユニクロ」は2022年5月に急増していることがわかります。
「骨格診断」男性検索者の掛け合わせワード(「Dockpit」画面キャプチャ)
調査期間:2021年10月~2022年9月
デバイス:PC&スマートフォン
「骨格診断」と「ユニクロ」の掛け合わせ検索後の流入ページを見てみると、流入者数1位のページはユニクロが2022夏に向けて組んだ骨格診断のスタイリング特集でした。このページが夏に向けて早めに公開された可能性を考えると、2022年5月に検索者が増えたことと辻褄が合いそうです。
ユニクロ|私に「似合う」がわかる、骨格別スタイリング特集
https://www.uniqlo.com/jp/ja/special-feature/skeletal-diagnosis
マスブランド・婚活での導入など...骨格診断の今後
ファッションの観点で見れば、上述のユニクロの洋服は色、デザイン、種類などが多様で低コストであることから、骨格診断と相性が良いといえます。その特徴を活かして、ニーズの高まりにいち早く応えているアパレルブランドといえるでしょう。
一方で、骨格診断をメンズ市場にどのように落とし込めるのか考えたとき、ハイブランドは骨格診断を打ち出しにくいと考えられます。ハイブランドには独自のデザイン性があり、またシーズンごとにデザインやテーマ性が異なるため、骨格診断に当てはめることが難しい傾向にあります。これはメンズブランド、レディースブランドともに言えることです。ハイブランドが公式に骨格診断を活用するとブランドイメージがマス化してしまうため、骨格診断を押し出すとすれば、デザインと色が豊富に取り揃えられているマスブランドがより適していると言えます。
骨格診断を取り入れたビジネスは、ファッションサイトだけでなく、婚活サイトや転職サイトでも活用されています。ユーザーの印象をアップするためのファッションを提案するという点で、骨格診断は汎用性が高いといえます。
emiria | 婚活には武器だって必要【顔タイプ診断・骨格診断・パーソナルカラー診断メニュー追加です】
※一部抜粋して加工済み
リクルートダイレクトスカウト | スーツの着こなしをランクアップさせる「骨格診断®」を知っていますか【前編】
転職サイトでも骨格診断が取り上げられている
男性からのニーズの高まりに応じながら、骨格診断や、それに類する「自分の最適な見せ方」を提案するようなメソッドは、これからも様々なビジネスで活用されていくのかもしれません。今後どのような活用をされていくのか、どのような新たなメソッドが登場するのか、注目していきたいところです。
▼今回の分析にはWeb行動ログ調査ツール『Dockpit』を使用しています。『Dockpit』では毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザでキーワード分析やトレンド調査を行えます。無料版もありますので、興味のある方は下記よりぜひご登録ください。
5.cinq.代表 Takae Kochigami
LAにて特殊メイクアップにまでおける全てのprofessional課程を取得後LAにてフリーランスで活動後、帰国。日本ロレアル同社ブランドであるランコム、ジョルジオアルマ—ニ等のメイクアップデレクション、数字構築に携わる。
後にシャネルパリ本社からヘッドハンティング。エグゼクティブメイクアップアーティストに就任。製品開発、メイクアップ指導、メディア活動、バックステージ活動、日本市場におけるシャネルメイクアップアーティストを牽引し新評価制度を創り上げる。
2015年独立。化粧品開発、美容、アパレル業界をはじめ業界向けのセミナー、コンサルティング、メイクアップ指導、メディア活動の傍ら、一般向けのプライベートメイクアップアトリエを表参道にて主宰。