中国の健康消費の新トレンド ~ 若者に人気の「中式養生水」

中国の健康消費の新トレンド ~ 若者に人気の「中式養生水」

中国の経済発展につれ、飲料の選択にも変化が見られるようになりました。かつては、炭酸飲料が売上ランキングを独占していましたが、中国人の健康意識の高まりとともに、高糖分の飲料が体に与える負担が認識されるようになり、無糖茶飲料が新たな市場の主役となりました。無糖茶は、さっぱりとした味わいと低カロリーという特徴を持ち、健康志向の消費者のニーズを満たしてきましたが、過去には味わいと機能性の両面で十分に満足させるものではありませんでした。こうした中、さまざまな改良が加えられ、伝統的な養生理念と現代的な飲料の形態を融合させた新カテゴリー「中式養生水」が登場し、注目を集めています。


飲料市場における中式養生水の台頭

「中式養生水」とは、小豆、ハトムギ、クコの実、ナツメ、緑豆などの伝統的な食材を煮出したり、抽出したりして作られた植物性飲料のことを指します。この飲料は、天然由来の健康的な成分を前面に押し出し、紅豆薏米水(こうずいばくみず)、枸杞紅棗水(くここうそうすい)、緑豆水(りょくとうすい)、龍眼水(りゅうがんすい)、金銀花水(きんぎんかすい)、トウモロコシ髭茶(ひげちゃ)など、さまざまな種類があります。近年の若者たちが求める「養生=健康維持」の新たなニーズにぴったりと合致しているのが特徴です。

前瞻産業研究院が発表した「2024年中国中式養生水業界発展トレンドインサイト報告」によると、2023年の中国の中式養生水市場規模は約4.5億元(約90億円)に達し、前年比350%以上の成長を記録しました。今後5年間で、この市場は年平均88%以上の成長率で拡大すると予測され、2028年には1,000億元(約2兆円)を突破する見込みです。この急速な市場拡大を受け、多くのブランドが次々とこの分野に参入し、競争が激化しています。

飲料ブランド間の激しい競争

2022年に硬核研究所が発売した「一整根人参水」(いっこまるにんじんすい)は、瞬く間に中国で話題となり、市場にブームを巻き起こしました。この製品は、朝鮮人参が丸々一本入っているのが特徴で、中式養生水の先駆け的なブランドとして認知されるようになりました。価格は19.9元(約400円)と手頃に設定されており、朝鮮人参を配合することで、健康と利便性を求める若者層の心を掴みました。

2024年に入ると、中式養生水市場の競争はさらに白熱。大手飲料ブランドの元気森林は「元気自在水(げんきじざいすい)」シリーズを発表し、紅豆薏米水(こうずいばくみず)、紅棗枸杞水(こうそうくこすい)、清爽緑豆水(せいそうりょくとうすい)の3種類を展開しました。
「ゼロ糖・ゼロ脂肪・ゼロカロリー」をコンセプトに打ち出し、市場で爆発的な人気を獲得し、その結果、2024年の年間売上は100億元(約2,000億円)を突破、ブランド内で最も成長の速い商品となりました。特に、紅豆薏米水には東北産の希少な真珠紅豆と貴州産の薏仁米を使用し、紅棗枸杞水には新疆産の紅棗と寧夏産の枸杞を採用するなど、原料の品質にもこだわりを見せています。

人気ブランド以外、伝統医薬ブランドの参戦も注目されています。
例えば、北京同仁堂は、新しい小売ブランド「知嘛健康(ちまけんこう)」を立ち上げ、夜更かし世代をターゲットにした「熬夜水(夜更かし水)」を発表しました。この製品は、大棗(なつめ)、高麗人参スライス、羅漢果を配合し、肝臓をいたわり、体を守ることをコンセプトに掲げています。しかし、市場に出回っている他の養生水と比較すると、販売価格は29元(約580円)と高く、業界の平均価格を大きく上回る水準です。この価格は「一整根人参水」よりも10元(約200円)高く、高級志向の製品としての位置づけを強めています。

このように、多様な企業が続々と中国の飲料水市場に参入しています。この市場の成長を見据え、好望水(こうぼうすい)、ネスレ、東鵬といった国内外の企業も次々と中式養生水市場への参入を進めています。競争が激化する中、各ブランドは単に「原材料の純度」や「健康的なイメージ」を競うだけでなく、パッケージデザインにも力を入れており、特に、見た目にもこだわる若年層の消費者をターゲットに、おしゃれで洗練されたデザインの製品を次々と打ち出し、市場での差別化を図っています。

なぜ養生水が中国で爆発的な人気を集めているのか?

無糖茶市場が養生水ブームを下支え

中式養生水の急成長は、無糖茶市場の拡大と切り離せません。2023年以降、中国の飲料業界の大手メーカーだけでなく、食品、乳製品メーカーも続々と無糖茶市場に参入し、さらに新興のスタートアップ企業も加わることで、無糖茶は中国全土に急速に普及しました。

ニールセンIQのデータによると、2023年6月~2024年5月の間に、中国のオフライン市場における無糖茶の売上は113%増加し、全国の販売店舗数も前年同期比105%増加しました。しかし、2024年秋以降、中国の無糖茶の市場成長は鈍化の兆しを見せ始めました。こうした背景のもと、より豊かな風味と明確な機能性を持つ中式養生水が次なる健康飲料の成長カテゴリーとして注目を集めるようになりました。

元気森林の人気無糖茶

若者の「健康不安」に養生水がもたらす安心感

中式養生水が急速に広まった理由の一つに、若年層の健康不安があります。炭酸飲料には多くの食品添加物が含まれているのに対し、中式養生水の原材料は水と天然食材が中心であり、保存料としても食用グレードの重曹が使われる程度です。さらに、「ゼロカフェイン・ゼロ人工甘味料」を強調する商品も多く、一部の製品は氷砂糖を使用しながらも「ゼロ糖」を掲げることで、健康志向の消費者に訴求しています。こうした特徴から、中式養生水は「白湯の代替品」として人気を集めています。白湯が苦手な健康を意識する層にとって、手軽に取り入れられる飲料となっているのです。

また、中式養生水の流行は単なる健康意識の高まりだけでなく、「心身の慰め」を求める心理的なニーズとも密接に関連しています。
中国の若者は、都市部での生活リズムの速さや、仕事のプレッシャー、長時間の夜更かし、不規則な食生活、運動不足といった問題を抱えており、慢性的な「未病」状態に陥りがちです。彼らはまだ本格的な病気にはなっていない今、体調を整えたいという漠然とした願望を持っています。大きくライフスタイルを変えることなく、手軽に「健康的な選択」をしたいというニーズに、中式養生水がぴったりとマッチしたと言えます。

さらに、多くの中式養生水のネーミングには伝統的な東洋医学の知識に基づく効能が込められています。例えば、「清熱降火(体内の熱を冷まし、のぼせを防ぐ)」「祛湿排毒(湿気を取り、デトックス効果)」など、自分の体調に合わせて選べるようになっている点も、中国の消費者の共感を呼んでいます。

中国の若者と中式養生水に見る、未来の展望

中国の新しい世代の担い手である若者にとって、車を買い、家を購入して高額な借金を背負うことは前の世代の生活様式であり、今の若者たちは心のバランスとシンプルな生活を重視しています。しかし同時に、彼らは適度な「小さな幸せ」を追求しており、軽い贅沢消費を通じて自分を労わり、身心の喜びを高めることにも関心を持っています。

中式養生水の登場は、中国の健康消費のアップグレードのトレンドを反映しており、若者たちの増え続ける養生ニーズを映し出しています。市場がさらに発展するにつれて、ブランド間の競争はますます激しくなり、製品革新が勝負の決め手となるでしょう。
将来的には、機能性を重視した差別化されたレシピや、現代的なライフスタイルに合わせた便利なパッケージデザイン、さらに異なる体質や生活様式に応じたカスタマイズされた養生水が登場し、より多様化する消費者ニーズを満たす製品が登場することが予想されます。

参考資料

微穷年轻人的下一个超级饮品:中式养生水
https://finance.sina.com.cn/tech/roll/2025-01-16/doc-inefenpv6098709.shtml
进入冬季,养生水接过无糖茶“流量”
http://www.news.cn/food/20241015/6752d5dced544b78a115f7519a005994/c.html
今夏,年轻人偏爱中式养生水
http://paper.people.com.cn/rmrbhwb/html/2024-08/13/content_26074475.htm
养生水,大战春节餐桌
https://www.cbndata.com/information/293594
「夜更かしに効く朝鮮人参丸々1本ドリンク」登場 その効果は?
http://j.people.com.cn/n3/2022/0628/c94476-10116063.html

この記事のライター

広東省出身の中国人留学生。現在は名古屋大学でメディアを専攻している。

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