趣味
子供の頃からこれといった趣味はありません。どちちらかというと忍耐力に欠け、落ち着きがない性格が関係しているのかもしれません。大人しくしているのは読書をしている時ぐらいですし。趣味といえるか、外をほっつき歩くのが大好きで、初めて訪れる街を歩く機会があると前日から胸躍ります。初めての街で好奇心を満たす何かを発見したいからです。
一時期、バッジやペナント、切手、テレホンカードなどを収集していましたが、今やどこへ消えたのか、いつの間にか手元には何も残っていません。ただ、他人の収集したモノを羨ましいと思ったり、欲しがったりした記憶もありません。あまり面白味?のない人間なのかもしれません。小学生の頃、鉱物の収集をしている友人(よく考えるとオタク?)がいました。その知識量たるや大人も顔負けで、驚かせられたり、感心したり、子供ながらに自分に相応しい趣味を持つことに憧れました。時間が経つのは早いものです。仕事以外に熱中できることが殆ど見つからず、いつの間にか還暦を過ぎた自分の不甲斐なさに呆れています。
オタク(ヲタク)
アニメやアイドル、マンガなどサブカルチャー(傍流文化)のある特定の領域・分野に関心を持ち、そこにアイデンティティを持つ人々をオタク(ヲタク)と呼びます。愛好者、こだわりを持つ人、深い造詣と創造力を有して情報発信力を持ち創作活動を行っている人々、関心ある対象に対しては時間やお金を集中して消費する人々、などが一般的な定義です。一方、ネガティブな定義として、社会から理解し難いサブカルチャーに没頭したコミュニケーション能力に欠ける人々、会話が成り立たない人々、根暗などとも捉えられています。
英語でオタクを指す言葉はGeekもしくはNerdです。両方にはニュアンスの違いがあり、使用する上では要注意です。Geekは(社交的な)マニアという意味で、基本的にはポジティブな意味合いです。特定の分野に対して、異常なほど詳しくマニアックな人を連想できます。Nerdは(内向的な)オタクです。Geekより利口な印象を持ちますが、人とのコミュニケーション能力に欠けるため、会話の中であえて難解な用語を用いたりします。外見もオタクらしき人々が殆どです。さらに、日本オタクを示すWeeb(Weeboo)という言葉もあります。日本のアニメは水準が高く魅力的で、その影響でオタクになった人々が世界中に存在します。韓国文化(ドラマやアイドル)のオタク、Koreabooという言葉も最近使われます。
これまでのオタク市場は、鉄道やゲーム、アイドル、アニメなど一部のジャンルが対象でした。しかし、最近ではあらゆる領域・分野でそれに精通する人々をオタクと総称するようになり、オタクの定義は拡大しています。また、オタクの人口そのものも増加する傾向です。そのため、オタク市場も様々な業界・業種から注目されています。オタク一人当たりの消費額は高く、自分の欲しいモノや好きなモノには惜しむことなく消費あるいは投資する傾向にあり、企業はその動向を常に探っています。
オタ活(ヲタ活)、推し活
オタク活動の略称が「オタ(ヲタ)活」です。その活動内容は定義づけされていませんが、自分自身がその活動自体を「オタ活」と思っているかがポイントです。「推し活」は大好きなアイドルや俳優、ゲームのキャラクターなどを「推す」活動、つまり応援・支援する活動です。応援消費の考えに含まれる消費行動といえます。例えば、アイドルグループから特定の一人を「推す」場合は『単推し』、グループ全体を「推す」場合は『箱推し』と呼びます。
以前はオタクには、現実的にも小説や映画の中でも、ネガティブなイメージがつきまとい、できればつき合いたくない人々と思われがちでした。近年では、特にZ世代の若者達は、オタクであることをむしろ誇りに思う傾向があり、オタクは今までとは全く異なる位置づけとなっています。その理由として、SNSの普及があります。Web上で対象を検索し、情報収集し、好みとあらば「オタ活」、「推し活」を始めるといった日常が存在しています。SNSを活用して情報交換し、積極的にオタ友を作り、「沼る(沼にはまるように没頭する)」というコミュニケーションのあり方はこれからのオタク文化の方向性を示しています。デジタルネイティブ世代にとって、SNSもオタクも生活の一部になっているといっても過言ではありません。オタクであることは変わったことではなくなったのです。
オタク時代
Z世代では初めて出会った際の自己紹介の場面で、自然にオタクや推しを公表することも珍しくないようです。すでに「オタ活」、「推し活」は一般的になりつつあります。オタク文化が隆盛になると、マイノリティーであったオタク達が勢いを増し、形勢逆転ともいうべきオタクというキャラクターが尊重される時代になってきます。「オタ活」、「推し活」の経済効果もそれにつれ拡大するため、ファンクラブ会員限定の特典などのクローズなものから、よりオタク文化のトレンドに合わせた商品・サービスの提供が必要になります。
今や好きなことやモノを隠さずに自ら公表できる時代が到来したと考えても良いと思います。今までは好きな気持ちを抑え、封印してしまう隠れオタクも数多く存在しました。好きなことやモノを誰かに伝える行為は自分をさらけ出すことになります。ただ、それが認められる環境であれば自己肯定感を高めることに繋がります。すなわち、応援・支援する対象を持つことは自分を応援・支援することなのです。さらに、オタク文化が力を持つことにより、オタ友達とお互いに応援・支援し合い、お互いを高め合うといった新しいコミュニケーションが生まれ、一段と自己肯定感が高まり、積極的な人生感を持てるようになります。
オタクが世界中に出現し、グローバルな規模で情報交換を行うことにより、オタ友が量産され、オタク人口が増大し、新しいオタク文化や多種多様な「オタ活」、「推し活」が誕生し、経済面でも新しいオタク市場が成立する、まさに多文化共生社会の証しです。
昨年のダボス会議の話題は複合危機(Polycrisis)でした。世界はまさしく混迷の時代にあります。明るい話題は少なく、先行き不透明であり、問題や課題が山積しています。そこに、一筋の光と希望の星としてオタクの存在があります。ここにオタク時代を宣言します。
【関連】トレンドの「推し活」。ファン活動の実態と行動原理を探る |ホワイトペーパー
https://manamina.valuesccg.com/articles/20552021年の流行語大賞にもノミネートされた「推し活」。急速に知名度を上げたこのワードの検索者数は、2020年9月から2022年8月までの2年間で10倍以上に急増しました。どういう人が、どういう媒体を利用して、どんなものを推しているのか?熱量が減少する要素とは?「推し活」の実態を徹底調査しました。(ページ数|34ページ)
株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。