企業イメージ経営 ~ 色の効用

企業イメージ経営 ~ 色の効用

自分を効果的に見せる色「パーソナルカラー」を用いて、自らを更に効果的に演出するように、企業にも色彩を活用することにより“その戦闘力は想像以上に破壊力を持ち、企業経営への活かし方が改めて注目される”といいます。色彩の持つ力は企業にとっていかなるイメージ戦略を構築できるのか、本稿では「環境保全」という視点からの色彩イメージ戦略についても触れながら、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長を務めている渡部数俊氏が解説します。


源氏と平家

徳島へ旅行した際、秘境として有名な祖谷のかずら橋を渡ってきました。この辺りには平家の落人伝説があり、実際に安徳天皇の主治医堀川内記の子孫が代々生活していたといわれています。追手が近づいた場合には、かずら橋をいつでも切り落とすことができたとの伝承もあります。全国に分散する平家の落人が居住していたという地域から、平家のシンボルである古びた赤旗が見つかっています。源氏と平家は白と赤で区別され、およそ日本で初めて企業ブランドを色分けして表現し、コーポレートカラーの草分けともいわれています。源氏は東国、平家は西国と地域別でもあります。天下分け目の戦い関ヶ原の合戦も大雑把には東西に分かれた戦いでしたし、結果的には明治維新も東西の戦いとなりました。武士の旗印として、源氏と平家、ライバル同士が白と赤で色分けされ、東西同様に二つの陣営に別れました。まさしく、長く続く武士の世のはじまりにふさわしいシンボリックな色分けでした。源氏や平家の子孫は様々な地域で争いながら、封建社会を生き抜きました。紅白は未だに運動会や歌合戦などの様々なイベントで使用され、戦闘モードを高める旗印となっています。

源氏と平家

環境と色

小中学生の頃、大気汚染や水質汚濁、土壌汚染、騒音、悪臭など公害の悲惨さについて、毎日のようにマスコミで報道されていました。話題の東宝のゴジラ70周年記念作品「ゴジラ−1.0」は観る者を圧倒する程の大迫力で一見の価値がある秀作ですが、私にとってゴジラ映画の中で特に印象に残っている作品は「ゴジラ対ヘドラ」です。当時子供達のヒーロー、ゴジラが気味の悪い得体のしれない公害怪獣ヘドラと戦う映画で、静岡の田子の浦が舞台でした。昔から風光明媚で名高い田子の浦は60年代から70年代前半にかけて、ヘドロに蝕まれ水質汚濁が著しく、反公害運動が盛んでした。ヘドロの影響でオタマジャクシから変貌を遂げた公害怪獣ヘドラと戦う正義のゴジラを夢中で応援したのを想い出します。当時、「公害」は老若男女に広く認知された言葉でした。

1920年代から日本でも「企業の社会的責任(CSR)」が議論されてきましたが、実際の高まりを見せたのは70年代の「反公害運動」や「消費者運動」からです。反公害運動や消費者団体を先頭にした消費者運動は、企業の意思と離れた行動原理・原則を持ち、非常に能動的で社会におけるパワーとなりました。そうした背景もあり企業優位の姿勢から、消費者など様々なステークホルダーを有する社会との共生が経営上の重要課題となりました。ただ、当初の「企業の社会的責任」は企業にとっては必要不可欠な(プル型)ものであり、最近のSDGsやSRIをめぐる企業戦略上の武器(プッシュ型)としての取り扱いとは異なります

いつの間にか「公害」は使用されなくなり、「環境」という言葉が幅を利かすようになりました。「環境」に配慮しているというイメージを企業の重要な武器と位置づける有力企業が増えたことが一因です。環境のイメージを表現する色彩として、緑や青、それに近い色が思い浮かびます。企業イメージが向上した企業は緑や青を宣伝や広報に上手く活用しました。緑と青は「公害」を防ぐ企業から「環境」に配慮する企業へと企業イメージを変えたのです。

環境と色

景観デザインと色

歴史と伝統ある美しい街並みを誇る京都には、色が控えめな看板や建物を見かけます。多くの歴史的建造物が存在する景観を保持するための街づくりが整備されています。景観を守るために2007年に制定された景観条例「京(みやこ)の景観ガイドライン」によって、色やデザイン、屋外の広告、建物の高さなどに関する決まりが厳しく設けられています。街の雰囲気を守り統一された色やデザインは、美しさと落ち着きのある印象を演出しています。景観条例とは良好な都市景観の形成を目的に、各都道府県で細かく条例が制定されています。美しい街並みを保持するためには一般の地区に比べて歴史的な地区は細かいルールがあり、比較的落ち着いたトーンの色合いが求められます。京都では日本全国に点在する人気企業から、世界で知られる有名チェーン店までがその厳しい規定をクリアした看板やロゴマークを使用しています。また、郵便ポストまでも赤ではなく茶色であったり、瓦や竹をモチーフとした和風なデザインも目立ち、世界でも京都にしかない風合いにその姿を変えています。色の持つ力を有効に活用することは継続的な街づくりには必要不可欠なのです。

景観デザインと色

コーポレートカラー

コーポレートカラー(=シンボルカラー)は企業や団体、組織を象徴する色です。ロゴマークや看板、商品、パッケージ、名刺、Webサイト、店舗などあらゆるコンタクトポイントに統一して使用することで企業ブランドを構築し、多様なステークホルダーに対してのコミュニケーションを可能にします。強いブランドは企業や商品と色が強く結びついて人々に記憶されています。また、色は景況感を表現するといわれるように、色から連想するイメージが直接的に企業の積極性を表しているとさえいえます。企業理念やビジョン、パーパスも適切なコーポレートカラーを選び出すことでその意味や方向性を表現できると考えられます。

新しくコーポレートカラーを決める際の6つの要素を取り上げます。①競合との差別化。通常、同業や競合と同色では差別化は困難です。業界や社風を考慮した上で、同色にする場合は色のトーンに変化をつける必要があります。②企業カルチャーの可視化。無形資産である企業カルチャーにふさわしい色を見極めて導入すべきです。③色の持つ典型的なイメージ。人の心理に働きかけるには青はクールで知的、赤は情熱的でエネルギッシュ、黄色は快活でフレンドリー、オレンジは親しみやすく家庭的、ピンクは可愛くて優しい、など典型的ではありますがそれぞれの色は企業イメージの連想に欠かせません。➃無彩色を選択。黒やグレーを敢えて選択することで、扱う分野が幅広く多様性を重視した企業イメージを醸成することが出来ます。無彩色は多様性を表すシンボルともなります。⑤業種や領域の検討。海や空に関する業界は青、森林や環境は緑、新しい業種・業界は白、など色からのイメージが膨らみやすいといえます。⑥社名や商品名からの創造。社名や商品をネーミングするには、色も念頭にした様々なアイディアから生まれたはずです。その過程に踏み込んで色を決めます。

戦略的に選択したコーポレートカラーは、企業の特別な想いが込められているはずです。色の持つ戦闘力は想像以上に破壊力を持ち、企業経営への活かし方が改めて注目されます。

この記事のライター

株式会社創造開発研究所所長。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。

関連するキーワード


渡部数俊 ブランディング

関連する投稿


ニューコンビネーション ~ イノベーションの本質

ニューコンビネーション ~ イノベーションの本質

「イノベーション」と聞くと「技術革新」と思いつきがちですが、その本質にはどのような意味があるのかをご存知でしょうか。実は技術だけを対象にした概念ではなく、幅広い革新となる「新機軸」を指すとのこと。では経済成長を促すこの「新機軸」となり得るものとは一体何か。広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長を務めている渡部数俊氏が、オーストリア出身の経済学者ヨーゼフ・シュンペーター氏の「経済発展の理論」や大前研一氏の考えを引用しながら、「イノベーション」の本質や既存の商材などを組み合わせて新たな価値を創造する「ニューコンビネーション」について解説します。


意思決定論 ~ これからの組織運営

意思決定論 ~ これからの組織運営

「迅速な意思決定」が企業運営に重要であるということは、数多くの経営者には常識であることかと思われます。しかし、迅速な意思決定と一口に言っても、具体的には解決すべきものは何か、何から手をつけるのか、何に気配りしていかに実行するのか、明確に説明するのは簡単ではありません。本稿では、意思決定を「因数分解する」という考え方から始め、VUCA(不確実で複雑、不透明で曖昧な社会情勢)の時代を泳ぎ抜くための意志決定など、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長を務めている渡部数俊氏が、意志決定の真意と重要性について解説します。


教育者たち ~ 名伯楽の存在

教育者たち ~ 名伯楽の存在

少子高齢化社会の今、目を向けるべきなのは高齢化だけではありません。未来の担い手である子供たちをどう育成するか、教育方針や教育を取り巻く環境も再注目されています。どのような人材が今求められているのか、どのような環境が必要なのか。その議論の中心に欠かせないのは「教育者」の存在です。本稿では広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長を務めている渡部数俊氏が「名伯楽」にフォーカスし、現在の「教育者」や教育を取り巻くさまざまな現状について解説します。


資生堂「SHIFT 2025 and Beyond」に込めた想いとブランディングを成功に導く視点|株式会社資生堂代表 魚谷氏に訊く【後編】

資生堂「SHIFT 2025 and Beyond」に込めた想いとブランディングを成功に導く視点|株式会社資生堂代表 魚谷氏に訊く【後編】

資生堂 会長 CEOの魚谷雅彦氏は、3年前倒しで売上目標1兆円を達成した後、コロナ禍でも様々な取り組みを実行してきました。新たに中期経営戦略として策定された「SHIFT 2025 and Beyond」には、どのような想いがあったのか。自社ブランディングを成功させるために必要な視点も合わせて、マーケティングのプロフェッショナルである魚谷氏にヴァリューズ 代表取締役社長の辻本が伺いました。


資生堂の中期経営戦略「VISION2020」で実行した構造改革と2030年への展望|株式会社資生堂代表 魚谷氏に訊く【前編】

資生堂の中期経営戦略「VISION2020」で実行した構造改革と2030年への展望|株式会社資生堂代表 魚谷氏に訊く【前編】

資生堂 会長 CEOの魚谷雅彦氏は社長への着任後、「世界で勝てる日本発のグローバルビューティーカンパニー」となることを宣言し、資生堂のオリジンをしっかり出しつつも、様々な取り組みを実行。100年先も輝き続ける会社を目指し、短期目線ではなく中長期での成長実現に向け、取り組んできた想いや狙いをヴァリューズ 代表取締役社長の辻本が伺いました。


最新の投稿


データ・ワン、実店舗購買データを元に類似顧客を推計して配信する新広告ソリューションの提供開始

データ・ワン、実店舗購買データを元に類似顧客を推計して配信する新広告ソリューションの提供開始

株式会社データ・ワンは、株式会社NTTドコモが保有するドコモ独自の顧客プロファイリングAIエンジン「docomo Sense™」を活用した広告ソリューション「co-buy® Audience Plus(コーバイ・オーディエンスプラス)」の提供を開始したことを発表しました。このソリューションにより、データ・ワンが保有する小売事業者の購買データを元に類似顧客を推計し、質の高さとリーチ量を兼ね揃えた広告配信が可能となるといいます。


スマホゲームを毎日プレイする人が約7割!全世代の女性に好かれる「ディズニーツムツム」【クロス・マーケティング調査】

スマホゲームを毎日プレイする人が約7割!全世代の女性に好かれる「ディズニーツムツム」【クロス・マーケティング調査】

株式会社クロス・マーケティングは、スマホゲームを月1回以上プレイしている全国15~69歳の男女を対象に「ゲームに関する調査(2024年)スマホゲーム編」を実施し、結果を公開しました。


日用品は同じ商品を繰り返し買う"安定派"の一人暮らし女性が約8割!一方で約3人に1人が新商品を衝動買いした経験あり【eBay Japan調査】

日用品は同じ商品を繰り返し買う"安定派"の一人暮らし女性が約8割!一方で約3人に1人が新商品を衝動買いした経験あり【eBay Japan調査】

eBay Japan合同会社は、全国の一人暮らしをしている女を対象に「日用品の買い替えに関する調査」を実施し、結果を公開しました。


レトロブームで再燃? コンデジやチェキ、写ルンですの消費者ニーズをデータで深掘り

レトロブームで再燃? コンデジやチェキ、写ルンですの消費者ニーズをデータで深掘り

「コンデジ」「チェキ」「写ルンです」。この言葉を聞いて懐かしいと思う大人は多いかもしれません。スマートフォンの普及によって、カメラを買う機会は減少傾向にありました。しかしながら、最近はZ世代の間で「レトロ」が注目を集め始め、コンデジブームがやってきました。データ分析を通してそれぞれのカメラの関心層を分析します!


デジマの課題は「ノウハウ不足」と「ツール」に集中 デジタル顧客体験の改善が明確な注力領域に【Repro調査】

デジマの課題は「ノウハウ不足」と「ツール」に集中 デジタル顧客体験の改善が明確な注力領域に【Repro調査】

Repro株式会社は、消費者向けWebサイト・サービスを保有する企業の事業・サービス責任者を対象に、「Webサイトの活用状況に関するアンケート」を実施し、結果を公開しました。


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

アクセスランキング


>>総合人気ランキング

ページトップへ