■スピーカー紹介
図:本日のスピーカー
株式会社電通 シニア・ソリューション・ディレクター 福田 博史氏、株式会社電通 シニア・ソリューション・プランナー 上西 美甫氏、株式会社電通 シニアコンサルタント 蟹江 淳氏、GLIN Impact Capital 代表 中村 将人氏、株式会社ヴァリューズ マネジャー 松前 薫
はじめに|出発点は昨年のVALUES Marketing Diveでの登壇スピーチ
株式会社電通 福田博史氏(以下、福田):まず、今回このセミナー登壇へと至った経緯をお話します。昨年、私がこの「VALUES Marketing Dive」に登壇した際、「Dockpit活用方法。仮説をもう一段上げる3C分析」と題してお話しました。その中で、DockpitはURL単位の集計が可能なため、任意のファネル分析ができると紹介したところ、すぐに上西さんから「興味がある」との声がかかり話が拡がったのがきっかけです。
株式会社電通 上西美甫氏(以下、上西) :私もそのセミナーを視聴していたのですが、セミナーでの紹介通りURL単位での集計分析が可能であるならば、クライアントの統合報告書ページなどの来訪者分析も可能なのではないかと考え、相談を持ちかけました。
株式会社電通 蟹江淳氏(以下、蟹江):はい。膨大な情報量の統合報告書を一体誰が見ているのかということに元々興味もあったので、喜んで話に加わりました。
図:昨年の「VALUES Marketing Dive」資料
株式会社ヴァリューズ 松前薫(以下、松前):今回のセミナーではさらにDockpitをマーケティングの枠だけに留まらせず、もう一段飛躍して事業推進や事業開発に活用して頂くという目的をキーにした内容にしようと、福田さんから投資家の中村さんをご紹介頂いたのが今回のセッションが生まれた経緯の一つです。
福田:中村さん、実際Dockpitを操作した感想はいかがでしたか?
GLIN IMPACT CAPITAL 中村将人氏(以下、中村):自席にいながら、生活者がどのようなWebページを検索しているかがわかり、なおかつ生活者目線での分析ができるというのは非常に便利なツールだと思いました。また、引き出せる情報量の貴重さ、豊富さも魅力的で、それら多くの情報により投資家がより良い判断に繋げるといった活用方法もあるのではないかと思いました。
松前:ありがとうございます。ではそのDockpitの仕様について、簡単にご説明します。
「Dockpit」はマーケターツールから事業戦略ツールとして更なる飛躍へ
松前:この「Dockpit」は、ヴァリューズ独自の国内250万モニターのWeb行動ログデータをもとに、マーケターのリサーチエンジンとして、データドリブンな提案や分析を実現させていくためのプランニングツールとなっています。
今回のセミナーで特にお伝えしたいことは、マーケティングの枠だけに留まらず、経営者視点・投資判断のリサーチにも活用できるという、さらに飛躍した「Dockpit」の活用方法であり、事業を進めていくためのマーケティングツールという新しい位置付けです。
引き続き、新しいシーンにおいて活躍する「Dockpit」の活用事例をご紹介頂きます。
図:Dockpit紹介
統合報告書は、もはや財務指標の公表だけが役割ではない?
上西:早速ですが、「5,296人」「0.7%」という数字をご用意しました。これは何を表すかお分かりでしょうか。こちらは、食品、化学、電気機器、小売、銀行、自動車といった任意の6業界のトップ4〜5位の企業の統合報告書サイトの過去1年間における閲覧者数と、企業ウェブサイト全体の訪問者における割合の平均をDockpitを活用して算出したものです。
福田:なるほど。統合報告書の閲覧者がサイト全体の訪問者の約1%近くというのはなかなかの数字かと思います。中村さんにお聞きしたいのですが、この数字を見てプロの投資家としてはどう思われますか?
中村:この調査に該当している企業はどれも巨大企業と言える有名企業なので、サイトへの流入はとても多いでしょうし、特にBtoC向けのTOPページや関連コンテンツへの流入ばかりかと思っていましたが、BtoB向けのコンテンツとも言える統合報告書への流入の数字が0.7%という結果は大きく感じました。
上西:続いての調査ですが、どういった企業の統合報告書が多く見られる傾向にあるか、統合報告書のPV数と、時価総額や株主数などの財務指標、就職意向や採用数などの採用指標の相関関係を調べてみました。すると当初の予想とは違い、相関関係が強かったのは財務指標よりも採用指標との結果になりました。
ここから、採用活動において統合報告書が重要な動きをしているのではないかという仮説を立てました。
図:PV数と各指標の関係
新たに求められる統合報告書の役割とは
蟹江:私の方では「どのような人が統合報告書を見ているのか」をDockpitを使って深掘りしてみました。下図は統合報告書ページの来訪者年代を各企業サイトTOPと比較しながら分析したものです。これによると、サイトTOPは40〜50代の来訪者が多い反面、統合報告書ページは、20~30代が多いということがわかりました。
図:来訪者年代分析
蟹江:昨今の若者はサステナビリティへの関心が高く、企業に倫理観を求める傾向にあるとも言われており、企業の社会貢献を重視しているということがあらわれた結果と言えます。また、「就職活動のために統合報告書を見ている」という調査結果もあり、20〜30代の若年層の統合報告書サイトへの訪問が多いことの裏付けとなりそうです。
企業側としては、統合報告書は投資家を対象に置いて作成していると思いますが、これらの結果を鑑み、若年層や就活生も大いに閲覧していることを念頭において、作成を工夫する必要があると考えられます。
福田:統合報告書の閲覧者実態を見て、投資家の中村さんはどうお考えになりますか?
中村:非常に意外な結果ですね。統合報告書はどちらかというとマニアックなものですので、機関投資家やサステナビリティコンサルといった、上の年代の人達が見ているものと思っていました。しかし、このように若年層に多く閲覧されているという事実は新鮮な気づき、新しいインサイトの発見となりました。
蟹江:もう一つの調査結果についてもご紹介します。こちらは「どんなイメージの企業が統合報告書を見てもらいやすいか?」という調査になります。
企業イメージと統合報告書PV数の相関を見たところ、①優秀な人材が多い②技術力がある③信頼性がある④ガバナンスがしっかりしている⑤社会貢献に積極的、の5つのイメージと顕著な相関が見えました。これは別の見方をすると、統合報告書を見に来る方は、こういった企業であることを期待して確認しに来ているとも言えます。ですから統合報告書には、これら5つのイメージの期待に応える記載をしていくことが有効であると言えそうです。
また、5つのうちの3つ(①④⑤)はESGに該当します。この結果を踏まえると、統合報告書にはESG、特にSやGを意識した記載が重要であるとも言えます。
福田:Dockpitを用いるとURL単位で比較分析ができるため、統合報告書の他社との比較や、自社の経年比較をすることも可能なので、様々な分析ができそうですね。
図:PV数と各指標の関係
上西:この事例のようにマーケティングツールであるDockpitを活用することで、ベンチマークとしている他の企業などと比較しながら、自社の統合報告書がどういう状況にあるのかを確認し、内容の改善に繋げていくこともできると感じました。
福田:自席でここまでクイックに利用できるというのはDockpitの良いところですよね。
松前:URL単位で分析ができるということや属性別分析ができるという2点を、存分に活用頂いた例かと思います。
蟹江:どの企業でもサステナビリティ経営に注力すべき今、これまではマーケティングの対象として消費者だけを見てきましたが、これからはステークホルダーを含め幅広い層をマーケティング活動の対象にする必要があるのではないでしょうか。したがって、このようなマーケティングツールはマーケティング関連部門に限らず、様々な部門で使われていくべきだと思います。
非財務の価値可視化が可能となる「非財務価値サーベイ」とは
上西:先ほどの分析結果からもわかるように、サステナビリティ経営においては、投資家だけでなく就職希望者や従業員など、様々なステークホルダーを念頭に置くことが求められます。そこで電通では、企業の非財務価値創出活動が、株主や就職希望者・消費者などのステークホルダーの意向にどのように影響を与えているのか、ビッグデータから分析する「非財務価値サーベイ」というサービスを電通・電通国際情報サービス・アイティアイディの3社で開発しました。
このサービスは、企業イメージやESG活動などの非財務活動・資産が、財務指標や採用活動にどのような影響を与えるのかビッグデータから明らかにするサービスです。
図:「非財務価値サーベイ」分析の概要
蟹江:非財務価値サーベイは、大きく二つの内容で構成しています。
一つは企業の現在のESGの取り組みの立ち位置を明らかにしていく「定型診断レポート」。もう一つは「定型診断レポート」の結果を元に企業の今後のアクションを議論する「ポートフォリオ分析ワークショップ」の2つで構成されています。
図:「非財務価値サーベイ」の全体構造
上西:このサービスの独自性は、財務データやESGデータの他に、就職意向や購入意向、ブランドイメージを含む「企業イメージデータ」を交え分析している点です。
就職希望者や消費者など、株主だけではないステークホルダーへの非財務活動の影響を導きだすことができます。また、ステークホルダーへの非財務活動のアピールの方法として、どのようなブランドイメージの強化を意識しながら実施することが効果的かという視点でも分析が可能です。
福田:これら企業イメージをデータ分析に取り込んだという点について、中村さんはどんな感想を持たれましたか?
中村:こういった考え方を含め、データアセットは見たことがないので非常に新鮮です。特にBtoC事業だと、企業イメージやブランドが中長期的な企業成長の根幹となり得ますので、一般の財務指標とESGだけだと短期的なインサイトしか得られませんが、イメージデータを追加することで、中長期的な成長、あるいはリスクというものも見えてくるのではないかと思いました。
まとめ
福田:「Dockpit」は仮説をもとに使い込み磨き込めるツールだと思うので、マーケティングや3C分析といった枠にとらわれず、マーケティング関連部門以外の人にも触って頂きたいですね。
上西:「非財務価値サーベイ」を開発中にも思ったのですが、複数のデータを組み合わせて分析することで新たな示唆を得られるのは面白いと再認識しました。それを「Dockpit」などの有効なツールを用いて、サステナビリティという領域において、データ分析を有効な業務として実施していくことに今後も挑戦していきたいと思います。
蟹江:ESG、非財務の取り組みというのはなかなか正解が見えづらい世界です。したがって、データを使って客観的な分析をしていくことがとても重要だと思います。特に今回の調査を担当して、マーケティングツールの有効性を強く感じました。今後も「Dockpit」を始め色々なツールを活用し、企業成長の一助になればと思います。
中村:「非財務価値サーベイ」、「Dockpit」共に非常に興味深く感じました。私自身、投資先のESGの価値向上や企業価値向上のためにさまざまな支援を行っていますが、投資先からするとESGには多くの非財務指標があり、それに伴い実施しなくてはならないことが煩雑かつ大量にあります。そして企業ごとのビジネスモデルや業態によって、実施すべきことの相違もあり大いに悩ましいところです。そのような時にデータから裏付けられたインサイトがあると、企業の現状や実施すべき事項が非常にクリアになってくるのではないかと思いました。
松前:本日は「非財務価値サーベイ」と「Dockpit」のご紹介をさせて頂きました。どちらも共通しているのが「ビッグデータ」の生活者目線での分析が可能であるという点で、マーケティング分野だけではなく、事業価値や投資価値に寄与できる情報分析が可能だという、「Dockpit」の新たな可能性が垣間見えたセッションだったと思います。本日はありがとうございました。
※本記事やDockpitに関するお問い合わせはこちらから
https://www.valuesccg.com/inquiry/
※2024年1月31日(水)17時まで視聴可能。お申し込み後すぐに視聴URLをお送りいたします
マナミナ 編集部 編集兼ライター。
金融・通信・メディア業界を経て現職。
趣味は食と旅行。