2023年中国トレンドワードの「ゆとり感」。人気の理由は?

2023年中国トレンドワードの「ゆとり感」。人気の理由は?

「ゆとり感(松弛感)」というキーワードが、中国でトレンドになっています。もともとは、精神や経済、時間などを表す「ゆとり感」でしたが、現在ではファッション、教育や育児、職場、家具、食品など、多岐にわたる領域に影響を及ぼしています。本記事では、この「ゆとり感」について紹介していきます。


トレンドワード「ゆとり感」

ゆとり感松弛感)」は2023年中国でブームの兆しをみせ、重要なキーワードとなっています。RED(小红书)が発表した《2023“松弛感”生活十大趋势报告(2023年“ゆとり感”生活十大趨勢報告)》によると、2023年の1月から5月において「ゆとり感」に関連する投稿のインプレッション総数は1000万を超え、昨年同期比6365.56%増という記録を打ち立てました。

では、「ゆとり感」とはどういうものなのでしょうか。SNSユーザーの意見を反映すると、「ゆとり感」とは「自分に回帰する、理性的で健康な状態」を指します。多忙でつい崩れてしまう生活リズムの中、毎日を張り詰めた状態で過ごすことが当たり前になってしまった現代の中国社会。「ゆとり感」の価値観に期待されるのは、競争主義と寝そべり主義のバランスがとれた、合理的な解決案を見つけ出すことです。「ゆとり感」を重視する人々の背景には、自分を思いやり、健康でバランスの取れた状態になることへの期待が込められています。

「ゆとり感」というトレンドワードの下、中国社会はどのような傾向を見せているのでしょうか。以下ではいくつかのトピックを取り上げ、その領域内で「ゆとり感」がどのように顕在化しているかを《2023“松弛感”生活十大趋势报告》に基づいて説明します。

ファッションにおける「ゆとり感」

多忙な毎日の中、人々は簡素で気軽なファッションを追い求め、同時に衣服の質やコストパフォーマンスを重視するようになりました。「ゆとり感」を求めるファッションにおいては、「慵懒(まったり)」「简约(簡素)」というキーワードが多く用いられており、インプレッション数はどちらも40万以上を記録しています。

「ゆとり感」と共に「静奢風(せいしゃふう)」というキーワードもファッションにおいては、多く用いられていました。大人しめでゆとり感を持つ、だけど風格溢れるこのファッションスタイルは、消費者の運動意識と健康意識の増長によってもたらされています。

また、理性的で自分を大事にする消費者の間では、近年アウトドアへ目を向ける人が多くいます。スキーや登山、クライミング、街歩きなどは人々の服装の機能性と生活の快適さを結びつけました。例えば、BOSIDENG(波司登)のダウンジャケットはこの冬の人気商品となりました。

衣服だけでなく靴においても流行の変化が見られます。人々が高いヒールを履く機会はますます減り、スニーカーやローファーといった踵の低い靴が現在の主流となっています。サンダルが有名なブランドのクロックス(洞洞鞋)も今年再流行を見せました。

メイクにおける「ゆとり感」

メイク領域における「ゆとり感」では、「低饱和度(淡色)」というキーワードが最も一緒に用いられています。他にも「原生」や「素顔」「裸感」というキーワードも用いられていることから、透明感や清潔感を感じられるようなナチュラルスタイルのメイクが人気を獲得していることが分かります。

自分に合った「ゆとり感」のあるメイクをすることで、相手に心地よさや自然さを感じさせ、より生き生きとした印象を与えられるのです。

「低饱和度(淡色)」、「原生」、「松弛感(ゆとり感)」などのキーワードが用いられたREDの投稿

また、「ゆとり感」のメイク関連投稿において、香水やアロマなど香り系のキーワードと共に掲載した投稿の割合が25.21%と全体の約4分の1を占めています。嗅覚が人々の認識や情緒に影響を与えるだけでなく、現在では香り商品は人々に個性を与え、同時に癒しを与えています。そのため、多くの消費者が香水やアロマなどの商品を用いることで自己実現や「ゆとり感」の獲得を果たしています。

「ゆとり感」のメイク関連投稿における、共に用いられるキーワードの割合

食品における「ゆとり感」

自分を大事に思いやるという気持ちが込められた「ゆとり感」。食品領域においては、コーヒーや甘いスイーツなど、食べて幸せな気持ちになれる食品の人気が高まっています。中でも「ゆとり感」関連の食品投稿では「咖啡」というキーワードの登場頻度が最も高く、インプレッション数は約24.7万を記録しました。次いでチョコレートやケーキ、ミルクティー、スイーツ、アイスクリームなどが並び、インプレッション数は約13万でした。

重要なのは、これらコーヒーやスイーツへの需要は健康という基礎の上に成り立っていることで、ここからも消費者の理性的な健康意識がうかがえます。

「ゆとり感」関連の食品投稿におけるキーワードのワードクラウド。コーヒー、スイーツ、チョコレートなどのキーワードの多さが窺える

さらに、レストラン探訪やピクニック、旅行などのキーワードも多く用いられています。中でも「レストラン」関連の投稿はインプレッション数が約19.73万以上と高い数字を記録しました。

競争の激しい職場に疲れ、周囲と戦いながら生活することに疲れ、言い表しようのない焦燥感に駆られている現代中国人にとって、美味しいものを食べたり、外に出たりすることは、プレッシャーを和らげ心にゆとりを持たせることにつながっていると考えられます。

育児における「ゆとり感」

最後に育児における「ゆとり感」の影響を紹介します。共働きで多忙な中で育児をしている両親にとって、手を煩わさずに家事をこなせる商品への需要が高まっています。そのうち「スマート化」というキーワードが最も多く話題に上げられており、価格が多少高くとも日常生活の利便性を向上させる商品の需要が高まっていることが分かります。仕事と育児の両立の中、家電によって負担を少しでも軽減することで、両親は「ゆとり感」を抱くことができるのです。

また、「ゆとり感」とは家庭内における心の状態を示すものでもあります。子どもに厳しい教育ばかり施すのではなく、親側が穏やかな精神状態で接する。男性は女性に母親の役割を押し付けず、自分のやりたいことができる状態にする。父親、母親どちらもが育児に責任感を持ち、夫婦でバランスをとった育児をする。このように信頼や受容、尊重という基礎の上に夫婦としての協力とお互い個人としての独立がある状態こそが、「ゆとり感」育児が追い求めていることでしょう。

まとめ

中国で2023年トレンドとなった「ゆとり感」というキーワードについて紹介しました。「自分に回帰する、理性的で健康な状態」を指す「ゆとり感」の価値観の下、人々は様々な領域で健康面や精神面などすべてにおいて自分を大事にする行動を選択しています。これは「怠け者経済」とも強い関係があります。「怠け者経済」は消費者の購買習慣を変えただけでなく、個人の生活スタイルへの理解や尊重を強調しました。「ゆとり感」という価値観は、「怠け者経済」が浸透したからこそ生まれた価値観だともいえるでしょう。

参考URL

2023“松弛感”生活十大趋势数据报告(小红书平台)
https://www.doc88.com/p-20299239779870.html
消费感受力至上,「2023天猫双11大牌爆款榜单」发布
http://finance.hebei.com.cn/system/2023/11/15/101236539.shtml?from=groupmessage&isappinstalled=0
家庭教育|家的松弛感是给孩子最恒久的爱
https://m.thepaper.cn/baijiahao_24176142
风格分析|2023年秋冬盛行的静奢风,你get了吗?
https://www.tnc.com.cn/info/c-060001-d-3737468.html

この記事のライター

横浜国立大学、早稲田大学を卒業後、2024年に新卒でヴァリューズに入社。
海外領域のリサーチャーとして、中国、東南アジア、アメリカなどの地域において、定量調査だけでなくSNS分析などの技術型調査手法を活用し、これまで家電、食品、飲料、小売系の企業様のマーケティング支援に携わる。

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