”選ばれる”AI英会話アプリの差別化要因とは? データで各サービスの使われ方を探る

”選ばれる”AI英会話アプリの差別化要因とは? データで各サービスの使われ方を探る

なにかと新しいことに挑戦したくなる春。「今年こそは英語学習に力を入れたい!」と考える人も多いかもしれません。近年、自分のペースで手軽に英語の勉強ができるアプリが数多くリリースされています。今回はそのなかから「Speak」、「ELSA Speak」、「SpeakBuddy」、「Duolingo」に注目し、データを分析。AI英会話アプリの最新の動向を調査します。


Speak、ELSA Speak、SpeakBuddyの3つのAI英会話アプリを比較

AI英会話アプリとは、スマートフォンやパソコンなどを用いて、AI(人口知能)との英会話を実践し、英語力の向上を目指せるアプリです。AIを相手にした学習スタイルであるため、従来のマンツーマンレッスンでの英語指導と比較してより安価に、個別最適な学習カリキュラムのもと、時間や場所の制限がなく自由に学習を進められる強みがあります。

AI英会話アプリには、英語のレベルや教材の豊富さ、価格帯など様々な違いがあるため、自分の目的にあったアプリ選びが重要です。「Speak」「ELSA Speak」「SpeakBuddy」は、数多くの英語学習アプリのなかでも、最近注目を集めているアプリです。

今回はこれら3つのアプリユーザーの比較を通して、数多くのAI英会話アプリのなかで人々から人気を集める理由を考察します。まずは、簡単に各アプリの違いを整理してみましょう。

「Speak」

ChatGPTで知られるOpenAIも出資するシリコンバレー発のSpeakeasy Labs, Incが提供するアプリ。従来の英会話サービスと比較して約10倍のスピーキング練習が可能であり、発話量をとことん増やしたい人にとって魅力的です。

「ELSA Speak」

サンフランシスコにあるELSA, Corp.が提供するアプリ。ユーザーが発話した音を瞬時に分析し、ネイティブスピーカーの発音と比較して、どれくらい正しい発音に近いかのスコアをパーセンテージで教えてくれるため、英語の発音を矯正したい方に特におすすめです。

「SpeakBuddy」

株式会社スピークバディが提供するアプリ。感情豊かなAIキャラクターとのコミュニケーションを通し英語を話せる自信が身につけられます。日常英会話からビジネス、海外旅行など様々な場面ごとに学習ができるため、自分の英語学習の目的に合わせて進められ、リアルな英会話を学べる点が魅力的です。

教育現場から人気の「ELSA Speak」と高年層が支持する「SpeakBuddy」

まず、各アプリのユーザー数推移を確認していきます。

なお分析には、毎月更新される行動データを用いて、手元のブラウザで競合サイト分析やトレンド調査を行えるヴァリューズのWeb行動ログ分析ツール「Dockpit(ドックピット)」を用います。

「Speak」「ELSA Speak」「SpeakBuddy」ユーザー数推移(アプリ利用者)
調査期間:2023年10月~2024年3月
デバイス:スマートフォン

2024年3月時点では「Speak」「SpeakBuddy」「ELSA Speak」の順にアプリユーザー数が多いことがわかります。最近3か月で急激に「Speak」がユーザー数を増やしました。一方で、「ELSA Speak」のユーザー数の変化は他のふたつと比べると一定であるということがわかりました。

続いては、それぞれのアプリ利用者の男女比率を見ていきましょう。以下の図から男女の偏りはほとんどないことがわかります。

「Speak」「ELSA Speak」「SpeakBuddy」アプリ利用者の性別割合
調査期間:2023年10月~2024年3月
デバイス:スマートフォン

3つのアプリは全て性別を問わず利用されているようです。

続いてそれぞれのアプリ利用者の年代別割合を見ていきます。以下の図をご覧ください。


「Speak」「ELSA Speak」「SpeakBuddy」アプリ利用者の年代割合
調査期間:2023年10月~2024年3月
デバイス:スマートフォン

「Speak」利用者の年代別割合は、ネット利用者全体の割合と比較して20代の割合が約10%ほど高くなっていました。また、「ELSA Speak」は20代の利用者が3割を占めている点が特徴的です。一方、「SpeakBuddy」は20〜30代の利用者の割合よりも、40代以上の割合が高くなっています。

「ELSA Speak」で若者の使用割合が高い背景には、教育現場でも積極的に取り入れられていることがひとつの理由かもしれません。

(参考:『名門校が続々導入! ELSA Speakを教育機関で使う5つのメリット』)

https://media.elsaspeak.com/IgMuTr1r/kQO-odJb

こちらは発音アプリ「ELSA Speak」の オフィシャルオウンドメディアです。 私たちのテーマは「英語で、人生を豊かにする。このメディアを通じて、ELSA Speakの最適な使い方や 実際にELSAを活用して英語能力を飛躍的に向上させた ビジネスパーソンの実体験など、 さまざまな有益な情報をお届けします。 ELSAを通して英語の可能性を最大限に引き出す方法、 効果的な学習テクニックなど、 英語学習に関する価値ある コンテンツを提供してまいります。 英語を更に深く、そして楽しみながら 習得するための情報源として、 ぜひ「ELSA MEDIA」をご活用ください。

アプリやWebサイトを用いた勉強をはじめ、電子機器を使用する学習方法は若年層のほうが高年層と比べて馴染みやすく人気が高いと考えられます。しかし、「SpeakBuddy」はこの仮説と異なり、高年代層から高い支持を集めていました。

「SpeakBuddy」は、「Speak」における発話量や、「ELSA Speak」での発音矯正のように、英会話における特定のポイントにフォーカスするというよりは、自然な英会話を身につけられるようなサービス設計を意図しています。そのため、比較的ターゲット層が広いことがあげられると考えられます。

また、他2アプリのシンプルなデザインのつくりとは異なり、AIキャラクターを使用したアプリの親しみやすさがあることは、幅広い年代層から選ばれやすいポイントかもしれません。

続いて未既婚状況や子供の有無について見ていくと、「SpeakBuddy」「Speak」は既婚者の割合が高く、「ELSA Speak」は他2アプリと比較すると未婚者の割合が高いことがわかります。

「Speak」「ELSA Speak」「SpeakBuddy」アプリ利用者 未婚/既婚の割合(左)子供の有無(右)
調査期間:2023年10月~2024年3月
デバイス:スマートフォン

「SpeakBuddy」はネット利用者全体と比べても既婚者・子供ありの割合が高くなっています。これはアプリ使用者の年代別の割合調査でわかった中高年層の占める割合の高さから起因するものだと言えます。

他のAI英会話アプリとの差別化がユーザーの心をつかむ?

3つのアプリの併用状況についても調べてみましょう。

まず、「Speak」利用者から見ていきます。以下の図をご覧ください。

「Speak」から見た他アプリ併用状況
調査期間:2023年10月~2024年3月
デバイス:スマートフォン


「Speak」利用者の72.9%は、他の2アプリを併用していませんでした。その一方で「Speak」利用者の16.3%が「ELSA Speak」を、15.9%が「SpeakBuddy」を併用しています。

(左)「ELSA Speak」から見た他アプリ併用状況、(右)「SpeakBuddy」から見た他アプリ併用状況
調査期間:2023年10月~2024年3月
デバイス:スマートフォン

同じように、「ELSA Speak」と「SpeakBuddy」についての併用率もせいぜい20%前後と、併用している人が多いとは言えない結果になりました。

各AI英会話アプリにおいて、AIによる自動カリキュラム生成や、音声認識機能による会話練習などの基本的な機能は、いずれもほとんど違いがありません。付加価値としての特徴的な機能がアプリの差別化を生むと考えれば、これらのアプリを複数利用している人は少なく、求める付加価値的機能に応じてアプリを選択している人が多いと考えることができるかもしれません。

続いては、各アプリ利用者が、関心を持っているアプリについて見ていきます。すると、3つのアプリ全てで「Duolingo」への関心が一番高い結果となりました。

(左)「Speak」のユーザーの関心アプリ(リーチ差優先)、(右)「ELSA Speak」のユーザーの関心アプリ(リーチ差優先)
Dockpitより集計。対象期間:2023年4月~2024年3月
デバイス:スマートフォン

「SpeakBuddy」のユーザーの関心アプリ(リーチ差優先)
Dockpitより集計。対象期間:2023年4月~2024年3月
デバイス:スマートフォン

また、すべてのアプリで高性能翻訳アプリである「Google翻訳」がランクインしています。3つのアプリのユーザーの多くは、日常生活のなかで外国語に触れる機会が多いのかもしれません。

「Duolingo」は2023年度日本で最もダウンロードされている教育アプリです。学習者同士で競い合う、ポイント獲得によってアバターがレベルアップするなど、ゲーム感覚で学習できるように設計されています。また、リーディング、ライティング、リスニング、スピーキング練習すべてを含む1セットを約5分程度で受講できるため、外出先や忙しい人でも気軽に継続できる設計で人気を集めてきました。

参考:『Duolingo、2023年最もダウンロードされた教育アプリに。新年度の英語学習はDuolingoで!』

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000045.000069537.html

Duolingo, Inc.のプレスリリース(2024年3月25日 11時00分)Duolingo、2023年最もダウンロードされた教育アプリに。新年度の英語学習はDuolingoで!

最有力の英会話アプリ「Duolingo」を併用するユーザーはいずれも40%超え

英会話アプリの業界における「Duolingo」の人気の高さがうかがえたので「Duolingo」と「Speak」「ELSA Speak」「SpeakBuddy」のそれぞれの併用状況について調べてみました。その結果、各AI英会話アプリのユーザーの40%以上が、「Duolingo」を併用していることがわかりました。

(左)「Speak」から見た他アプリ併用状況、(右)「ELSA Speak」から見た他アプリ併用状況
調査期間:2023年10月~2024年3月
デバイス:スマートフォン

「SpeakBuddy」から見た他アプリ併用状況
調査期間:2023年10月~2024年3月
デバイス:スマートフォン

Duolingoは英会話の4要素である、リーディング、ライティング、リスニング、スピーキングすべてを網羅的に学べるアプリです。アプリで英会話を勉強したいと考えるユーザーの多くはメインでDuolingoを使いつつ、プラスアルファとして、今回の3アプリの特徴を踏まえて併用している人が多いのかもしれません。

まとめ

今回はAI英会話アプリを代表して3つのサービス「Speak」「ELSA Speak」「SpeakBuddy」を調査しました。

最新のAI英会話アプリは、基本的にどのアプリもAIによる自動カリキュラム生成や音声認識技術による会話練習などの機能を備えています。この基本的に共通している機能に加えて、ひとつの分野に特化した機能を付随させることで、数多くリリースされているAI英会話アプリのジャンルのなかで差別化が図られていることがわかりました。

発音矯正を強みにした「ELSA Speak」は教育現場で重宝されて若年層からの支持を集め、親しみやすいデザインを強みにした「SpeakBuddy」は高年層の支持を集めるといった特徴があると考察できました。

また、今回取り上げた3つのアプリ内での併用は少なかった一方で、AI教育アプリで一番ダウンロード数の多い「Duolingo」との併用は40パーセントを超えていたという調査結果に。このことから、一部分に特化したアプリは、各人が成長させたいスキルをさらに強化させるための補完的な役割で使われている可能性があることがわかりました。

サービスごとに今後どのようにユーザー数を増やしていくのか、今後の動向にも注目していきたいと思います。

dockpit 無料版の登録はこちら

この記事のライター

2025年入社予定の大学4年生です。

関連する投稿


Oisixとnoshの動向を調査!新生活の忙しい若者には宅配食+αがおすすめ

Oisixとnoshの動向を調査!新生活の忙しい若者には宅配食+αがおすすめ

最近、外食やテイクアウト、簡単に調理できる食品など、新しい食事スタイルを提供するサービスが人気を集めています。本記事では多くの人に利用されているOisixとnoshに焦点をあてながら、デリバリーサービスや自炊との比較を交え、現代の人々の食生活のトレンドを分析します。


マクドナルド、バーガーキングを徹底比較。メニュー,価格,アプリ利用者数

マクドナルド、バーガーキングを徹底比較。メニュー,価格,アプリ利用者数

ファストフード市場を牽引するハンバーガー市場。主なチェーン店のうち、今回は「マクドナルド」「バーガーキング」に注目し、店舗数やメニュー・価格、アプリ利用者データから、各社の集客動向や特徴を比較調査しました。


生成AIは誰がどう使っている? ChatGPT、Gemini、Copilot、Claudeの利用データを比較調査

生成AIは誰がどう使っている? ChatGPT、Gemini、Copilot、Claudeの利用データを比較調査

ChatGPTやGeminiをはじめとした生成AIが近年急拡大しています。生成AIではテキストのみならず画像や音声など様々なものを出力できますが、実際はどのように使われているのでしょうか。本稿では、そんな生成AIを利用するユーザーの属性や関心を比較・分析し、各AIとそのユーザーの実態を明らかにしていきます。


富裕層向けの最上位クレカ「ブラックカード」関心層の分析と戦略の検討

富裕層向けの最上位クレカ「ブラックカード」関心層の分析と戦略の検討

高ランク帯のクレジットカードのなかでも特に持つ人が限られているというプレミアムなカード、通称"ブラックカード"。ブラックカードを持つことに憧れているという人も多いのではないでしょうか。本記事では、ブラックカードに関心を持つ人々の検索傾向やターゲット層の特徴を深掘りし、どのようなプロモーション施策が効果的かについて考察します。


「値上げ」の1番の注目は米、キャベツじゃなく...?検索ワードを調査

「値上げ」の1番の注目は米、キャベツじゃなく...?検索ワードを調査

物価上昇が以前と続く2025年3月。様々な分野で値上げが行われていますが、人々から特に関心を集めているのはどの物価なのでしょうか。この記事では、値上げに関連する検索ワードから、人々がどの値上げに注目しているか、2025年と2024年それぞれで分析していきます。


最新の投稿


コンテンツマーケティングでAI活用をしていると企業は約半数!AIとの付き合い方とは?【Coadex調査】

コンテンツマーケティングでAI活用をしていると企業は約半数!AIとの付き合い方とは?【Coadex調査】

株式会社Coadexは、コンテンツマーケティングを実践している企業の広報担当者及びコンテンツマーケティングを実践していないが、興味がある企業の広報担当者を対象に、「コンテンツマーケティングにおけるAI活用の実態」に関する調査を実施し、結果を公開しました。


ABEMA、番組の文脈に合ったシーンに広告を配信する 「コンテクスチュアルオーバーレイ広告」を商品化

ABEMA、番組の文脈に合ったシーンに広告を配信する 「コンテクスチュアルオーバーレイ広告」を商品化

株式会社サイバーエージェントは、「ABEMA(アベマ)」にて「コンテクスチュアルオーバーレイ広告」を正式な広告商品「ABEMA Contextual Sponsored(コンテクスチュアル スポンサード)」として商品化し、2025年4月29日より提供開始することを発表しました。


トランプ政権下のASEANと日本企業

トランプ政権下のASEANと日本企業

トランプ関税のニュースが、もはや日常となりつつあります。しかし、関税だけがトランプ政権の注目すべき政策ではなく、その他多くの課題にも隈なく注視していく必要があります。本稿では、前バイデン政権時からも話題となっていたグローバルサウスとの関係に、どのようにトランプ政権は対峙するのか、トランプ政権下のASEANを意識した場合、日本企業はどのようなことを考えておくべきか、国際政治学者としてだけでなく、地政学リスク分野で企業へ助言を行うコンサルティング会社の代表取締役でもある和田大樹氏が解説します。


アイスタイル、美容業界のデータドリブンな意思決定を支援する「データドリブンソリューション」を提供開始

アイスタイル、美容業界のデータドリブンな意思決定を支援する「データドリブンソリューション」を提供開始

株式会社アイスタイルは、美容業界のデータドリブンな意思決定を支援する新事業「データドリブンソリューション」を提供開始したことを発表しました。


Z世代の約8割が「SNSのまとめコンテンツ」を活用!サーチエンジン検索は"買い物に失敗しないための下調べに利用【ファストマーケティング調査】

Z世代の約8割が「SNSのまとめコンテンツ」を活用!サーチエンジン検索は"買い物に失敗しないための下調べに利用【ファストマーケティング調査】

ファストマーケティング株式会社は、Z世代(15歳〜29歳)の男女を対象に「Z世代の消費行動に関するSNS利用の実態調査【2025年版】ファッション・コスメ編」を実施し、結果を公開しました。


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

アクセスランキング


>>総合人気ランキング

ページトップへ