企業イメージ経営 ~ センスを磨く

企業イメージ経営 ~ センスを磨く

企業イメージをより良く価値あるものへと醸成させるための要素に「センス」があげられます。この「センス」とは、企業だけでなく個人のイメージ向上にも深く関わってくる要素ですが、具体的にはどういったことを指すのかと問われると、明快な説明に窮する言葉でもあります。しかしながら、イメージ向上には何かとついてまわるこの「センス」。本稿では広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長を務めている渡部数俊氏が、文学、哲学、さまざまな視点を用い、経営や経営者自身にも求められる「センス」を解説します。


盛岡

昨年、前々から一度は訪ねてみたいと思っていた盛岡へ行ってきました。盛岡というとみちのくの小京都であり、南部藩の城下町として知られ、石川啄木と宮沢賢治という二大スターが今でもシンボリックに活躍しています。食でも三大麺(盛岡冷麺、じゃじゃ麵、わんこそば)が有名で麺王国とも呼ばれています。政治家・原敬や国際人・新渡戸稲造、言語学者・金田一京助など幅広い分野に盛岡ゆかりの先人達の生きた証が点在しています。

米国紙ニューヨーク・タイムズで、2023年に行くべき52カ所の旅行先に選ばれ、英国ロンドンに次ぎ2番目となりました。東京から短時間で行き来でき、人混みを避けて歩き回れる珠玉の街と紹介されました。一泊二日の旅行でしたが、実際二日間で観光名所の多くを歩きながら観て回ることが出来ました。記念館やレトロ建築などを訪ね歩き、偉人達の思想や生き方に触れられた素晴らしい旅でした。

また、珈琲豆を自家焙煎する喫茶店も多く、それぞれのお店に個性が感じられました。伝統工芸の南部鉄器や英国生まれの軽くて暖かいホームスパンなどセンスの良さを感じる手仕事やぬくもりに出会えたのも発見でした。

宮沢賢治の著作「注文の多い料理店」が発行された光源社にも出向きました。光源社で販売している商品も飾ってある芸術品も粋で多国籍なものが数多く、その独特のセンスに感動を覚えた次第です。盛岡に受け継がれる奥の深い文化は大樹深根の如く、地域に深く根ざし幹は高く枝葉を拡げていて、グローバルに求められる他の都市にない独特のセンスを形作っています。

盛岡

センスとは

センス(Sense)とはどんな意味を持った言葉なのでしょうか。本来の意味としては「感覚」です。元々はラテン語のsentireが語源で、イタリア語には「~を感じる」という動詞としてsentireは使用されています。哲学的には、『ある感覚』と解釈しているのでしょうか。『ある感覚』とは美的感覚や感性、あるいはそれらを持って生まれた才能・文化資本と考えます。

正体が掴み切れないセンスですが、感度や五感を指し、もう少し詰めると、物事の微妙な感じを悟る心の動き、微妙な感覚、といえるのかもしれません。それが具体的に表現されたもの、あるいは判断力や思慮、良識などと言い換えることも出来ます。センスは言語としては表現が難しい言葉であり、文脈でとらえるのが無難です。また、時流によって使い方が刻々と変化します。最近、使用頻度が低めの対義語、ナンセンスも同様に時代背景が控えている含蓄ある言葉なのです。

企業でも個人でもイメージにおいて、センスの良さは重要なイメージ要素のひとつです。時代の先端を走る企業や個人は、センスの良さを感じさせ、高いイメージを醸成しています。ただ、このイメージを継続させることは甚だ困難です。年齢や性別、職業といった属性によってもセンスについての認識は異なるように、なかなか普遍的なイメージとして捉えることはできません。まずは経験価値を重視した老舗といわれる伝統的でぶれない企業や店舗の魅力からその隠された意味を探る必要があるかもしれません。

センス・オブ・ワンダー

海洋生物学者であり、1962年に出版され、環境問題の告発を果たし環境運動のさきがけとなった名著「沈黙の春」の著者であるレイチェル・カーソンの未完のエッセイ「The Sense of Wonder」。このエッセイは著者が幼い子供と別荘のある米国のメーン州の海岸や森で過ごした経験を綴ったものです。海と夜空を見ながら、子供がここに来てよかったと話します。

ここで書かれているセンス・オブ・ワンダーとは自然に触れることから受けるある種の不思議な感動、または不思議な心理感覚を呼び起こすといった概念であり、それらを表現するための言葉です。

「自然は再生し続け、春が来るたびに、まるでそれが初めてであるかのように営みを繰り返す。人も一生の間で生成と消滅を繰り返し、再生し続ける。子供の存在は、大人が0歳や1歳であった頃に立ち返らせてくれる。」

子供には生きる喜びと興奮、不思議を一緒に再発見してくれる大人が最低一人は必要であり、大人は忘れてしまったセンス・オブ・ワンダーを想い出すために子供の助けが必要です。改めて、自分らしさに縛られがちになる大人にとって、変化する自然とそれに柔らかく心を開く子供の姿に学ぶべきであり、学ぶところは大きいはずです。太古の昔から、大人と子供の交流が人類の進歩に大きな影響を与えてきたことに間違いはありません。

センス・オブ・ワンダー

センスを活かす

企業イメージについて時系列で調査・分析するとセンスの良いイメージを持つ企業の上位は入れ替わりやすい特徴がありました。商品・サービスや店舗設計での洗練されたスタイリッシュなデザインやそれを支えるエッジの効いたテクノロジーがセンスの良さに大きく関与しているはずです。センスの良いと目される企業イメージには「個性がある」、「扱っている商品・サービスの質がよい」といった要素が意味としては関係性が深く、特に欧米中心の外資系企業やブランド、自動車などが高いイメージを保有しています。

また、高級、高額、ラグジュアリーな商品・サービスにおいては、センスの良さは新旧に関わらず欠かせない大切な要素です。国や地域別にセンスの持つ意味は変わるはずですが、憧れや自己満足感という観点からはセンスの良さを表現する上で欧米のブランドの力は確固たるものがあります。ブランドとは保証であり、トレンドであり、伝統です。そして、センスともいえます

さらに、現時点では「優秀な人材が多い」、「技術力が高い」といった要素がセンスの良さとは関係性が薄いように見受けられます。これはデザインの要素から離れ、実質的なイメージ要素である点が関係しているためでしょう。ただ、新しいテクノロジーやデザインを併せ持った商品・サービスが出現した際には、センスの良さが大きなフックとなり、企業イメージ全体の底上げにつながると予想できます。企業が自らの企業イメージを点検する際、センスの良さは強力なイメージアップの武器であることに気づきます。センスある経営者はミッション達成への企業努力とパーパスに根ざした企業の存在意義を常に確認し実現化します

イメージの要素で最も言葉にし難く、実態を説明しにくく、得体のしれない言葉、センス。どのように活用するかが企業経営者のセンスであり、腕の見せどころです。

この記事のライター

株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。

関連するキーワード


渡部数俊

関連する投稿


スリープテック ~ 睡眠の質とテクノロジー

スリープテック ~ 睡眠の質とテクノロジー

疲労回復、毎日のコンディション管理に必要不可欠な「睡眠」。その睡眠、あなたは足りていますか?最近ではニュースでも多く取り上げられた通り、日本は世界規模での「不眠大国」。実に日本人の平均睡眠時間は経済協力開発機構(OECD)の加盟国33ヵ国の中で最下位とも言われています。そして睡眠はただ眠るだけではなく、経済とも大いに関わりがあるのです。本稿では広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が、良質な睡眠の鍵を解説します。


忘年会 ~ 従業員エンゲージメントの秘策

忘年会 ~ 従業員エンゲージメントの秘策

日本の年間恒例行事のひとつでもある「忘年会」。「忘年会」と聞いてどのような会を思い出しますか?そのコミュニティはどのような集まりでしょう。「無礼講」の下、飲んで騒ぐといった「酒宴」は過去の産物なのでしょうか。本稿では、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が「忘年会」の起源に触れ、現代社会においてあるべき社内コミュニケーションの姿、従業員エンゲージメントについて解説します。


感性について ~ マーケティングとハプティクス

感性について ~ マーケティングとハプティクス

人には5感が備わっています。さらに突き詰めれば第6感という感覚も。それら人の持つ感性や感覚を補うべくあらゆる技術も日々進歩していますが、人のそれらの代替となるような技術はまだ未完の途上です。それほどに他に取って代われない私たちの感性・感覚。本稿では、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が、広告やマーケティングを通して人の感性の深さを説き、ハプティクス(Haptics)を用いて人の感覚の重要性を解説します。


食料危機 ~ 天災か人災か

食料危機 ~ 天災か人災か

食料・食糧の危機が迫っています。地球上では、気候問題や行政の責任下で今なお続く飢饉もあります。私たちの未来を豊かにするために欠かせない食料・食糧。それを恒常的に守っていくためには、今この時にどのような行動が必要なのでしょうか。基本的な言葉の意味の説明や、それぞれに対する詳細な対策案を交え、広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が解説します。


知的好奇心を育む ~ コンセプチュアルスキルとは

知的好奇心を育む ~ コンセプチュアルスキルとは

知的好奇心には「拡散的好奇心」と「特殊的好奇心」の2種類が存在するのをご存知でしょうか。そして、それぞれの意味と役割とは。VUCAの時代にある現在、これらの好奇心を刺激し高め、技能習得へと導き、企業貢献へ繋げるためのヒントを紐解く本稿。広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が、「コンセプチュアルスキル」の概念などを踏まえて解説します。


最新の投稿


タイのコーヒーの特徴とは?タイのコーヒー市場の現状やショップを紹介

タイのコーヒーの特徴とは?タイのコーヒー市場の現状やショップを紹介

近年タイではコーヒーブームが起こっています。バンコクには次々と新しいカフェができており、SNS映えする店内だけではなくコーヒーの味にもこだわりを持つカフェが増えています。実際に、起業してカフェオーナー兼バリスタになるのはタイでは一つのトレンドです。 近年、タイのコーヒー市場は右肩上がりに伸びており、タイのコーヒー市場は日本円で1440億円を超えると言われています。 そこで本記事では、タイのコーヒー市場の現状を読み解くとともに、タイでなぜコーヒーの人気が高まっているのかを、タイのコーヒーブームの歴史と共に解説します。


2025年上半期Z世代トレンド予想!Trepo、「ファッション」「グルメ」「コト・モノ」の3部門のランキングを発表

2025年上半期Z世代トレンド予想!Trepo、「ファッション」「グルメ」「コト・モノ」の3部門のランキングを発表

株式会社Creative Groupは、同社が運営するメディア『トレンドメディアTrepo(トレポ)』にて、10代~20代の女性を対象に、2025年上半期のZ世代トレンド予想調査を実施し、結果を公開しました。


ADK MS、「ゲーム総合調査レポート2024」を発表!最新のゲーム市況の把握から、ゲームプレイヤーの行動・心理の分析まで網羅

ADK MS、「ゲーム総合調査レポート2024」を発表!最新のゲーム市況の把握から、ゲームプレイヤーの行動・心理の分析まで網羅

株式会社ADKマーケティング・ソリューションズは、ゲームプレイヤーの心理・行動を分析し、分かりやすく彼らの実態を可視化した「ゲーム総合調査レポート2024」を作成し、公開しました。


スリープテック ~ 睡眠の質とテクノロジー

スリープテック ~ 睡眠の質とテクノロジー

疲労回復、毎日のコンディション管理に必要不可欠な「睡眠」。その睡眠、あなたは足りていますか?最近ではニュースでも多く取り上げられた通り、日本は世界規模での「不眠大国」。実に日本人の平均睡眠時間は経済協力開発機構(OECD)の加盟国33ヵ国の中で最下位とも言われています。そして睡眠はただ眠るだけではなく、経済とも大いに関わりがあるのです。本稿では広告・マーケティング業界に40年近く従事し、現在は株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェローを務めている渡部数俊氏が、良質な睡眠の鍵を解説します。


BtoBマーケティングの成功は"ファクトファインディング"が重要!本質的・潜在的な課題・ニーズを引き出すことが成功のカギ【PRIZMA調査】

BtoBマーケティングの成功は"ファクトファインディング"が重要!本質的・潜在的な課題・ニーズを引き出すことが成功のカギ【PRIZMA調査】

株式会社PRIZMAは、全国のマーケティングコンサルタントを対象に、「BtoBマーケターが始めた方が良いこと」に関する調査を実施し、結果を公開しました。


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

アクセスランキング


>>総合人気ランキング

ページトップへ