価値マップ(顧客理解のアウトプット)|現場のユーザーリサーチ全集

価値マップ(顧客理解のアウトプット)|現場のユーザーリサーチ全集

リサーチャーの菅原大介さんが、ユーザーリサーチの運営で成果を上げるアウトプットについて解説する「現場のユーザーリサーチ全集」。今回は、価値マップ(顧客理解のアウトプット)について寄稿いただきました。※本記事は菅原さんの書籍『ユーザーリサーチのすべて』(マイナビ出版)と連動した内容を掲載しています。


1.価値マップとは

●概要

価値マップとは

価値マップとは、インタビューの発話で得られた事実情報をユーザーの心の声として変換し、「○○できる価値」の形式で抽出した価値を(KA法)、価値同士の関係性を整理することによって(KJ法)、プロダクトの普遍的な価値を定義するアウトプットです。

UXデザイン研究の第一人者である千葉工業大学の安藤昌也先生が発案したモデルがよく知られており、UXデザイナーの間に広まるユーザーモデリングの手法として使われています。

価値マップの作成により、ユーザーに認識されているプロダクト提供価値の全体像を視覚的に捉え、価値のグループごとに集中・分散傾向を見ることができます。また、KPIに関連した価値をポジティブな価値とネガティブな価値とに判別して対応を検討できます。

またこの成果物はインタビューの結果を要約・デザインして見せるのに最適です。生の発言録データだとよほど関心が高い人でないと見てもらうのは難しいからです。ホワイトボードツールを使って発言内容を書き出す作業の延長で完成するところも便利です。

使用上の注意点として、もともとのプロダクトの独自性が低い場合にはユーザーの発話から独自性を発見するのは難しく、あくまで「普遍的な価値」を確認するマップとなります。見た目の情報量の割に深い考察まで行かないケースもあるので力量が問われます。

同じく注意点として、価値マップの形態として普及している散布図(付箋を使ってネットワーク関係を描くもの)は、成果物の作成に関わった人には情報構造が伝わりますが、初見の人にとっては情報のとっかかりとなる部分がわかりづらいので注意しましょう。

●種類

価値マップのパターン展開は複数あり、ここでは私自身も使う4種類を紹介します。

価値マップの作り方(種類)

①散布図
・価値の集合体をグループで捉えるもの
・価値の振り幅と偏り方を共有するのに向く

価値マップ(散布図)

②フローチャート
・価値同士の関係性を矢印で明示したもの
・全体を簡略化して思考を集約するのに向く

価値マップ(フローチャート)

③リスト
・大きな価値のグループを言葉で並べたもの
・調査で判明した価値を説明するのに向く

価値マップ(リスト)

④ステートメント
・ユーザーの生活文脈で価値を言語化したもの
・ストーリーラインを示すことで思考を活性化させるのに向く

価値マップ(ステートメント)

※一般的によく使われているのは①散布図のタイプですが、報告の機会にのみ登場する拡大関係者に内容を伝えるにはハードルが高いこともあり、運用上はその機能を補完するために②③④のタイプを併用していくのが望ましいです。(このほか、定性調査の分析スキルが高い人の間では、個々の価値の解像度を上げるために、具体から抽象へと考察を深めていく「上位下位分析」の手法も使われています)

●構成要素

※価値マップの構成要素は、調査結果から導く価値情報(KA法)そのものになります。

●よくある課題

価値マップ よくある課題

「プロダクトに何も良いところが無い気がする…」
⇒この悩みに一枚で答えるためのアウトプット

①強みですらも競合劣後にさらされているケース

トップシェアブランドの寡占が進む業界では、自分たちが強みと定義したい項目でも簡単に劣後評価になり得ます。アンケートの競合調査で相対比較をするとこの傾向はいっそう顕著に表れ、劣後項目ばかりに見えてしまうことでしょう。

参照するデータを変えてVOC(コールログや問合せログ)を見てみても、基本的には改善要求が並ぶため光が差し込んできません。この状況に陥ったら、調査のアプローチを変え自社の「普遍的な価値」を知る機会を作ることが有効です。

②心理的ロイヤルティが形成されていないケース

KPI達成のために極端なマーケティング施策に傾倒していると、利用数値は伸長してもユーザーの偏った使い方を促進してしまうおそれがあります。こうしたユーザーには心理的ロイヤルティ(エンゲージメント)がほとんど無いのが特徴です。

例えば、キャンペーンに参加はしているがプロダクトの中身は見ていない、などの使い方をする人です。こうした状況下ではインタビューでもユースケースが画一的で、特定用途・特定時期・特定要件でのみ使用される事例が目立ちます。

2.作り方

①発話情報をKA法でカード化する

・インタビューの発話で得られた事実情報(出来事)をユーザーの心の声として変換する
・「○○できる価値」の形式で価値を抽出して、カード化する(以上、KA法のステップ)

②抽出した価値をKJ法で整理する

・抽出した価値の類似性に着目してグルーピングし、グループの見出しをつける
・グループ同士の関係性を矢印の記号で整理する(以上、KJ法のステップ)

<価値・グループ同士の関係性を整理する時の着眼点>
・目的と手段の関係性
・事前と事後の関係性
・基本と発展の関係性
・上位と下位の関係性
・二律背反する関係性
※実際のプロダクト運営に関するワークショップでよく使うものを記載しています。

価値マップの作り方(作成手順1/2)

③必要に応じてパターン展開を作る

・必要に応じて成果物のパターンを作る

<価値マップの資料パターン展開>※詳細は「種類」の項を参照
①散布図
②フローチャート
③リスト
④ステートメント

価値マップの作り方(作成手順2/2)

3.使い方

価値マップの使い方

①提供価値の全体像を視覚的に把握できる

価値マップにはベーシックなものも含めた普遍的な価値が並びます。マップを見ていると、競合にかかわらず自社が展開する事業ドメインで確実に提供できている価値を認知し、自信を深める(取り戻す)ステップにつながります。

もちろんそれだけではだめなので、どの価値群に焦点を当てるか話し合うことになります。価値マップを使うと、価値同士の関係性・価値群の偏りを参照しながら、ユーザーのインサイトベースで伸ばす部分を決めることができます。

②LTVに寄与する正しい価値を判別できる

マップ中の価値の中でも注目したいのはKPIが関係する重要項目です。ユーザーが取る様々なアプローチ(インサイト)の中から、ポジティブなものとネガティブなものを判別して、前者を採用して、後者を回避する討議に役立ちます。

この討議アプローチは、今あるインサイトを網羅的に可視化する価値マップならではです。一見するとKPIに貢献するアクションでも、LTVベースではネガティブなものもあります。価値マップで正しい価値の道筋を確認しましょう。

この記事のライター

株式会社アイスリーデザイン
chapter UI/UXデザイングループ スペシャリスト
菅原大介

リサーチャー。上智大学文学部新聞学科卒業。新卒で出版社の学研を経て、日系最大手のマーケティングリサーチ会社で月次500問以上を運用する定量調査のディレクター業務を経験。総合ECサイト・アプリを運営する大手事業会社でデジタルプロダクトの戦略企画を担当したのち、現在は株式会社アイスリーデザインでUI/UXデザインの支援・研究に携わる。

デザインリサーチとマーケティングリサーチのトレンドをウォッチするニュースレター「リサーチハック101」を個人で発行するほか、定量・定性の調査実務に精通したリサーチのメンターとして活動や記事の監修も行っている。著書『ユーザーリサーチのすべて』(マイナビ出版)、『リサーチからはじめる仮説ドリブン・マーケティング』(WAVE出版)

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