1.バリュープロポジションキャンバスとは
■●全体像イメージ
■●概要
バリュープロポジションキャンバスとは、カスタマープロフィール(図の右側:顧客情報)とバリューマップ(図の左側:提供価値)から成る図を使って、ユーザー要件とビジネス要件を突合せ、その一貫性を示すためのアウトプットです。
具体的には、右側のカスタマープロフィールは、ジョブ(顧客が成し遂げたいこと)、ゲイン(顧客の便益)、ペイン(顧客の悩み)の要素から成り、左側のバリューマップは、プロダクト(提供サービス)、ゲインクリエイター(便益を満たすもの)、ペインリリーバー(悩みを解消するもの)の要素から成ります。
Alexander Osterwalde/アレクサンダー・オスターワルダー氏が考案したフレームワークとして広く知られるこの成果物は、見る人の部門や職種を問わず、ブランド・サービスの全体像を簡略化して共有できるメリットがあります。
■●構成要素
バリュープロポジションキャンバスの構成要素は以下のようになります。
※記入例はギフトEC/ソーシャルギフトサービスの場合で記載しています。
◎カスタマープロフィール(図の右側)
●1.ジョブ
・ユーザーが商品・サービスを使用するに至る目的や願望
(※この項目は自社に特有の内容にならないように注意)
<インプット>
・重視点
・利用目的
<記入例>
・カジュアルギフト(お礼・差し入れ)
・フォーマルギフト(ライフイベント・季節イベント)
・ソーシャル/ネット上の関係性でのプレゼント
・ポイントの獲得・使用
●2.ゲイン
・ユーザーがジョブの達成にあたり望んでいる便益や利点
<インプット>
・満足点
・カテゴリーエントリーポイント
<記入例>
・包装・ラッピング・紙袋をつけられる
・スマホ・アプリだけで完結する
・ポイントが貯まる・使える
・親しい人との良好な人間関係の継続
・良かったものや好きなものを広める満足感
●3.ペイン
・ユーザーがジョブの達成にあたり障害となる悩みや不便
<インプット>
・不満足点
・困っていること・わからないこと
<記入例>
・相手の好みがわからない
・食品の賞味期限が適切か心配
・相手が受け取ったことを確認したい
・商品の現物の状態がわからない
・希望日に配送されるかわからない
・品物の金額を知られないか心配
◎バリューマップ(図の左側)
●1.プロダクト
・自社のプロダクト(サービス)
<インプット>
・事業計画
・経営計画
<記入例>
・ギフトメディア
・ギフト検索
・ギフトリクエスト
●2.ゲインクリエイター
・ユーザーのゲインを促進する施策や機能
<インプット>
・マーケティング方針
・開発方針(バックログ)
・サイトマップ
<記入例>
・誕生日リマインド機能
・ラッピングサービス
・相手別・予算別検索機能
・友人リスト連携
・公式Instagramでのリポスト
・電子マネー決済連携
●3.ペインリリーバー
・ユーザーのペインを緩和する施策や機能
<インプット>
・マーケティング方針
・開発方針(バックログ)
・サイトマップ
<記入例>
・欲しいものリクエスト機能
・開封済み通知機能
・指定日配送機能
・実店舗での見本展開
■●よくある課題
「ユーザーのゲイン・ペインをまとめた資料データはないか?」
⇒この質問に一枚で答えるためのアウトプット
①膨大な環境分析データを参照しているケース
プロダクトを運営する組織では、ユーザーのゲイン・ペインをまとめた資料データの参照ニーズが強くあります。しかしリサーチで調べ上げられた環境分析データは、そのままだと元の報告書が何十ページにも及ぶ状態にあります。
資料ページが膨大だと、残念ながらその中に埋まっているデータはなかなか活用されません。ユーザーとサービスの在り方についてスムーズに討議に入れるよう、ユーザーのゲイン・ペインをシンプルにまとめる工夫が欠かせません。
②事業展開ごとに報告書の仕様が異なるケース
事業成長に伴い事業展開が多角的になってくると(マルチカテゴリ・マルチブランド運営をしていると)、月次報告や期首発表などの全体報告の場では、共有する中身の情報こそ違えど、共通の報告用フォーマットが必須になります。
もしここで交通整理を行わないと、個々に好きな形式で内容が構成されてしまいます。当の報告部門には良くても、資料を参照するメンバーにはサービスやプロダクト間の比較・把握しづらくなり、高い読解カロリーが発生します。
2.作り方
<STEP1:カスタマープロフィールを作成する>
①ジョブを記載する
・ユーザーの目的や願望を記載する
②ゲインを記載する
・ユーザーの便益や利点を記載する
③ペインを記載する
・ユーザーの悩みや不便を記載する
④中央にペルソナの画像を貼る
・名前・性別・年代などの基本情報を補記する
<STEP2:バリューマップを作成する>
①プロダクトを記載する
・サービスや重要機能を記載する
②ゲインクリエーターを記載する
・ゲインを生み出す施策や機能を記載する
③ペインリリーバーを記載する
・ペインを打ち消す施策や機能を記載する
④中央にプロダクトのアプリアイコンを貼る
・アプリ展開が無い場合はサービスロゴで代用する
3.使い方
①ユーザー要件を交えた環境分析をクイックに参照する
バリュープロポジションキャンバスがあるとプロダクトの事業環境を素早く共有することができます。インタビュー結果そのものだと情報量がありますが、この成果物があれば瞬時に関係者にプロダクト概況を共有することができます。
特に領域強化や新規事業を検討する場面で、ユーザーに関連する情報の参照率や引用率を上げる手段として有用であり、事業優先・開発優先などの自社都合でプロダクトバックログの優先順位が決まる状況を抑制する役割を果たします。
②複合事業ポートフォリオのまとめ資料として活用する
複合的な事業展開をしている組織では、同じバリュープロポジションキャンバスのフレームワークを使って、ブランド単位・サービス単位のフォーマットに展開し、戦略検討や方針共有の場でポートフォリオ資料のように活用できます。
このフレームワークはメジャーなため、資料を閲覧する立場でも作成する立場でも、セールス・マーケティング部門から制作・開発部門まで広く通用することでしょう。組織横断の役割を担う部門にとっては重宝する成果物です。
リサーチャー。上智大学文学部新聞学科卒業。新卒で出版社の学研を経て、株式会社マクロミルで月次500問以上を運用する定量調査ディレクター業務に従事。現在は国内有数規模の総合ECサイト・アプリを運営する企業でプロダクト戦略・リサーチ全般を担当する。
デザインとマーケティングを横断するリサーチのトレンドウォッチャーとしてニュースレターの発行を行い、定量・定性の調査実務に精通したリサーチのメンターとして各種リサーチプロジェクトの監修も行う。著書『ユーザーリサーチのすべて』(マイナビ出版)
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