十六羅漢
昨年の盛岡旅行は思い出に残る旅でした。何といっても岩手山と北上川が到着早々目に飛び込んできました。盛岡出身で日本を代表する国際人として、国際連盟事務次長を勤めた新渡戸稲造。世界をも魅了した彼の名著「武士道」の源流である南部氏盛岡藩は南部藩とも呼ばれ石高は20万石でした。南部氏は鎌倉時代から明治まで700年間にわたり同一の国・地域を収め続けた世界でも稀有な藩主であり、盛岡はその典型的な城下町です。何度も涙して心震わせた浅田次郎氏のベストセラー小説「壬生義士伝」は映画や漫画、宝塚歌劇など様々なメディアで幅広く取り上げられています。「壬生義士伝」に因んで訪れたかった見所も多く、残念ながら桜の季節ではありませんでしたが小説に出てくる石割桜を見て感動し、主人公吉村貫一郎が脱藩する際に親友の大野次郎右衛門と別れた青銅の擬宝珠のある『上の橋』に佇み、北上川の支流である中津川の流れを眺めながら、不思議にも小説の中にすっぽりと入ってしまったような錯覚に陥りました。
観光コースをひたすら歩き、岩手銀行赤レンガ館からホットライン肴町を通って、大慈寺(“平民宰相”として国民に親しまれた原敬の墓所)に寄り、盛岡町家をゆっくり歩き、あさ開酒造を見つけてお酒を買い、一休み。街はずれには熊に注意という看板が幾つかあり驚きました。盛岡八幡宮へ行く途中、らかん児童公園にある十六羅漢など21体の石像群の光景に圧倒されました。廃寺となった宗龍寺で安置していた石像群で、廃寺後に公園として整備され盛岡市の有形文化財に指定されています。江戸四大飢饉(寛永、享保、天明、天保)による多くの犠牲者を供養するために天然和尚が建てたといわれています。盛岡は古くから冷害に悩まされた土地であり、江戸時代250年間には南部氏領内で実に76回もの飢饉があり、132回もの百姓一揆が起こったといわれています。
食糧・食料、飢餓・飢饉
世界はかってない規模で食料危機が迫っています。また、食料危機は現在進行形で起こっています。それには天災も人災も複雑に絡み関係し合っています。ここで改めて、定義のおさらいをしてみます。食糧と食料の違いは、食糧が主食となる穀物のみを指すのに対し、食料は穀物も含めて食べ物全般を指します。
また、飢餓(starvation)とは、食料の不足によって栄養失調が続き、体調維持が困難になっている状態です。飢饉(famine)とはより限られた地域で突発的に発生する食料危機や人々の飢餓です。狭義では一地域における死亡率を急激に上げるような食料不足の事態を示します。主食となる農作物の大規模な不作を契機にする場合が多く、歴史的には長引く戦乱や各国の領土拡張などが要因でしたが、1940年から1960年代にかけて化学肥料の進化や大量投入、穀物の品種改良などによる緑の革命(農業革命のひとつ)による収穫高の増大や輸送網の発達、国際的な人道援助の拡がりなどで飢饉の発生は大幅に減ってはいます。飢饉により高齢者や子供、貧困層は大きな被害を受け、暴動など治安の悪化や厳しい生活環境を生み出す根源となりました。
食料危機の原因
食料危機の原因は様々ですが、ここではざっと10の原因を取りあげてみます。①世界の人口増加。2050年には97億人まで増えると予測されます。低所得国の経済成長に伴い、穀物や野菜中心の食生活から魚肉を好む傾向と食が変化しています。②気候変動。気候変動による水不足は食料不足に大きく影響します。また、異常気象や自然災害により農畜産物をはじめとした食料の栽培、あるいは進む温暖化は穀物の生産地に悪影響を及ぼすのはいうまでもありません。③食料分配の不平等。世界では十分な食料が生産されているにもかかわらず、多くの人々が飢餓状態にあり栄養不足に陥っています。複雑な問題が絡み合っているためと予想されます。➃食品ロス。世界では賞味期限など様々な理由で、食べ物の3分の1が廃棄されています。⑤バイオ燃料(バイオエタノール)。自然環境に負荷をかけないメリットがありますが、人間が食べられる食料を燃料として加工することになります。⑥増える肉食。食肉生産には大量の穀物や水を必要としますが、世界的に肉の消費量は増え続けています。⑦バッタ。アフリカやインド、パキスタンなどでバッタが大発生し被害が拡大しています。⑧ミツバチの減少。野菜や果物の受粉に必要なミツバチとその仲間が著しく減少しています。⑨パンデミック。新型コロナ感染拡大により、飢餓パンデミックが生まれたのは記憶に新しいと思います。⑩搾取。高所得国が低所得国から搾取する構図は未だ解消されません。
食料確保の対策・方針
世界の食料を確保するためには、どのような行動や意識が我々に求められるのでしょうか。今ある資源を有効に活用し無駄を省くにつきるのですが、ここでは10の対策・方針を提案します。①現存する農地の生産性を高める。AIを活用するなど最新科学技術の導入を進め、農地の生産性を高める努力が世界規模で求められています。②食品ロスの削減。日本では包装容器の技術を駆使し、賞味期限を延ばす新しい試みも行われています。③消費者啓発。食品ロスは事業者と家庭の割合がほぼ同じで、食料に関する家庭での啓蒙活動が必要です。④昆虫食。貴重な将来のタンパク源として注目されています。⑤地産地消。地元で採れた食べ物を地元で食べることで食品を運ぶエネルギーを節約できます。⑥農地の拡大を避ける。人類は世界の森林の3分の1と草地の3分の2を農地に拡大してきました。農地の拡大により、自然や生物多様性が損なわれています。⑦食べ物のシェア。フードバンクで代表される、まだ十分食べられるにもかかわらず賞味期限など様々な理由で廃棄される食料を必要とする人や組織に寄付する活動が盛んになっています。同じく、安価で販売する仕組みも稼働しています。⑧フードテック。培養肉や植物肉に代表されるバイオやデジタルなどのテクノロジーを活用し、食の課題解決につなげる技術が進化を遂げています。⑨リサイクル。食品ゴミを資源として再利用をはかります。⑩食料に対する知識を増やす。食料に関する危機意識あるいは食に対する敬意が特に日本では欠如しているようです。賞味期限とは美味しさの目安であり、概ね5日以内の日持ちの食品に表示される消費期限とは異なります。
食料危機の原因は天災も人災もあり、人類にとって最大の解決すべき課題です。
株式会社創造開発研究所所長、一般社団法人マーケティング共創協会理事・研究フェロー。広告・マーケティング業界に約40年従事。
日本創造学会評議員、国土交通省委員、東京富士大学経営研究所特別研究員、公益社団法人日本マーケティング協会月刊誌「ホライズン」編集委員、常任執筆者、ニューフィフティ研究会コーディネーター、CSRマーケティング会議企画委員会委員、一般社団法人日本新聞協会委員などを歴任。日本創造学会2004年第26回研究大会論文賞受賞。