なぜ中国で「銀髪経済(シルバー経済)」が好調?その実態に迫る|中国トレンド調査

なぜ中国で「銀髪経済(シルバー経済)」が好調?その実態に迫る|中国トレンド調査

日本だけでなく、中国でも、高齢化が益々加速しています。2018年の国勢調査によると、60歳以上の人口が総人口の11.9%となりました。このような「高齢化社会」へ突入した中国では、高齢者のレジャーやケアのためのサービス、高齢者の買い物など、言わば「銀髪経済(シルバー経済)」が拡大し、資本力のあるネット企業も次々と参入してきました。ここでは、社会や暮らしの充実を図るための「銀髪経済(シルバー経済)」が発展してきた経緯、中国の高齢者の「新しい生活様式」について紹介していきたいと思います。


Wechat、QQなどのメッセージアプリは月間1億人以上の高齢者が利用

 imediaの調査によると、メッセージ系、ニュース系、動画・音楽系アプリが高齢者に最も人気であり、例えば、Wechat、QQなどのメッセージアプリは、月に1億人以上の高齢者に利用されています

また、ニュース系アプリを取り上げると、バイトダンス傘下の「今日頭条」とテンセント傘下の「腾讯新闻(テンセント・ニュース)」を利用する人が多く、高齢者の時事問題に対する高い関心が示唆されます。

 これまで、多くの高齢者がテレビのニュース放送を情報収集のツールとして利用してきましたが、「今日頭条」、「腾讯新闻(テンセント・ニュース)」の高齢者利用率の増加から、テレビ等のマスメディアではなくオンラインで情報収集を行うことは、「銀髪経済(シルバー経済)」の特徴の一つと考えられます。

私の祖父も毎日「今日頭条」を使ってニュースをチェックしており、初めは、ニュースアプリを用いた情報収集に不慣れでしたが、同じコミュニティで暮らしている友人とチェスゲームをする際に互いに「今日頭条」で見たニュースをシェアしたり、使い方を教え合ったりした結果、今では「今日頭条」のファンといっても過言ではないほど、上手にデジタルニュースをチェックできるようになりました。

中国の高齢者に最も人気があるアプリとは?

 インターネットの発展に伴い、メッセージ系、ニュース系アプリの人気は無論のこと、中国では音声・動画系アプリもシニア世代の支持を集めています。imediaの、2019年度・高齢者に最も人気があるアプリランキングによると、音声コンテンツアプリ「懒人听书」と「喜马拉雅(シマラヤ)」は、高齢者の心を奪っていきました。

 「懒人听书」と「喜马拉雅(シマラヤ)」はどちらも多岐にわたる音声コンテンツを視聴可能な総合音声プラットフォームアプリであり、スマートフォンやタブレットを用いて音声コンテンツを無料で楽しめる点が最大のポイントです。普段、読書好きなシニア世代の方々にとって、音声アプリの利用は、読書をさらに魅力的なものにし、老眼や低視力に悩まされることなく、自分が好きなコンテンツを楽しむことができます。

 一方で、動画系アプリ「西瓜视频(スイカビデオ)」、「糖豆广场舞(キャンディー広場ダンス)」の流行は、中国高齢者特有の習慣「广场舞(広場ダンス)」に密接な関係があります。

 「广场舞(広場ダンス)」とは広場、公園などのインフラ施設で高齢者集団が行う健康ダンスのことを指します。必要な道具や場所などの面でハードルが低く、運動による心身のリフレッシュにも繋がるため、さまざまな年齢の人々がそれを楽しみ、中国全土で流行しています。

 ユーザーは、自分が好きな広場ダンスを無料でダウンロードすることができる等といった点で、「西瓜视频(スイカビデオ)」や「糖豆广场舞(キャンディー広場ダンス)」は、広場ダンスの練習に大きな役割を果たしているため、日常の習慣に広場ダンスを加えた高齢者の間で爆発的な人気となっています。

例えば、私の祖母も「糖豆广场舞(キャンディー広場ダンス)」のユーザーであり、毎日広場ダンスビデオを見て、踊っています。実家に帰った時に、広場ダンスのマスターを目指して練習している祖母の姿を見て、このような「銀髪族」向けのアプリ開発は老後生活を豊かにしたと改めて実感しました。

 現在、「糖豆广场舞(キャンディー広場ダンス)」は中国で有名な広場ダンスの講師の90%と契約を結び、日々広場ダンスのレッスンビデオを更新しています。さらに、2019年には、シリーズCラウンドで一億ドルの融資を獲得し、現在は広場ダンスによるマルチチャンネルのネットワークの作成を目的として、ユーザー投稿機能、健康レシピ機能など新しい機能を備えるようになりました。

中国の高齢者の買い物傾向は「孫消費」「健康消費」「コスパ消費」

高齢者のEC利用拡大も「銀髪経済(シルバー経済)」の発展を支えてきました。2019年6月に中国の大手EC企業J D.comなどが共同発表した報告書によると、2018年の高齢者のネット通販消費額が前年比65%増となっただけでなく、1人当たりの同消費額が他世代よりも高いことが分かりました。

ここでは、高齢者のEC利用によく見られる「孫消費」「健康消費」「コスパ消費」の特徴について紹介していきたいと思います。

①「孫消費」
近年、孫のために、ベビー用品、児童用書籍などをECで購入するという「孫消費」のブームがシニア世代の中で起きました。中国では共働き世帯が多いため、祖父母に孫の面倒を見て貰うことが一般的です。幼稚園の送り迎えから子どもの知的教育(例えば、数、漢字など)を担当するシニア世代は、「孫消費」のためにECを利用しています。

②「健康消費」
「孫消費」のほか、老眼鏡、補聴器、杖、化粧品などの日用品、動きやすい素材の服、転倒防止の靴などの衣服類、健康食品の購入も増加傾向にあります。

広場ダンスの流行からも分かるように、中国のシニア世代は健康意識が高く、健康寿命の延長により「健康消費」の拡大は見込まれます。QuestMobile の調査によると、25%のシニア世代はエイジングケアを目的として化粧品、スキンケア商品を選び、また、大手ECプラットフォーム「「蘇寧易購」(Suning.com)では、2019年のヘアカラーの売上が前年比118.09%増を達成しました。以上からわかるように、自分の健康イメージを保つため、高齢者のEC買い物の裾野はさらに拡大しそうです。

③「コスパ消費」
中国の高齢者は貯蓄率が高く、オフラインの買い物だけでなく、オンラインの買い物でもコスパ消費の習慣があります。そのため、スーパーに比べ、野菜や魚・肉といった生鮮食品の値段がさらに安く、かつ商品を速やかに配送できる生鮮ECサービスを利用する高齢者は多く、今回のコロナ禍によってこの「コスパ消費」は拡大の一途にあります。

まとめ

高齢化が加速する中で、高齢者の自立した生活を支援する高度なサービスは、グローバル社会の中での期待も高まり、中国だけでなく、人口減少・高齢化社会の国であればどこでも、推進することが、将来の重要な鍵となっています。

そして、人口が多く経済的に比較的ゆとりがあると考えられるシニア世代は、今後も「銀髪経済(シルバー経済)」を支え、アプリやECの利用率を高めることで、暮らしを豊かにする好循環を作っていくことができると考えられます。

<参考文献>
聚焦银发经济—2019中老年线上消费趋势报告
https://www.zhizhi88.com/articles/16116.html

60岁以上人群的贡献:银发经济发展概况与用户行为分析
http://www.chinadatagroup.com/index.php?c=show&id=3914

哪些人是买买买的“主力军”——对中国时下消费时代特征的解读
https://www.jianshu.com/p/dc4acbb5b547

社会老龄化背景下的生鲜零售发展探析
http://cnki.com.cn/Article/CJFDTotal-NFLJ201906209.htm

株式会社ヴァリューズでは、中国人の消費意識と実態、ECモールやWeb広告の現状、Webの行動実態について把握できるリサーチサービスを提供しています。

この記事のライター

中国出身の留学生。慶應義塾大学に在学中。

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