中国人ミニマリストの暮らし方
ミニマリストの暮らし方といえば、まずキャッシュレスが挙げられます。
中国ではアリペイやウィーチャットペイなどキャッシュレスサービスが瞬く間に普及し、急速なキャッシュレス社会の到来によって持ち歩く荷物の断捨離を目指すミニマリストが増えてきました。
現在、アリペイには、配車サービスや出前、金融、医療といった生活全般のミニアプリがあるため、今後、持ち物は「スマホ一台」のみのミニマリストが増加していくだろうと考えられます。
持ち荷物だけでなく、最近、中国の人々も、家庭の中の整理整頓に目覚めつつあります。そのため、日本人整理収納アドバイザーの著書や日本で発売されているミニマリスト暮らし向けの収納グッズが中国で大人気となり、富裕層を中心に、片づいた部屋でミニマリストの生活を送りたいと考える人が増えてきました。
これに伴い、整理収納アドバイザーと片付け代行業が大いに活躍しており、彼らのサービスの値段はなんと平均して1時間当たり日本円で1万円を超える高額となっています。
ホテルとインテリアの選び方にも、中国人のミニマリスト志向が現れています。「極簡江南風」と呼ばれるデザインスタイルの流行はその一例として挙げられます。
中国では、浙江・江蘇・安徽三省にまたがる長江デルタを「江南」と言います。水辺の自然環境を利用して形づくられた中国江南の都市空間構造に、ミニマリストのデザイン志向が反映されています。例えば、「極簡江南風」のインテリアデザインを取り入れた浙江烏鎮(うちん)のAlilaホテルが最近人気のホテルです。
浙江烏鎮(うちん)のAlilaホテル
浙江烏鎮(うちん)のAlilaホテル
ホテルだけでなく、「極簡江南風」は、一般家庭向けのインテリアデザインプランの一つとしても、人気を得ています。
「極簡江南風」の他に、ミニマリストのデザイン思考に「胡同(フートン)」と「四合院」という2つの北京の伝統的建築様式を合わせた嵯峨館も人気な宿泊施設です。「胡同(フートン)」とは東西に走る幅員9mあまりの道路のことです。
一方、典型的な「四合院」とは長方形に区画された敷地の四方を壁で囲ったうえ、中庭を囲んで四方(東西南北)に建物を配置する建築様式を指します。
北京の嵯峨館
北京の嵯峨館
嵯峨館は、「胡同(フートン)」と「四合院」(しごういん)」の建築様式を生かし、静寂に包まれた施設であり、落ち着いたミニマリストな雰囲気を作り出しています。
中国人ミニマリストに人気の日本ブランドは?
■「Uniqlo U」は中国のミニマリストにも人気
日本のミニマリストに人気な、「無印良品」や「ユニクロ」も中国に進出しており、中国人消費者への認知度が高くなっています。
所得が増えれば、消費への志向が高くなり、良質かつシンプルなデザインの服や小物ブランドに、大きな商機が訪れます。最近、ユニクロの特別コレクションUniqlo Uの試着動画も中国最大級の動画プラットフォーム「bilibili」とショートムービープラットフォーム「TikTok(ティックトック)」で何十万人もの視聴数を得ました。
Uniqlo Uの試着動画
近年、ミニマリスト的ベーシックなデザインが有名な海外ブランドAcne Studios 、EverlaneやCOSなどもこの商機を利用し、アリババグループのECサイト「天猫(Tmall)」に出店しました。
また、ミニマリストに人気なハイブランドCelineやJil Sanderは、実店舗でのみ販売を行っており、ECサイト上に一切公式ショップを開設していませんが、代行サービスやSSENSE(エッセンス)などの海外通販サイトを利用して購入する人が多くいます。
筆者の観察によると、いま中国で流行っているミニマリストの「大人コーデ」は、フランス、韓国、日本のそれぞれの流行を取り入れたものであり、海外ブランドの中国市場進出への影響とともに、ミニマリストの考え方はサブカルチャーの一つとして中国の人々に受け入れられ、消費者の意識に変化をもたらしたと考えられます。
Acne Studiosの天猫(Tmall)公式ショップ
■SNS型ECアプリ小紅書(RED)でレシピをシェア
さらに、ミニマリストたちは、シンプルなデザインに憧れるだけでなく、質素な食生活も送っています。
ミニマリストとして、自分の食生活を記録する人々は、よくSNS型ECアプリ小紅書(RED)を活用し、日記の形で食生活の記録を残したり、レシピをシェアしたりしています。
このような料理や食生活に関連するコンテンツは、利用者にとって人気のジャンルとなっており、企業がREDをマーケティングの場として活用し、人気アカウントと提携し、自社の商品PRを行うことも多いです。
ミニマリストレシピの人気小紅書(RED)アカウント
まとめ
なぜミニマリストを目指すのか?その答えは人によって違いますが、ミニマリズムの人生を豊かにするための価値観は、多くの国に大きな影響を与えることが予想されます。
このような価値観に基づき、「物をたくさん所有しなくても暮らせる」、「シンプルなデザインでメッセージ性を強く打ち出せる」など、ミニマリストの定義が多様化しています。そして、高度経済成長とともに、商品・モノが溢れる中で、「爆買い」がひと段落し、モノへの捉え方を見直し、様々な体験を楽しむ「コト消費」へ転換していく中国人ミニマリストが増えていくことが考えられます。
<参考文献>
整理师,正在崛起的“钻石职业”
https://www.huxiu.com/article/336045.html
阿丽拉乌镇:极简江南风,冷淡却不冷漠
https://www.sohu.com/a/280258618_99951071
一座落入院落中的山景,嵯峨馆
http://www.tpc-sd.com.cn/cn/wordtxt.asp?wnum=2824
嵯峨馆:北京四合院角落的空间把戏 / 神奇建筑研究室
https://www.archiposition.com/items/20180525112844
爱上了“极简主义”的中国人?
http://wap.art.ifeng.com/?app=system&controller=artmobile&action=content&contentid=3486931
中国出身の留学生。慶應義塾大学に在学中。