「サブスク」の検索数が増加
「サブスク」は「サブスクリプション(方式)」の略称で、個別の購入ではなく、一定期間あたり指定の金額を支払うことでその期間中特定のサービスを受けられる権利を購入するサービスまたはビジネスモデルのことです。映像配信の「Netflix」や通販の「Amazon Prime」、音楽配信の「Spotify」などサービス内容は多岐にわたります。
近年のサブスク市場の隆盛には、モノの物理的所有へのあこがれが希薄になり、体験を重視する風潮が強まってきたことが関係していると言われています。物質的な消費を抑えることにつながるため、環境意識の高まりも当市場にとっては追い風となるでしょう。
「サブスク」キーワード検索ユーザー数の推移のグラフを見てみると、以下の通り2020年2月から3月にかけて大きくユーザー数が増えています。コロナによるロックダウンの影響の可能性も考えられるでしょう。
2019年10月~2020年9月「サブスク」検索ユーザー数推移(Dockpit画面より)
※対象デバイス:PCとスマートフォン
2019年10月には87,100人だった検索ユーザー数は、2020年10月には223,000人に
本記事では、ヴァリューズ社のWeb行動ログ分析ツール「Dockpit」を用いてインターネット上の検索キーワードを分析していきます。世の中ではサブスクに対してどのような関心が寄せられているのでしょうか。
どんなキーワードで検索されているのか
それでは早速、2019年10月から2020年9月の1年間で、サブスクがどのようなキーワードとともに検索されたのかを見てみましょう。次のサブスク関連検索ワードのユーザー数ランキングをご覧ください。
2019年10月~2020年9月「サブスク」関連検索キーワードのユーザー数ランキング(Dockpit画面より)
※対象デバイス:PCとスマートフォン
ランキングを見ると、「サブスク」単体の検索が圧倒的に多く、そもそもサブスクとは何なのかという点に注目が集まっています。未だその概念が万人に理解されているわけではないということでしょう。
次に、どのようなキーワードと掛け合わせて検索されているのか、掛け合わせワードのランキングも見てみましょう。
2019年10月~2020年9月「サブスク」掛け合わせワードのユーザー数ランキング(Dockpit画面より)
※対象デバイス:PCとスマートフォン
こちらのランキングを見ると、「音楽」というキーワードが1位を独走している様が見て取れます。2位以下は「車」「おすすめ」などのキーワードが続きます。このうち具体的なサブスクのサービスを求めて検索したと思われる「音楽」と「車」についてもう少し詳しく調査してみましょう。両キーワードの検索ユーザー数の過去1年間の推移を表した下のグラフをご覧ください。
2019年10月~2020年9月「サブスク」と「音楽」「車」掛け合わせ検索ユーザー数推移(Dockpit画面より)
※対象デバイス:PCとスマートフォン
上記のグラフについて、「音楽」との掛け合わせ検索数は2020年7月と2020年8月に大いに増えています。この原因を探るため、季節比較機能を用いて同時期の「サブスク」検索との掛け合わせワードを見てみました。
2020年7月~2020年9月「サブスク」との掛け合わせワード(Dockpit画面より)
※対象デバイス:PCとスマートフォン
音楽関連のキーワードとしては、歌手の米津玄師さんについて「米津玄師」「米津」といった言葉が掛け合わせて検索されていたようです。これは、米津玄師さんの全作品が「Spotify」などのサブスクの音楽配信サービス上に公開されたのと時期を同じくしています。人気歌手の楽曲がきけることになったことで音楽配信のサブスクに興味を持ったユーザーも多かったのではないでしょうか。
一方、「車」のサブスクとは、レンタルやカーシェアリングなどの従来のサービスとは異なり、月々定額を払うことで新車を利用できるサービスです。現在の新型コロナウイルスの流行下では、同じ車を複数人で共有することになるレンタルやシェアリングよりも安心なサービスと言えるかもしれません。
また、車の利用頻度がある程度高い人は、レンタルやシェアリングよりも支払金額が安くなることもあります。保険や車検などの費用も月々の料金に含まれているのも魅力となっているようです。トヨタやボルボなどのメーカーによるサブスクもあれば、車のサブスクを専門に請け負う会社も出てきています。
月々定額で新車に乗れる車のサブスクとは?メーカー各社も参入!
https://manamina.valuesccg.com/articles/1067月々定額でサービスを利用する「サブスクリプション」の流れは車にも及んでいます。新車の購入に比べ、初期費用が抑えられる、車の乗り換えが簡単で、車の維持にまつわる諸手続きが軽減されるなどの特徴があります。最近では、トヨタ・ホンダなどメーカー各社も車のサブスクに参入しています。
外出自体の忌避が収まったポストコロナ、ウィズコロナの社会では有力なオプションとなるのではないでしょうか。
サーティーワンに無印も…多様化するサブスクサービス
サブスクリプション型サービスはこれまで音楽領域を中心に発展してきましたが、最近は上で見た「車」領域を含む様々な分野に広がっています。そこで、過去1年でどのようなサービスが注目を集めていたのか、「サブスク」ワードとの掛け合わせ検索の季節比較の図を用いて、もう少し深掘りしてみましょう。
2019年10月~12月
2019年10月~2019年12月「サブスク」との掛け合わせワード(Dockpit画面より)
※対象デバイス:PCとスマートフォン
2019年10月から2019年12月にかけては、「嵐」、「無料」、「居酒屋」などのキーワードが目立ちます。以下、簡単に背景を記載します。
「嵐」
・・・アイドルグループの嵐がサブスクでの楽曲の配信を解禁したことで、検索数が増えたようです。
「居酒屋」
・・・居酒屋が月々定額で一部飲み放題になったりするサブスクのサービスが注目を集めました。
「無料」
・・・Spotifyなど、無料で一部サービスを利用できるサブスクの情報を求める検索を行ったユーザーが多く見られました。
2020年1月~3月
2020年1月~2020年3月「サブスク」との掛け合わせワード(Dockpit画面より)
※対象デバイス:PCとスマートフォン
「子供服」
・・・子供服のサブスクの代表的なものに、「KIDSROBE」という子供服のシェアリングサービスがあります。成長が早く回転の速い子供服はサブスクと相性が良いと言えるでしょう。
「温野菜」
・・・2020年3月には、レストランの「しゃぶしゃぶ温野菜」がサブスクの食べ放題サービスを終了しています。月額1万1000円という破格でした。2020年1月に開始して2か月で終了してしまったのは価格設定が低すぎたためでしょうか。
「東急」
・・・2020年3月にリリースされた東急のサブスクは東急グループが所有する鉄道、映画、飲食などのサービスをサブスクできる画期的なサービスで、当初から大いに注目を集めていたことがわかります。
「AIKO」
・・・嵐や米津玄師同様、2020年3月にサブスク解禁したミュージシャンのAIKOについても検索するユーザーが増えていました。
「ボルボ/VOLVO」
・・・先述の車のサブスクの中でも、2020年1月にサービスを開始したスウェーデンの車メーカー・VOLVOの検索が当時期に増えていたようです。
2020年4月~6月
2020年4月~2020年6月「サブスク」との掛け合わせワード(Dockpit画面より)
※対象デバイス:PCとスマートフォン
「山口百恵」
・・・2020年5月末に解禁された歌手の山口百恵のサブスクに関する検索の増加が見られました。
「ゴディバ」
・・・2020年4月に、ベルギーの高級チョコレートブランドゴディバがサブスクを開始しました。月々定額を払うことで毎月厳選されたチョコレートのセットが送られてくるという形のサービスです。
「パン」
・・・パンのサブスクと言えば、2020年2月下旬にサービスを開始した「パンスク」が有名です。毎月全国の有名なパン屋さんから冷凍パンが届くというサービスです。
2020年7月~2020年9月
2020年7月~2020年9月「サブスク」との掛け合わせワード(Dockpit画面より)
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「サーティーワン/サーティワン/31」
・・・2020年7月には大手アイスクリームチェーンの「サーティワンアイスクリーム」が月額5980円で毎日ひとつアイスクリームを食べられるというサブスクプランを発表しました。8月には月額359円でその月のお勧めフレーバーをひとつもらえるプランも発表されています。
「無印」
・・・無印では、家具のサブスクサービスを2020年7月から月額800円で開始しました。
「GOPRO」
・・・2020年9月に発売となったゴープロの新機種、「GoPro Hero9 Black」がサブスクを利用することにより大幅に安く手に入ることが話題になったようです。
「サブスク 比較」と検索するユーザーたち
Dockpitには、掛け合わせキーワードをグルーピングしてインフォグラフィックに表現するワードネットワークの機能があります。これを用いて、ユーザーの興味やニーズを包括的に見てみましょう。
2019年10月~2020年9月「サブスク」との掛け合わせワードのネットワーク(Dockpit画面より)
※対象デバイス:PCとスマートフォン
眺めているだけでも楽しいインフォグラフィックスですが、かなりの情報を含んでいます。一部にはなりますが、分析してみましょう。
主要な5つの掛け合わせワードのネットワークのうち、4つに「比較」「おすすめ」というキーワードが含まれており、乱立しつつあるサブスク市場の中で具体的に最もよいサービスを求めるユーザーの姿が見えてきます。
また、「車」に注目すると、「メリット」、「デメリット」、「購入」というワードが見られます。車の場合金額も大きく、音楽や動画と異なりモノとして所有するものであるため、ユーザーは購入とサブスクの間でも比較をしているのではないかと思われます。「音楽」と「動画」に注目すると、「無料」のサービスにも熱い視線が集まっているように見受けられます。
まとめ
最後に、今回の分析を通じて見えてきたことを総括します。
・サブスクの検索ユーザー数は浮き沈みはありつつも、増加傾向にあると言えそうです。
・サブスクの代表格である音楽だけでなく、比較的新しい車のサブスクサービスにも注目が集まっています。無駄が少なく、経済的にもエコロジー的にも、また貿易の観点からも理に適った車のサブスクはポストコロナ、ウィズコロナ時代においてさらに人気が高まるのではないでしょうか。
・サブスクのサービス内容は多様化しており、過去1年の間にユーザーの関心を集めたものだけで
1.音楽や動画などのサービスが一定期間利用可能となるもの
2.車など高額な商品を家賃を支払うように初期投資をおさえて所有できるようにするもの
3.飲食物を扱うレストラン等での食べ放題または定期的なおすすめ商品の配達をするもの
4.歯ブラシ等の消耗品の定期または任意の補充をするもの
などが確認されました。
・人気のある歌手の楽曲がサブスクで解禁されるたびにユーザーの関心は高まるようです。音楽サブスク自体の検索数とも正の相関がありそうでした。
・多様化してきたサブスク市場の中で、すでに主要サービスに関しては「比較」、「おすすめ」などを検索しているユーザーが多く、サービスに何らかの抜きんでた特徴がなければ今後選ばれ続けるのは難しいかもしれません。
今回の調査結果を踏まえて、サービスを受ける側としても提供する側としてもサブスクの利用をご検討されてはいかがでしょうか。
<分析概要>
ネット行動分析サービスを提供する株式会社ヴァリューズは、全国のモニター会員の協力により、ネット行動ログとユーザー属性情報を用いたマーケティング分析サービス「Dockpit」を使用し、2019年10月~2020年9月のネット行動ログデータを分析しました。
※ユーザー数はヴァリューズ保有モニターでの出現率を基に、国内ネット人口に則して推測。
ウィーン大学への留学を経て京都大学文学部卒業。
外資系大手ITコンサルティング会社に勤務後、フリーランスライターに転向。