7月開始の「Go To トラベル」 … 夏場はやや盛り上がりに苦戦か
新型コロナウイルス感染拡大によって大打撃を受けた観光業のため、政府が推進している「Go To トラベル」キャンペーン。10月からは東京都も対象地域として解禁される同キャンペーンについて、消費者の方々の興味関心はどこにあるのでしょうか。
今回は、ヴァリューズの新しいWeb行動ログ分析ツール「Dockpit」を使用し、各種データから「Go To トラベル」キャンペーンに紐づく消費者行動を調査します。また、コロナ禍の中でも特異的に興味関心を集める「星野リゾート」の経営戦略についても紹介し、国内旅行の新しい在り方に触れていきます。
はじめに、「Go To トラベル」について周辺事項のおさらいをしつつ、過去数か月の盛り上がりについて推移を見ていきましょう。以下は、過去半年の「Go To トラベル」キーワードの検索数をグラフ化したものです。
「Dockpit」で抽出した「Go To トラベル」の検索回数の推移データ
期間:2020年4月〜2020年9月
デバイス:PC・スマートフォン
グラフを見ると、「Go To トラベル」開始前の6月から徐々に検索する人が増えているものの、キャンペーンが本格的に始まった8月については検索数が下降しているのがわかります。
観光庁がキャンペーン開始を正式発表したのが7月10日で、その前後に大きな興味関心を引きつつも、7月22日のキャンペーン開始直後はやや関心が低迷していたのが見て取れます。当時はコロナ第二波についての懸念が世間的に高まり、かつキャンペーン始動の対応にバタつく政府の様子がたびたび報道されていた時期なので、「少し様子見かな」と利用を見送った方も多かったのではないでしょうか。
しかし、9月にかけては再び検索数が上昇していることから、「Go To トラベル」への関心が徐々に高まっていったことがわかります。9月上旬には、旅先での飲食代などで使える「地域共通クーポン」が正式発表されたこともあり、晩夏から徐々に、キャンペーンへ関心を持つ人々が増えてきたのではと推察します。
Go To トラベルについて世間が最も知りたいのは「申請方法」
それでは、「Go To トラベル」について消費者が知りたいと感じているトピックは何なのでしょうか。「Go To トラベル」 と掛け合わせて検索されているキーワードを、「Dockpit」で抽出したデータで俯瞰してみましょう。
まずは、掛け合わせキーワードの検索数TOP5から見ていきます。
「Dockpit」で抽出した「Go To トラベル」の掛け合わせキーワードのデータ
期間:2020年4月〜2020年9月
デバイス:PC・スマートフォン
上記データを見てみると、掛け合わせで最も検索されている語句は「申請方法」です。また、「申請」や「いつまで」といった制度に関するワードも上位にランクインしています。
この結果から、「Go To トラベル」を利用するために、どういった手順を踏めばいいのかわからないから、申請方法について検索している人が多数いると窺えます。また、キャンペーンの適用がいつまであるのか、といった期限を気にしている人も多そうです。
次に目立つ語句は「東京」です。これは、「Go To トラベル」が開始した7月時点から長らくキャンペーンの適用対象外とされていた、「東京都民の旅行」および「東京都への旅行」について、世間の関心が高いことによるものでしょう。
■特定の旅行サイトや日帰り旅行、地域共通クーポンなどに強い関心
つづいて、掛け合わせワードの検索数6位~15位のデータです。
「Dockpit」で抽出した「Go To トラベル」の掛け合わせキーワードのデータ
期間:2020年4月〜2020年9月
デバイス:PC・スマートフォン
6位以降でまず目立つのは、「楽天トラベル」や「じゃらん」といった大手旅行サイト名の掛け合わせワードです。こちらは、消費者が各サイトへ出品されている「Go To トラベル」対象の旅行商品を探すニーズが反映されていますね。
また、このあたりには、「クーポン」や「地域共通クーポン」という語句も登場しています。「地域共通クーポン」は旅行先の都道府県や、その隣接する都道府県において使用可能なクーポンで、10月以降の旅行から利用が開始されています。
さらに、「日帰り」という語句との掛け合わせも多いようです。「旅行はしたいけど、コロナ禍で遠方への移動は避けたい」という消費者の心情が大きく表れている特徴的なワードと言えるのではないでしょうか。
■キャンペーン申請方法やクーポンとの併用を思案する人が多数
主要な掛け合わせワードから、さらにその背景にある潜在的な消費者のニーズを探ってみましょう。以下は、「Go To トラベル」の掛け合わせキーワードを、さらに語句同士の繋がりが見えやすいようにプロットした「キーワードマップ」です。
「Dockpit」で抽出した「Go To トラベル」のキーワードマップのデータ
期間:2020年4月〜2020年9月
デバイス:PC・スマートフォン
キーワードマップを見ると、ユーザーのさらに具体的な関心ごとを推察できます。
例えば、「Go To トラベル」+「東京」と調べる人には、「いつから東京がキャンペーンの適用対象になるのか」や「複数人のグループで旅行した際の使い方はどうすればいいのか」といった疑問を持っていることが窺えますね。
キャンペーンの申請方法や期限などは、どの掛け合わせ語句にも結び付いており、消費者が「Go To トラベル」の利用方法を把握・理解するのに手こずる様子が見て取れます。段階を追って様々な情報が政府から発表され、キャンペーンの利用方法も端的ではないといった状況があり、さらに利用を促進するには「わかりやすい説明と仕組み」が必要なのかもしれません。
実際に「Go To トラベル」キャンペーンの公式サイトで9月末に取得されたアンケート結果でも、キャンペーンの認知度はほぼ100%で非常に高いものの、「詳細な内容までは知らない」という人が84%と多い結果となっています。
また、申請方法などと同様に、頻繁に登場することから関心度が高いと思われるのは「楽天トラベル」と「じゃらん」です。前項の掛け合わせキーワードでも上位に位置していた2サイトです。
なぜ「JTB」や「るるぶ」といったサイトではなく、この2サイトに消費者の関心度が高いのかという要因の1つが、サイト独自の旅行クーポンの充実です。たとえば、楽天トラベルであれば「楽天トラベルクーポン祭」や「全国の宿泊施設クーポン」といった独自クーポン付きの旅行商材を充実させており、このクーポンと「Go To トラベル」の併用ができる商品が多数あることから人気を集めているようです。
星野リゾートへの興味関心が伸びている理由とは
春先からコロナ禍により旅行や観光業が大きな打撃を受け、「Go To トラベル」のような政府介入の大きな施策も進む昨今です。そんな最中、総合リゾート運営を手がける「星野リゾート」が、にわかに人々の注目を集めることに成功しています。
実際に「Dockpit」のデータを用いて、「星野リゾート」についての消費者行動を見てみましょう。まずは、過去半年の「星野リゾート」キーワードの検索回数の推移と、星野リゾート公式サイトへのセッション数の推移データからです。
「Dockpit」で抽出した「星野リゾート」の検索回数の推移データ
期間:2020年4月〜2020年9月
デバイス:PC・スマートフォン
「Dockpit」で抽出した「星野リゾート」公式サイトのセッション数の推移データ
期間:2020年4月〜2020年9月
デバイス:PC・スマートフォン
両グラフともに右肩上がりに数値が上昇していることから、星野リゾートへの興味関心が徐々に高まってきているのが見て取れます。旅行・観光業が全体的に不振の中、このような数値の上昇があるのは星野リゾートならではの要因があると推察できますね。
では、星野リゾートに寄せられている興味・関心はどのようなものなのでしょうか。「Go To トラベル」と同様に、「星野リゾート」と掛け合わせで検索されているキーワードを上位から見てみます。
「Dockpit」で抽出した「星野リゾート」の掛け合わせキーワードのデータ
期間:2020年4月〜2020年9月
デバイス:PC・スマートフォン
掛け合わせキーワードを見ていくと、まずは具体的な地名が散見されます。「軽井沢」「熱海」「箱根」といった、関東圏から日帰りで遊びに行ける観光地が登場していますね。その他、「トマム」「青森」といった地名についても、星野リゾートが手掛ける宿泊施設が所在しています。
また、掛け合わせで最も検索されているのは「界」という語句ですが、こちらは星野リゾート
が全国17か所(2020年10月現在)に展開する小規模な温泉旅館の名称です。
■星野リゾートの注力する「マイクロツーリズム」
前項のデータからもわかる通り、星野リゾートが各地域に展開する宿泊施設、温泉施設などが世間から大きな関心を寄せられています。不振にあえぐ国内の観光業ですが、これに反して起きている星野リゾート関連施設への需要の高まりは、同社が推進する「マイクロツーリズム」の影響があります。
「マイクロツーリズム」とは、簡単に言えば自宅近隣の地域へ宿泊や日帰り観光を行うことです。星野リゾートでは、コロナ影響により冷え込むインバウンド集客の代替として「マイクロツーリズム」推進に早期着手をし、地元や近場に住んでいる人の集客を増やす施策に打って出ています。
星野リゾート公式サイトのトップページ画面
星野リゾートの公式サイトで報じられている内容によれば、同社は各地域ならではの文化・魅力に触れるプログラムを宿泊施設などへ展開し、近隣エリアからの訪問客を増やす取り組みで一定の成果をあげています。
こういった取り組みは、消費者が遠方ではなく近隣への移動で済むという「感染拡大防止」や、地域文化の作り手と一緒に「新しい魅力を世間に発信する」といった相乗的なメリットを市場へ生み出せる可能性を秘めています。
また、冒頭からの「Go To トラベル」に対する消費者のインサイトからもわかる通り、現在の旅行シーンでは「遠方への旅行は避けたい」「宿泊せず日帰りしたい」といったニーズが非常に高い状況です。特に、東京をはじめとする関東圏の消費者は遠方への移動を批判されやすいこともあり、星野リゾートの所有する「熱海」や「軽井沢」といった関東近隣の施設へ需要が高まっている様子です。
「国外や遠方からお客を呼べないのであれば、近隣から」という同社の推し進めてきた施策が、「近場へ旅行したい」という新しい旅行スタイルに合致しているのではないでしょうか。
まとめ
低迷する観光業を支援するために始まった「Go To トラベル」ですが、世間一般への認知拡大は進むも、消費者の動向を見る限りではまだまだ大きく活用が進んでいるわけではないようです。利用者を増やしていくためには、やはり制度を利用するための仕組みについて、さらにわかりやすく消費者へ啓蒙していく動きが必要でしょう。
また、星野リゾートが進めた「近場への旅行・観光」を促進する動きが事例を作っているように、近隣の都道府県への旅を考える消費者が多い、というニーズに応えるような仕組みを、キャンペーン全体で充実させていくことが大事だとも感じました。
本調査が、皆さんのマーケティング業務や市場調査などに役立ちますと光栄です。
【調査概要】
・全国のモニター会員の協力により、ネット行動ログとユーザー属性情報にもとづき分析
・行動ログ分析対象期間:2020年4月~9月の検索流入データ
※ボリュームはヴァリューズ保有モニターでの出現率を基に、国内ネット人口に則して推測
※対象デバイス:PC・スマートフォンの両デバイス
国内大手の採用メディア制作部を経てフリーライターとして独立。現在はWebマーケティング、就職・転職、エンタメ(ゲーム・アニメ・書籍)等の各種メディアにて記事制作を担当。「マナミナ」では一人でも多くの読者に楽しく読んでもらえるマーケティングコンテンツを提供していきます。