BtoB SaaSの3サービスの概要とコロナ禍における成長曲線
新型コロナウイルス感染拡大により、リモートワークや経費削減に取り組む企業は大きく増加しています。ヒト・モノ・カネの最適配置に対する企業の思考が変化したことにより、人事や労務などバックオフィスの取り組みにも、積極的な変革を望む企業勤めの方は多いのではないでしょうか。
このような状況の中でおのずと関心が高まり、急進的な成長曲線を描き始めているのがBtoBのSaaS業界です。
2018年には日経新聞が「日本のSaaS元年」と報じ、年々その市場規模が拡大する「SaaS」市場。元々成長を続けていた同業界でも、特にBtoBサービスは急増したリモートワーク需要が追い風となり、これからも大きく躍進する企業が登場すると思われます。
今回は、そんなBtoBのSaaS業界において成長を遂げる「SmartHR」「Sansan」「クラウドサイン」の3サービスから、コロナ禍のユーザーニーズを捉え、集客を伸ばしていくためのクリエイティブ戦略を学んでいきます。ヴァリューズの提供する新しいWeb行動ログ分析ツールである「Dockpit」を用いて、コロナ禍における3サービスの打ち手について紐解いていきましょう。
まずは、成長著しいBtoB SaaS の3サービスについて、サービスの概要と合わせ、直近1年のサイト訪問ユーザー数や属性を見ていきます。
■人事・労務の管理業務をクラウドで一元化「SmartHR」
SmartHRは、雇用契約など様々な人事・労務による管理業務をクラウドで一元化するサービスです。入退社手続き、従業員のパーソナル情報の一元管理などをペーパーレスで行えるサービスとして、2020年10月現在は全国2万人の利用者数があります。
SmartHRの訪問ユーザー層を把握するために、アクセスしているユーザーの年齢層データを見てみます。
「Dockpit」で抽出した「SmartHR」WEBサイトへの訪問ユーザー数の年齢層データ
期間:2019年10月〜2020年9月
デバイス:PC・スマートフォン
上記を見ると、訪問ユーザーは50~60代の年齢層が多いことが大きな特徴のようです。SmartHRは社員データや雇用契約の作業などをクラウド化できるサービスであるため、企業のシステム導入担当者や、決裁権を持つ役職者など年配層による訪問率が高いのでは、と推察できます。
SmartHRのWebサイトへ訪問したユーザー数の推移は、以下のグラフの通りです。
「Dockpit」で抽出した「SmartHR」WEBサイトへの訪問ユーザー数のデータ
期間:2019年10月〜2020年9月
デバイス:PC・スマートフォン
上記のユーザー数を見ると、コロナの第一次感染拡大が起きた2020年2月~4月にかけて、元々は月間10万人ほどだったユーザー数が、最大50万人ほどまで伸びています。テレワークがいっきに推進された同タイミングで、SmartHRの提供するバックオフィス業務の遠隔化にも関心が高まったことが見て取れますね。
■オンライン名刺交換・クラウド管理サービス「Sansan」
Sansanはクラウド上での名刺管理システムを軸として、取引先に関するデータ整理・統合から、企業の生産向上や営業強化などを提案してくれるソリューションサービス。同業界においてシェア82.8%(2020年2月時点)を誇り、大企業や官公庁でも導入され始めているサービスです。
Sansanの利用ユーザー層に顕著なデータは、世帯年収が800万円を超える富裕層の利用率が非常に高いことです。Dockpitを用いて抽出した、SansanのWebサイトへ訪問したユーザーの、世帯年収の割合データが以下の通りです。
「Dockpit」で抽出した「Sansan」WEBサイトへの訪問ユーザーの世帯年収データ
期間:2019年10月〜2020年9月
デバイス:PC・スマートフォン
世帯年収が高いユーザーに利用されているサービスであることは、マナミナが過去に行った別のリサーチ結果"世帯年収「1,000万円以上」のユーザー含有率が高いアプリランキング"で1位にランクインしたことからも窺えます。日々の仕事が非常に忙しい、"できる"ビジネスマンの業務効率化ツールとして人気が集まっているようです。
SansanのWebサイトへアクセスしたユーザー数の推移データも見ていきましょう。
「Dockpit」で抽出した「Sansan」WEBサイトへの訪問ユーザー数のデータ
期間:2019年10月〜2020年9月
デバイス:PC・スマートフォン
上記、ユーザー数の推移には幾分か波がありますが、おおむね1年を通して増加傾向であると見て取れるでしょう。2020年9月の月間ユーザー数はおよそ8万人で、昨年のほぼ同時期である2019年10月と比較すると、130%ほどの伸びとなります。
■契約書締結、押印業務の電子化「クラウドサイン」
クラウドサインは、契約書締結に際しての書類交付や、押印作業をオンライン化するサービスです。契約を行う双方がクラウドサイン上で契約に合意し、書面へ電子署名を付すことで、法的証拠力を持ったままオンラインで契約締結をすることができます。
クラウドサインの利用ユーザー像を推し量るために、アクセスしているユーザーの年齢層を見てみましょう。
「Dockpit」で抽出した「クラウドサイン」WEBサイトへの訪問ユーザー数の年齢層データ
期間:2019年10月〜2020年9月
デバイス:PC・スマートフォン
上記のデータを見てみると、クラウドサインのサイト訪問ユーザーは、ネット利用者の全体平均と比較して20~30代の利用者が多いです。契約書締結を業務として行うことが多い若手会社員によるアクセスか、もしくはフリーランスが企業案件を請けるにあたり、コロナの影響でクラウドサイン上での契約書締結が促進されている影響もあるかもしれません。
クラウドサインのWebサイト訪問についても、ユーザー数の推移を見てみます。
「Dockpit」で抽出した「クラウドサイン」WEBサイトへの訪問ユーザー数のデータ
期間:2019年10月〜2020年9月
デバイス:PC・スマートフォン
クラウドサインのWebサイトへ訪れるユーザー数は、ここ1年、奇麗な右肩上がりを続けています。特に、コロナ感染拡大の第一波となった2020年2月~4月頃までの伸びは大きく、昨年末の月間15万人という数字から5万人ほど増えた、20万人ほどまで成長しています。
BtoB SaaS 3サービスのコロナ禍におけるCM×LPのクリエイティブ戦略
前述した通り、三者三様のサービス展開をしつつも、全体的にコロナ禍が後押しになっていると思われるBtoB SaaSの国内3サービス。市場全体に対する需要は伸びつつある中で、3サービスはどのようなマーケティング戦略を実施してきたのでしょうか。
Dockpitによって各サービスのLPの滞在時間を分析し、その変化から、クリエイティブの狙いや効果を探っていきます。
■時節を捉えたクリエティブを素早く展開するSmartHR
SmartHRのランディングページについて、訪問ユーザーの平均滞在時間を見てみましょう。
「Dockpit」で抽出した「SmartHR」Webサイトの平均滞在時間のデータ
期間:2019年10月〜2020年9月
デバイス:PC・スマートフォン
ここ1年のLPの滞在時間を見ていくと、今年5月~6月にかけて、平均30秒~40秒ほどだった滞在時間が50秒ほどまで伸びているのがわかります。SmartHRは同時期に、実際にサービス導入をした企業担当者が、リモート画面で出演する「入社手続きをテレワークで」と題打ったCM放送を開始しています。
出典: https://smarthr.jp/
※Internet Archiveより
この時期に同クリエティブを投下したことは、2020年4月からの「社会保険の電子申請義務化」と、コロナ影響で新入社員の受け入れ対応に追われた人事・労務担当者には、非常に刺さるクリエイティブだったと言えるでしょう。
また、改めて滞在時間のデータを見てみると、8月~9月にかけて再度、平均滞在時間が上昇し始めているのがわかります。これは、8月8日からSmartHRが別クリエティブのCM投下と、それに伴うLPの刷新を行っていることが影響しています。
新しいCMクリエティブでは「年末調整の無駄よ、さようなら。」のコピーを大きく打ち出し、11月頃から始まる企業の年末調整対応に訴求するものとなっています。5月のクリエイティブから3か月という短いスパンで一新し、訴求軸を変更しているのが非常にスピーディです。
また、CMには木梨憲武さんと伊藤淳史さんの往年の名コンビを起用し、サイト訪問者のデータでも顕著に表れていた、40~50代の層が思わず目を止める仕様になっている点も戦略的です。
■閲覧者に気づきを与えるSansanのCMクリエイティブ
SansanのWebサイトへ訪れたユーザーの平均滞在時間のデータは以下の通りです。グラフを見ると、ここ半年では2020年5月~6月にかけてと8月~9月の計2回、平均滞在時間の伸びが確認できます。
「Dockpit」で抽出した「Sansan」WEBサイトの平均滞在時間のデータ
期間:2019年10月〜2020年9月
デバイス:PC・スマートフォン
そして、SansanのWebサイトを見てみると、ランディングページのメインビジュアルには同社のCM動画が埋め込まれているのがわかります。2回の滞在時間の伸びは、双方ともに新しいCMクリエティブの投下時期と重なるため、サイトの滞在時間の伸びはCMクリエティブの視聴者が多いことが要因であると言えるでしょう。
Sansanと言えば、松重豊さんの「それ、早く言ってよ~」がおなじみのCMクリエティブです。本CMクリエティブは毎度、松重さんの演じる「部長」が社外折衝の場などで失敗や問題に直面する様をコミカルに演じており、高い人気を集めています。
5月末からは同CMシリーズの第7.5弾である「自宅でやられた」篇が放映開始しており、「リモート会議で名刺交換をどうするか」、というテーマで制作されています。視聴している側も思わず「ああ、自分もこういう場面に直面して困りそう…」とハっとさせられるような内容になっています。
同社が本クリエティブ展開後に受けたインタビューによれば、元々予定していたものとは別クリエイティブとして、急遽の差し込みにより3週間の短期間で制作されたものだったようです。当時のリモートワークの急増という状況に合わせて、同社がフレキシブルなマーケティング展開を進めたことが窺えるエピソードですね。
8月中旬からは、CMの第8弾として「遠隔でやられた」篇が放送を開始。第8弾では「リモート会議をする相手を間違えた」という一見してあり得ないようなストーリーが展開されつつも、「もし名刺交換が遠隔でもできたら」という視聴者の視野が広がるような内容にまとまっています。
■クラウドサインはCM投下×テレワークLPでリードが昨対比4倍へ成長
最後はクラウドサインのWebサイト訪問者の平均滞在時間のデータです。グラフから、5月~6月にかけて滞在時間が一段階上がっているのを確認できます。
「Dockpit」で抽出した「クラウドサイン」WEBサイトの平均滞在時間のデータ
期間:2019年10月〜2020年9月
デバイス:PC・スマートフォン
クラウドサインは、5月からテレビCMを急遽出稿し、合わせてリモートワーク仕様のクリエイティブをWeb集客でも展開。
リモートワークがいっきに進んだ同タイミングにおいて、これまで必ずオフィスで行う必要のあった契約書面の取り交わしや押印作業が遠隔できる、という点を最大限にプッシュしたランディングページによるリード獲得を進めています。
MarkeZine掲載のクラウドサインのインタビューでは、本CM出稿とテレワーク仕様のLPにより、同社のリード獲得数・商談数・受注数のすべてが、昨年同期間比で4倍にまで増加したことが語られています。
コロナ禍によって大きく変化する企業側のニーズを素早く捉え、自社のマーケティングの転機を作った好事例と言えるでしょう。
まとめ
新型コロナウイルスの感染拡大、それに伴うリモート需要と企業のコスト削減は、急成長を遂げるBtotB SaaS業界へ大きな商機を与えたと言えます。ただ、そういった市場の変化をいち早く察知して、自社の提供するサービスの魅力付けに適切なクリエイティブを投下できた企業が、さらに一歩進んだ成長曲線を描けているという状況がありそうです。
本調査が、皆さんのマーケティング業務や市場調査などに役立ちますと光栄です。
【調査概要】
・全国のモニター会員の協力により、ネット行動ログとユーザー属性情報にもとづき分析
・行動ログ分析対象期間:2019年10月~2020年9月の検索流入データ
※ボリュームはヴァリューズ保有モニターでの出現率を基に、国内ネット人口に則して推測
※対象デバイス:PC・スマートフォンの両デバイス
国内大手の採用メディア制作部を経てフリーライターとして独立。現在はWebマーケティング、就職・転職、エンタメ(ゲーム・アニメ・書籍)等の各種メディアにて記事制作を担当。「マナミナ」では一人でも多くの読者に楽しく読んでもらえるマーケティングコンテンツを提供していきます。