ラーメンに漢方薬を入れ、スマホをまな板に使う…「他人のフンドシ」でブランドを作る中国メーカーのしたたかさ~中国市場マーケティング戦略考~

ラーメンに漢方薬を入れ、スマホをまな板に使う…「他人のフンドシ」でブランドを作る中国メーカーのしたたかさ~中国市場マーケティング戦略考~

中国でのマーケティング戦略について調査会社の視点から解説する新企画。ヴァリューズで海外調査を担当する、私、向井優が、最近の中国でのトレンドや調査事例を元に考察します。今回のテーマは中国メーカーのブランドづくりの施策に焦点を当てます。自社以外の力をうまく使いながら、認知やブランドイメージを高める中国メーカーのしたかかさな施策を、事例をもとに考えます。


中国メーカーのしたたかな施策とは

こんにちは。データマーケティングの企業・株式会社ヴァリューズでコンサルタントを務める向井と申します。

向井優(むかい・すぐる)株式会社ヴァリューズ マーケティングコンサルタント
京都大学大学院で中国哲学史を専攻。前職では外務省や大手ホテル等を中心に訪日外国人施策を担当。ヴァリューズでは、国内でのマーケティング支援を行う一方で、食品・飲料・ヘルスケア領域を中心に中国本土進出・越境EC・訪日中国人市場の調査/マーケティング支援を行っている。趣味は旅行と漢文・民俗学の文献研究。

マナミナでは中国でのマーケティング戦略について調査会社の視点から解説する連載を公開しています。前回は、中国でのブランド定着には、ボトムアップ型で口コミを広げる必要がある、というお話をしました。

中国でのブランド育成を日系メーカーのブランドイメージから考える ~ 中国市場マーケティング戦略考

https://manamina.valuesccg.com/articles/1160

価格競争に陥りがちな中国向け施策において、自社の商品に価格以外にも魅力を感じて貰う為に、ブランドイメージは非常に重要です。この記事では、インバウンド・越境ECいずれでも人気の日本の日用品(歯磨き粉)を例に考えます。

では、中国メーカーはブランドの定着や認知の拡大の為にどのような事を行っているのでしょうか。今回は、中国メーカーの施策に焦点を当ててお話しします。

コロナ禍に注目を集めた風邪薬×ラーメン

2020年の春、コロナ禍さなかの中国で、漢方薬系の風邪薬ブランド「999 感冒灵顆粒(华润三九医药股份有限公司)」は、思いきった企画を打ち出しました。即席麺とのコラボです。

中国SNS上での999 感冒灵顆粒のコラボ商品の投稿例

この風邪薬ブランドはなんと、パッケージに漢方薬のデザインを模した即席麺を売り出しました。しかも、実際に風邪薬を麺に注いで食べる事ができる、という商品です。

漢方は料理に使われる事もあるとはいえ、「即席麺に漢方」はなかなかのインパクトです。中国では漢方文化が強いとはいえ、薬を飲むのはやはり体調が悪い時が主流。それでもこうしたコラボを行う背景には、そのままでは漢方薬の市場が伸び悩んでしまう中国の事情があります。

一見突飛な施策のようにも思えますが、本当の狙いはラーメン×風邪薬を食べてもらうことではなく、話題づくりによる自社ブランドの想起率向上だったのかもしれません。コロナで健康意識が高まる中で、「風邪ではないけれど、健康の為に飲もう」と、自社の通常の商品を手に取って貰える機会となればしめたものという事なのでしょう。

風邪薬をラーメンに入れるのはドギツイ印象を受けますが、訪日中国人に抹茶ビールがウケたり、中国のネット上で青汁のスムージーが流行った時期もあります。少なくとも一過性の話題としては通用する可能性があり、実際にこの企画は、ネット上で若者を中心とした中国の消費者に好意的に受け入れられたようです。

スマホをまな板に使うHuaweiのプロモーション

こうしたインパクトのある企画は、これまでも中国で広く行われて来ました。その典型例は、中国のスマホメーカー・Huaweiがインフルエンサー「オフィスの小野さん(办公室小野)」を起用しておこなった新商品のプロモーション動画です。

「オフィスの小野さん」はオフィス用品を使って淡々と料理を作っていくインフルエンサーで、毎回の動画でのオフィス用品の意外な使い方の発想力と、出来上がった料理の可愛らしさが、しばしば話題となっています。

今回のHuaweiの企画は、小野さんがHuaweiのスマホをまな板に使い、料理をしていくという内容でした。動画の随所でHuaweiのスマホの頑丈さを自然に(?)演出したこの企画は、配信後一週間以内に、美拍(メイパイ)アプリランキング2位、AcFunサイトランキング1位、2ヶ月後には総視聴回数は1.5億回超、「いいね!」数は38万以上、コメント数は16.8万超に達し、新商品の認知度向上に大きな役割を果たしました。

中国でのファンを拡大する日清食品のコラボ

日本メーカーで積極的にこうした取組を行っているのが日清食品です。国内でも若年層獲得に向け、アニメのキャラがCMに登場していますが、その戦略は中国でも健在です。

最近では日本のアニメ「かぐや様は告らせたい」を起用したショートアニメをSNSの公式アカウントで公開し、話題を呼んでいます。

アニメ「かぐや様は告らせたい」のキャラが登場し、日清カップヌードルを食べたり宣伝するショートムービー

動画を見ると、商品パッケージやブランド名は中国向けになっていますが、日本人声優をそのまま起用し、セリフは日本語、字幕は中国語で構成されています。海外のアニメファンには「日本の声優の声を生で聞きたい」というニーズも強く、日本人声優を起用しつつも中国ナイズしたものを提供する事で、「中国人に寄り添ってくれる日清」を感じた中国のファンは少なくないのではないでしょうか。

タイアップマーケティングには深いユーザー理解が重要

ここまで見て来たように、中国企業や中国進出の歴史の長い日本企業は、自社以外の力もうまく使いながら、認知やブランドイメージを高めている事が分かります。

ただ当然、日本メーカーも国内ではこうしたタイアップやブランド戦略を、非常に高いレベルで行って来ました。最後に国内マーケティングにおける、ある家電メーカーの事例を取り上げましょう。

この家電メーカーは、競合と比べデザイン性に優れる一方で、やや価格が高く、画一的なプロモーションでは価格競争で劣位に陥ってしまっていました。しかし調査をしたところ、その商品を検討している消費者は少しお洒落なイメージのあるコーヒーメーカーのサイトをよく閲覧していると分かりました。

日本国内でのタイアップマーケティング事例

そこで、そのコーヒーメーカーとのタイアップや、コーヒーメーカー検討者へのWeb広告施策を行ったところ、非常に成果に繋がったそうです。確かに言われてみれば、質の高い家電を好む層と、こだわりのコーヒーを好む層に親和性があるのも頷けます。

しかし、多くの可能性の中から有効な要素を発見し、予算を投下して施策をおこなう意思決定をする事は容易ではありません。その難しい判断を下す為には、まずユーザー像の理解が重要ですが、なかなかユーザー理解が進んでいないケースは少なくないでしょう。

翻って、中国市場での日本メーカーのマーケティング施策に目を移すと、KOLとのタイアップを行いながらも、企画に新鮮さが無いことを内心感じている担当者も、或いはいらっしゃるのではないかと思います。

また、かつてはTVCMが中国でも強力な認知効果を持ちましたが、デジタル化、SNS文化の進展で、それもどこまで有効か分からなくなって来ています。(そもそも、中国でのTVCMは相当な企業体力が求められます。)

その中で中国メーカーは、購買者の心理を抑えながら、タイアップ(云わば他人のフンドシ)で、自社のブランドを築こうとしています。この姿勢は、いかにもしたたかな中国企業らしいとも言えます。自力でブランドイメージを築く事も、もちろん重要ですが、こうした中国企業の「賢さ」は、私たちも見習って行く必要があるのかもしれません。

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この記事のライター

京都の大学で長らく中国哲学史を研究。現在は事業会社に対するマーケティング支援を担当。中国・東南アジアを中心にグローバルリサーチにも携わっている。趣味は旅行と文献研究。

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