中国でのブランド育成を日系メーカーのブランドイメージから考える ~ 中国市場マーケティング戦略考

中国でのブランド育成を日系メーカーのブランドイメージから考える ~ 中国市場マーケティング戦略考

中国でのマーケティング戦略について調査会社の視点から解説する新企画。ヴァリューズで海外調査を担当する、私、向井優が、最近の中国でのトレンドや調査事例を元に考察します。今回のテーマはブランドイメージです。価格競争に陥りがちな中国向け施策において、自社の商品に価格以外にも魅力を感じて貰う為に、ブランドイメージは非常に重要です。この記事では、インバウンド・越境ECいずれでも人気の日本の日用品(歯磨き粉)を例に考えます。


ブランドイメージをどう育成するか

こんにちは。データマーケティングの企業・株式会社ヴァリューズでコンサルタントを務める向井と申します。

向井優(むかい・すぐる)株式会社ヴァリューズ マーケティングコンサルタント
京都大学大学院で中国哲学史を専攻。前職では外務省や大手ホテル等を中心に訪日外国人施策を担当。ヴァリューズでは、国内でのマーケティング支援を行う一方で、食品・飲料・ヘルスケア領域を中心に中国本土進出・越境EC・訪日中国人市場の調査/マーケティング支援を行っている。趣味は旅行と漢文・民俗学の文献研究。

マナミナでは中国でのマーケティング戦略について調査会社の視点から解説する連載を公開しています。前回は、中国におけるブランド名の浸透についてお話しました。最初に商品にニックネームをつける時に、その後の横展開も意識したネーミングを行えると、より効率的なブランド育成が可能となるのでは……といった内容をお伝えしました。

中国でのブランド育成を化粧品・医薬品の商品名から考える ~ 中国市場マーケティング戦略

https://manamina.valuesccg.com/articles/1119

「企業ブランドと、個々の商品ブランド、どちらを育てるべきでしょうか?」中国人向けのマーケティングでそんなご相談をよく頂きます。どちらも浸透させることができれば、それに越したことはありませんが、広大な中国市場ではなかなか難しいのが現状です。 では、中国において、ブランド育成はどのように行っていくべきなのでしょうか。インバウンド・越境ECでよく買われている化粧品や医薬品を中心に考えていきたいと思います。

今回は、ブランドイメージの育成をテーマにしたいと思います。

中国人が持つ商品のイメージは?

日本の商品は、中国の消費者にどの様なイメージを持たれているのでしょうか? インバウンドや越境ECで多く購入されている日本の歯磨き粉を例に考えます。

下の図は、インバウンドで歯磨き粉を購入した事のある中国人に、「歯磨き粉に求める効果」と「各ブランドにある効果のイメージ」を聴取し、その関係性をマッピングしたものです。

「歯磨き粉に求める効果」と「各ブランドにある効果のイメージ」マッピング図
(※マップの縦軸・横軸は意味を持たない。)

アンケートでの実際の設問は下記の2点でした。

Q:あなたはハミガキにどのような効果を求めていますか。あてはまるものをすべてお選びください。
Q:以下の中から、あなたが日本旅行中に購入したハミガキに対して、どのような効果のイメージをお持ちですか。それぞれについてあてはまるものをすべてお選びください。

上図のマッピングでは、各ブランド名の円形(オレンジ色)とブランドイメージ(=消費者がイメージする商品の効果)の円形の距離が意味を持ち、距離が近いほど「そのイメージ(効果)が強く持たれている」と言う事ができます。

また、バブルのサイズはハミガキに求める効果です。サイズが大きいほど「より求められている効果」になります。

まず、ピュオーラ(KAO)と生葉(小林製薬)が、それぞれ独自のポジションを築いているのが目につきます。ピュオーラは購入者の中で「口中を爽快にする」、「歯を白くする」、「口中を浄化する」というイメージを強く持たれているようです。

対する生葉購入者には「歯周病を予防する」、「歯がしみるのを防ぐ」というイメージを築いている事が伺われます。

一方、近い位置に固まっているのはスミガキ(小林製薬)や、クリニカ(LION)等で、これらは同じようなイメージを持たれてしまい差別化ができていないと言えます。

Ora2(サンスター)やシステマ(LION)は、中国現地でも販売され、購入者も多い商品ですが、それだけにイメージの差別化ができず、埋もれてしまっているようです。

価格競争を脱し、商品が中長期的に購入されるようにする為には、ブランドの差別化が重要です。

中国メーカーとの競争でもブランドイメージが重要

また、ブランドを築くことは、日本のメーカー同士の競争だけの問題ではありません。

近年、日用品や化粧品、家電等、日本メーカーが強い様々な領域で、中国現地のブランドの台頭がみられます。例えばスポーツウェア業界では、かつてはミズノをはじめとした日本のスポーツウェアが注目されていたものの、今は苦戦に追い込まれています。

経済が成長する際は、まず、アパレルなどの軽工業が発展し、次いで軽工業の中でも複雑な商品、そして重工業と段階的な成長を経ていくことが知られています。これまで日本製品が高い品質を維持していた領域でも中国現地メーカーが力をつける中、自社のブランドイメージを確かなものとする事がますます重要となっています。

鍵はボトムアップ型での口コミ醸成

ブランドイメージの育成が重要な一方で、顧客の情報源にアンコントローラブルな要素が多い中国市場では、メーカー側でコントロールできる部分を押さえつつ、ボトムアップで口コミが広がって行く形を目指す必要があります。

下の表は、中国の各プラットフォームと、メーカー側でコントロールが可能な情報を整理したものです。一見、企業側がアンコントローラブルな要素が多く、ブランドイメージをコントロールする事は難しいように思われます。

中国の各プラットフォームとその位置づけ

しかし、実はバイヤーやインフルエンサーは、メーカーの公式情報も参考にしており、企業側の用意した商品説明やサイトのスクリーンショットを、そのまま転載するケースも見られます。
(是非はともかく…。)

また、「中国人は企業のプロモーションを信用しない」と言われる一方で、中国の大手ECサイトtmallやJingdongの旗艦店は「本物を売っている場所」としての信用度は高く、情報源として参照されています。公式サイトや旗艦店で、中国人に刺さるメッセージが打ち出せていれば、それがそのまま拡散して行く事も充分あり得るのです。

他に、百度(Baidu)のような検索エンジンでの情報収集が活発な商材であれば、広告の他、百度上に記事系コンテンツを乗せ、メーカー発の情報の露出を増やす事も可能です。
そうした時に、やはり重要なのは

カスタマージャーニーにおいて、各メディアの役割の位置づけができていること
商品の訴求ポイントが中国人のニーズに合致し、きちんと届いていること

の2つとなるでしょう。

今回の考察は以上です。シンプルな様で、なかなか把握できていないという会社様のお話も多く伺っています。そうした場合、改めて自社ブランドの立ち位置を考えてみる事は価値があるのではないでしょうか。

↓中国人向けプロモーションでお悩みの方に向けた「訪日中国人のブランドポジショニング調査」レポートをマナミナで公開しています。こちらもぜひ併せてお読みください。

中国人向けプロモーションでお悩みの方へ...「訪日中国人のブランドポジショニング調査」レポート

https://manamina.valuesccg.com/articles/572

インバウンド需要が盛り上がるなか「訪日中国人へのプロモーションを実施したいが、どのようなメッセージが中国人の心に響くのかわからない」、「中国人の自社商品に対するイメージがよくわからない...」など、マーケティングに関する課題をよく耳にします。今回は中国人にも人気な日本の“ハミガキ粉”を事例として、訪日中国人に対し、認知・購買ファネル・ブランドポジショニングを分析する調査を実施しました。(ページ数|20p)

この記事のライター

京都の大学で長らく中国哲学史を研究。現在は事業会社に対するマーケティング支援を担当。中国・東南アジアを中心にグローバルリサーチにも携わっている。趣味は旅行と文献研究。

関連する投稿


ソーシャル分析で消費者のリアルな声を掴むには

ソーシャル分析で消費者のリアルな声を掴むには

近年、年齢や国籍を問わず、SNSは人々の生活に欠かせない存在となっています。SNSの口コミを活用して、マーケティング課題を解決するための調査方法は「ソーシャル分析」と呼ばれます。本記事では、ソーシャル分析の定義と事例を紹介します。 (ソーシャルメディア分析、ソーシャルリスニング、SNS分析は、本記事ではソーシャル分析と総称します。)


中国定性調査サービス“百路QIC”で見た、中国における「都市市場」VS「下沈市場」の今

中国定性調査サービス“百路QIC”で見た、中国における「都市市場」VS「下沈市場」の今

昨今の中国の購買力や経済力を押し上げる原動力となるのは、中国総人口の7割を占める「下沈市場」だと言われています。対して中国国内1級〜2級の都市からなる「都市市場」との違いはどのようなところにあるのでしょうか。ヴァリューズ独自の中国定性調査サービス「百路QIC(ヴァリュークイック)」を用いて「都市市場」と「下沈市場」のライフスタイル意識や購買チャンネルなどを比較調査しました。


【3/25(月)開催セミナー】経営計画・事業報告に役立つリサーチ技法 – リサーチャー菅原大介さんが進め方とアウトプットを事例で解説

【3/25(月)開催セミナー】経営計画・事業報告に役立つリサーチ技法 – リサーチャー菅原大介さんが進め方とアウトプットを事例で解説

ユーザーリサーチの調査手法をまとめた記事がnote公式マガジンにも選出されているリサーチャー・菅原大介さんによる「経営計画・事業報告に役立つリサーチ技法」解説セミナーを3月25日(月) 17:00〜18:00に配信します!上場企業の中期計画作成に際し活用されているリサーチデータの事例をはじめ、情報収集や環境分析の効果的な進め方を、3C分析や競合調査、ケーススタディを交えて解説します。また、経営方針の整理や討議に役立つSWOT分析やバリュープロポジションキャンバス、リーンキャンバスといった成果物についても具体例をご紹介します。


企業イメージ経営 ~ キャラクターの威力

企業イメージ経営 ~ キャラクターの威力

企業イメージと聞き、最初に思いつくのはロゴでしょうか、色でしょうか、それともキャラクター?昨今では、キャラクターを用いての広告戦略は企業だけでなく、地域おこしなど、あらゆるところで目にするようになりました。誰も彼もが深い意味もなく「かわいい」と愛着を感じてしまう「ゆるキャラ」や企業のイメージキャラクター。実はそこに認知心理学が深く関わっているようです。本稿では人心を捉えるために計算尽くされたキャラクターの威力について、株式会社創造開発研究所所長を務める渡部数俊氏が解説します。


Web行動ログデータで読み解く"ロイヤル顧客"のリアル|日本マーケティング協会共催セミナーレポート

Web行動ログデータで読み解く"ロイヤル顧客"のリアル|日本マーケティング協会共催セミナーレポート

公益社団法人日本マーケティング協会と株式会社ヴァリューズによる共催セミナーが開催されました。本セミナーのテーマは、「ロイヤル顧客のリアル」。自社の商品を継続的に購入してくれるロイヤル顧客ですが、効果的なアプローチが分からずお悩みを感じている企業も多いのではないでしょうか。今回は、ヴァリューズの持つ行動ログとアンケートによってロイヤル顧客の実態を調査し、企業がロイヤル顧客マーケティング施策において重視すべきポイントを、データサイエンティスト協会 事務局長/新生フィナンシャル株式会社 CMOの佐伯 諭氏を迎えディスカッションしました。


最新の投稿


Z世代はYouTube、TikTokなど動画主体のSNSの利用時間が長くなる傾向【CCCMKホールディングス調査】

Z世代はYouTube、TikTokなど動画主体のSNSの利用時間が長くなる傾向【CCCMKホールディングス調査】

CCCMKホールディングス株式会社は、全国16~24歳の男女を対象に『Z世代のSNS利用実態や生活満足度との関係性』について調査を実施し、結果を公開しました。


Z世代にとってSNSは承認欲求を満たす場ではない?身近な人とのコミュニケーション手段としての利用が多数【SHIBUYA109 lab.調査】

Z世代にとってSNSは承認欲求を満たす場ではない?身近な人とのコミュニケーション手段としての利用が多数【SHIBUYA109 lab.調査】

株式会社SHIBUYA109エンタテイメントは、同社が運営する若者マーケティング機関『SHIBUYA109 lab.(読み:シブヤイチマルキュウラボ)』にて、Z世代を対象に「Z世代の承認欲求に関する意識調査」を実施し、結果を公開しました。


約6割の企業が法人向けデジタルギフト利用経験あり 利用シーンは「アンケート収集施策」が最多【DIGITALIO調査】

約6割の企業が法人向けデジタルギフト利用経験あり 利用シーンは「アンケート収集施策」が最多【DIGITALIO調査】

株式会株式会社DIGITALIOが運営するデジタルギフト「デジコ」は、勤務先の業務で福利厚生やプレゼントキャンペーンなどの販促を実施する際にデジタルギフトを購入したことのある方を対象に「法人向けデジタルギフトに関する調査」を実施し、結果を公開しました。


KDDIとAIQ、バーチャル空間上でデジタルスタッフを活用したAI接客の実証実験を開始

KDDIとAIQ、バーチャル空間上でデジタルスタッフを活用したAI接客の実証実験を開始

KDDI株式会社とAIQ(アイキュー)株式会社は、KDDI株式会社が提供するαU place(アルファユープレイス)において、デジタルスタッフを活用したAI接客の実証実験を開始することを発表しました。


電子書籍を現在利用しているのは37.9%、全年代で利用率トップは「Kindle」、満足度1位は「U-NEXT」【ナイル調査】

電子書籍を現在利用しているのは37.9%、全年代で利用率トップは「Kindle」、満足度1位は「U-NEXT」【ナイル調査】

ナイル株式会社は同社が運営する「Appliv TOPICS」にて、15~69歳の男女を対象に電子書籍サービスに関する調査を実施し、結果を公開しました。


競合も、業界も、トレンドもわかる、マーケターのためのリサーチエンジン Dockpit 無料登録はこちら

アクセスランキング


>>総合人気ランキング

ページトップへ