デスクリサーチでの市場調査だと細かい部分が分からない…。
市場規模の推計は、新規事業の立ち上げや事業企画において必要なファーストステップです。最近では、就活のグループディスカッション・グループワークのテーマに設定されることもあるでしょう。新しい分野の市場開拓の場合、過去の調査結果が存在せず、新たに調査が必要になることも少なくありません。
市場規模を見積もる方法は、構成要素から暫定数値を算出したり、市場レポートを集めるなどありますが、精度を高めようとすると試算は複雑化し、信頼できる市場レポートを入手するにはコストがかかります。
新型コロナの影響で生活が大きく変化し、新規事業の立ち上げに挑む組織が増えている昨今。「潜在層の市場規模が分からない」「市場の変化を把握しきれない」「コストを抑えて調査したい」などと悩まれる方も多いのではないでしょうか。
そこで本稿では、これらの悩みをデスクリサーチで手軽に解決するための市場規模、ニーズの増減の調査方法を解説します。無料機能もあるWeb行動ログ分析ツールも活用し、データから市場規模を掴む方法を実践を交えながら紹介していきます。
▼そもそも市場調査とは何か、どのように行っていけばいいのか、といった疑問を解決したい方は、基礎知識を下記の記事にまとめています。ぜひご参考にしてみてください。
商品やサービスの企画・開発にあたり、マーケティング施策立案に欠かせない「市場調査」。アンケートなど市場調査の方法から、調査結果をもとにしたレポートの書き方、実際の市場調査報告書までまとめました。
Web行動ログデータを活用する、という方法について
サービスや事業を企画するとき、まず確かめたいのが狙っている市場のボリュームです。これを簡単に調べる方法としてはどんなものがあるのでしょうか。
ざっくりと市場を捉えればOKなら、まずは政府統計などのデータも参考になるでしょう。こうした各種のレポートや統計を掲載している情報源を下記記事ではまとめています。こちらも参考にしてみてください。
市場調査に役立つ!無料でレポートや統計を提供している情報源まとめ
https://manamina.valuesccg.com/articles/607商品やサービス開発の一環で行われる市場調査。自社で調べる一次データと、インターネット上に公開されているレポートや統計を二次データとして活用する方法があります。総研など独自の市場調査結果を発表している企業や、豊富な情報源を持つ図書館、統計データを提供する国の省庁など、市場調査に役立つ情報源をまとめました。
ただし、こうした一般的なレポートや統計データでは、汎用性を高めるために情報の粒度が粗く、目的に合った細かい情報にまで手が届かない場合もあります。「かゆいところに手を届かせる」ためにはどうすればよいのでしょうか。
そんなとき、解決策のひとつがWeb行動ログ分析ツールを利用することです。例えばデータ分析&コンサルティングの会社のヴァリューズでは、日本国内のサイト・Webサービスのユーザー数やページビュー数などのデータを集計し、そのサイトへどれくらいの人数がアクセスしているのかを推計するツール「Dockpit」を提供しています。また、特定の業界の基本指標(ユーザー数推移やセッション数など)や、業界シェアなども集計でき、それらの数字から市場ボリュームを推定するとともに、業界構造を捉えられます。
具体的にどのようなデータなのか、一例を挙げましょう。例えば保険メディアビジネスの市場規模を調べたい場合に、保険メディアのユーザー数から推計する方法を考えてみます。こちらはDockpitの業界分析機能で集計した、「保険 メディア」業界のサマリーデータです。
Dockpit「業界分析」機能で集計、期間:2020年1月~2020年12月、デバイス:PC、スマートフォン
2020年の1年間の「保険 メディア」全体のユーザー数を見てみると、おおよそ4,300万人ほどのユーザーが各メディアに訪問していたことが分かりました。ここから、保険について情報収集をする潜在ユーザーは4,300万人ほどだ、と推計できます。
さらに、業界内のシェアもDockpitでは見ることができます。下記の図を見ると、「楽天インシュアランス」が32%で1位、次いで「自動車保険一括見積もり窓口」(8.9%)、「保険市場」(7.2%)ということがわかりました。
Dockpit業界分析機能で集計、期間:2020年1月~2020年12月、デバイス:PC、スマートフォン
これらの上位メディアをDockpitの「競合分析」機能で調査すれば、各サイトのユーザー数や推移状況が分かります。さらに、サイト内のコンテンツランキングから見積もりフォームページの接触人数を割り出せば、顕在層の把握も可能です。単体のサイトだけでなく、上位サイトについてフォーム接触ユーザー数データをダウンロードし、手元で集計を行うことで、業界全体の潜在層・顕在層のボリューム把握も行えるでしょう。
このように、ユーザー数データを活用して特定業界の市場規模を推定する方法は効果的です。統計データよりもさらに細かい粒度で、狙いたい業界について「かゆいところに手が届く」データをデスクリサーチだけで得られると思います。また、もっとも強みを発揮するのはデジタルサービスの場合ですが、選定する業界やサイトを工夫することでリアルサービスに展開できる可能性も大きいでしょう。
顧客ファネルとWebサイト・サービスの位置づけを表した図。各層に対応するWebサイト・サービスのユーザー数を把握すれば、平均単価を掛け合わせることで市場規模を算出できると考えられる
ニーズや市場の増減を把握する方法
続いて、Web行動ログデータを活用し、ひとつのニーズにおける市場の増減を把握する方法を紹介します。今回は、「1.コロナ禍の料理の伸び・継続率」「2.EC事業のポテンシャル把握」の2つの仮テーマを設け、実践してみます。
■1.コロナ禍の料理の伸び・継続率
新型コロナを機に、自宅で過ごす時間を充実させるため、あるいは健康意識の高まりから、料理を始める人が増えたと言われています。これらの増加の程度を知りたい場合、主要レシピサイト・アプリのユーザー数の伸び率を確認することで、市場全体の動きを捉えられます。
実際に、Dockpitの業界分析「料理 レシピ」で調べてみます。こちらは、ユーザー数(上)、セッション数(下)の推移グラフです。ユーザー数は一定期間にサイトを訪れた訪問者数(同一のユーザーが複数回訪れても1カウント)、セッション数は、サイトの訪問数(1人のユーザー3回訪問すれば3カウント)を示しています。
「料理 レシピ」業界ユーザー数推移
(Dockpit業界分析機能で集計、期間:2020年1月~2020年12月、デバイス:PC、スマートフォン)
「料理 レシピ」業界セッション数推移
(Dockpit業界分析機能で集計、期間:2020年1月~2020年12月、デバイス:PC、スマートフォン)
これによると、緊急事態宣言が発令された2020年4月~5月に大きな山がありますが、ピーク後は横這いに推移しています。
では、コロナ前とコロナ後とを比べて、料理に関心を持った人はどれくらいいるのでしょうか。コロナが国内で不安視されつつも、まだ深刻化していなかった2020年1月と、ウィズコロナの生活が1年続いたあとの2020年12月を比較すると、ユーザー数が+6%、セッション数が+17%増加していました。
伸び率のデータから、コロナ前よりも料理への関心は高まっており、料理習慣も継続していることが推測できます。このように検索データを活用することで、ニーズの増減を把握することができます。
■2.EC事業のポテンシャル把握
次に、ECサイトのポテンシャル把握を実践します。EC市場は、インターネット・スマートフォンの普及でここ数年伸び続けており、コロナ禍の巣ごもり需要も追い風になりました。また、大手ECに加え、D2Cのオンラインストアも増えてきています。
では、好調とされるEC市場の中でも、特に伸びているのはどのECサイトなのか。成長率の高いサイトを調べ、成功要因や消費者のニーズを推測します。
こちらは、Dockpitの「トレンド分析」機能で集計した、直近6カ月で成長率上位のECサイトランキングです。今回は、ECの中でもライフスタイル分野に絞り、「ファッション」「化粧品」「日用品」に該当するサイトを対象としました。
Dockpit「トレンド分析」機能で集計、期間:2020年1月~2020年12月、デバイス:PC、スマートフォン
ランキング1位のワークマン公式オンラインストアが圧倒的な上昇率で伸びています。
ワークマンは、元々作業服専門のチェーン店としてスタートしましたが、最近では、アウトドアやスポーツミックスのファッションアイテムとして人気急上昇。ワークマンのアウトドアウェアをおしゃれに着こなす「ワークマン女子」という言葉も流行し、Instagramでは「#ワークマン女子」 が話題となりました。
ワークマンHPより
2018年にはアウトドアウェアのプライベートブランド「WORKMAN Plus」がオープンし、高性能・低価格を実現したアウトドアブランドとして人気を集めています。ここ数年の人気急上昇に加え、特に秋~冬場にかけては防寒アイテムの需要が高まり、成長率が高かったのではないかと推測します。
このように、市場規模を把握しながら好調なサービスを深掘りし、成功要因や消費者インサイトを探れるところも、行動ログ調査の強みです。
粒度を使い分けて市場調査を効率的に行おう
本記事ではデスクリサーチで細かく市場規模やニーズを把握する方法を解説しました。ざっくりとした市場感であれば政府統計などの汎用的なデータを活用すれば良いですが、「だから何が言える?」と考えを進めるとき、不完全な解答しか得られない場合も多いと思います。
そこで、有料のアンケート調査やレポートよりも手頃に行えるWeb行動ログ分析の手法を紹介しました。サイトのユーザー数から市場規模を考察したり、フォーム接触サイトを分析することで潜在/顕在層のボリューム把握も行えます。また、同じようにユーザー数やセッション数を時系列の推移で見ていくことにより、消費者ニーズの増減やトレンドのキャッチアップにも使えるでしょう。
今回紹介した調査ツールDockpitには、無料版も公開しています。シンプルな分析であれば利用でき、大まかな市場規模の推計も可能です。気になった方はぜひ試してみてください。
<分析概要>
ネット行動分析サービスを提供する株式会社ヴァリューズは、全国のモニター会員の協力により、ネット行動ログとユーザー属性情報を用いたマーケティング分析サービス「Dockpit」を使用し、2020年1月~2020年12月のネット行動ログデータを分析しました。
※ユーザー数はヴァリューズ保有モニターでの出現率を基に、国内ネット人口に則して推測。
フリーランスPRおよびライターとして活動中。二児の母。