上流工程の案件を獲得するための取り組みとは
モードツーはWeb制作や改善支援、運営などのWebソリューションから、システム構築、グラフィックデザインやアプリ制作等を行う制作会社です。ただ、「ひとくちにWeb制作といっても業務領域は幅広く、扱える範囲をもっと広げたいという課題があった」と中本さんは言います。
株式会社モードツー コミュニケーションデザイン部 営業推進ユニット 所属
中本 英孝(なかもと・ひでたか)さん
「そもそもWeb全体戦略の枠組みは、経営戦略からブランド戦略が定まり、そのあとに決まってくるもの。その後、プラットフォーム戦略やサイト戦略が決定し、ページ設計へ…と細部に視点が移っていきます。このような視点でWeb制作業務を見ていくと、自分たちが戦う業界はレッドオーシャン化が進んでおり、視座の上流化が必須です」(中本さん)
このようなWeb制作業界の特徴について、中本さんは次のように一枚の絵を描いて可視化しています。
「経営戦略はビジネスの市場性や事業性を考えた上で設計していきますが、ここは戦略コンサル会社がしのぎを削るエース・プレイヤーの世界。その下にブランドの質的/量的成長の設計がありますが、この領域でモードツーの競合企業の名前がしばしば上がってきます」(中本さん)
Web制作企業であるモードツーの課題は、いかにこの領域で戦える資産を増やしていけるかどうかであり、「それは一言で言えば、提案力をつけること」だと中本さんは言います。その手段として、多くのWeb制作企業が「UIやUXに強みを持つ」と語ったりもしていますが、それだけだと選んでもらうのは難しくなってきている状況です。
そこで、モードツーではより上流工程の案件を獲得するため、データから市場性や事業性を把握し、データを軸にした提案を行う方法に目を向けました。
ahamoの申込者数を推計したデータ分析
モードツーでは、データコンサルティングとマーケティングリサーチを強みに持つヴァリューズと協業し、データを活用した提案活動を進めています。
例えば、中本さんは以前とある住宅設備機器メーカーに向けて、同業他社の競合サイト比較をベースにした提案を行いました。この提案資料ではまず、当該の住宅設備機器メーカーを含んだ、業界のブランドポジションを可視化。業界全体の枠組みからストーリーを始めていきます。
住宅設備機器のブランドポジションをまとめたスライド
住宅設備での業界大手企業は「総合系」とされ、水回りやリフォームなど多方面での住宅設備機器を提供できる資産を持ちます。この視点から、各社のWebサイトの訪問者傾向や、訪問者の検索ニーズを洗い出しました。
「今回の調査で対象にした企業の一つであるTOTOでは、緊急事態宣言下において『トイレ故障』の検索量が増加したことにより、サイト訪問者が増えたことが明らかになりました。TOTOはトイレ設備のブランドとして有名ですが、キッチンやリフォームなども扱えるメーカーだというメッセージを打ち、ブランドシフトを行っています。消費者の在宅時間がコロナ禍で増加し、その影響でトイレの故障件数が増え、サイト訪問者が増加したことは、こうしたメッセージの浸透に役立ったのではないかと考えられます」(中本さん)
TOTOのWebサイトでは「トイレ 故障」による検索クエリが増加した
「データから世の中の状況を把握し、提案資料に盛り込むと、クライアントからの反応もいい」と中本さんは語ります。
この点はヴァリューズのデータを活用して行った「ahamo」の調査においても実感したそうです。ahamoは2020年12月にNTTドコモが発表したスマホの新料金プラン。これまでの価格を打ち破る新しいサービスとして業界に衝撃を与えました。
ahamoの調査において驚きだったのは、申込完了ページのUU数から、申込完了者の人数が推定できた点だったと中本さんは言います。
「NTTドコモは2021年1月、事前申し込み者が約55万人に達したと発表しましたが、サイト調査からこの数字とほぼ同じデータが出てきました。データ精度の高さも立証できたと思います」。(中本さん)
ahamoの申込者数の推計値は54万人と、ドコモ発表の数値とほぼ一致した
ただ、「データを活用した提案」はときにただの数字の羅列に留まってしまい、「だから何が言えるのか?」が分かりにくくなってしまう場合もあるでしょう。では、中本さんはどのようなデータ活用を意識しているのでしょうか。
「実は私は以前からデータを意識した提案を行っていたというわけではなく、ヴァリューズのWeb行動データを利用するようになってから取り組んできたことでした。だから最初はストーリー設計に苦労しましたが、まずデータを見るより先に、ストーリーを読むターゲット企業とストーリーの目的を決めるべきだと気づきました」(中本さん)
具体的には、「当該企業のライバルを意識したストーリー設計」が重要だと言います。
「調査においては、ある企業のホームページを調べるだけでは全体感がよく分かりません。そこで、最初に業界地図を作ります。そして業界の企業間の強み/弱みを把握したあと、ライバル関係を軸にストーリーを作ります。たとえばahamoの例では、ドコモはどうやってソフトバンクやauと戦おうとしているのか、という視点。ライバル関係を軸に、三国志のようなストーリーづくりを念頭に置くと、調査資料が分かりやすくなります」(中本さん)
業界理解の助けになる会社四季報
ストーリー設計前にまず業界地図を作成し、それを見ながらライバル関係を軸に構成を組み立てることが、提案資料作成の肝だと言う中本さん。では、ある業界を把握するときに参考にするデータはどのようなものがあるのでしょうか。
「私は政府統計データをもっとも使いますね。携帯電話業界の場合は人口データが売上規模に大きく関わってきます。また、住宅機器の場合は国土計画なども関わっていますよね。厚生労働省や国土交通省など、官庁のデータは必ず見るようにしています。
また、情報源としてもうひとつ重要なのは会社四季報です。四季報は東洋経済新報社と日経のものが有名ですが、毎年、特定企業の敵と味方が精緻な分析のもとに書かれています。特に日経は株価視点、東洋経済新報社は売上や店舗視点と切り口も違うので、2つを使い分けています。Web制作ではこれまでまったく知らなかった業界の案件がいきなり入ってくることもあるので、まず必要となる業界理解の際に会社四季報はとても活躍します」(中本さん)
最後に、データ分析の社内利活用を進めるための取り組みについて中本さんに聞きました。
「データを提案に活かすには、そもそもそうした取り組みに興味のある人材をアサインすることが重要です。データはそのままだと何も語らず、『なんとなくこんなことがわかってすごいね』で終わってしまう。また、外部コンサルに入ってもらったとしても、アサインが間違っていれば何も変わらない場合もあるでしょう。業界を広く知り、そのためにデータをどう使おうか、と考えるのが好きな人を中心にプロジェクトを進めると、比較的うまくいくのではないでしょうか」
取材協力:株式会社モードツー
マナミナ編集部でデスクを担当しています。新卒でメディア系企業に入社後、フリーランスの編集者・ライターとして独立。マナミナでは主にデータを活用した取り組み事例の取材記事を執筆しています。