国内外で受賞!味の素冷凍食品「冷凍餃子フライパンチャレンジ」における生活者との共創ポイント

国内外で受賞!味の素冷凍食品「冷凍餃子フライパンチャレンジ」における生活者との共創ポイント

味の素冷凍食品株式会社の「冷凍餃子フライパンチャレンジ」プロジェクトが、日本マーケティング大賞 奨励賞の他、世界有数のPRアワードである「PR Awards Asia-Pacific 2024」で3部門のゴールドを受賞しました。「冷凍ギョーザがフライパンに張り付いた」という一件のSNS投稿からはじまったという、このプロジェクト。立ち上げの背景や、取り組むうえで大事にされていたことを、同社 戦略コミュニケーション部 PRグループ長の勝村敬太氏に伺いました。


味の素冷凍食品株式会社 戦略コミュニケーション部  PRグループ長 勝村敬太氏

味の素冷凍食品株式会社 戦略コミュニケーション部
PRグループ長 勝村敬太氏

◆味の素冷凍食品株式会社「冷凍餃子フライパンチャレンジ」プロジェクトサイト
https://www.ffa.ajinomoto.com/enjoy/frypan/

始まりは一件のユーザー投稿から

-まず「冷凍餃子フライパンチャレンジ」プロジェクト立上げの背景を教えていただけませんか。

味の素冷凍食品株式会社 勝村敬太氏(以下、勝村):よく聞かれるんですが、実は我々としては、最初プロジェクトとして立ち上げるつもりはありませんでした。きっかけはSNSの投稿に応えただけで、我々の想定以上に反響が大きかったので、結果としてプロジェクトにしてきちんとお応えしようとなりました。

具体的には2023年5月、Twitter(現:X)を通じて「上手く焼けなかった」と、社名と商品名を書いていただいた状態で投稿いただいたんです。ご指名でいただいたこともあり、我々の目にも留まりました。「これはきちんとお応えしたいね」というのが、我々コミュニケーション部の率直な考えでした。

-看過せずに反応するべきと思われたのは、どんな点だったのでしょうか。

勝村:ギョーザは当社の看板商品です。餃子のトップブランドとして、きちんと責任を果たしたいという想いもありましたし、商品に自信も持っていました。我々としては完成度が高く、研究を重ねて今に至っているので、このギョーザをもってしても、まだそういう方がいらっしゃったことに、「どうして?」という疑問の方が強い状態でした。じゃあ逆に、訊いてみよう、見せてもらおう、という純粋な気持ちでしたね。

-そのユーザー投稿は、Twitterのご担当者からのエスカレーションでしたか。

勝村:はい。昼間、私にエスカレーションしてくれたんですが、出張中で気づかなくて。夕方に僕もTwitterに気付いて連絡をしたら、他のメンバーがTwiiterで話題になっていることに気付いていたので、「これに対して何かしたいね」と、みんなで話し合って決めました。

-フライパンを募集しようという案は、そのチームの話し合いの中で決まったのでしょうか。

勝村:チームだけではなく、研究所のメンバーも同じように「どうしてこんな風になったんだろう」と思っていました。もしこのフライパンを見ることができたら、上手く焼ける方法をアドバイスできるかも、と話していたんですよね。そして投稿した方に対して「もし良かったら見せてもらえませんか」と投稿を送ったところ、オーディエンスの方々からも大きな反響があったんです。我々の想像以上の反応でした。

メッセージと共に届いた3,000個以上のフライパン

-最初は投稿者の方と1対1のやり取りがスタートだったんですね。

勝村:投稿者の方とダイレクトにやり取りして、それをもとに答えを出そうと思っていました。送っていただけることになりましたが、ひと月ぐらい経っても届かなかったんです。最初のアクションに対して、「そこまでやるんだ。すごいね」と言っていただいたオーディエンスの方も多くいらしたので、このまま何もしないで終わるのはよくないなと。

そこで、研究所にあるフライパンで再現検証して投稿したんですね。でも研究所のメンバーも実際の生活者のフライパンではないので、これが本当に正しいか分からない。「じゃあ、他の方に声をかけてみようか」という話になり、我々から広く投げかけることになりました。

-最終的に3,000個以上のフライパンが集まったのは、想像以上のことでしたか。

勝村:はい。ある一定期間を設けていれば、SNSの時代なので、じわじわ集まるかと少し想像していましたが、メンバーと話をする中では「日常使いのフライパンをすぐに送るのは難しいだろうし、送るのも手間なので、100個でも集まればありがたいね」と考え、ライトにアクションしたというのが実際でした。

-そしてSNSとHPでの呼びかけで、どんどんフライパンが集まってきたのですね。

勝村:「我が家のフライパンもくっ付く」という投稿を他にもみていたので、いらっしゃるんだろうなとは思っていました。でも金曜の夕方に投稿して、月曜の朝に出社したら、運送会社の方から「500個、800個届いてますよ」って言われて。びっくりしましたね。そこで呼びかけは急遽中止をしたんですが、最終的に3,520個のフライパンが届きました。

ユーザーから届いた3,000個以上のフライパン

ユーザーから届いた3,000個以上のフライパン

-結果的に、会議室に山積みになるほどのフライパン、3,520個が集まったんですね。お手紙も入っていたと伺いました。

勝村:はい。我々が想定外だったのは、フライパンを送るだけでも大変だと思っていたんですが、実際に開梱すると、中にお手紙が入っていたり、段ボールや袋に「がんばってください」「おいしい餃子を期待しています」という、メッセージがあったんです。なかには、フライパンの思い出を綴るようなお手紙もありました。

同封されていた手紙の一例 出典:「冷凍餃子フライパンチャレンジ(フライパン一覧No.3272)」 https://www.ffa.ajinomoto.com/gyoza

全く想像していなかったので、それを見た時には、すごく責任を感じましたね。世の中に対して、我々がそれだけの期待をいただいているんだな、それだけのことを始めたんだな、と。みんなで手紙を読み合わせたりしながら、ぐっと気持ちをこらえて作業をしていきました。

研究データを元に商品リニューアルへ

-届いたフライパンはどのようにデータ化されたんでしょうか。

勝村3Dでデータ化したのは約500個です。最初は全部撮影するつもりで臨みましたが、1個撮るのに20〜30分かかるんですよね。思いのほか時間がかかってしまったので、2週間ぐらい続けて一区切りにしました。お預かりした3,520個のフライパンは写真を撮ってリスト化し、我々の財産として保管させていただいています。

-データ化もPR部門の方が担当されたのでしょうか。

勝村:実際の作業は我々の人手だけでは足りないので、アルバイトの方の手も借りました。また、段ボールから開けてフライパンを出す作業は、工場の人に応援に来てもらったり、色々な部署の人に手伝ってもらったりと、ある意味、全社を巻き込んだ形になりました。

-どんどん社内にプロジェクトの輪が広がっていったのですね。

勝村:最初は我々コミュニケーション部が「なんかやっちまったぞ」と見ていた方々も、だんだん事の大事さが伝わっていったように思います。手紙をもらったことが社内に広がると、みんなが関心を持ちはじめて、手伝ってくれる人が増えていきました。

-そのデータは研究所にお渡しされたのですか。

勝村:はい。データ化の作業は、研究所と連動して進めました。ローデータ全てを今の製品開発に生かせているかというとまだですが、貴重な情報として管理をしています。

届いたフライパンのデータ

届いたフライパンのデータ

-実際に商品のリニューアルにも繋がりました。研究部門の方が中心になって進められたんでしょうか。

勝村当初からフライパンを見ると言ってくれたのが、研究所のR&Dのメンバーでした。実際に張り付くメカニズムを見ていく中で、どうしたら改善されるだろうと研究開発を始めていったんですよね。メーカーでモノを改定することは、とても大きな仕事です。すぐに変えるのは余程のことがないとできないのですが、真摯にこの課題に向き合ってくれました。また当社のマーケティング部門も重要性を感じてくれて、できるだけ早くリニューアルしようと、全社で動いていきました。

真摯に取り組む姿を公式サイトで可視化

-このプロジェクトの様子をWebサイトでも公開されています。どれぐらいのタイミングで決定されたのでしょうか。

勝村:2023年6月に募集を行いましたが、想像以上にフライパンが届いたので、実際に数を数えられたのが8月です。これだけのものをご送付いただいた以上、生活者の方にどうやって結果を返していくか、方法を色々と考えました。7月に「きちんと情報を整理して、生活者の方に取り組みを公開した方がいいね」と話し合い、そこで初めてプロジェクトとして動き出しました。

冷凍餃子フライパンチャレンジ|味の素冷凍食品

https://www.ffa.ajinomoto.com/enjoy/frypan

SNSでの呼びかけを機にお送りいただいたフライパンを公開!味の素冷凍食品はギョーザの永久改良に取り組んでいます。

-サイトを作るうえで、どのようなことを大事にされていましたか。

勝村:プロモーションではなく、生活者の一つの声からはじまったので、我々が「餃子の永久改良」というテーマに取り組む様子をきちんと見ていただこうと思いました。脚色するのではなく、やっている事実を可視化させて淡々と伝えたいと考えました。

とはいえ、メーカーの研究開発は社外秘も多く、ノウハウに抵触する部分もあります。裏の裏まではお見せできないのですが、可能な限り、皆さんから頂いた課題に対して食品メーカーとして取り組んでいる様子を見せられればいいなと思っています。

商品リニューアル後のパッケージ ※最速で改良したため「肉汁」→「パリッと」というキャッチコピーのみ変更

商品リニューアル後のパッケージ
※最速で改良したため「肉汁」→「パリッと」というキャッチコピーのみ変更

事実に向き合い、スピード感を大切にする

-今回のプロジェクトから、どういった要素を積み重ねると「生活者との共創」に繋がると思っていらっしゃいますか。

勝村:私たちは冷凍食品メーカーです。おいしく食べていただくために、お客様の課題を解決しなければいけないという文化が、味の素冷凍食品50年の歴史の中で培われてきました。今回は「上手く焼けない」「張り付いてしまう」というお題をいただいたので、それをどう解決するか向き合い続けました。

結果、2024年春に一部を改善し、リニューアルまで一歩進めることができましたが、まだまだ改善の余地はあるので、引き続き研究所のメンバーが研究を進めてくれています。目の前の課題に粛々と進んで取り組むことが大事だと思っていますし、我々にはやれることがまだ沢山あると感じています。

-効果的だと思われた取り組みのポイントを教えていただけませんか。

勝村事実にきちんと向き合うこと、タイムリーに反応することが大事だと思います。今、世の中がデジタル化して、スピードが早いですよね。投稿があった後、そんなに時間をかけることなくアクションできたことが、まず一番良かったと思っています。そして我々ができることを着実にお届けし、コミュニケーションを続けることが重要だったと感じています。

真摯に向き合うことは本当に大事だと考えているんです。つくった商品を購入いただいて、おいしいと思っていただいて、また買おうとつながることで初めて企業として成り立ちます。そこを失ってはいけないというのが根底にありますね。

-スピード感は、他のプロジェクトでも大事にされているのでしょうか。

勝村:はい。SNSの情報が飛び交う中、タイミングは大事です。情報が溢れているので、私も含めて、さばききれないんですよね。ただタイムリーに目の前に情報がくれば、目に留めて読んでもらえる。どんなにいい投稿でも、タイミングが悪いと埋もれてしまうと思うので、そこは意識しようと話しています。

というのは2020年、我々がTwiiterを始めた時に「冷凍餃子手抜き・手間抜き論争」がありました。その時も一人の方が「冷凍餃子を作ったら、旦那さんに手抜きって言われた」という投稿をされていたので、「冷凍食品は手抜きじゃなくて、手“間”抜きですよ」と投稿を返したら、話題になって世の中ごとになりました。その時「味の素さん、いいこと言うね」と言ってもらえたことが成功体験として残っています。

みんなが関心を持っていることに、タイムリーに反応できれば、そこから繋がると思うんですよね。メンバーには意識して伝えている点です。一方で、企業としての発信で個人ではないので、正しいことを伝えなければいけない。そこが難しく、バランスかなと思います。

-最後に今後フライパンチャレンジをどう発展させていくのか、お聞かせいただけませんか。

勝村:餃子の改良は、まだ余地があると思っています。一人でも多くの方に「きれいに焼けたね」「おいしいね」と感動して笑顔になってもらいたい。そのためにプロジェクトは続けていきます。一方で、送っていただいたフライパンを永久に持ち続ける訳にはいかないので、検証が済んだ後には責任をもって整理していく必要があります。まだまだやることがあるなと思っているところです。

-このプロジェクトはアジアの複数のPRアワードでも部門最優秀賞を受賞されています。グローバルでの評価ポイントはどんな点だったのでしょうか。

勝村一番評価をいただいた点は、SNSの一投稿に対して、リアルタイムにレスポンスできたことだと思っています。「フライパンに張り付いてしまう」という課題に対して、クイックに食品メーカーとして対応し、フライパンを解析して食品を進化させた。「お客様に真摯に向き合う」という、我々が意識していることが、きちんと伝わったのかなと思っています。

-日本の企業から発信事例を作っていただき、私たちも背中を押される気持ちです。本日はありがとうございました。

取材協力:味の素冷凍食品株式会社

この記事のライター

大学卒業後、損害保険の営業事務を経て、通販雑誌・ECサイトのMD、編集、事業企画に従事した後、独立。自身のキャリアを通じて、一人一人のポテンシャルを引き出すことが組織の可能性に繋がることを実感したことから、現在はマーケティングとキャリア・人材を軸に、人と組織の可能性を最大化できるよう支援をしています。

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