「ダブル11」超えたECセール「618」~ ライブ配信やTiktok参戦など、コロナ後の中国人消費の新たな潮流とは|中国トレンド調査

「ダブル11」超えたECセール「618」~ ライブ配信やTiktok参戦など、コロナ後の中国人消費の新たな潮流とは|中国トレンド調査

中国ECイベントといえば、さまざまな記念日に開催されるキャンペーンがあります。今では他のネット通販各社も加わり、最大手のアリババ集団が中心となる11月11日の「独身の日セール」はもはや定番となっています。最近では京東商城(JD.com)を運営する京東集団が設定した「6月18日」も大きな盛り上がりを示し、「独身の日」と並ぶ一大商戦に成長しました。 今年の「618」についての売上データを概観した上で、ライブ配信や抖音(ドウイン/中国版Tiktok)の参戦、セールイベントの参加方法、実際に売られた商品という3つの側面から昨年度と比較しつつその特徴を解説します。


2021年「618」を徹底解説!

資生堂やユニクロ、ダイソン掃除機など、日本製品も売上ランキングの上位に!

新型コロナウィルスの感染拡大で海外旅行に出られない富裕層を中心に、消費回復が進んだとみられています。
その中、2021年中国最大のセールイベント「618」が始まりました。

今年の「618」イベントがもたらした経済的効果は、昨年よりもはるかに「爆発的な」伸び率を示しています。

「618」イベントの売上は5784.8億元と発表

*2021年6月1日~18日までの売上となります。
「天猫」の情報によると、6月1日~6月3日の売上高がすでに200億円以上に達しており、6月18日まで全国流通総額(GMV)は約10兆円となり、昨年よりも期間比で26.5%も伸びたとのことです。

「天猫」初日の売上金額

やはり最大手の天猫(TMALL)

各プラットフォームでの「618」取引高を比べると、1位はTMALL(天猫)、2位 JD(京東)、3位 ピンドゥオドゥオ(拼多多)、4位 抖音(中国版Tiktok)になります。

1位に、最大手のTMALLが入っていますが、4位に抖音がランクインし、初日GMVが14億円以上にのぼったことが、従来の越境ECのみならず、ライブ配信アプリを通じて消費するという中国消費者の消費観念に変化を示しているのがわかります。

売れ行きが好調の商品は? 

「618」に参加したブランドは、計25万ブランド、1300万アイテムがあり、ブランド数だけでは昨年より2.5倍も増えました。

中でも「化粧品(スキンケア・ファンデーション・口紅)」「家電」「アパレル」「スマホ」が人気でした。
L'Orealは2時間で3億円を突破、資生堂、エスティローダー(Estee Lauder)、ランコム(Lancome)など30以上のブランドが1時間で合計1,000万円の売上を突破しました。

「ユニクロ」を含むアパレルメンズ部門の初売りは好成績を維持し、最初の1時間の売上高は昨年の全日売上を超えたようです。

「コスメ」と「メンズアパレル」売上ランキング上位に入ったブランド(資生堂とユニクロはそれぞれ4位、1位)

では続いて、昨年と比べ、今年の「618」キャンペーンはどのような点で異なっているかを見ていきましょう。

2021年「618」の新たな潮流

2021年上半期最大のECキャンペーン「618」は、昨年と比べて、どのような新しいルールが出されたのかについて解説します。

特徴① ライブ配信や抖音の参戦

ライブ配信

ライブ配信の急成長に伴い、ライブ配信から商品にアクセスできるのが、今年の「618」の最有力の販売ツールとなりました。

6月1日のわずか1時間で淘宝ライブの売上高が昨年同期比の1日分を上回りました。淘宝は「618」ライブランキングを公開し、そのうち「薇娅viya」、「李佳琦Austin」のライブ視聴数は1億を超え、「雪梨_Cherie」は3000万に達しました。

今年の「618」期間中に、「店舗サイト」や「商品ページ」への誘導の7割は、ライブ配信によって実現されていることから、ライブ配信の商業価値が引き続き注目されています。

抖音と快手の参戦

5月25日、「抖音」は「抖音 618 良い商品祭り」の開催を公表しました。 「抖音」は今回初めて他のプラットフォームと協力するのではなく、独自に「618」に参加することになりました。

5月18日、「快手」は江蘇省テレビ局、浙江省テレビ局と連携し、「616 Quality Shopping Festival」を正式に開催しました。

「抖音」のキャンペーン内訳

ここまで新しい形式の「618」を紹介してきました。続いて、アリババグループと京東グループという二つの最大手の越境ECは今年、いかなる戦略を行ったかを解説します。

特徴② マーケティング戦略のシンプル化

今年の「618」の最大の変更点は、マーケティング戦略のシンプル化と言われています。
「天猫」は、今年注目すべき新ルールを打ち出しました。

① 先行販売時間の新設
今年の「618」イベント期間中に先行販売期間を設けました。

② 少額還元サポート
少額還元に登録したブランド側のために、消費者の注目度ランキングや、キャンペーン参加へのサポート、特別な少額還元の会場を提供しています。

③ 「跨店满减」(全ての店で一定の金額を購入すると値引きする)
全ての店で20元、199元、1000元の商品を購入すると、それぞれ2元、20元、50元の値引きをすることができる制度を設けました。

「天猫」キャンペーン

「京東」のキャンペーンルールは、「跨店满减」キャンペーンとクーポンに着目しています。

「拼多多」はタイムセールや全品半額セールなどキャンペーンルールの継続を発表しました。従来と同様に、先行販売やデポジットなしで、ユーザーは友人紹介など、共同購入する人を「より多く集める」と、「より多くの特典」をゲットすることができるという仕組みになっています。

今回の「618」で、消費者の信頼を獲得するために各プラットフォームの真摯かつスピーディーな対応が求められるでしょう。

特徴③「618」で売られたものは?

中国消費者協会のデータによると、「天猫」プラットフォームにおいて予約販売の売上の第一位は依然としてコスメ・スキンケア部門であり、予約販売売上は前年同期に比べ91.7%増加しま​した。

次いで、デジタル用品が前年同期比121.4%となった一方で、スポーツ・アウトドア、アパレルの予約販売がそれぞれ287.9%、220.2%と、前年同期比で2倍以上の伸び率を示しています。

では実際にどのような商品が売られたかを紹介します。

新製品が中心に! 国産ブランドが買い手の消費意欲を刺激

「618」セール初日に3万7000元ほどの中國民族系ブランドは去年より売り上げが倍増したそうです。

2018年に設立したばかりの中国系化粧品「COLORKEY」、先端ファッション「LABELHOOD」、KOLブランドの「李子柒」、食品ブランドの「元気森林」、「観云」、「三頓半」などは、話題性が高いため、セールを始めてからわずか1、2分間で昨年618の1日の売り上げを超え、そのうち「元気森林」、「李子柒」の伸び率はそれぞれ前年同期比300%、400%となっています。

「元気森林」の代表的商品

家電は大手ブランドが好調

6月1日のデータによると、発売からわずか1時間で、家電ブランド「Haier」「Midea」などの売上が昨年の全日を上回ったそうです。

アップル社は初めて天猫618セールに参加しましたが、6月1日にiPhoneがわずか5時間でこれまでの中国市場での1日の売り上げに相当する5億元(約75億円)売り上げを実現しました。

家電業界の売上高は例年トップレベルにあります。売り上げ情報から中国国内の消費者の需要と家電製品の革新能力、将来の動向を読み取れるでしょう。

売上が好調な家電製品

コスメ、スキンケア

今年のトレンドには「顔値経済」(個人の外見を高めるための商品、サービスの消費)が引き続き重要なキーワードになっているようです。

フェイスマスク、日焼け止め、コンタクトなどの「顔値経済」商品の仕入れが昨年同期比より300%増、特に男性の化粧品が400%増を達成しました。

ブランド側の商品仕入数から見ると、コンタクトレンズ、水・飲料、コスメ・スキンケアがランキングの上位にランクインしました。

コスメ部門では、国産コスメブランド「花西子」が1位を獲得しました。ブランドの売上金額によると、ビューティーブランドのランキングでは、ロレアル、エスティローダー、ランコム、資生堂がトップ4に入りました。

「花西子」コスメ製品の例

国産ブランドの売上高は、大手の国際ブランドに比べて相対的に低くなっていますが、ビューティ&スキンケアカテゴリーの新興国産ブランドは、販売数において優位性を持っており、マルチブランドでコラボして共に成長すると期待されます。

まとめ

2021年上半期最大のECキャンペーン「618」が始まりましたが、昨年より少し落ち着いている様子を示しています。というのもEC業界では、政府による規制が厳しくなったため、各ECプラットフォームの宣伝が少なくなっているからです。このような事情を踏まえ、各ECプラットフォームや企業によって新しいタイプのマーケティング戦略が始まっているようです。

DX(デジタルトランスフォーメーション)の中で、マーチャントやブランドは、プラットフォームとプライベートドメインのトラフィック運用という複合モデルを選択する傾向にあると推測されます。公正な市場と強力な規制があれば、ECプラットフォームがキャンペーン競争から勝ち抜けるには、常に消費者や顧客のニーズに適したマーケティング戦略が求められるでしょう。

参考文献

「618家居行业大数据回顾,天猫VS京东,战绩如何?」
https://www.163.com/dy/article/GDDRD3B20520ECF0.html
「这个618,抖音决定不“躺平”了」
https://36kr.com/p/1275287659954439
「“618”购物大数据出炉 “00后”买考研资料冲上热卖榜」
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1702959216334589856&wfr=spider&for=pc
「今年的618不拼数据 踩准趋势是王道」
https://new.qq.com/omn/20210622/20210622A06V2A00.html
「618来了!家电行业的争夺战,谁会成为最后赢家?」
https://www.sohu.com/na/472799192_223785
「决战618,商家选择确定性增长」
http://www.linkshop.com.cn/web/archives/2021/469731.shtml
天猫618战报|开场仅1小时,超去年全天
https://www.niuxuan.cn/redian/75980.html

この記事のライター

慶應義塾大学在学中。

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