10億円で売却された「転職アンテナ」のメディア特徴をWeb行動ログデータから徹底分析

10億円で売却された「転職アンテナ」のメディア特徴をWeb行動ログデータから徹底分析

2021年の3月に転職メディアである「転職アンテナ」を運営するmoto株式会社の全株式が、ログリー株式会社に売却されると発表され話題になりました。moto株式会社代表の戸塚俊介氏は転職を重ねて年収をアップさせる方法論を確立し、Twitterフォロワー12万人(2021年6月時点)、著書「転職と副業のかけ算」は6万部をそれぞれ超えるインフルエンサーです。今回はそんな「転職アンテナ」のメディア特徴について、Web行動ログ分析ツール「Dockpit」のデータを参考にしながら分析します。


転職アンテナとは?

転職アンテナとは、moto株式会社代表の戸塚俊介氏の実体験に基づく転職関連コンテンツを掲載するメディアです。キャリアに関する考え方、転職ノウハウの提供やおすすめ転職サイト・エージェント、おすすめ書籍の紹介などの記事が掲載されています。

転職アンテナ | 転職で“年収”と“キャリア”を考える

https://tenshoku-antenna.com/

これまでの転職経験から、転職サイトや転職エージェントの使い方について発信している転職メディアです。

戸塚俊介氏自身は、地方ホームセンターやリクルートなどに勤務した後、副業で運営していた転職メディアをログリー株式会社へM&A、という経歴です。

転職アンテナのメディア運営に並行してSNSにも力を入れており、「転職」や「副業」「年収」をテーマにしたTwitterはフォロワー12万人超え(2021年6月時点)と個人として大きな影響力を持っています。

著書『転職と副業のかけ算』が6万部を超えていることからもその影響力が分かります。

▼戸塚氏のTwitter

転職アンテナのユーザー数と属性を分析

そんな転職アンテナのユーザー数とユーザー属性に着目してみましょう。

まずはユーザー数です。

利用ツール:Dockpit、期間:2019年4月〜2021年5月、デバイス:PC&スマートフォン

時期的な変動はあるものの、おおよそ月間4万UUあたりを推移しています。転職アンテナの開設は2018年11月ですが、2019年の4月段階で現在とほとんど変わらない水準のユーザー数を獲得しています。

続いてユーザー属性です。転職アンテナのユーザー属性は下図のようになっています。

利用ツール:Dockpit、期間:2019年4月〜2021年5月、デバイス:PC&スマートフォン

「転職アンテナ」訪問者の属性としては、男性が6割を超えており、20代と30代が全体の8割を占めています。

「転職」キーワード検索者の属性と比較してもこの特徴が強く出ていることが分かります。下図は「転職」と検索したユーザーの性年代属性です。

利用ツール:Dockpit、期間:2019年4月〜2021年5月、デバイス:PC&スマートフォン

記事の内容は戸塚俊介氏の20代〜30代前半の体験がもととなっているため、若年層の男性の共感や信頼を得やすいのだと考えられます。

転職アンテナのマネタイズ方法と評価額を整理

ここまで転職アンテナの基本指標を見てきましたが、続いて売却に注目してみます。

売却額は合計でなんと10億円です(売却額は7億円+アーンアウトによる成功報酬3億円、ログリー株式会社『moto 株式会社の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ』による)。

一般に、Webメディアの売却額はメディアによる売上高の1〜2年分ほどと言われています。

同発表によれば、「転職アンテナ」のアフィリエイトによる売上は年間約3億円とのこと。ブログを経由して転職サイトに登録する人がいると、1人あたり数千円〜数万円の報酬が戸塚氏に入る仕組みとなっており、登録件数は年間6万件ほどだと言います。

転職アンテナには広告がついておらず、収益のほとんどがこのアフィリエイトだと想定できます。とすると、売却額は年間売上の2年分ですので、妥当な金額だと言えそうです。

直近1年間のユーザー数が40万2千人ですので、訪問ユーザーの7人に1人は転職アンテナを経由して転職サイトに登録している計算になります。

利用ツール:Dockpit、期間:2020年6月〜2021年5月、デバイス:PC&スマートフォン

なぜここまでの集客が可能なのでしょうか。特に転職アンテナは一般的なメディアと異なり、記事の数が全部で20記事しかなく、かなり絞り込まれています。

そのため、質の高い記事が検索で上位表示されたり、SNSでの拡散や外部サイトから引用されたりすることで集客していたことが予想されます。

まず、転職アンテナの集客構造を表したものが下グラフです。

利用ツール:Dockpit、期間:2019年4月〜2021年5月、デバイス:PC&スマートフォン

集客の約6割が自然検索になっています(ノーリファラーを除けば8割以上)。

この集客構造の推移を表したものが下図になります。

利用ツール:Dockpit、期間:2019年4月〜2021年5月、デバイス:PC&スマートフォン

時期によって変動はあるものの、基本的には集客の5割以上が自然検索となっています。

自然検索によって転職アンテナに流入した際の検索ワードの内訳を見てみると、下の表のようになります。

利用ツール:Dockpit、期間:2019年4月〜2021年5月、デバイス:PC&スマートフォン

「転職アンテナ」や「moto」といった関連した固有名詞のキーワードからの流入があるのはもちろんですが、むしろ「転職エージェント」や「転職サイト」「おすすめ」といったユーザーが真っ先に検索するようなキーワードからの流入がほとんどを占めています。

さらに競合サイトと比較するために、「転職エージェント」の検索キーワードを例にとって検索者の流入サイト・ページを調査してみましょう。

「転職エージェント」のキーワードでは、大手転職サイトが上位を競っている状況。しかしそのなかでも「転職アンテナ」は、流入サイトで3位、流入ページで1位のユーザー数を獲得していました。

利用ツール:Dockpit、期間:2019年4月〜2021年5月、デバイス:PC&スマートフォン

下表のように「転職アンテナ」のサイト内で人気のコンテンツを見ても、上位流入キーワードと一致する『【おすすめ】転職5回で本当に役立ったおすすめ転職サイトと転職エージェント』のユーザー数が最も多くなっています。

利用ツール:Dockpit、期間:2019年4月〜2021年5月、デバイス:PC&スマートフォン

このように、「転職エージェント」や「転職サイト」といった検索者が多く、かつニーズの強いキーワードで上位表示されることで、自然検索から多くのユーザー数を獲得していました。

まとめ

10億円で売却された「転職アンテナ」について、サイトの集客構造や検索ユーザーの行動パターンからメディアの特徴を分析してみました。

転職アンテナは、実体験に基づく転職関連コンテンツを掲載するメディアで、SNSも活用しながらユーザーの共感や信頼感を獲得しています。

集客は大部分が自然検索であり、検索者が多くかつニーズも強いキーワードでの上位表示を獲得することと、転職市場のアフィリエイトが高単価であることが重なり、大きな売上を生んでいました。

転職アンテナは今後もログリー株式会社の元で成長を目指して運営されるだけでなく、関連分野での事業展開も見込まれているよう。今後の転職市場における影響度に要注目です。

▼本記事ではWeb行動ログ分析ツール「Dockpit」を使用しました。国内主要サイトのユーザー数や直帰率、集客構造を把握できたり、業界を俯瞰した分析や検索キーワード分析によるトレンド調査も可能です。気になる方はぜひ無料で試してみてください。

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この記事のライター

2022年の春から、新卒としてヴァリューズに入社。

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